第二十四話 必殺キャメルクラッチ
4/1 修正しました。詳細は後書きにて。
場所はここ、ヴァロッサ邸庭特設リングからお送りいたします。多くの観客(ヴァロッサ家メイド)に見守られるなか、リングの上には二匹の狼、遠い田舎の盆地領主の息子、俺ことアルバート・ウィルホーキンス!!対するはこのヴァロッサ家の主、王都の有名貴族、ヴィクター・ヴァロッサの息子、ハンス・ヴァロッサ!!二人の熱い戦いが今!始まろうとしている!!
なーんてデジャヴを感じるネタをやりつつ...
「ではこれより!ハンス・ヴァロッサとアルバート・ウィルホーキンスによる勝負を行う!審判は私、ヴァロッサ家の執事であるファイゼンが行わせてもらいます。ルールは武術、魔術、総合試合の三回勝負。どちらか一方が参ったと言うか私によるジャッジによって勝敗が決まります! それでは両者前へ!」
「はい」
「うむ」
「勝負、始め!!」
カーンッ
ゴングの音が鳴り響く。またか...
「さぁ始まりましたっす、実況はオレっちラリー、解説は?」
「ワタシ、アルバート坊ちゃまのメイド、エリーゼ・イルマークと」
「ヴァロッサ家メイド長、シルヴィアがお送りいたします」
なんか知らないメイドまでいるし...
「ふんっ、何をよそ見しているのだ。そっちから来ないというならこっちから行かせてもらうぞ!」
ハンスが模擬戦用の木刀を振りおろしてくる...が遅い、あのミスティの剣より数倍も遅いのだ。俺は軽く体を逸らして回避をする。
「ふっ、流石にそう簡単にやられはしないか、だがこれなら!」
ハンスがすぐさまバックステップを踏み、距離を取ったかと思えばすぐさま突っ込んできて俺に剣を振る。俺は冷静に迫ってくる剣を弾き、スキだらけになったハンスの身体に蹴りを入れる。
「おぉっと!アルバート坊っちゃん迫り来る攻撃を軽くいなし反撃の蹴りを一発お見舞いっす!!!」
「流石は坊ちゃまですね♪シルヴィアさん、ハンス様はどうでしょうか?」
「そうですね、ハンス様の攻撃にはかなり無駄が多いのでそこを突かれれると痛いでしょうね」
「おぉ!従者でありながら主人に対して辛辣な言葉っすね!」
「私の主はヴィクター様ですので」
「なるほど...エリーゼさんはどうっすか?」
「ワタシもご主人様はローズベルト様ですけど...今は坊ちゃまに身も心も捧げておりますぅ~♡うふふ」
エリーゼはくねくねと身を悶えさせている、観客からは、おぉ~だのヒューだのキャーだの茶化されていた。
「なんとぉ!主従関係にまさかの亀裂か!?その話は後々聞かせてもらうっす!さて戦況はどうなっているのでしょうか!」
おっとそうだった、ハンスはどうなっているんだろうか...
「田舎貴族にしてはやるではないか!褒めてつかわす」
ピンピンしてた、あっれ~?割と強めに蹴ったんだけどなぁ。
「そろそろ本気を出させてもらうぞ、田舎貴族!」
ハンスが腰を低く構えた。
「おぉっと!?ハンス様あの構えはまさか!!」
「知っているんですか?」
「はい!あの構えはかの偉人、剣豪ガビラが生み出したと言われる伝説の秘技《龍殺逆鱗刃》の構えっす!刃から繰り出される無数の斬撃がまるで怒り狂った龍のように見えることからその名が付いたものっす!シルヴィアさん、ハンス様はまさかあの技を使えるっすか!?」
ラリーが興奮気味に鼻息荒くしてシルヴィア尋ねると、シルヴィアはじっと目を閉じ、冷静な面持ちで言い放った。
「使えません。ただの模倣でしょう」
コケた。ズッコケた。
「ふん!ただの模倣だろうが必ず成功するに決まっている!俺は本番に強いからな!!」
どこからそんな自信が...
「行くぞ!龍殺逆鱗刃!!」
ハンスがそう叫ぶと低い体制から前方へ跳躍、空中で剣を忙しなく振り、逆手持ちに変え両手で俺に突き刺そうとする...が、失敗。飛んでいる最中に剣を落としてしまった。武器を持たない丸腰の身体が飛んでくる、俺はすっと横にズレてハンスを避ける。ハンスは勢いそのままに顔から地面に突っ込んだ。俺はすかさずうつ伏せで倒れているハンスに馬乗りになり、両手でハンスの顎を持ち上げる。俗に言うキャメルクラッチである。
「うぐっ、うぶぶ!ぶ...」
「審判、ジャッジは?」
「え、あ!勝者!アルバート・ウィルホーキンス!!」
カンカンカーンッ
ジャッジを聞くとともに俺は両手を離しハンスを開放する。
「はぁ...はぁ...さ、流石はあのエリオットの弟だな...田舎貴族だからと油断していた...」
田舎貴族は関係ないだろ...
「だ、だが!勝負はまだ着いていない!俺は魔術の方が得意なんだ!覚悟しろ!!」
そう言うとハンスはスタスタと歩き、控えていたメイドから飲み物を受け取っていた。なんかおかしい...まぁ、いっか。
「ふう...」
「いやぁ、流石です坊ちゃま!ワタシを落としただけはありますね!」
「何を言っているんだお前は...」
「一回戦を勝ったご褒美にワタシからほっぺにちゅーです!ちゅぅー」
エリーゼが無理矢理キスをしてこようとする。俺はエリーゼの頭を両手で押さえ引き剥がそうとするが。
「坊ちゃま、大事な話が」
と、エリーゼが真剣な顔になって俺にしか聞こえないように声を抑えて言ってきたのでやむを得ず手を離す。
エリーゼが俺の耳元に顔を近付けるとこしょこしょと耳打ちをしてきた。
「どうやらこの敷地内にこの家のものではない輩がいます」
「その情報はどこから?」
「私の耳と鼻が感じ取りました」
「わかった、俺も探りを入れてみる」
エリーゼは俺の言葉を聞き、顔を離したかと思うとまた顔を近付け俺の頬に口付けをした。
「ふふ、坊ちゃまもまだまだですね♪」
「クソ、してやられた」
「今の話はホントですからね」
「あぁ、わかった。クソ」
「そんなにクソクソ言わないでくださいよぉ、乙女にとっては心外なんですから」
「なぁにが乙女だ、もう乙女だなんて言える年じゃないだろ」
「酷いです~!」
「あーはいはい。次の勝負始まるから解説よろしく」
「ぶー」
エイプリルフールなんでウソネタを使いたかったんですけど、ストーリー内では夏真っ盛りなんで使えなかった...
修正箇所:アルとハンスの戦闘中のラリーの解説「伝説の秘技《龍殺逆鱗刃》の構えっす!」の部分が「伝説の秘技|《龍殺逆鱗刃》の構えっす!」となっていたので修正。