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幽霊の正体見たり異世界か  作者: 固い六
第二章
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第二十三話 食後の運動の約束

翌日、いつの間にか布団の中に潜り込んでいたエリーゼにきつく抱きしめられ起きた。寝ぼけた頭で昨日あった出来事を整理しつつ今日の行動を考えようと思う。


「自由にしろとは言われたが何をしようか...」


正直言ってやりたいことは色々ある。まぁほぼ観光だが。けどやっぱりまずは学校を下見しようかな、二年後に通うんだから、あわよくばまだ見ぬ兄貴のご尊顔でも拝んでくるか、そうすれば何かしら対策が取れるかもしれん。


「そうと決まれば善は急げだな、おい、エリーゼ起きろ。出掛けるぞ」


「うぅ~ん、あと五分...むにゃむにゃ」


「何をそんなテンプレじみたこと言ってんだ、早く起きろ!でないと俺が出られない!」


俺の小さなボデーはエリーゼによってがっちりホールドされている、昨日の風呂のように抜け出す余地がないほどに決まっていた。その後結局五分どころか三十分ほど抜け出せず、起こしに来たこの家のメイドによって救出された。


朝食は俺とヴィクターさんとハンス、そして昨日は居なかったヴィクターさんの奥さんである《シェーレ・ヴァロッサ》の四人で取ることになった。


シェーレさんは色の薄い金髪で光の無いような目をしており、出会い頭に俺の顔をジロジロとのぞき込み「あのエリオットの弟だからどんな子かと思ったけど、案外普通ね。つまんない」と吐き捨てて飽きたように朝食の席へと着いた。その直後にヴィクターさんが俺に頭を下げたのは二日目にしてもう見慣れたものだ。あんたも苦労してんだな...。


朝食のメニューはあっさりとしたもので、クロワッサンのようなパンにチェリークックのタマゴと山藻(やまも)のサラダ、加えてロッククラブのスープといったヘルシー面を重視したものだった。ただし朝食の最中にハンスが威嚇するように背筋を曲げて、クッチャクッチャと行儀悪く食べながら敵意のこもった視線で常に睨んでいたせいであまりあっさりした味を楽しむことは出来なかった。ちなみにこの時エリーゼとラリーはふかふかのベッドで爆睡中である。あいつら...。


食後にヴィクターさんが俺に尋ねてきた。


「今日はこれからどうするんだい?」


「今日は学校に下見に行こうと思っています、時間が余ればどこか観光でもと言った感じですね」


「そうかい、てことは昼食は戻って来ないんだね?」


「そうですね、どこかで食べてこようと思っています」


「あぁ、それなら学校の近くにある《ラドニーの食卓》ってところが美味しいよ」


「ありがとうございます、ところでウチのは?」


「あー、多分まだ寝てるんじゃない?」


「あいつら...」


「君も若いのに苦労してるねぇ」


「ヴィクターさんこそ...」


「そうだね...はは、はぁ...」


「じゃあ僕はあいつらを起こしに...」


「ちょっと待てい!そこの田舎貴族!!」


廊下の先でハンスに喧嘩をふっかけられた。もうなんなんだよ...


「何ですかハンス君...」


「俺のことはハンス様と呼べ、田舎貴族が」


「...ふぅ、それでなんなんですかハンス様」


「ふんっ、お前俺と勝負しろ」


「はぁ?」


何言ってんだこのガキ...


「お、おいハンス!いきなり何を言い出すんだ、相手はお前より二歳も年下なんだぞ!?」


「お父様は黙っていてください!龍は兎を屠るべく全力をかける、です。年下だからなんだと言うんだ!相手が弱いのがいけないんだ! この世界は弱肉強食なんだから!!」


なるほど、この世界でのことわざか。意味を履き違えているが一理ある、相手をしてやるか...


「わかりました、その勝負受けて立ちましょう」


「アルバート君!?」


「威勢だけは良いようだな田舎貴族」


「それで、勝負の内容はどうされるんですか?」


「勝負は三回勝負で武術、魔術、魔術を交えた試合で勝負だ」


「勝敗の条件は?」


「どちらか一方が参ったと言うか、審判による戦闘不能のジャッジで決まる」


「場所は?」


「ウチの庭で行う、まぁどこでやろうと貴様ごときが俺に勝てるわけないだろうがな」


ハンスは俺のことを舐めきった表情で見ている。さっきの言葉、コイツやっぱり履き違えてるな...


「じゃあ最後に1つ質問ですハンス様、双方ともに怪我をしても後になってどうこう言うのは無しですよね?」


「あぁ、もちろんだ。ヴァロッサ家の名に賭けて」


「わかりました。そう言う事ですのでお庭をお借りしますね、ヴィクターさん」


「え?あ、ちょっと!?」


「時間は半刻後だ、遅れるなよ?」


「もちろんですよ」


俺の言葉を聞き終えると、ハンスは何やら不敵な笑みを浮かべながらその場を去っていった。


「あ、アルバート君!?君は何を無茶な...」


「ヴィクターさん、相手が全力で戦うと言うんだったらコッチも全力で迎え撃たなきゃ失礼という物でしょう、例えそれが弱いものを一方的に虐待しようとする意思だったとしても」


「君は...そこまで分かっていながらなぜ!」


「大丈夫ですよ、僕はこれでもあのエリオットの弟です、並の四歳児とは違いますよ。それよりもヴィクターさん、ハンス君を、どこまでならヤってもいいんでしょうか?」


俺はヴィクターさんに悪戯をするような子供の顔で聞いた。


「...殺すのはやめろよ?」


ヴィクターさんから殺気の篭った目と声音で返された。


「わかってますよ、ちょっと伸びた鼻をへし折るだけですよ♪」


「はぁ...ホントに君は何者なんだい、割と本気の殺気を込めたんだけどなぁ...」


「ちょっと他とは違う四歳児ですよ」


ヴィクターさんの疲れ果てた顔を最後に見て俺は部屋へと戻った。めんどくさくなりそうだしあの二人は起こさないでいいか...


「龍は兎を屠るべく全力をかける」なかなか良い言い回しが思いつかなかったんで適当な感じになってしまいました。なにか良い感じにファンタジー世界にそった言い回しが思いついたら後日改変するかもしれません。読者様もいい案があればご意見頂けると幸いです。


あと朝食のシーンで登場した食材はオリジナルです。以下はその説明文ですので、特に気にならない方は無視してもらっても構いません。

チェリークック:羽毛が赤くツヤを持ち、肉の味はほんのり甘味と酸味があり、卵はさくらんぼのように2つの真っ赤な卵が硬いカルシウム質の紐のようなもので繋がっている様からその名が付けられた鶏。値段が高く上流貴族の嗜好品として食されることが多い。


ロッククラブ:見た目は普通の蟹で、海辺の岩が多い場所に生息する。パッと見普通の蟹ではあるがその外殻は非常に硬く、専用の魔具が無いと人力で身を開くことは不可能とされる。しかしその分味は格別で、平民でも簡単に手が出せるほど安価でありながらも貴族御用達の高級料理店でも良く使われる幅の広い食材だ。


山藻(やまも):文字通り山に生えている藻で滋養強壮などの効果があり、料理のひと品や薬の材料として重宝されている。その山藻にミネラルが多く含まれており、味や見た目だけでは海藻(うみも)とさほど差異はない。しかしこの2種類の藻は別物で、山藻は海では生息出来ず、海藻は山では生息出来ない。


山藻の説明に登場した海藻(うみも)海藻(かいそう)とは違います。その説明はまたいつか。

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