第二十一話 食欲には勝てなかったよ...
今後は毎週水曜日から金曜日のあいだに一本から二本くらいの投稿を目処としたいと思います。
王都の門で少しの足止めをくらっている俺ら一同、何をしているかと言うとさっき潰した山賊を引き渡す作業と審査である。
「思わぬ臨時収入だったな」
親父はホクホク顔で金の入った袋を持って馬車へ戻ってくる。
「まさかホントに巷を騒がす山賊だったとは...」
例の山賊ゼなんちゃらはホントにここらで有名な山賊一味だったらしく、引渡しによって多額の謝礼金を貰っていた。
無事に門をくぐり抜けるとそこには前世でやってたRPGのような街並みが広がっていた。そしてやはり目に付くのはその人の多さ、前を向けば人、右を向けば人、左を向けば人、後ずさっても人である。
「うわぁ、人多い...」
「そりゃあ王都っすもの、確か最新の発表で人口が35万人を越えたとか越えてないとか...」
「へぇ~」
俺がラリーから豆知識を聞いているとき、エリーゼはエリーゼで親父と今後について話していた。
「それで旦那様?入国は済みましたけどこの後どうなさるんですか?」
その質問に対し親父は一枚の地図を渡した。
「とりあえずお前らはこの家へ向かってくれ、俺の知り合いが居るから事情を話せば入れてもらえるはずだ、もし疑いをかけられたら合言葉を言え、合言葉は《二段目の下》だ」
「わ、わかりました、旦那様はどうなさるんですか?」
「俺か?俺はすぐに仕事へ行く。あと、俺はその家には泊まらない」
「どうしてですか?」
「仕事へ行くまで距離があるからな、近くの宿を取っているから何かあったらそこの女将に言ってくれ《河のせせらぎ亭》というところだ」
「旦那様お一人でお泊りになるんですか!?」
「いや、しっかり兵士を泊まらせておくから安心しろ」
「そ、そうですか...」
「じゃあ、帰るときにそっちへ寄るからな」
「はい、かしこまりました」
親父はくたびれた兵士を引き連れて雑踏の中へ消えた。
「行っちゃいましたねぇ」
「行っちゃったね」
「行っちゃったっすね」
あれ?
「ラリー、お前は行かないで良いのか?」
「ハイっす、オレっちはお二人の護衛を頼まれてるっすから、もうしばらくよろしくっす」
「もうしばらくって、お前も親父の知り合いの家にお世話になるのか!?」
「その通りっす!事前に許可は取ってあるんで心配は要らないっ!!」
親父の知り合いどんだけ家と器がデカいんだよ。
〜移動中〜
親父の知り合いとやらの家へ向かう最中、俺はラリーに質問攻めをしていた。
「なぁ、あれはなんだ?」
「あれは兎鳥の丸焼きっすね」
「じゃああれは?」
「あれはロッククラブのスープっすね」
「じゃあじゃあ...」
「あの、坊っちゃん?なんで食べ物ばかり気にするんすか?他にも見るものいっぱいあるっすよ?」
「そりゃお前、人間の三大欲求の食欲が先に出てなにが悪い」
「いえ、別に悪くはないっすけど...」
「それにな、ラリー。食べ物と言うものはだな一期一会なんだよ、出会った料理はその日しか生きることはできないんだ...解るか?」
「解んないっすよ、それに料理になった時点で死んでるじゃないっすか」
「俺はそーゆーことを言ってるんじゃない!確かに食材あっての料理ではある、食材がなければ料理は出来ないしな、だが!食材と食材の命が巧みに混ざり合い新たな料理と言う命が生まれるのだ、しかしながらその命の灯火は短い...ゆえに!俺は尊い命の灯火を美しく思い、儚く散ってしまう前に料理としての天命を全うする手助けをしてやりたいのだ!解ったか!!」
「つまり坊ちゃまはお腹が空いたから何か食べたいんですよね~?」
グゥ~...
まるでエリーゼの言葉に返事をするかのように腹の虫が鳴いた。もう隠す必要は無い、素直になればいいじゃないか、お前も三大欲求がどうとか言ってただろ?そんな誘惑の声を俺の中の天使と悪魔が囁いた。
「...うん」
負けた。しょうがないじゃないか、腹減ってんだ。兎鳥のお肉美味しそうです。
〜到着〜
「ふぅ~、腹も膨れたし目的地へ向かうか」
「はい、地図によるともう少しなんですけどね」
「誰さん家っすか?」
「ヴィクターさんと言うそうです。なんでも旦那様のご学友だとのことで」
「あぁ、ヴィクターさん家ならオレっち知ってるっすよ、すぐそこっす」
ラリーの指示に従い、いくつかの道を進んでいくとホントにすぐ着いた。
「でっけぇ...」
思わず口から出てしまった、それほどまでに大きい家であった。大人の身の丈を倍にしたほどの高さがある堅牢な門を構え、門から見える家はウチの2、3倍は優に超えていた。
「ほえぇ、旦那様のお知り合い様お金持ちなんですねぇ」
「そうっすよ、この家は王都でもかなり上位に属している貴族様っすからね、ホントならオレっちとなんてお喋りすることも無いくらいっす」
「そんなにか...」
俺らが巨大な門の前で圧倒されていると家の中から白髪で燕尾服を着た老人が出てきた。
「何か御用ですかな?」
「えっと、本日よりこちらでしばらくの間お世話になる予定のアルバート・ウィルホーキンスです」
「そのメイド、エリーゼ・イルマークです」
「同じく護衛の兵士、ラリー・ホビットっす」
「...合言葉は?」
「《二段目の下》」
「少々お待ち下さい」
老人はそう言うと家の中へ戻っていった。二段目の下ってなんだ?
ほどなくして濃い茶髪をした気品に溢れる男が出てきた。
「やぁ、お待たせして済まなかったね。君がロズの息子さんだね?」
「はい、アルバート・ウィルホーキンスです」
「礼儀正しくて良いね。とりあえず、こんな場所で立ち話もなんだから中に入ってよ」
「はい」
俺ら一行はヴィクターさんに連れられて家の客間へと案内された。
「さて、じゃあ改めて。僕がこの家の主《ヴィクター・ヴァロッサ》だよ短い間だろうけどよろしくね」
「はい、こちらこそよろし...ヴァロッサ?」
「ん?どうかしたかい?」
「いえ、ヴァロッサと言う名前に心当たりがあったもので...」
「ホントかい?まあそれなりに名前が広がってるだろうしどっかで聞いたこともあるかもね」
「あの...シャティア・ヴァロッサと言う名前に心当たりは?」
シャティアの名前を出した瞬間、温和な表情だったヴィクターさんの顔は急に真面目な顔へと変貌した。
「(地雷だったか?)」
「どこでその名前を?」
「(ここは当たり障りの無い答えをしておくか)村の老人の一人が昔魔物に襲われていたときその人に助けてもらったと言う話を聞いたことがありまして」
「そうか...」
「何か...言ってはならないことでしたか?」
「いや、そうではないんだ。ただ、懐かしい名前を聞いたからね...。うん、実はその人は僕の叔母なんだ、まぁ何十年か前に死んじゃったんだけどね」
「そうだったんですか...すみません」
「いや、気にしなくていいさ。僕もほとんど彼女の事は覚えてないしね、物心付く前に何度か遊んで貰っただけだよ」
「そう...ですか」
その何十年も前に死んだ人に魔術を教わっているなんて言えないよな...。
「なんか重苦しくなっちゃったね、今使用人にお風呂を沸かさせているから入ってきたらどうだい?長旅で汚れているだろう?」
「お風呂ですか!?」
お風呂と言う単語に反応したのはエリーゼだった。
「ワタシお風呂に入るのが小さな夢だったんですよ~♡」
「そうなのかい?なら良かった、好きに使ってくれ」
「はい!ありがとうございます!!さぁ坊ちゃま、行きますよ!」
「え?ちょ、エリーゼ?そんな急がなくても...」
「善は急げです、お背中お流し致しますから!」
「一緒に入るの!?あ、ちょ、引っ張るなってばあああああああ...」
エリーゼに襟首掴まれて引きずられていくアルバートであった。
「な、なかなかパワフルな娘だね...」
「そうっすね、はは...」
最近のアルバートのキャラが掴めなくなってきてますw
ps.
携帯替えました。Xperia Z3です!SDに書き込めないのが難点ですかね。