第十八話 霊力って言えない
今回から二章です。
個人的には忌々しい雨季も過ぎ去り暑い暑い7月になったある日。
「アル、俺と一緒に王都へ行かないか?」
庭で筋トレをしていた俺に親父が唐突にそう尋ねてきた。
「王都へ...ですか?」
「あぁ、お前もあと2年後にはここを出て王都の学校へ行くんだから、下見くらいはしといたほうが良いだろう」
「お父様は王都へお仕事ですか?」
「そうだな、俺は王都で仕事だ。お前にはエリーゼかシャルルを付けて王都を下見...まぁ観光だと思っててくれ」
「そうですか、王都へは他に誰が?」
「俺とお前と、エリーゼかシャルルのどちらか、あとは護衛に詰所から兵士が何人か着いてくることになっている」
「ミスティも来るんですか?」
「なんだ、ミスティと親交があったのか、そうだな...来いと言えば来るだろうがアイツは前回の休暇で王都に嫌な思い出があるからなぁ...」
あぁ、それ知ってます。俺も被害に遭いました。
「一応声は掛けておく。来るかどうかはアイツしだいだ」
「わかりました、それで出発はいつなんですか?」
「3日後だ、明日までには行くかどうか決めておいてくれ」
「はい」
親父はそう言うとそそくさと自室へ戻っていった。
「(さて、シャティア、どうしたもんか)」
『(ボクに聞く?それ)』
「(正直王都には興味がある、出来ることなら行ってみたい)」
『(なら行ってみたら良いじゃないか)』
「(そうすると霊術の練習が...)」
『(別にすぐ帰ってくるだろうし、王都に行くことも修行の一環だと思えば良いじゃないか)』
「(それはそうだけど...)」
『(あ、わかった。もしかしてボクとひと時でも離れるのが嫌なんでしょ、キミ)』
「(は?)」
『(いやぁ、死んだ身だけどもモテる女は辛いねぇ~)』
「(ぬかしてろ)」
『(つれないなぁ...)』
まぁ確かにシャティアの言い分も一理ある、2年後に田舎モン丸出しで入学するのも嫌だしな。
「(よし、行くか。連れはエリーゼを連れていく)」
『(あれ?エリーゼちゃんを連れてくの?シャルちゃんじゃなくて?)』
「(シャルちゃんて...随分と仲良くなったんだな...)」
『(キミがいつもシャルちゃんに霊力をあげてるおかげだよ、雨季のあいだにいっぱいおしゃべりできたからね)』
「(へぇ、なら尚更シャルルは残しておかないとな)」
『(どういうこと?)』
「(まぁちょっと待ってろ...取ってくるから)」
『(...何を?)』
俺はそう言って自室へ戻りベッドの下から木箱を取り出した。
『何それ、エッチなやつ?』
「ちげぇよ」
どうやらこの世界でも隠したいものはベッドの下って決まってるらしい。
「これはだなぁ...」
木箱の蓋を開けると中には青白く光る小石が沢山入っていた。
『何それ...霊力が入った石?』
「そのとおり、俺はこの数ヶ月のあいだに石へ霊力を少量なら移せることが分かったんだ」
『えぇ!?いつの間にそんなことをできるように!?』
「シャルルに霊力を送った時にちょっと気になって色々試したら出来た」
『出来たってそんな簡単に...』
「水、木、石の順番で3回目のチャレンジで成功したZE☆」
某ケーキで有名なお店のマスコットキャラクター並に舌を出して親指をぐっと立ててみる。
「名づけて霊力の宿った石、略して《霊石》だな。まだ(仮)が付くレベルだが」
『そ、そうなんだ...それで、これがどうなるの?』
「まぁまずはこれが使えるかどうかの実験からだ、シャルルを呼ぶ」
その後すぐにシャルルを部屋へ呼んだ。
「何かご用でしょうか?」
「あぁ、これを見てくれ」
「これは、石...でしょうか?」
「あ、そっか。シャルルには見えないのか、えっとだな、この石には俺のれ...魔力が入っている。」
「え!?つまり...魔石ですよね、これ」
「まあ、そんなもんだな」
「そんなもんって...魔石を自作する人間なんて聞いたことないですよ!?」
「そうなのか?」
「はい、普通魔石と言えば魔物の体内で作られる物で、決して人工で作ることは出来ないんです」
「そ、そうなのか...なんか大変なものを作ってしまった気分だ」
「気分というか大変そのものですよ...」
「ま、まぁまだ試作段階だし、なるべくバレないように...ね?」
「は、はい。わかりました...」
シャルルは何か腑に落ちないような顔で、とりあえず納得してくれた。
『(シャルちゃんにだったら霊力のことバラしてもいいんじゃないかな?)』
「(確かに説明もし辛くなってきたし、なるべく早くにバラしちゃいたいんだが...ここまで来て実は魔力じゃないんですーだなんて言える気がしないんだけど...)」
『(えぇ~、そんな理由で...)』
「(まぁ、このことについては追々説明するつもりでいます...)」
「あ、あの。アルバート様どうしたんですか?」
シャルルの言葉で俺とシャティアは一旦話を区切る。
「あぁ、悪い。とりあえずその石の使い方を説明する。石を額にくっつけて俺から魔力を流される感覚を思い出してくれ」
「はい」
俺から石を受け取ったシャルルは言われたとおりにオデコへと持っていき、うむむとうなり始める。俺が霊力の流れを見るとしっかり石の霊力はシャルルの両眼へと流れていっている。しばらくして石の霊力が全てシャルルへと流れ込みパキリと割れてしまった。
「あの、急に石が割れたのですが...あれ?シャティ?」
『へ?ボクが見えてるの!?』
「う、うん。声も聞こえるし見えるよ」
「よし、成功だな」
「あの、アルバート様?これは...」
「これで俺に頼らなくてもシャティアと喋れるとようになったな」
『あ、だからシャルちゃんを置いていくって言ったの?』
「そのとおり」
「あ、あの、話が見えないのですが...」
「あぁ、実はだな...」
シャルルにさっきの親父との一件を話した。
「なるほど、王都へですか...」
「それでシャルルをここに残してエリーゼを連れていくつもりなんだが」
「あの、私を連れていかない理由は...」
「シャティアが寂しがるって言うのが1つ、あとはもし賊に襲われた時にエリーゼなら魔術で少しは自衛が出来るからだな」
「そう言う事ならエリーゼさんに任せざるを得ないですね」
『ボクはそんなに子供じゃないんだけどなぁ...』
「まぁそう言わずに、シャルルと喋れるんだから暇しないだろ?」
『まぁ、それはそうだけど...』
「よし、じゃあこの話はそういうことで、俺はエリーゼにこの話をしてくるから」
『え!?じゃあボクたちは!?』
「あー、お前らはそこでいつも通り女同士の会話に華咲かしててくれ、じゃ」
俺は二人に早口でそう告げ、少し早足げにエリーゼを探しに行った。その背中を見送った二人は...
「あんなに楽しそうなアルバート様初めて見ました」
『ぼ、ボクもだよ...』
若干呆けた笑いを浮かべるしかないのであった。