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幽霊の正体見たり異世界か  作者: 固い六
第一章
21/44

閑話2 異世界の梅雨はどこから来るの?

一応今回で第一章は終了です。


季節は過ぎ、兵長ご乱心の乱より数ヶ月、俺も4歳となり大人のビターな雰囲気を纏い始めた。え?なんだって?4歳ごときが何言ってんだって?馬鹿め、俺は前世も合わせてもう21だ、立派な大人だコノヤロウ。え?21を( )で囲うとロリになる?何言ってんだ、そんなわけ...


さて、今回は村へと行動範囲が広がった俺の一日を紹介しよう。


まず朝は柔らかな毛布と窓から差し込む春の日差しが優雅な俺の朝を演出し...


ザァアアアアアアア


...ないのだ、この地域での4月5月は前世と違って雨季真っ只中。しかも暑い、梅雨と言った方がいいかもしれない。なおかつここは山々が囲う盆地だ、雨は溜まるし暑さは篭るし最悪だ。


ダラダラと寝汗をかいた俺はベタベタとして気持ち悪い身体をスッキリさせるために傘を持って外の井戸へ水を汲みに行く。今君は思っただろう、霊術で水を出せば外出る必要ないじゃん...と。正直俺もそう思う、だが寝起きのボヤけた頭では霊力を上手く操作出来なくなるのだ、実際一度寝起きで水を出そうとしたらなぜか大量の氷が手から出てきた。


汲んできた水で布を濡らし顔や身体を拭き、眠気も覚める。続いて向かうはリビングだ、朝食でも食べて腹を満たせば気分も良くなるだろう...


「は~い、坊ちゃま♪朝食の準備ができましたよ~」


...そう思ってた時期が、僕にもありました。朝のメニューは薄味のスープ、しなびたサラダ、ガッチガチに固くなったパン。どうしてこうなった...別に料理を作ってくれたエリーゼに文句を言っているわけではない、いつもはちゃんと美味しい料理を作ってくれる。だがなぜこんなにも貧相な食事になっているのか、理由は簡単だ...雨季だからだ。雨季に入るため小麦の栽培は難しい、同様に家の畑もだ。だからこの時期はいつものふわふわとした作りたての美味しいパンではなく、長期保存に長けた固くて歯が欠けそうになる黒いパンを主食とするしかないのだ。肉や魚だってマトモに食えなくなる、雨で足を滑らしたり土砂崩れが起きる危険があるためこの時期は山への侵入が禁止されている、そのせいで狩猟ができず肉を確保することが出来ない、塩漬けにして保存食にすることもほぼ不可能だ、理由はこの領地で塩は特別貴重な物だからだ、近くに海なんて無いため塩は専ら王都の行商人から買い付けることしか出来きない、持ってくる量にも限界があるため余裕を持つことが出来ないのだ、普段の味付けは山に自生する《セビルの実》を砕き、中に入っている水を使う。中の水には独特の塩分を含んでおり調味料として良く使われるのである。そして魚はもちろん雨で川が氾濫するため捕りに行けないから食卓に並ぶことは無い。


こうした食事を一日二食に節約しつつこの時期を生き抜くため、極貧生活を強いられてしまうほか無いのだ。


そんな寂しいだけで侘しさの微塵も感じない食事を終える、だがやはり育ち盛りの身には辛いものがある、かと言ってどうすることもできない訳だが。朝食の後、普段晴れているときならシャルルとシャティアを引き連れ広い野原で魔術の練習をする、しかしまたも邪魔する雨季の悪夢。まったく何も出来ないじゃないか! どうなっているんだ!と不満を漏らすそこのアナタ!実はこの雨だって一役二役買っているんです。


まずこの雨は降りまくったのち地面に綺麗さっぱり吸い取られていきます、ここの土壌は非常に水はけがよくてドンドン水を吸い取っていきます、そしてその水は地面の中で自然浄化され私たちが一年中使う井戸水へとなります。そのためこの辺の井戸が枯渇したなんて話は全く聞きません。すごいでしょ?またもう一つ、この雨にはどうやら微量の魔力が含まれており、人間や家畜や野生動物には無害だが、魔物には有害らしく、この雨を嫌う魔物たちが山の外側へ逃げていくのだ。そうした多大なる恩恵を与えてくれるこの雨季には、感謝はすれど憎むような事をしてはならないというある種風習じみたものが村の老人たちを中心に広まりつつあるらしい。


さてさて、本来魔術の練習したあとは昼食をはさみ少し昼寝をするのだが、節約生活を余儀なくされるため現在昼食は無し、腹が減りすぎて昼寝をすることも出来ずただただ暇なだけである。


そんな俺、最近なんとあのカードゲームを開発している、完成したらみんなでやるつもりだ。赤青緑黄色の4色に0から9までの数字、0を各色1枚ずつで1から9の数字は各色2枚ずつ、スキップ、リバース、ドロー2の3種類の札が各色2枚ずつ、そして黒字に先ほどの4色が書かれたものが4枚、その札にさらにドロー4と書かれたものも4枚、計108枚のカードが入ったあのゲーム、そうU○Oである。真ん中を伏せたからといって決して未確認飛行物体の通称ではない。あぁ、完成が楽しみだ、ちゃんとルールブックとかも作っといた方がいいかな。


さて、少し話がズレたが、本来ならこの時間は昼寝を終えて村へと繰り出し、日替わりで教会と訓練所に行っている。何をしているかと言うと教会では文字の勉強、訓練所ではトレーニングと兵士への訓練指導だ。そのことについても話しておこう。


まず教会だが、ここでは学園に行けない子供達に最低限度の学を身に付けさせようということで作られた企画らしい、実際かなり成功していて、王都から視察に来た役人からは好評だったそうな。授業は無料で自由参加ではあるものの、村の子供達はほぼ全員参加していて、なんと大人よりも子供の方が識字率が高いらしい。教科は語学、算術、歴史、一般常識の4教科で語学と算術は中でも特に人気だそうだ。


続いて訓練所、ここでは前世の部活での知識を持ち出し体力作りをしている。なんとこの世界ではスクワットどころか腹筋や腕立て伏せすら普及していないらしい、どうやって身体を鍛えるかミスティに聞いてみると...


「基本は走り込みだ、足を鍛えたかったら走れ、もっと鍛えたかったら重りを着けて走れ。腕を鍛えるなら剣を振れ」


...とのことだ。


そこで俺は兵士たちに効率のいい筋トレの方法を教えた。まずは準備体操だ、この世界では準備体操の大切さがあまり理解されておらず、そこから教えた。次に教えたのは走り込みだ、といってもただの走り込みではない、ヒモを太ももに結ぶもので足への酸素の供給を制限する。これの効果は酸素を上手く行き渡らせなくするため、続けていくと筋肉が少ない酸素で最大限の力を発揮させることが出来るようになるのだ。最初にこの方法を教えたとき兵士たちはまるで理解していなかった、だから実際にやらせてみた。両足の太ももに軽く縛る程度にヒモや布を結びつけ、いつも通りに走らせてみる。最初は頭にはてなを浮かべながら余裕そうな表情で走っていたが、だんだんその顔に苦痛の表情が張り付いてきた。そう、足に全く力が入らなくなるのだ。その後兵士たちはいつもよりも少ない量の走り込みで限界を迎える、そんななかミスティだけは苦しそうな顔をしながらもいつも通りの量を走りきっていた。


走り込みの次は筋トレだ腕立て腹筋スクワットの王道3種はもちろん体幹トレーニング、手押し車なども詰め込んでみた。そしてここでもヒモが登場だ、腕立てをするときや手押し車の時にも腕にヒモを巻いてやり、力が全く入らなくなるまでやらせた。兵士たちはそれらのトレーニングが終わると既に虫の息だ、手にも足にも力が入らないという未だかつて経験したことのない運動をしたことによって、自分の手足に巻いているヒモも一人で外せない程だ。


その後俺は兵舎いるマリーさんに兵士たちの食事について頼んでおいた、マリーさんはこの詰所で寮長のような扱いで、料理や掃除や洗濯は全てマリーさんがやっている。そこで俺は兵士たちの食事に脂の少ない料理を作ってやってくれと指示しておいた、具体的には低カロリー高タンパク質と言われるもので統一だ。飲み物には牛乳、肉には鶏肉、野菜はたっぷり、そして食後に生卵だけを丸々1つコップに用意と言ったもので、全部俺が前世で食っていたメニューだ。


そのような訓練内容に変更したところ実践し始めて一週間で効果がメリメリ表れた、一度ヒモ無しで以前の訓練をやらせてみたところ、おちゃらけラリー曰く...


「前までの訓練がまるで屁のように感じられるっす!!」


...ということだ、それはラリーだけではなく他の兵士も同じようで前世式トレーニングの効果を体現していた。なのでその日はいつもの倍の訓練をやらせた(ゲス顔)


さて、授業とトレーニングを終えると日は既に落ちかけている。遅くならないうちに家へと帰り、トレーニングでかいた汗を拭いて家族で夕食だ。ちなみに俺は兵士の食事みたいなものを取らなくて良い、摂取した栄養が全て成長へと回されるから子供のうちはよく食ってよく動いてよく寝る。この三つを守るだけで十分だ。ただ、よく動くの部分が駐屯兵士の訓練並みってだけで他は特に普通だ。


さぁって、今日の夕食は何かな~♪


カッチカチのパンとまばらなサラダとほぼ味のしないスープ、うん...なんだか一気に現実に引き戻されたような気分だ。


もう寝よう...


そうして俺の平和な一日は幕を閉じ、翌朝に「ついさっき寝たばっかなのに」とつぶやき新たな一日が始まるのであった。


次回予告 梅雨前線とかどうなってるんだかさっぱりわからない雨に悩まされたアルバート、梅雨明けにすっかりやせ細った彼を待ち受ける物とは!?

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