第十五話 貴重なモグラ体験
今回はちょっと無茶苦茶です。最後の方とか青春混じってて、書いてる時に「こんなテンプレ突っ込んで良いのかな」と思った程です。
「何がなんでもテメェをぶっ潰す!いくら謝ったってぜってぇ許してやんねぇからな!!」
「(謝るも何も俺には心当たりが無ぇ!!)」
リングの周りには騒ぎを聞きつけた兵士達が勢ぞろいしている。誰かこの戦馬鹿を止めて!
カーンッ
どこからかゴングのような音が聞こえる、音のした先を見ると椅子と机が3つほど並び、前世で見たプロレスの実況解説席の様になっていた。席に座っているのは不安そうにこっちを見ているシャルルと神父、それと金髪でツンツンヘアーのパッと見チャラそうな兵士風の小物臭い若い男、その手には木槌と鍋が握られている。お前の仕業か。
「さぁ!始まりました訓練所の鬼VSウィルホーキンス家の若き天才、歳も性別も身分も違う2人は一体どのようなバトルを繰り広げてくれるのでしょうか!!」
「ちょっと、ラリー君!今すぐこの虐殺を止めてください!」
ラリーと言うのか、この勝負が終わったら真っ先にお前を屠る、覚悟しとけよ。...俺が生きてたらな(泣)
「嫌ですよ神父さん、今止めに行ったらオレっち死んじゃうじゃないっすか」
「そこまでわかってるなら彼がどれだけ危険な状況かわかるだろう!?」
「なら神父さんが止めに入ったらいいじゃないっすか」
「いや、それは、無理だが...」
「なら今は子息様の無事を祈るしかないっすよ」
「う...む...」
押さえ込まれてんじゃねぇよ!
「(仕方ない、助けが来ないんじゃ自分でどうにかするしかないな)」
ちなみにこの時シャルルは泣きそうな目をしながら自分の無力さを噛み締めていた、そしてシャティアは座っている3人の上をプカプカ浮きながらケラケラ笑って呑気に観戦している。クソが...
「テメェから来ないってんならこっちから行かせてもらうぜ!!」
ミスティが低い姿勢から力強く踏み出し、一直線にコッチへ向かってきた。
「(ちょっともう3歳児として演技する余裕は無いな)」
俺は全身に霊力を送り、身体能力を引き上げミスティの初撃を危なげなく避けた。
「おぉっと!?なんと子息様、あの兵長の切り込みを人間離れした素早さで避けた!!」
「一発目を避けたくらいで!!」
初撃が避けられたミスティは振り切った木刀の重さに任せて身体を無理やりひねり、素早さを増した木刀を俺に叩きつけてきた。
「なんだよその動き!?」
俺は3歳児の演技をする余裕も無く、素の反応をしてしまった。
「(まずい、このままじゃ確実に当たる、剣で受け止めて...)」
身体強化のおかげで多少余裕のある俺は空中で身体を丸め、サイズの合っていない木刀でミスティの斬撃を受けて吹き飛ばされる。
「(ぐっ!)」
地面に叩きつけられた俺は怪我をしたであろう部分により霊力を流し回復を促す。
「兵長の追撃が子息様に直撃ぃいいい!!早くも試合は終了か!?」
「いや、ご子息様は寸前で木刀を構えて防いでいた、直撃はなんとかまぬがれたはずだ。もっともあれほどの速度で地面に叩き落とされては3歳児なら無事ではないと思うが...」
「え!?神父さん今の攻防が見えてたんすか!?」
「私はこれでも元冒険者だからな、あれくらいなら見える」
「ほえー... 人は見かけによらないってことっすね、さぁ!試合状況はどうなったのでしょうか!!子息様の安否はいかに!!」
激しく舞い上がる砂煙を見て騒ぐラリー。
「(くっそあのチャラリー、好き勝手言いやがって。だがこの砂煙は使える)」
俺は右手で地面に触れ、左手を空中に突き出し両手に霊力を流す。
「おいコラァ!もう終わりかぁ!?」
その時、霊力によって作られた風魔術が砂煙を纏いミスティに襲いかかる。
「ハッ! しゃらくせェ!!」
ミスティは無骨に木刀で砂煙を振り払う。
「そこかァ!!」
薄れる砂煙の向こうに黒い影、ミスティはその影めがけて大きく木刀をなぎ払う。
ズバッ!ビシャッ!
黒い影はなぎ払われた木刀によって無残にもまっぷたつにされる、中からは液体が飛び散り地面に吸い尽くされる。
「シャアッ!!」
「あ、アルバート様!?」
「おい!今すぐこの試合を止めろ!!」
「は、はい!兵長!!今すぐやめてくださいっす!!」
あたりが騒然としている、だんだんと砂煙が薄れ、ロープの中がハッキリ見えてくる。
「あ、アルバート様ぁ...」
シャルルの涙腺はもう限界に来ている、ポロポロと涙を流し主人の姿を必死に探している。
砂煙が晴れるとそこには...
「...いない?」
そうアルバートの姿は無かった、かわりにそこにあったものは空洞の中身に水が貯まっている土の塊。しかしそれは人のような形をしている、跳ね飛ばされた首のようなものの顔はどこかで見たような見てくれをしている。
「この顔は...アルバート様?」
まさしくその顔はアルバートそのものだった、シャルルはその頭を持ち上げるとまたもポロポロと泣き出した。
「そんな...アルバート様が...こんなお姿に...」
なかなかに拍子抜けの反応だった。
「(そろそろ出てやらないとシャルルがかわいそうか)」
地面の下で俺はそんなことを考えていた。
『(面白いからもうちょっと下にいたらどうかな?くふふ)』
そんな俺の居場所について気づいていたのはシャティアだけだった。
「(そんな呑気なこと言ってられんだろ)」
『(そうも言ってられないようだよ?)』
「(は?)」
「そこかぁああああああああああ!!!!!」
ずぼぉ
突如木刀が俺のいる地面の中へと入り込んできた。
「うぎゃあああああああああああ!!!!!」
「シャアッ!ビンゴ!」
「あっぶねぇな!スペースねぇんだから勘弁してくれよ!」
俺は思わず素の口調で地下から這い出てくる。
「アルバート...さま...?」
俺の顔をした土くれを抱きしめて泣いていたシャルルは手元の顔と俺を見比べて理解が追いつかないと言った表情だ。
「あー、えっと...ただいま?シャルル」
「アルバート様ぁあああああああ」
シャルルが大泣きしながら俺に抱きついてくる、なんかデジャブだ。
「おぉ、よしよし、心配かけてごめんな」
「ご無事で...ご無事で何よりですっ...わたし、アルバート様の身に、何かあったらと、思うと...」
「はいはい、俺は大丈夫だからね」
えぐえぐと泣いているシャルルをなだめつつ俺はミスティに目を向けた。
「で?この勝負どうする?」
「あぁ...もういいや、オレの負けで」
「いいのか?」
「どっちにしろ地面の下にいるのにしばらく気づかなかったんだ、お前のそれが本物の剣だったらオレは後ろを取られて切られていたはずだからな、オレの負けだ」
「そうか」
「それにお前からは王都の腐れ魔術師のようなイライラした感覚は無かった、チマチマしていたのには違いないがオレの剣に間近で渡り合っていたからな」
「そうか...なら握手だな」
「握手?」
「おう、俺らは曲がりなりにも互いに剣を交えた仲だ、これからは敵ではなく友として親交を深めていこう」
「なるほどな、それならほら、握手だ」
俺らは手を握り、互いを認め、友となった。
「だが、次はぜってぇ負けねぇからな!」
「それは俺だって同じだ、次は圧勝してやるぜ」
「なんだとぅ!?」
「何を~!?」
「ぷっ、ははははははははは」
「はは、はははは」
ミスティが笑いだした、俺もつられて笑う。呆気にとられる周囲を無視し俺らは二人だけで笑いあった。
これが俺の初めて友達が出来た話だ。