第十四話 兵舎の鬼(オーガ)
今回はノリに任せて書いた内容ですので読者様方もノリに任せて読んでください。
場所はここ、王都兵士の兵舎特設リング(ロープで囲ってるだけ)からお送りいたします、。多くの観客から注目を集めているリング上の大小二つの影、俺ことアルバート・ウィルホーキンス、対するは詰所の女ボス、兵士諸君から『訓練所の鬼』の愛称で親しまれている《ミスティ・バルザック》である。二人は共に模擬戦用の木刀を構えている、かたや3歳児、かたや24歳成人。話を聞くだけなら子供の遊びに大人が付き合っているだけだろうと思うでしょう。断じて違います、真剣です。俺はサイズの合ってない木刀を握りフラフラしてて、ミスティの方は腰を低く落とし据わった目でじっくりと俺を睨み付けている、開始のゴングがなれば一秒とたたず俺は敗北を喫すであろう。なぜこんなことになったのか、それは今から数十分前に遡る...
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俺らは今村の兵舎へと向かっている、理由は俺の魔術モドキを神父に見せるためだ。
「アルバート様の魔術は初級ですか?」
「うん、まだウォーターボールしかつかえないの」
「いえいえ、そのお年で使えるのですから十分ですよ、エリオット様といいアルバート様といいウィルホーキンス家には秀才天才しか生まれない何かがあるんでしょうか」
「おそらく奥様の器用さが受け継がれているんでしょう」
「はは、確かにアルバート様は奥様似ですな」
すると隣のシャティアが喋りかけてきた。
『(霊術を見せるのかい?)』
「(あぁ、まあ簡単なやつを一回二回見せて、神父におぉすごいと一言いわせるだけで済むだろう)」
『(そう簡単にはいかないと思うけどなぁ...)』
「(ん?それはどういうこ...)」
「アルバート様、兵舎へ到着いたしましたよ」
俺がシャティアに不審な発言を追及しようとしたところを神父の言葉で遮られた。
目の前にあったのは前世で通っていた学校の体育館よりも少し広いくらいの平屋建ての宿舎、裏から兵士たちの訓練に打ち込む声が聞こえる。
「では、私は兵長へ訓練所が使えるか交渉してきますよ、アルバート様とシャルルちゃんは中で待っていてください」
神父はそう言葉を残し裏手の訓練所へと向かった。
「アルバート様、私達も中へ入りましょう」
シャルルに促され、俺は彼女とシャティアを連れて中へ入った。
「あら、シャルちゃんいらっしゃい」
中へ入ると玄関正面にあった受付から女性の声がした。
「こんにちはマリーさん」
「シャルちゃん今日はどうしたの?こんな男むさいところへ」
マリーさんと呼ばれた女性は恰幅のよさそうなおばちゃんだった、歳は3、40くらいだろうか。
「今日は領主様のご子息様をこの村へ案内しに来まして」
「あら、そこにいるのが領主様の?」
「はい、アルバート・ウィルホーキンス様です」
「なんだ、アタシてっきりシャルちゃんの子かと思ったわ」
「な、何を言うんですか、私にはまだ相手すらいませんし出来ませんよ」
「そう?シャルちゃん村の男どもからかなりの人気よ?シャルちゃんとエリちゃんの2大巨頭のどっちが良いか集会所を使って本気で議論をしてたりもするわよ、それも一度や二度じゃなく」
「そ、そんな、私、まだそんな」
これは珍しい、シャルルのこんな顔初めて見た。このおばさん、やるな。
「そ、そんなことよりも今はアルバート様です」
「そうだったわね、領主様の息子様をほったらかしにしちゃったわ、こんにちはー、アルバート様」
「こんにちは!マリーさん」
「あらあら、もう名前を覚えてくれたの?お利口ねぇ」
マリーは受付から身を乗り出し、俺の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
「まだ随分と小さいけど、今いくつかしら」
「ぼくね、いま3さい」
「3歳かぁ、若いわねぇ、それでシャルちゃん?今日はここへ顔見せだけかしら?」
「いえ、訓練所の方も見学させていただこうかと、あと弓用の的を使わせてもらうつもりです」
「弓用の的?そんなものどうするの?まさかシャルちゃんが打つの?」
「いえ、使うのはアルバート様です」
「えぇ!?弓を使うの!?」
「んーん、ぼくね、まほうつかえるんだ」
「えぇ!?!?」
マリーさん驚愕のたたき売りである。
バンッ
後ろの扉が乱暴に開かれる。
そこには炎の様に真っ赤なショートヘアをしたつり目の女性、そしてその女性の足にガッシリとしがみついている泥だらけの神父の姿があった。
「ふっ、貴様か!!オレに喧嘩を売ってきたガキというのは!!」
「「「は?」」」
俺、シャルル、マリーは寸分たがわず同じ反応を示した。
「このオレに喧嘩を売るたぁ、随分肝の据わった命知らずだな!」
「ま、待ってくださいミスティさん!誰もあなたに喧嘩なんて売ってません!!」
神父が足にしがみついて止めようとしているが、ミスティと呼ばれた女性は神父を何でもないかのような表情でズンズンと俺に近づいて来て、ググっと俺の顔を覗き込む。
「その若さでオレを相手にする命知らず、ある意味賞賛に値する!」
「えっと...」
こんな女でも一応は初対面だ、挨拶は肝心だろう。
「こ、こんにちは!」
状況についていけず強ばった声と引き攣った笑顔で俺はミスティへ挨拶をした。
すると彼女はすぅっと息を吸い込み...
「声が小さあああああい!!!」
鼓膜が破けるかのような怒号にも似た声、宿舎全体が揺れたような気もした。
「ふん!男児たるもの堂々と、胸を張り、声を出せ!」
「は、はい!!」
「声が小さい!」
「はいぃ!!」
そんなやり取りをこっそり抜け出し、ボロボロになった神父にシャルルが近づく。
「あの、神父様?ミスティさんどうなさったんですか?」
「いっつつ、あぁ、それが...」
数分前~訓練所~
「おーい、ミスティさーん」
「ん?おぉ、神父か、何か用か?」
「はい、訓練で使うの弓用の的を貸して欲しいんです」
「的ぉ?んなもん何に使うんだ、お前が打つのか?」
「いえ、使うのは領主様のご子息です」
「お!エリオがもう帰ってきたのか!」
「いや、エリオ様ではなく弟のアルバート様が使うんです」
「弟?そいつが弓を射るのか?」
「的を打つのは弓ではなく魔術で打つそうです」
「魔術だァ?」
「はい、まだ3歳だというのに魔術が使えるそうですよ、いやぁ、これならこの領地も安た...どうしたんですか?ミスティさん?」
「魔術...あの野郎...糞ったれが..」ブツブツ...
「あ、あの、ミスティさん?ミスティさーん?」
「おい」
「は、はい!!」
「そいつは今何処にいる?」
「えと、多分宿舎の中で待っていると...」
「宿舎だな、わかった」
ミスティはそう言うと宿舎へと向かっていった。周りの景色が歪むくらいに怒りを醸し出しながら。
「あっちゃぁ、神父さんやっちまったなぁ」
「な、何がですか?兵士さん」
「いや、知らないなら教えとくけど、あんたかなり言ってはならない言葉を言ったよ」
「何がいけなかったんですか?」
「魔術だよ、魔術。今俺らの中では魔術って言葉が禁句なんだよ」
「魔術が?なんでですか?」
「いや、こないだ兵長が王都に戻った時にな、王宮お抱えの魔術師様と戦ってボロ負けしたらしいんだ、そのせいで王都から帰ってからは魔術と言う単語にすっげぇ敏感になっちゃって」
「じゃ、じゃああの様子だと...」
「エリオ君の弟さん、まずいかもしれんよ」
「ミスティさん待ってえええええええええええ!!!!」
宿舎
「と言うわけなんだ」
「(どういうわけだよ!俺は全くといっていいほど関係ねぇ!)」
霊力操作で身体強化を施し神父の話を聞いていた俺は思わず心の中で突っ込んだ。
「お前がローズベルトの息子だろうがエリオの弟だろうが関係ねぇ!オレは魔術ってやつが大っきらいなんだ!男のクセに遠距離からチマチマと小突いてきやがって、勝負だクソガキ!!」
「(完ッ全に王都での憂さ晴らしじゃねぇか!)」
俺があまりの横暴に絶望していると、神父が一声かけた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいミスティさん?」
そうだなんか言ってやれ!
「いくら魔術が使えるからって、相手はまだ3歳の子供ですよ!?」
そうだそうだ!
「それにあなたが負けた相手は王都随一の魔術師でしょう!?この子はまだ初級魔術をやっと使えるくらいですよ!!」
よしよし良いこと言うじゃねぇか!もう一声!
「いくらなんでも戦う相手が筋違いで...」
「うるせえええええええええええええええええええええ!!!!!」
「!?!?」
神父の完全無欠な正論に耐えきれなくなったミスティは神父の言葉を一喝し途中で遮った。
「ぐっちぐちゴチャゴチャ訳のわからねぇ言葉を並べやがって!つまりコイツとオレが戦って勝った方が強い!そう言う事だろ!?」
「(ちげぇよ!!)」
「オラ、こっち来い」
ミスティは俺の手を強引に引っ張り外へ出て訓練所へ向かう。
そして話は冒頭へ戻る。つまり...どういうことだってばよ?