第十二話 ボロ雑巾になったキツネ
今はストックがあるので1日に何本か上げられますけど、ストックが切れそうになったら一話1週間とかかかるようになるかもしれません。
時間はグッと進み俺は最近3歳になった。この間の1年何をしていたかと言うと今まで通りこの世界のことについてシャティアから教わりつつ霊力をより自由に扱えるように練習したり、幼い身体をひっそり鍛えたりしていた。ちなみに俺が初めて言葉を喋ったときの話はまた別の機会に...
そして今日から俺はエリーゼかシャルルのどっちかお供に付ければ自由に外へ出れるようになったのだ。
「は〜い、坊ちゃま、お外にお出かけですよ〜♪」
「はーい!」
最初はエリーゼがついてくることになった、シャルルとの高尚な話し合い(ジャンケン)の結果こうなったそうだ。
「(よし、今日から外出だ、外なら霊術使っても文句は言われないだろ)」
『(でも、メイドもついてくるし難しいんじゃないかい?)』
「(ちょっと騒がしくなるけど、いい案がある)」
『(ほうほう、それは気になるな、どういう作戦なんだい?)』
「(まあ見てろ...)」
俺は心の中で不敵な笑みを浮かべるとエリーゼに声をかけた。
「ねーねー、エリーゼ、まほうってどうつかうの?」
「魔法...魔術のことですか? うーん...そうですねぇ、坊ちゃまにはまだ早いと思いますけど...」
「えー!ダメなのー!?」
「いえ、決してダメでは無いのですが...うーん」
「じゃあじゃあ!エリーゼのまほうみせて!おみずだすやつ!」
「見せるだけですか?それなら良いですよ、水ですね〜じゃあ...」
エリーゼがそう言って手を近くの木に向けると...
「清らかなる水の精よ、汝らの名において命ずる、水を我が手に!ウォーターボール!!」
彼女が詠唱を言い切ると手からバレーボールほどの大きさをした水の玉が勢い良く発射された。水の玉は木に当たるとバシャンと音をたてて崩れた。
「ふう、どうですか? 坊ちゃま、ご満足頂けましたか?」
「うん!すごかった!!ぼくやってみる!」
「ふふ、坊ちゃまったら、やっぱり男の子で...」
バシャン
「...ふぇ?」
バシャン
「はい?」
バシャン
「ちょっと...?」
俺は戸惑っているエリーゼにくるんとからだを向けて言った。
「できた♪」
「へ?......えええええええええええええええええええ!?!?」
エリーゼが素っ頓狂な声で驚く、流石に慣れたよ。今のところ事が計画通りに進み内心ホクホクしているとエリーゼに力強く腕を掴まれた。
「え...」
ビュンッ...
俺はそんな情けない声とシャティアを残し、エリーゼにものすごい勢いで引っ張られた。
『え?』
エリーゼに連れられて家に戻ってきた。
「奥様!!奥様あああああああ!!!」
エリーゼが大声でお母様を呼びに行く、あ〜あ、そんなことしたら、また...
ゴッ...
「あぁ、やっぱり...」
鈍い音が外まで聞こえてきた。
しばらくするとちょっとセクスィーな寝間着を着て眠たげな目をしたお母様がボロ雑巾のようになったエリーゼを引きずってきた。昼寝でも邪魔したんだろう、なむなむ。
「ふぁ〜あ、今コレから聞いたんだけど...アル君、魔術使ったんですって?ちょっとママに見せてくれない?」
なんだかお母様の口調がいつもと違って少しキツい、眠りを邪魔されたからだろうけど少し怖い、なんだか嫌な予感がする。
しかし俺は元々NOと言えないジャパニーズボーイである、それは記憶と共に条件反射として連れてきている、ゆえに俺は答えた。
「...はい」
我ながら情けないものだと思う、だってしょうがないじゃない!あの目、ヘマしたときの親父に向けるのと同じ目だったんだもの!
そんなことを考えて内心ビクビクしながらさっきと同じように構えた、狙いは近くにあった木、霊力にイメージを通してウォーターボールを手の前に作り、放った。
「ふっ!」
バシャン
勢い良く飛んでいった水の玉は狙い通り木に命中、木の幹を軽く凹ませた。
「どう...ですか?お母様」
「...何かしら、違和感があるわね」
「(ギクッ!)」
マジかよ、もしや見破ったのか?
「う〜ん...なんか違うのよね、見た目はウォーターボールだし威力も普通...いえ、普通以上だわ、それにさりげなく無詠唱だし...」
しまった、適当にでも何か呟いておくべきだったか...
「う〜ん...」
お母様は顎に手を当てて難しい顔をしている。
「...ま、いいか」
「へ?」
「うん、確かに何か変だけどウォーターボールはちゃんと使えているし、威力も十分、しかも無詠唱なんかしちゃってるし、ふふ、私の息子は2人とも天才でママは鼻が高いわ〜♪」
「えっと...おかあさま?」
「あぁ、そうだアル君?あなたはその魔術をどうしたい?」
どうしたい?どうしたいも何もこの力をチートの限り無双でハーレムがフィーバーしたいけど、まぁそんな事言えんわな。なので俺は子供らしく正義感の強い無難な事を答えることにした。
「え... うん、もっともっとがんばって、いろいろなことをできるようになりたい!」
「それでそれで!」
「いっぱいつよくなって、おかあさまをわるいやつらからまもってあげる!」
「はぁ〜♡アル君可愛いっ!私惚れちゃいそう!!」
「えっへへ〜」
「うぅ、坊ちゃま...ワタシは?ワタシは守ってくれますか?」
いつの間にか生き返っていたエリーゼが泣きそうな目でこちらを見つめている。
どうしますか?
▶「エリーゼはダメ」と突っぱねる。
「エリーゼもまもる」と言ってノってあげる。
う〜ん、今回はエリーゼに一役買ってもらったし...まあ、たまにはいっか。
「もちろん!エリーゼもシャルルも、みんなまもってあげる♪」
にぱーっと音が聞こえそうなほどの笑顔を向けてそう言ってみる。するとエリーゼは神のお言葉を聞いたとばかりにダバダバと涙を流し始めた。
「あ...あ... 坊ち゛ゃま゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ"!わ、ワ゛ダジ、いっしょうついて行きますうううう」
エリーゼはもう大変な事になっていた。目からは涙、鼻からは鼻水、口からはよだれをだらだら垂らし、歓喜のあまり俺の小さな体へ抱きついてきた。
「うわっ、エリーゼきちゃない、はーなーれーてー」
「うっうっ、エリーゼは、エリーゼは一生坊ちゃまのおそばにぃぃぃぃうぐっ...」バタン
「・・・」にこっ♡
突然倒れたエリーゼ、にっこりと暗黒微笑を浮かべながら、ゆっくりエリーゼの首の後ろから手刀を引き抜くお母様。これらが導き出す答えは...いや、見なかったことにしよう。
「さ、アル君、その汚れた服を着替えて、今日はママと一緒にお昼寝しましょ?」
「は、はい!おかあさま」
俺はお母様の手を取り家の中へ戻って行った。