第6話:ダブルトラップ
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2015年5月10日午前0時35分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
午前11時10分、蒼空かなでがルートを検索してコースを走りだした後、一斉に飛び出したメンバーが第1チェックポイントとも言える工場に到着する。
このチェックポイントを通過し、残る3つのチェックポイントを通過してゴールへ到着すれば…と思われていたのだが、行く手をさえぎったのは予想外の人物だった。
「これで終わりなのか?」
「ナビによると、4つのチェックポイントを通過すればOKらしい」
「コース通りにいけば、10分足らずでゴール可能だ」
「楽勝だな。誰よりも早くゴールできれば―」
次のエリアへ向かおうとした先頭メンバーの目の前に姿を見せたのは、何と出遅れてスタートしたはずの女性だった。
「バカな! お前は後ろのグループよりも大幅に出遅れていたはず」
「それが、この位置に来るとはどういう事だ?」
「まさか―!?」
ある1人は、コース取りに秘密があるのではないかと考えていた。その予想は見事に的中していたのである。
「コース取りに関しては自由と言われていたはずよ。そして、これはあくまでもスピードレースではない。サバイバルレース―」
その後の言葉を彼女が言う事は無く、ビームサーベル型のガジェットで次々と先頭メンバーを切り捨てていく。これは一体、どういう事なのか…と周囲で様子を見ていた人物も一斉に飛び出してきた。
「何て事だ! ガーディアンが潜り込んでいたのか?」
「超有名アイドルファンは、何処にでもいる!」
「日本国民は超有名アイドルのファンでなければいけないのだ―」
特撮の戦闘員の如く出てくる雑魚をも容赦なく切り捨てていくのだが、彼女の正体は全く未知数と言う状況だった。最低でも、周辺のメンバーは誰も知らない。仮に知っている人物がいたとしても、この場にはいないだろう。
「貴様、一体何が目的だ? ガーディアンではないのか」
完全な勇み足だったのか…と一人の男性は思った。実はパルクール・ガーディアンが偵察目的にここへ来る事を彼らは把握しており、その情報を元にしてガーディアンを一網打尽にしようと考えていたのである。
しかし、そのガーディアンが誰であるのかは知らされていない。その為、超有名アイドル勢力にとっては無謀とも言える賭けだったのだ。その結果が大失敗だったのは、火を見るよりも明らかだった。
「ガーディアンではあるが、本来の目的は違うな。ここへ来たのも―ある種の偶然だ」
彼女の顔はバイザーの影響で見えないが、謎の笑みを浮かべているように感じられる発言だ。一体、彼女の狙いは何なのか?
超有名アイドルファンが謎の人物に襲撃されている頃、別のエリアを通過していたのも超有名アイドルファンだが、襲撃されているのはAと言うグループのファンであり、サマーカーニバルのファンではない。
「向こうの方が襲撃を受けているか。どうやら、こちらの流した偽情報に釣られた勢力がガーディアンに捕まって行くだろう」
「まさか、こちらの手を汚すことなくライバルが減って行くとは……都合がいいな」
「この調子でライバルを減らし、その原因は他のコンテンツと言う事でなすりつけをすればサマーカーニバルが日本で唯一の神コンテンツと言う事になるだろう」
サマーカーニバルファンと思われる勢力は、第3チェックポイントへと向かうべく近道をするのだが、チェックポイント到着目前でアラートが鳴り響いていた。
【敵機接近中】
表示は周囲に敵がいる事を警告しているのだが、それらしい影は目撃出来ない。機械の故障と言う事でサマーカーニバルファンは先に進もうとした。
「何処からだ!?」
目の前にいたはずの警戒チームが襲撃を受け、ガジェットが動作不能になったのだ。これには他のメンバーも足を止めて警戒をせざるを得ない。しかも、使われた武器は実弾系のスナイパーライフルで、パルクール・サバイバルトーナメントでは使うプレイヤーが少ない。
この武器を使いこなす事自体、他のTPSやFPS、ガンシューティングで鍛えていない限りは不可能である。格闘系武装も、それを踏まえると格闘ゲームをプレイしていれば使い勝手は変わるだろうか。
『お前達が超有名アイドルの筆頭、サマーカーニバルのファンだな』
次の瞬間に姿を見せたのは、北欧神話をモチーフにしたようなパワードスーツ、更にはパルクール・サバイバルトーナメントで使用する物とは全く違うガジェットも装備している事に驚く。スナイパーライフルも、おそらくは別のARゲーム用ガジェットだろう。
「別作品で使用されるガジェットに反応して警告が出ていたのか」
警告の意味を理解した別グループは、早速1体のパワードスーツを取り囲み、退路を塞ぐ。しかし、パワードスーツが逃げるようなリアクションは取らない。
「貴様もパルクール・ガーディアンか?」
緑色のガジェットを装備した男性がパワードスーツに対して尋ねる。返答が来なければ無条件で攻撃を仕掛けようと考えていたが―。
『自分はガーディアンではない。スカウトされたのは事実だが―』
そして、パワードスーツは手持ちのスナイパーライフルではなくショートレンジライフルを両肩のシールドから取り出し、降伏勧告なしで発砲、即座にガジェットを無力化した。
「何故にガーディアンしか知らないルートを知っていた?」
本来、このルートは一部の関係者しか知らない物、地図のデータが流出したのであれば話は別だが、そのような事例は現状では確認されていない。
『それは一種の偶然にすぎない』
「偶然で、あのルートを発見出来るとは思えない。我々でも発見するのに時間がかかったのだぞ」
『そう考えるしか出来ないのか? 超有名アイドルファンもそこまでの思考しか持っていないという事か―』
「貴様もパルクール・ガーディアンや阿賀野菜月と同じという事か!?」
その後も二人のやり取りは続く。しかし、このやり取りは運営にもパルクール・ガーディアンにも察知されていた。
第2チェックポイント、ヘリポートを思わせるエリアを通過したのは蒼空だけであり、他に通過した人物はいない。これに関して、運営側も異変に気付き始めていた。
「第2チェックポイントを通過した人物が現時点で1名だけなのは―」
「それだけ大量のリタイヤが出ていると考えるべきか、それとも別の理由があるのか……どちらにしても周囲の索敵を強化し、アンノウンを接近させるな!」
オペレーターの男性が異変を報告すると、提督は運営スタッフに対して指示を出す。そして、第2陣がある可能性も考慮して周囲の警戒も行うように命令した。
そう言った状況になっている事は、当然のことだが実技参加者には報告されていない。基本的に実技を中止にするのは、自然災害の類と非常警戒が必要な時だけである。後者に関しては超有名アイドルではなく、別の勢力に適用される物であるのだが、これが適用された例は一度もない。
「次は第3チェックポイントか」
蒼空は異変が起きている事に気付かず、第3チェックポイントへと向かう。ナビで第3チェックポイントを検索すると、そこは何かの倉庫らしいのだが…。
第3チェックポイント、通過したのは蒼空だけかと思われたが、数人の襲撃に巻き込まれなかったメンバーも通過して行った。
これに関しては、第2チェックポイントで救済処置を取った為である。こうしたアクシデントもパルクール・サバイバルトーナメントでは日常茶飯事。
しかし、超有名アイドルファン等の一部メンバーは失格扱いとし、そのまま本物のパルクール・ガーディアンへ引き渡される事となった。
「一体、何があったと言うのか?」
「失格者が出るのはパルクール・サバイバルトーナメントでは当たり前―こうした実技で不合格者が出るのも珍しくはない」
「しかし、運営がこうした処置を取るのは珍しい事ではない。今回に限っては、何かがおかしいように思える」
チェックポイントを通過した他の参加者は、どのような状態か気になっても足を止めて話を聞く訳にはいかない。足を止めれば、他のプレイヤーに順位の逆転を許す結果になるからだ。これは講習の時にも言われている事であり、レースである以上は宿命なのかもしれない。
その後、実技の結果は全員がスタートしてから15分後に出た。完走できたのは蒼空を含めて数名、それ以外のメンバーは全員が失格となったのである。失格になったメンバーの中には、例の女性は含まれていなかった。彼女はスタッフだったのか、それとも…。
「読みが外れたようだな―」
スタート地点で結果を聞いていたのは如月トウヤ、ビームサーベルタイプのガジェット使いである。しかし、一連の騒動に乱入を仕掛けたのは彼女ではない。あくまで、超有名アイドルファンの引き渡しに応対しただけである。
「それにしても、蒼空かなでと言ったか……彼の能力は一体何だというのか」
第3チェックポイントの映像を確認していた如月は、ある異変を映像から読み取っていた。ガジェットの力とは違った何か、あるいは第六感的な物を持っている可能性もあるだろう。如月が蒼空に感じていたもの、それは阿賀野菜月とは全く違う何かで間違いない。
蒼空を含めた数名は別の部屋へ呼ばれ、そこで実技の結果を聞く。そこで、教官が語ったのは予想外の事だった。
「今回は想定外のアクシデントがあり、そこでは一部の受験者が失格と言う処分となった。こうした状況になったのは残念だが、君達は無事にゴール出来た事で合格の条件を満たしたと言っていい」
他の受験者が失格処分の理由を尋ねようとしたが、ガーディアンからの守秘義務で話す事は出来ないという回答だった。その一方で、蒼空は何も質問せずに話を静かに聞いている。
「失格者が出た事は残念だが、実技で合格者が100%出ると言う事は滅多にない。運も実力の内とは言いたくないが……」
その後も教官の話は続く。しかし、襲撃等に関して話す事はなかったようだ。
蒼空が実技を受けている頃、秘密裏に動いている勢力が存在した。彼らは超有名アイドルと言う日本では敵がいないと言われるコンテンツを利用し、日本支配を考えようと考えていた組織である。
信じがたい話ではあるが、阿賀野がネット上で警告していた事は全て真実だった。そして、皮肉な事に阿賀野の話も超有名アイドル勢や炎上屋と呼ばれる勢力によって都合よく書きかえられ、超有名アイドルを神化するような物になっていたのだ。
「別の部隊は倒されたか」
「あの程度の能力ではガーディアンに対抗できない事は織り込み済―」
「我々が打倒すべきは、超有名アイドルに疑念を持つ者を倒す事。それがナイトメアへの忠誠の証でもある」
北千住近辺に集まっている数十人規模の集団、それはパルクールのチームと言う訳ではなく、特定の超有名アイドルグループのファンが集まった物だ。
エリアによっては超有名アイドルグループによって占拠されている場所もある位で、一種のテロ組織とも認識されているのが現状だ。彼らのような集団を放置した芸能事務所側にも問題があるのかもしれないが、問題視されていたのはそこではなかった。
「これだけの順位を独占しておけば、CDの宣伝としては問題ないだろう」
「超有名アイドルに金を落としてくれれば、日本は経済大国へ再びのし上がる事が出来る。バブルの再来も夢ではない」
しかし、彼らの動きは超有名アイドルの宣伝だけではなく、単純に『目立ちたい』や『構って欲しい』と言う部分が表面化している関係で、純粋なアイドルファンには嫌われているのが現状である。
それだけではなく、彼らの行動はパルクール・ガーディアンや一部の勢力に超有名アイドル排除の口実を与える結果となった。
「貴様、いつの間に!?」
ある男性ファンがガーディアンとは違う人影を発見する。デザインはSFモチーフというアーマー、更に強化されたオールレンジメット、背中に装備されたバーニアユニットは市販品とは違ったワンオフ、使用しているガジェットはビームサーベル型。
これだけの装備を見るとガーディアンの夕立を思わせるのだが、目の前にいる彼女の場合は決定的に違う装備を持ち合わせていた。
「悪いけど、コンテンツ正常化の為にも超有名アイドルは不要なのよ!」
その一言と共に次々と周囲のファンを気絶させていく。その際に使用された武器は手持ちのビームサーベルではなく、右腕に固定されたビームパイルでアーマーにショックを与えて機能停止させるパイルバンカーと呼ばれる武装だった。
「その武装は、まさか!?」
別のファンが彼女の正体に気付いたのだが、それを周囲に伝えさせない為に使用した手段は―。
「バカな! 通信が出来ない」
「ジャミングはパルクールでもレギュレーション違反のはず!」
「一体、何が起こっているというのか?」
「奴の装備はパルクール・サバイバーを考慮していないだと!?」
彼女が使用したのは、何とジャミングシステムである。パルクールのレース中にはナビゲーションの妨害を目的としたジャミングやシステムへのハッキング、サイバーウイルスの類は原則禁止。
それらを使用したペナルティも一番重い物が適用されている。実際、このようなケースで失格になった選手は存在しないのだが、ロケテストや正式競技ではないデモンストレーションではナビシステムの不具合と言う物が何件か報告されており、運営側でも試行錯誤が繰り返されている証拠だろう。
しかし、ジャミングをするにしてもシステムを完全に把握している必要性があり、運営は「システムの完全把握はありえない」の一言で却下している。
これに関しては運営が何かを隠したくて意図的に却下申請をしていると言われている。しかし、どのような意図で却下したのか経緯は明らかになっていない。
「悪いけど―これはパルクールではない。普通のバトルよ」
ジャミングが起動している中、全ての超有名アイドルファンを気絶させたのは阿賀野菜月だった。実は、彼女もパルクール・サバイバーのプレイヤーだったのだが、それが判明するのは後の話。
午前12時、阿賀野が超有名アイドルファンをせん滅させた件については、速報で流れる事になった。
このニュースが拡散する事で他のアイドルファンをけん制する効果を期待している人物がいる一方で、下手に刺激をすれば他の勢力が過激な行動を取ると懸念する動きもある。
「今回の一件、別の勢力に口実を与える結果にもなっている」
「このままではコンテンツ業界は、文字通りのカオスとなるだろう」
「何としても超有名アイドルとBL勢の過激派を全て沈黙させなくては」
「炎上商法を法律で規制する方が手っ取り早い可能性がある。何故、それを実行しないのか?」
「規制法案ありきのやり方では、単純に魔女狩りと言う認識を広める事になるのは明らかだ」
「正常な経済成長を促すには、規制緩和も必要だが一定の自由化も必要になる」
「しかし、自由と無法地帯は全く違う。超有名アイドルやBL勢が行っている事は無法地帯その物だ」
「暴走したファンだけを締め出しても、第2、第3と出てくる可能性は否定できない」
「どうすれば、全てを解決できるのか…」
ネット上では、このようなやり取りが展開される位に超有名アイドルファンが抱える問題は拡大している。法案の改正もまったなしと言う状態は、目の前に来ているのだ。
午前12時15分、ある人物が芸能事務所前に姿を見せた。その人物は全身が鎧姿であり、芸能事務所を訪れる来客としては異常と言えるだろう。
【ここでは目立ちすぎる。地下駐車場に迎えを用意する】
鎧の頭部はヘッドバイザーになっており、そこに表示されたメッセージは地下駐車場へ来るようにと言う物だった。そして、鎧の人物が指定された場所へ向かうと、そこにはある人物がロケバスの前にいたのだ。
この人物は緑の背広を着ているが、顔を確認しようと鎧の人物が彼の方向を向くと、突然のノイズがバイザーに発生して顔を映しだせないという不具合が発生した。
『貴様は何者だ? お前が、例の迎えか?』
鎧の人物は、顔が見えない事に関しては言及しない事にした。下手に正体を自分からばらすという自爆をするつもりはない。そして、若干落ち着いた口調で彼に名前を尋ねる。
「私の名はイリーガル。下の名前は営業に影響するので、君には明かさない事にする」
イリーガルと名乗った人物は鎧の人物を信用していないらしく、本名を明かす気はないらしい。そして、彼が指を鳴らすと別の黒服がコンテナを複数個用意して、その中身を見せた。
『この違法ガジェットを売れ、と言う事か』
「違法とは失礼な事を言う。探せば、ネット上には君よりも信用出来るバイヤーはたくさんいる」
『その言葉、信用するに値しない』
「こちらとしても、鎧で顔を隠すようなやり方をフェアと思うほどお人よしではない」
『顔を見せればガーディアンに顔が割れ、更にはレーヴァテインと呼ばれるハンターに狩られるのは確実。それは、あの事件を知っていれば分かるはずだが』
「レーヴァテインは、こちらでも把握はしている。しかし、彼はパルクールともパルクール・サバイバルトーナメントとも無関係。こちらへ手を出す事は出来んよ」
2人の会話は続く。最終的には鎧の人物の条件をイリーガルが受け入れ、バイヤーとして採用したのだが―。
『覚えておいてもらおうか。下手にコンテンツ業界を炎上させるような事をすれば、自分の身を滅ぼす事になる』
鎧の人物、ソロモンは忠告にも似たような言葉を残してイリーガルの用意したロケバスに乗り込み、コンテナを指定エリアへと輸送。しかし、ロケバスに乗り込む時もソロモンが鎧を外す事はなかった。
「ソロモン、奴は泳がせておくか―」
イリーガルは密かにソロモンの周囲を調査するように別の人物へ指示を出した。その人物は、超有名アイドルであるサマーフェスティバルのメンバー。一体、イリーガルの目的とは―。
午前12時20分、とあるつぶやきが話題となっていた。それは炎上屋という存在に関しての話題なのだが―。
【他の超有名アイドルを潰しているのは、ある漫画作品のファンらしい】
この発言を見て、反応するユーザーもいれば、いつもの炎上屋と思う人物と反応は2種類ある。その中でも炎上屋と判断した人物がそのつぶやきに関して反撃を開始した。
【超有名アイドルファンのマッチポンプは相変わらずだ。結局、超有名アイドル2強によってコンテンツ業界は支配され、最終的には彼らが政治の世界に進出して、全てを牛耳る世界が現実になる】
この書き込みは明らかに誰かと特定できる物だったのだが、その誰かを特定する人物はいなかった。分かっていて書き込まない、事件に巻き込まれる恐れがあって書き込まないという説が多い。
「この書き方は阿賀野ではないか。だとすれば、別の炎上屋が阿賀野を演じているのか、それとも……」
阿賀野菜月と見せかけた書き込みに見えるのだが、何かが違う。そう断言したのは上条静菜だった。彼女は西新井にあるアンテナショップ近辺からつぶやきを監視している。
【マッチポンプは今に始まった事ではない。超有名アイドルとタニマチによる自作自演のアイドルバブルは、何十年前にも展開されていた】
【超有名アイドルファンは、自分達が行っている事を棚に上げて他のコンテンツが同じ事をするのは非難する】
【結局、国会は超有名アイドルファンが政権を握っていると海外へアピールしているのと同然】
【その状態が続けば、いずれ日本は破滅するのに―これこそが茶番と言える】
【AI事件を含めた超有名アイドルによる不祥事をスルーした結果が、今回の事件だと言うのが分からないのか?】
【悲劇は繰り返すという事か】
その後のやり取りも見たが、これこそ茶番と言えるような物だった。上条は途中でつぶやきをチェックするのを止めて、ゲーセン内へと入って行った。
「今の音楽業界を牽引できるのは、超有名アイドルではない。音楽ゲームのオリジナル楽曲かもしれない」
このつぶやきは半分冗談で出てきたような物だが、これが予想外の人物に聞かれた事が後に重大な事件を起きるきっかけになるとは、この地点の上条には気づかなかったのだ。
午前12時25分、運営もニュースに関して把握し始めた。炎上屋の存在も気になるのだが、それ以上に別の超有名アイドルグループの動向を気にしているようでもあった。
「一体、彼らの狙いは何なのか」
「阿賀野の姿も確認できたという情報がありますが、その目的は不確定だと聞く」
「炎上屋がコンテンツ業界を混乱させ、超有名アイドルによる政権を望んでいる事は確定的に明らかだろう」
「超有名アイドルによるコンテンツ支配は、一部のタニマチによる支配と同じ。そのタニマチも政治家と言う話を聞く」
「つまり、市民の税金で超有名アイドルコンテンツを拡大させていると言うのか?」
「どちらにしても、コンテンツ流通の正常化をする為にも超有名アイドル依存となっている現状を打破しなくてはならない」
「コンテンツ正常化はガーディアンが行っている事と同じ。我々が、それに続く理由はない」
さまざまな情報を考慮し、会議では今後のガーディアンに関しての議論が行われているのだが―会議は平行線となっている。
「我々が行うべきはコンテンツ正常化。その為には、引き続きパルクール・ガーディアンを警戒する事。それで異議はないでしょう」
話を統括したのは提督と呼ばれる男性で、こちらの提督は別名が青提督と呼ばれ、青をベースとした軍服を着ている。
「君の話は理解した。しかし、超有名アイドル勢が武力で全てを制圧するような手段に出れば、地球を消し去る事も造作もないだろう。それ程のチートを持つ勢力に、どう立ち向かうつもりだ?」
会議に参加している他の提督も青提督の意見には簡単に従えない。それ程に超有名アイドルの能力は異常であり、チートであると言って過言ではないのだ。
「チートと言っても、所詮は付け焼刃。楽して全てを勝ち取ろうとする物が手にした違法と言える危険物なのは間違いない。それらを全て管理下に置き、封印する事こそが正しい動き―」
「待ってもらおうか。青提督、君はチート能力が存在するべきではないと言うのか?」
青提督に意見したのは、紫提督。他にも、チートを違法な力と決定するのは時期が早いとする提督もいる。それ程、チートと言う力は身近に溢れすぎていたのだ。
「確かに、存在してもよい力はあります。しかし、全てのコンテンツを終焉させて超有名アイドルによる政権支配に利用される、そのような力は排除するに値するでしょう」
青提督は確信している。超有名アイドルの使うチート、それはパルクール・サバイバルトーナメントを崩壊させる危険な物である、と。そして、違法なチートはコンテンツの面白さを半減させ、滅亡へ導くのは確定的である。
その後、会議は議論を続けたのだが、彼のチート駆逐に関して同意しようという提督は少数に終わった。
一方で、超有名アイドルファンを初めとした勢力が使用する違法ガジェットの取り締まり強化、サバイバルトーナメントを更に面白くする為のイベントを用意する事などは反対なしで決まった。