第24話:ランカー王決定戦―ラウンド16―
>3月24日午前1時16分付
誤植修正:アカシックレコードが石を持った→アカシックレコードが意思を持った
>更新履歴
2015年5月9日午後11時21分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
5月28日午前10時51分、突如として現れたアカシックレコード、その姿に驚く者も多かった。
《全世界をリセットするのは不可能だ。ならば、唯一神化計画の為にもお前達には消えてもらう》
その声はサンプリングボイスを思わせるような口調であり、人間の喋り方とは程遠い。あるいは、アカシックレコードが意思を持ったとでもいうのか?
「そんな魔法の様な都合のよい解釈が―あってたまるか!」
中村提督の使用しているアーマーはクラシックガジェットであり、最新型には歯が立たないだろう。それでも、彼はビームサーベル二刀流でアカシックレコードに立ち向かう。
《超有名アイドルコンテンツはオワコンであると判断した。あのコンテンツには再生させるような価値はない》
「だからと言って、『ハイ、そうですか』と切り捨てると思うか? イリーガルの様な利益至上主義者がコンテンツを動かそうとすれば、ファンとの間にずれが生じる」
《確かにイリーガルや彼と共に計画を進めた政治家が行った事――それは認められるような物ではないだろう。しかし、それでも第2、第3のイリーガルが出現しないとは否定できない》
「自分は、そこまでコンテンツ業界に悲観的な感情を持ちあわせてはいない!」
中村提督はビームサーベルの片方をアカシックレコードの隠し腕に弾き飛ばされるが、もう一方のビームサーベルは隠し腕を切り落とした。
《我々の技術が――こんな旧式ごときに!》
隠し腕には実体があったのか…と思われたが、実際は中村提督の持っていたビームサーベルは最新型ガジェットの技術が使用されていない。つまり、クラシックガジェットならば倒せる可能性があると言う事だ。
「アカシックレコードも実は―と言う事か」
しかし、中村提督は途中でビームサーベルを収納し、これも誰かの手のひらの上で踊らされていると考える。
「何処で気づいた?」
その一言を放ったのは、何と大塚提督である。彼がアカシックレコードを動かしている訳ではないが、自然に反応してしまう。
「どちらにしても、超有名アイドルの様な行動パターンもなければ、フジョシ勢の様な物量もない所を考えると、愉快犯かマスコミへ情報提供する為に動いている辺りか―」
その一言と共に現れたのは、黒鋼と言えるようなカラーリングの提督服で現れた赤羽根提督である。どうやら、赤羽根提督はある勢力に関して覚えがあるらしい。
「潜り込んでいた、組織ですか?」
武内提督はすかさず返すが、それには首を横に振る。どうやら、違う勢力らしい。そして、赤羽根提督はおもむろにスマートフォンを取り出してニュース動画を見せる。
『つぶやきサイトに次ぐ2番目の規模を誇る会話アプリでスパイウェアが検出された件で、警察はヴィジュアル系バンドファンを大量に摘発したと発表しました』
「ヴィジュアル系バンド? これは一体、どういう事だ?」
犯人の正体に関して、大塚提督は驚きを隠せないようだ。ガレス提督の報告でもヴィジュアル系バンドファンはスルー対象だったのだが…。
「ガレス提督が超有名アイドル以外の勢力も疑い出したのは、ソロモンとして潜入していた頃よりも前、超有名アイドルの候補生時代だったらしい」
中村提督の一言を聞き、それを把握したのは武内提督だった。
「もしかすると、鉄オタ問題等も今回の延長線で起こった事件―ではないでしょうか」
少し硬めな口調で武内提督が考えを述べる。全てはファンマナーが暴走した事が引き起こした事件だったのかもしれない、と。
「アカシックレコードも消滅した。これによって、真相は闇の中に消えたか」
赤羽根提督が周辺に残った残骸を回収するように指示を出そうとしたが、元々がARの映像であるアカシックレコードには無意味と言ってもよかった。
同刻、残すはカーブだけでゴールは目の前と言う所で動きだしたのは花江提督と小野伯爵の2人だった。それに横槍を入れようとしているのが秋月彩、蒼空かなでの2人だ。様子見は島風、神城ユウマの2人という構図である。
「小野伯爵、あなたが提督を名乗らない理由が分かった。一連のアカシックレコード、AI事件、それに―」
「例え自分がアカシックレコードに関係があろうと、今のサバイバー運営ではコンテンツ業界の再生は望めない。違うか?」
「サバイバー運営を離脱した理由は、その通りだ。しかし、伯爵はひとつ勘違いをしている」
「勘違いだと?」
「阿賀野菜月がコンテンツ解放の為に超有名アイドル商法を憎んでいた事は、ネット上の誰もが知っているだろう。しかし、それが別の理由で憎んだのだとしたら?」
「別の理由? それは阿賀野が別のコンテンツファンで、超有名アイドルがそれを荒らしていった―」
「そのような単純な理由であれば、愉快犯やフジョシ勢、夢小説勢と同じ。阿賀野が危険人物とネット上で言及されていたのは、それだけじゃない」
「未来予知の事か?」
「その通りだ。彼女の未来予知は一種の予言ではない。本来であれば、虚構ネタを扱った大手サイトと同じような【嘘を嘘だと見破れない】人間には扱えない物だった」
花江提督と小野伯爵、お互いのスレイプニールはフィールド内で攻防戦を続ける。しかも、本来であれば使用不可なARウェポンも使用しての―。
『そして、それはいつしか現実にも起きてしまった。それがAI事件であり、それ以前の男性アイドルグループ絡みの事件も該当する』
「あの事件が阿賀野のアカシックレコードから生まれたと言うのか―」
『正確には、彼女が書いたアカシックレコードをなぞるようにして一部の信者が動き出したと言うべきか。いわゆる、有名税とも言える』
「一部信者? 超有名アイドルファンとは違うのか」
『あれはブラックファンと言う仕分け方がされている。それよりもたちが悪い狂信者が一連の事件を起こした―と言えば早いだろうか』
「オープンチャンネル? 貴様は何を考えている―」
小野伯爵は花江提督が途中で会話の内容をオープン回線に変更し、周囲にも流れるようにしていた事に気付いた。何故、このような事を彼が行っているのか。
『蒼空かなで、君にも一言だけ忠告をしておく。超有名アイドルに支配されているディストピアと言う思い込みが―他のブラックファンや狂信者と同じ道へと歩ませる。前回のランカー王、松岡提督と同じように』
そして、花江提督はオープン回線を解除し、フルブーストでゴールまで急ぐ。このスピードでは、蒼空のガジェットでは追いつけない。
午前10時52分、蒼空は周囲に配置されたダミーターゲットに意味があるのか考えていた。そして、装備しているハンドガンでダミーターゲットを撃ちぬくと、スコアが入った時に鳴るサウンドが―。
「高度なアクションだけがパルクール・サバイバーの極意ではない……そう言う事か!」
そして、次々と姿を見せるダミーターゲットに向けて両肩のホーミングレーザーも駆使し、攻撃を命中させていく。これによって、蒼空のスコアが増えていくのだが、その行動を花江提督と小野伯爵は気づいていない。
『これは凄い事になっています。秋月選手と神城選手がビルジャンプを披露しているかと思えば、蒼空選手は隠しターゲットを撃破していきます!』
実況の太田さんも思わず実況してしまう。それを聞いて花江提督はコースを逆走しようと考えたが、逆走に関してはレースによってペナルティがリタイヤの次に大きい。それを踏まえ、ゴールへと進むしか方法はなかった。
午前10時53分、花江提督が草加駅前のゴールへ辿り着き、僅差で小野伯爵を下してレース部門の1位となったのである。しかし、スコアに関しては全選手がゴールしてからだ。
『レース部門の首位は花江提督、2位には小野伯爵、3位は数秒の差で蒼空かなでと神城ユウマが同着となりました』
他の選手も次々とゴールする中で、花江提督は取り返しのつかない事をしたと考えていた。
午前10時55分、全選手が完走したのだが、ガジェットの状態としては蒼空と島風が中破、ヴェールヌイは大破同然とも言える展開だった。
「他の選手は奇跡的に助かったと言うべきなのか―」
中破状態でゴールをした島風がつぶやく。
午前11時、レースのスコア集計が発表され、そこで蒼空がスコア部門周囲である事が発表された。特に大きなマイナスを受けた選手はいないが、細かいマイナスが響いたのは阿賀野菜月だろうか。
『5月期のランカー王は、蒼空かなで選手です!』
遠藤提督のアナウンスを聞き、見事にランカー王になった蒼空。しかし、数秒程は自分がランカー王になったという自覚がなく、動きが止まっているような表情をしていた。
「自分が、ランカー王―」
そして、インタビューで蒼空は『ランカー王としての自覚が、今は感じられない』と言う趣旨の発言をして、周囲も驚いていたのだが、それがニュースで報道される事はなかったのである。
午前11時30分、その時間のニュースではヴィジュアル系バンドの夢小説勢が大量摘発されるというニュースが流れ、その次のニュースでは―。
『AI事件の首謀者が逮捕されました』
まさかのニュースが2番目に報道された事で、ランカー王の話題はテレビで報道される事がなかった。
『AI事件の首謀者、それは当時の総理大臣で○○党に所属していた―』
首謀者の正体はネット上でも言われていた総理大臣説が正解だった。このニュースには意図的な真相隠しもあるのではないか、という声もあった。
【AI事件も結局はアカシックレコードと同じような結果になったのか】
【まるで、パルクール・サバイバー運営の訴えようとしていた事を政府が拡散させないようにしているような気配も艦いられる】
【そこまでして国際スポーツの祭典を開催中止にする事を避けたいのか?】
さまざまなつぶやきが拡散していく中、国際スポーツの祭典に関して言及するつぶやきもあった。
それから数日後、ヒデヨシやノブナガと言った人物やランカー勢の後押しもあって、さまざまな炎上騒ぎも鎮火された。
【それでもパルクール・サバイバーが正常に動くかと言うと】
【今までの事は何だったのか?】
【これがアカシックレコードの真実なのか?】
様々な意見がネット上にある中、パルクール・サバイバーは炎上騒ぎさえも利用し、最終的には超有名アイドル勢の不正とも言える行動を表面化させる事には成功した。
「しかし、このような広まり方をして、逆にパルクールが風評被害を受けるのは避けられない」
ネット上のつぶやきを見た神城ユウマは、自分が本来向かう予定だったパルクールの風評被害を懸念していた。
「他にも未解決の案件もある中、こうして平和な世界を満喫してもよいのか―」
秋葉原のゲーセンに姿を見せた上条静菜も同じ考えだった。未解決案件が存在する中、自分はゲーセンへ行っても大丈夫なのか、と。
6月1日、6月期スコア集計がスタートしたパルクール・サバイバー。運営の方も新ルールの追加、新ガジェット実装、草加エリアを初めとした新エリアの新設等が発表された。
『我々の戦いは終わっていません。パルクール・サバイバーがどのようなコンテンツになるのかは、皆様の応援次第であるのは間違いないでしょう』
ガレス提督に変わって総責任者となったのは、武内提督だった。サポートとして佐倉提督、花江提督の姿もある。
『ひとつの戦いは終わりましたが、これからは今までに起こった事件に背を向けず、それらで荒らされてしまった場所を修復していく事も重要になります。サバイバー運営としての仕事は、ここから始まります』
武内提督の話を聞いた提督勢、サバイバーランカーはこれから始まるイベントに向けて、それぞれが進もうと考えている。全ては、ここからだ。
信頼を取り戻す為の戦いが、今始まる。




