第24話:ランカー王決定戦―ラウンド14―
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2015年5月9日午後11時6分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
5月28日午前10時36分、稲荷三丁目の信号から若干コースを離れた道路、そこには大塚提督と武内提督、更には総理大臣と思われる男性が話をしていた。
「武内提督? これは、どういう事だ」
「全ては、ある人物の指示です。彼女の的確な指示がなければ、総理大臣をここへ誘導する事も不可能だったでしょう」
「その人物とは何者だ?」
「あなたも知っているはずでしょう。闇のアカシックレコードを執筆した人物の事を―」
武内提督は大塚提督に種明かしを行おうとするが、そこに横槍を入れたのは総理大臣だった。
「闇のアカシックレコード、出版規制を受けて回収騒ぎになった本の事か。一部で出回った本が何処かに保存されている噂だが、そこに辿り着いた物はいないという」
この総理大臣の発言に対して武内提督は半分あきれ返るような表情をしていた。既に自分が手元に本を持っているかのような気配である。
「たどり着いた人物ならいますよ。ネット上でも話題になっていたはずですが……ご存知ないのですか?」
そして、武内提督はカバンの中から電子書籍専用の端末を取り出し、そこから該当する書籍の表紙を総理大臣に突きつける。これを突きつけられた総理大臣は、言葉を失うしかなかった。
「なるほど。花澤提督が血眼になって捜していたもう一つのピース……それが、闇のアカシックレコードだったのか」
大塚提督も何か納得をしたような表情をしている。しばらくして、コンテンツガーディアンではなく警視庁の刑事が数人ほど姿を見せる。近くには覆面パトカーも駐車しているのだが何か様子がおかしい。
「これは――?」
刑事の一人が総理大臣の姿を見て少し驚いた表情をするのだが、周囲に悟られないように配慮をしているようでもあった。
「あなた方は?」
武内提督も、何のことかさっぱりだったので刑事に事情の説明を求める。そして、刑事の方は別の市で起きた窃盗事件の犯人と思われる情報を手に入れ、現場の方へ向かっていた事を説明した。
「こちらとしても、あなた方ともめ事は起こしたくはありません。その人物を引き渡していただけませんか?」
「警察と無用な争いは起こしたくありませんが、こちらとしても重要参考人を引き渡す訳には―」
武内提督の方もせっかくの犯人を逃がすチャンスを与えたくない。その一方で警視庁を敵に回せば、今度はサバイバー運営だけではなくパルクールやARゲームが規制される可能性も―と考えていた。
そんな中で武内提督に通信が入る。通信の人物は現在レース中の阿賀野菜月だ。
「―分かりました。では、その方向で構わないのですね?」
武内提督の方は納得できない部分もあるのだが、総理大臣は警視庁の方へ引き渡す事にした。
同日午前10時37分、突如として刑事の方に無線連絡が入った。そして、刑事の方は息を荒げるような発言も飛び出している。
「―それも上層部が決めた事ですか!?」
『こちらとしても納得はいかないが、これも情報提供者の指示でもある。下手にこちらが彼らの意向に反する行動を見せれば、振り込め詐欺グループのリストを今後提供しないとまで言い出してきた』
「何故、そこまでして彼らの指示にばかり従うのか納得できません」
『彼らが提供している情報、それは我々が知り得ないような振り込め詐欺グループのやりとり、複数の転売屋を経由した資金ルート、更には不正な外部ツールを使った銀行口座のハッキング手口―』
「それらの情報がなくても我々で詐欺グループを検挙できれば問題はないはず」
『しかし、それを操っている人物が見せかけだけの数値を利用して日本経済を意図的に操っているとしたら―』
無線連絡の方はまだ続くようだが、別の刑事が総理大臣を再び武内提督の方へ引き渡した。
「ちょっと待て! そのような指示は出していないぞ!」
「これも超有名アイドルコンテンツが政治と金の舞台とされているかどうかを―」
刑事のやり取りを聞いた大塚提督は、真の黒幕はイリーガル秋元とは違う何かとも考え始める。しかし、今は考えても仕方がないという事で総理大臣を移送しようと車両を手配するのだが、事件はそこで起こった。
同刻、突如として総理大臣は土下座を武内提督の前で行ったのだ。これにはその場を立ち去ろうとした刑事も驚きの声を上げる。
「全てはイリーガルの指示で行った物だ。私が総理大臣になる為、超有名アイドルへの税制優遇を含めた条件――それを受け入れる事で彼は約束を守ってくれた。彼は、総理大臣からアイドルプロデューサーへと……」
この発言は別の意味でも衝撃的だったが、大塚提督にはネット炎上を狙っている嘘の発言にも聞こえた。しかし、武内提督が今の状況で冷静にいられるはずはなかった。
「その場で謝罪したとしても、それで許されるような物があるとは思えません。違法ガジェットの正体も、元々はARガジェットを違法に解析して作り出した物―先人の技術を、金儲けの為だけに全て破壊したのと同然なのです!」
武内提督の一言は、周囲で話を聞いていた人物も動揺するような物だ。違法ガジェットの正体、それが違法に解析されていた物だと知ったら―。
同日午前10時38分、ネット上では違法ARガジェットの真相とするコピペ文章が拡散していき、それによってネット上が大混乱となっていた。
「大変です! ネットでのつぶやきが原因とされる大量の回線パンクが発生しています!」
「この状態が続けば、通信回線のトラブルだけではなく他の部分にまで影響を及ぼします」
北千住のサバイバー本部、そこでは一連のネット炎上によって回線のパンクが起きている事が報告された。下手をすれば、ARガジェットの機能停止も避けられないだろう。
「サーバートラブルの狙いは何だ? イリーガルが逮捕されている以上、超有名アイドル側が動けば―」
白衣姿のオーディンは周囲が目的不明と語るネット炎上に理由があると考える。そして、オーディンはある結論に辿り着く。それは、超有名アイドルが有名になれば得をする勢力だった。
「ネット炎上勢が一部以外で超有名アイドルに肩入れするとは考えられない。それに、フジョシや夢小説勢も下手に芸能事務所側が動けば自分達に不利になる。もしかして、タニマチやFX投資勢なのか―」
しかし、結論を急げば急ぐほど勢力の絞り込みは困難となる。そして、オーディンはアカシックレコードのサイトを調べる事にした。
「サバイバーの開催前にあったメッセージが消えている? 過去ログに移動したとも思えないが……何があったのか」
トップページを見たオーディンは、予選が始まる前に掲載されていたメッセージが削られている事に気付いた。そして、このメッセージが消えた意味をたどろうと考えたのだが、そこへ別のメッセージが流れてきたのだ。
同日午前10時40分、ネットに拡散した情報に惑わされる観客やユーザー、全ての選手に対してランカー王決定戦に集中すべきと発言したのは蒼空かなでだった。
「―この時だけでも、ランカー王を楽しみにしているユーザーの為にも、ネットの反応は二の次に楽しむのが一番じゃないか!?」
蒼空の声を聞いて、同意をする人物は多かった。
「私の一言が今回の事態を招いたとしたら、それを何とかして鎮火するのも―」
武内提督は、自分の発言で今回の混乱を招いた事に対して責任を感じていた。そして、炎上勢の動きを何とかしようと動き出した。
「その通りだ。闇のアカシックレコードに関しては、レース後にでも真犯人を探る事は出来る」
レースに参加している花澤提督も蒼空の一言を聞いて、何かを感じていた。松岡提督のワンマンレースになってしまった、あの時と同じ事を起こさない為にも…。
「ランカー王のレースは終わっていない。終わったことを前提にした発言はするべきではないだろう」
花江提督も今はサバイバーに集中すべきという意見には賛成した。
同日午前10時45分、レースは3周目に突入する。観客の方も蒼空の発言を受けて、下手な炎上コピペには反応しないという事になった。
【確かに、蒼空の言う事にも一理あるな】
【サバイバーのレースは終わっていない。終わってからの評価は、後ですればいい】
【炎上狙いのコピペや煽りに惑わされる事で、事態の混乱は加速する】
【恐怖をあおってネット上の混乱を狙うのは、炎上勢だけの物ではない。詐欺まがいのサービスや商法も同じような手法を使うと聞く―】
【超有名アイドル商法が、いつからか詐欺商法と同一視され、それが風評被害を受けるようになった。それでも、彼らは税金を回収する為に商法を続けた結果―】
【総理大臣の私物となっていた超有名アイドルは、法律で全面禁止すべきだ! フジョシや夢小説勢の環境を守るべきだ―】
【アイドルの存在さえも規制される世の中になったら、コンテンツはフジョシや夢小説勢の独断場になるだろう―】
様々なつぶやきの中には炎上狙いのコピペも混ざっているのだが、その状況は次第に解消されるようになる。
同刻、ネット上の炎上コピペを確認していたのはヒデヨシだった。外部ツール検出システムのプログラミングをしている最中だったが、炎上コピペの事が気になって即興でプログラムを組んでいたのだ。
【サバイバー運営へ。これが罪滅ぼしになるかどうかは分からないが、炎上コピペを検出するツールを転送した。それを使って、炎上コピペをばら撒いている犯人を見つけて欲しい】
そして、ヒデヨシの炎上コピペ検出ツールをサバイバー運営でアップロードを行い、炎上コピペに困っているユーザー向けに無料提供をする事にした。
「後はサバイバーの提督たちにかかっている。アカシックレコードを悪用し、自分だけが賢者の石を生み出せる存在と勘違いしている人物を―」
その後、ヒデヨシはブラウザゲーム専門の外部ツール検出システムの開発を再開した。これも、おそらくはこれからのコンテンツ流通の正常化をする為に重要なシステムになるだろう。




