第24話:ランカー王決定戦―ラウンド13―
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2015年5月9日午後10時58分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
5月28日午前10時35分、他の選手も次々と2周目に突入を開始する。レースのトップは蒼空かなで、そこから距離が離れる事200メートル近くの位置には花江提督と秋月彩、その背後には小野伯爵、島風、衣笠、阿賀野菜月と言う順である。
『2周目に突入したのは21名―現状ではリタイヤした選手はいません。果たして、2周目ではどのようなドラマが起こるのか?』
実況の太田さんも熱が入る。それ位の激戦が展開されている為なのだが、まだまだ誰にでも優勝の可能性は残されている。
「前回のレースは途中から松岡提督のワンマンショーと言う展開になった流れもあった。しかし、今回はどうなるのか」
レースの様子を少し遠めのファストフード店の入ったビルから眺めていたのは、私服姿の如月トウヤである。その隣には誰もおらず、一人で遅い朝食を食べているようにも感じられた。
「勝負の結果は二の次としても、今回のレース運営は色々な意味でも綱渡り状態なのが気になる所―」
如月はテーブルに置かれているタンブラーに入ったコーヒーを飲みながら、レースの様子を動画サイトの中継映像と合わせて観戦する。
同刻、2位の位置にいる花江提督は直線距離を走って行く中で様子がおかしいと感じ始めていた。稲荷三丁目の信号を目前としたエリアで人混みの多い場所があったからである。
「何かあった可能性もあるが、今はレースに集中するべきか―」
花江提督は若干気になりつつも、現状では情報が少ない事もあってレースに専念する事にした。他の選手も素通りが多く、振り向きもせずに通過する選手もいた位だ。
おそらく、気になったのは蒼空と花江提督、後続の花澤提督位だろうか。阿賀野菜月も素通りした位なので、アカシックレコードには関係ないような気配だが。
「ヴェールヌイが大幅に出遅れた事、それも関係しているような―」
花江提督同様の重装備ガジェットを使用している花澤提督は、今の人混みとヴェールヌイが大きく出遅れた理由に関連があると考えていた。
しかし、今はそちらよりもパルクール・サバイバーに集中すべきと結論を出し、こちらも立ち止まる事はせずに先へと進んだ。
他の選手が立ち去った頃、グレーの提督服を着た大塚提督が周囲を見回していた。人混みが激しかったのは、別の人物がARファイティングと言う2.5次元格闘技を行っていた為である。
「先ほどの別システムによるアクセスだが、外部から行われた可能性があるようだ。今はコースより大分離れた場所でARファイティングが行われているが―」
『そちらの方は特に関係ないだろう。ヴェールヌイとレーヴァテインの交戦記録を確認したが、これは向こうの運営に問合わせ中。しかし、現状ではノーコメントとしている』
「そうか……どちらにしても、超有名アイドルとの関係も疑われるだろう」
『しかし、向こうも総支配人、イリーガル秋元を含めて関係者はほぼ逮捕されている。残るは解明されていない情報を持っているとされる総理大臣だが』
「向こうは、こちらでは手が出せない。警察か第3者機関に任せるしか方法はないだろう」
『今回の妨害工作はパルクール・サバイバーと企業が手を組む事に反対している勢力の―』
「どうした? 通信にノイズが入り始めているが、そちらの方はどうなっている!?」
大塚提督と会話をしていたのは、テントにいる男性提督。中村提督は太田さんの解説に回っており、大塚提督とパイプを持っている人物は出払っている状況だ。
通信が途絶えた後、周囲を改めて見回すと、大塚提督を取り囲むコンテンツガーディアンのスーツを着た人物が複数人いる。更には、指揮官と思われる人物は赤い改造提督服を着ている男性―。一体、何が目的なのか?
大塚提督を取り囲んでいるコンテンツガーディアン、それを振り払う事が先決と考えた大塚提督は、中村提督やランスロット等が使用したのと同じ手段でファイティングフィールドを展開しようとする。
【システムエラー】
「何だと!? まさか、さっきのノイズは―」
大塚提督がシステムを起動しようと考えたのだが、エラー表示の為にフィールドを展開できない。これではガジェットを使用してのバトルは不可能だ。
「その通り。大塚提督……貴様はアカシックレコードについて知り過ぎた。パワーバランスを崩してしまうような人物の存在を我々が許すと思うのか?」
「貴様―コンテンツガーディアンではないな。何者だ!?」
大塚提督は彼の喋り方に特徴があるのを知っている訳ではないが、コンテンツガーディアンとは全く違う空気を持っている事を感じ取っていた。
「私は故あって名前は明かせないが、阿賀野菜月と中村提督が血眼で捜している人物と言えば―察しがつくだろう」
「そう言う事か。用件は聞かなくても分かるが、どういった理由だ?」
「パワーバランスだと言ったはずだ。超有名アイドルと別の勢力がお互いにぶつかりあい、それをネットで煽って炎上させる、更にはグッズの収益は何割かが税金としてこちらに来る。しかし、超有名アイドルばかりが強くても―一部の投資ファンだけしか税金を支払わないのと同じだ」
「超有名アイドルファンだけが生き残るような格差社会にするのは、政府としても都合が悪かったという事か」
「そうした状況が原因で起きた事件、それがAI事件だ。あの事件が起きてからは超有名アイドル商法に対する風当たりも悪化した。その辺りはアカシックレコードで見覚えがあるからご存知だろうな」
大塚提督と自分を総理大臣と言う人物の会話が続く。その中で、コンテンツガーディアンの方は全く動かない。彼らの会話を邪魔したくないのか、それとも証拠を押さえる為に録音をしているのか?
1分後、総理大臣と思わしき人物はガーディアンの一人に銃口を向ける。彼が持っているのはガジェットではなく―。
「今の発言をネットで拡散する気か? そうはさせない。超有名アイドルファンと言う都合のいい収入源を失う訳には、日本政府としても認める訳にはいかないのでな」
そして、銃口を向けられたガーディアンの一人は、今にも撃たれるというような流れにも関わらず、全く動くような気配はない。
「どちらが愚かなのか―」
銃口を向けられている中、彼は一言。そして、指を鳴らすと同時に周囲のガーディアンは一瞬にして姿を消した。これはどういう事か?
「アバターシステム? あのシステムはアカシックレコードでも再現が難しいというはずなのに」
「その思いこみが慢心を生み出し、全てを失う。これで、あなたの総理大臣としての役目も終わる―」
周囲のガーディアンと思われていた人物、それはARを応用したアバター投影のシステムを利用した物だった。
そして、ガーディアンと思われていた人物もオーバーボディだったらしく、そこから正体を現した人物は大塚提督もよく知る人物だったのである。
「武内提督? これは、どういう事だ」
大塚提督は驚く以外出来なかった。武内提督は超有名アイドル勢力に関しての情報を集める為に色々な場所へと潜り込ませていた―スパイに該当する人物でもある。
「全ては、ある人物の指示です。彼女の的確な指示がなければ、総理大臣をここへ誘導する事も不可能だったでしょう」
そして、武内提督は大塚提督に全ての種明かしを行い、総理大臣はガーディアンの方へ引き渡そうとする。
更に1分後、総理大臣はその場で謝罪を行う。しかし、その声を武内提督が聞いているとは思えない。
「その場で謝罪したとしても、それで許されるような物があるとは思えません。違法ガジェットの正体も、元々はARガジェットを違法に解析して作り出した物―」
武内提督の一言は、周囲で話を聞いていた人物も動揺するような物だ。違法ガジェットの正体、それが違法に解析されていた物だと知ったら―。
【違法ガジェットは、本当に違法だったのか?】
【下手をすれば、コンテンツガーディアンに捕まるのでは?】
【そうなると、ランニングガジェットの正体は―】
【それ以上事態を混乱させれば、フジョシ等がネット炎上のネタに―】
【このままではAI事件の二の舞か?】
時は既に遅く、大塚提督や武内提督の懸念していた事は現実になろうとしていた。
ランニングガジェットの件がネット上で拡散し始めている頃、不安なネット住民に対し、ある人物が取った行動は―。
「今は、サバイバーに集中すべきだ。違法ガジェットや超有名アイドル商法は完全に二の次……この会場でサバイバーを楽しんでいるファンやユーザーにも失礼のはずだ」
声を上げたのは蒼空かなでだった。彼はきっかけがどうであれ、今はパルクール・サバイバーを楽しんでいる。だからこそ、ランカー王決定戦の時間が楽しいと感じている。
「この時だけでも、ランカー王を楽しみにしているユーザーの為にも、ネットの反応は二の次に楽しむのが一番じゃないか!?」
蒼空の声を聞いて、同意をする人物は多い。武内提督も賛同し、更にはレースに参加している花澤提督、花江提督、実況席へと移動した中村提督も―。




