第24話:ランカー王決定戦―ラウンド12―
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2015年5月9日午後10時55分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
誤植修正:強制切断される・→強制切断される。
決戦当日、5月28日午前10時27分、蒼空かなでから遅れる形で神城ユウマ、島風、秋月彩が柳之宮橋チェックポイントを通過する。
その1分後である午前10時28分には小野伯爵のランニングガジェット、夕立も通過、その他の選手も10時30分前には全員が通過したのだが―。
『ほとんどの選手が通過する中、柳之宮橋を通過していないのはヴェールヌイ選手のみです』
実況の太田さんの手元にはチェックポイントを通過した選手のデータが届くのだが、手元に来ていないのはヴェールヌイだけである。
同日午前10時25分、花江提督と衣笠が柳之宮橋に到着した頃、ヴェールヌイは上条静菜とバトルロイヤルで対戦を行っていた。
ラウンド1は上条に軍配が上がったが―ラウンド2はヴェールヌイが優勢と言う気配になっている。
「上条、AI事件の真相を知っているお前がパルクール・サバイバーの目的を―」
『AI事件が全ての始まりではない事は知っている! あのケースは超有名アイドルの宣伝に利用された事くらいは―』
お互いに譲れない物がある事に加え、ヴェールヌイはここで足止めをされる訳にはいかない。連装砲やビームライフル等で応戦をするものの、レーヴァテインの武装に歯が立たないのが現状である。
『次期バージョンの武装を使っているようだが、それはロケテスト中の試作品にすぎない。出力が不安定な事を把握していないと思ったか?』
上条はレールガンを使わず、ハンドガンや有線式シールドビット等を駆使してヴェールヌイの装甲に確実なダメージを与える。次期バージョンでは装甲面がバージョンアップされているとはいえ―。
「こちらもレーヴァテインのスペックを未把握だと思っているのか? その機体がスレイプニール及びスレイプニールⅡのシステムを流用している事も分かっている」
ヴェールヌイの方もレーヴァテインのスペックを調査済で、それを参考にしてガジェットの能力を上昇させている個所がある。
次期ガジェットが不安定である事はサバイバー運営も把握していた為、ヴェールヌイには現状で判明している不具合を修正、出来る限りのシステム補強も行っていた。
1分後の午前10時26分、決着の方は思わぬ形で妨害される結果となった。システム競合に関する箇所がハイスピードで修正され、レーヴァテインを違法プレイヤーとして認識、システムは強制切断される。
『勝負の方は預ける! 超有名アイドルの利益至上主義が暴走した原因、それはたった一人のプロデューサー、イリーガル秋元による物だ。彼の存在は、コンテンツ業界にとって歪んだ存在―』
他にも何か言っているような気配だったが、ヴェールヌイの方には何も聞こえなかった。情報統制と言う訳ではなく、システム切断の影響による物だろう。
「上条静菜―結局、彼女もネット炎上勢に加担していたという事なのか。あるいは、自分が逆にネット炎上勢へネタを提供していたのか―」
ヴェールヌイもレースへと復帰し、柳之宮橋へと急ぐ。
ヴェールヌイが柳之宮橋へ到着したのは午前10時31分、これによって全21名がチェックポイントを通過した事になる。
『先ほどヴェールヌイ選手がチェックポイントを通過、これによって中間地点での順位が確定しました……』
実況の太田さんによって読み上げられた順位は、周囲に衝撃を与える程の物だった。トップの人物、それは花江提督と衣笠ではなかったのだ。
『トップ通過に関してですが、何と阿賀野菜月です。午前10時24分の地点でチェックポイントの通過が確認されています』
どういうコースをたどって阿賀野がチェックポイントを通過したのかは分からないが、ネット上では―。
【もしかして、橋を渡ってから川沿いに進んでいたのはもう一人いたのか?】
【衣笠も似たようなコースをたどっていたが、あのコースを先に見つけたのは阿賀野だったと言うのか?】
【ブーストを発動すれば、1分足らずであの橋から一気に柳之宮橋へ行ける可能性もあるが―】
諸説あるが、有力なのは衣笠がたどったコースを阿賀野が先に見つけた事、それが一番信用性のあるソースらしい。実際、その近くで阿賀野の目撃証言がある。
「ステルス迷彩の使用はランカー王でも禁止されている。それによって違法ガジェットの使用を隠す的な意味でも―」
小野伯爵は阿賀野がトップ通過した事に大きく驚く事はなかった。他の選手も同じように驚いた様子はない。まるで、パルクール・サバイバーでよくある事と言うような展開だ。
同刻、既に吉町五の信号に到達しているメンバーがいる。トップの阿賀野菜月、二位の衣笠である。花江提督はコンビニ近辺で速度を落とし、様子を見ている。
「仮にもプロのパルクールプレイヤーが、サバイバー潰しにやってきたか?」
忍者を思わせるような青をベースにしたカラーリングのガジェット、大型パーツは分離して別のエリアに放置している状態らしい。阿賀野がスタート時に装備していたガジェットが、それのようだが…。
「パルクールにプロもアマチュアも関係ない。音楽業界がネット発の勢力も出てきたのと同じように―」
衣笠の方も、阿賀野について行くのだが―その動きはパルクールで見られるような動きだけではなく、忍者を思わせる個所も存在する。
建物と建物をジャンプして飛び移る、家の屋根に飛び乗る事も朝飯前という流れ。しかも、コース通りに進んでおらず、一部個所でループをしているようにも見えるのだが―。
「確かにネット発の歌い手やボカロPの躍進もあるだろう。しかし、未だに超有名アイドルが一部のFX投資の如くCDを購入する勢力が後を絶たない」
「FX投資と言うのは、超有名アイドルを絶対悪と決め付けたいが為に蛇足として加えているだけじゃないのか? ネット上では、最低でもタニマチと言う表現はするが、FX投資とまではいかない」
阿賀野のFX投資発言には、さすがのかじった程度の知識しかない衣笠も全力で否定する。FXで有り金を溶かすというのはネット上でも言われるが、それを超有名アイドル商法やCDの購入に例えるのは、さすがに無理があると考えた。
しかも、阿賀野と衣笠は一部のエリアをループしながら討論を続けているのだ。さすがに谷塚の方へ向かおうとすると場外の警告を受け、即座に戻るように指示される。その為、二人はコース内の建造物を階段と例えるかのように飛び移って行く。
この光景には、他の観客も心配をするのだが、これはあくまでもパルクール・サバイバーだ。アクション映画やバラエティー番組の撮影でも事故が起こる可能性は存在する。それを踏まえればパルクール・サバイバーが非常に危険だと言うのが分かるのだが―。
「しかし、FX投資にはリスクが存在する。超有名アイドル商法は、FX投資からリスクを排除した賢者の石を連想するような錬金術―と言ったら、どうする?」
阿賀野の方は本気に近い物があった。彼女が超有名アイドル商法に向けている物、それはファンタジー物で言う魔王の立ち位置に近い。
「賢者の石? そんな投資方法があれば、だれもが独占するだろう。迷惑メールのうたい文句の様に拡散されるはずがない」
衣笠の方も阿賀野の理論に関しては矛盾があると反論はするが、これ以上のループは他の選手に1位を与えてしまう。そう考えた衣笠は、途中でコースを修正し始める。
午前10時33分、阿賀野と衣笠がループを繰り返している内に花江提督が動き出す。既に遅れていたと思われていた秋月彩、神城ユウマ、島風、小野伯爵の姿も確認できたからだ。
「蒼空かなでがいない―?」
何かの疑問を思った花江提督はマップを表示させ、蒼空かなでのマーカーを探す。そして、花江提督が発見した頃には蒼空は2周目に突入していたのだ。
「先を越されたと言うのか? 一体、どうやって相手を欺いたのか……」
神城ユウマも蒼空が2周目に突入した事を把握し、ブーストを展開しようと考える。しかし、パルクール・サバイバーはスピードレースではない。それは今までのレースを経験して分かっている事だ。
「箱根や出雲とは違う。それに、この道を決めたのは自分自身だ」
そして、神城は切り札とも言えるホバーバイクを途中のピットエリアに置き、そこでは別のコンテナに収納されたハイスピードタイプのバックパックを装着する。
『何と、このタイミングで神城ユウマはガジェットの変更です。今回はガジェットの持ち込みも制限なしにルールが変更され、違法ガジェットでなければ使用も許可されています』
太田さんの方にも書類が届き、そこにはガジェットの持ち込み制限がなしに変更された事が書かれている。どうやら、前の資料で実況をしていたようだ。これは太田さんの悪い癖でもある。
『レース前半の一部実況で、ガジェットの制限がかけられているという趣旨の実況がありましたが、ルール変更でなしになっていたのを確認し忘れたこちらのミスのようです。ご迷惑をかけて申し訳ありません』
まさか、レース中に自身の実況に関して謝罪を行う実況者が過去にいただろうか? 試合後に訂正を行うケースはあるのだが、こうしたケースは例がない。




