第24話:ランカー王決定戦―ラウンド11―
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2015年5月9日午後10時51分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
決戦当日、5月28日午前10時23分、稲荷三丁目信号付近で神城ユウマとヴェールヌイの前に姿を見せたのは、レーヴァテインこと上条静菜だった。
『神城ユウマ、私の目的を邪魔するのか?』
「目的? それはどういう事だ?」
神城も上条の言う目的と聞いて、少し戸惑いを見せる。そして、それに若干気付いていたのはヴェールヌイだった。
「狙いは闇のアカシックレコードの執筆者、阿賀野菜月か?」
『目的が分かっていながら、何故邪魔をする?』
上条の方も冷静なのだが、時々の口調で熱が入っているようにも思える。
「パルクール・サバイバーは個人の復讐をする為の舞台ではない! それは一人だけの戦争をしているのと同じ事だ」
『それをどの口が言う? お前も超有名アイドル商法に対して不信感を抱き、その為のステージを用意した。それがパルクール・サバイバーだった――違うとは言わせないぞ』
「私も、サバイバーを最初に立ち上げた時はそうだった。そして、数人の提督が離脱し、そこで自分の過ちに気付いた」
『今更土下座をしたとしても、もう遅い!』
レーヴァテインは両肩のホーミングレーザーを放ち、それはヴェールヌイだけではなく神城の方にも飛んでくる。
「パルクール・サバイバーでの戦闘行為は禁止されているのでは?」
神城の意見ももっともだが、意図的な妨害行為ではない範囲であれば相手への攻撃は認められている。しかも、相手はサバイバーの選手ではない。サバイバーのルールで対処するには限界がある。
「神城、お前は先に進め。おそらく、彼女には会話による説得は無意味だろう」
「しかし、それではレースが―」
「私と上条との対決はレースではない……」
【ARバトルロイヤル――モードスタンバイ】
そして、次の瞬間にヴェールヌイのガジェットは、ランニングガジェットの物とは別のデザインへと変化する。どうやら、オーバーボディの原理で偽装をしていたらしい。
「このコースは他の選手も使っていない。つまり――そう言う事だ」
ヴェールヌイは神城にレースに戻るように指示、それに従うように神城はコース通りの直線を進み始めた。
ほぼ同時刻、橋を渡った後に川沿いの道をたどる者もいれば、それとは別のコースを選ぶ者もいた。コース取りに関してはレース前に小松提督も自由と言っており、最短ルートを選ぶのも戦略である。
コース取りによってはスコアを取れるような場所が少ないという問題点もある。要するに、アクションやテクニックでスコアを稼ぐ方法、最短距離を走ってレース順位1位を取ると言う選択肢の2種類。
しかし、アクションに定番のある夕立やパルクール本職からの参戦である衣笠もいる為、アクションなしでレース順位だけで逃げ切るのは難しい。両方が上手くバランスよく出来る事が、レースに勝つ為の道なのだ。
「川沿いコースをたどるのは、自分と目の前の衣笠だけか」
一時はガジェットを分離していた花江提督だが、再びスレイプニールⅡを合体させて元に戻す。花江提督が川沿いコースに気付いたのは、衣笠が迷いなく橋を渡った直後にコースを変更した事による。
「他のメンバーは稲荷三丁目の直線コースへ出るような形で進んでいる。しかし、それではライバルと衝突する可能性があるかもしれない」
花江提督はライバルが少ない現状のコースを維持し、衣笠の背後を尾行するような形で追跡する事になった。スコアを少し犠牲にするコース取りだが、1周目の記録次第で挽回は可能だ。
一方の衣笠は柳之宮橋を目指して走り続ける。ランニングガジェット込みでもハイスピードが出せる訳ではなく、マラソンランナーに少し加速がついた程度のレベルだ。
他の選手もパワー配分を考え、最初からフルスピードと言うペース配分はしない。太陽光パネルで太陽光を吸収できたとしても、それを変換するのには時間がかかる為、ハイスピードを連続で行うと自滅してしまう。
「どちらにしても、このコースを使えばアクションは期待できない。柳之宮橋に到着してからがチャンスか」
軽装ガジェットのみでホバーなどを使わずに走り続ける衣笠は、一瞬だが花江提督の方を振り向いた。しかし、そこで加速をすると思ったら様子見ムードと言う事で速度を上げる気配はない。
「直線コースのメンバーが混戦となっている今がタイムを稼ぐチャンスと言うべきか」
衣笠も花江提督も考えは同じらしく、この順位が変動する事はなかった。
同刻、実況の太田さんの元に情報が入ってくる。どうやら、いくつかのグループに分割されたようだ。
『レースとしてのトップは調査中ですが、複数のグループで分かれた模様です―スコア部門でトップなのは蒼空かなで選手で間違いないようですが、順位としては後方になっているという未確認情報も』
スコアトップが蒼空かなでと聞くと、周囲が沸きだす。西新井をはじめとしたパブリックビューイングも同じ位に沸いている為、彼への期待は大きいと言うべきか。
『グループで一番少ないのは、衣笠と花江提督のようです。どうやら川沿いの道路をたどっているようです。次に少ないのは神城ユウマ、島風、秋月彩の直線コース組、それ以外は複雑なコースを進んでいる為か追跡できません』
別モニターで表示された現在の順位を示すマップでは、一部メンバーを示すと思われるマーカーが表示されていない。一時的な起動停止の場合は点滅をするはずだが。
『それとは別の情報ですが、ヴェールヌイ選手がARバトルロイヤルフィールドを展開している模様です。バトルロイヤル運営はデュエル許可を出しており、その相手も公式サイトで公開されて―!?』
バトルロイヤルの公式サイトをチェックしていた太田さんも、素の対戦相手を見て思わず二度見。それもそのはず、その相手は上条静菜だったからだ。
『どういう事でしょうか? ヴェールヌイ選手の対戦相手は上条静菜―レーヴァテインです。まさか、一連の違法ガジェット事件の襲撃犯とも言える人物が、まさかの登場です』
違法ガジェットの取引相手ばかりをピンポイントで狙撃する事件はネット上でも話題だったが、その狙撃犯こそがレーヴァテインこと上条である。
【上条とヴェールヌイが戦っているのか?】
【ヴェールヌイもバトルロイヤルでは上級者。これはどうなるか分からない】
【しかし、ヴェールヌイはパルクール・サバイバーの方を放棄する気か?】
【今回の場合は不慮の事故と言う扱いになるらしい。本来は、パルクール・サバイバー中に他ゲームの乱入は不可能というシステムになっているはずだからな】
【ARシステム同士が競合して、意図しない挙動や不具合が起こるという報告もある。それを踏まえると、今回のケースはなぜ起こったのか?】
ネット上では今回の様なシステムの競合はあり得ない事だと言う。しかし、何故起こったのかと言われると謎も多く、それを解明するには再現実験を含めて様々な情報が足りないのである。
ほぼ同刻、柳之宮の信号を通過していたのは神城、秋月彩、そして、島風と言う中堅ランカーの3人である。走ると言うよりは、神城はホバー移動、島風と秋月はブーツガジェットを使った移動だが。
「まさか、秋月達のグループに遭遇するとは―」
神城の方は想定外とも言うべきグループにぶつかった事を想定外と考えていた。秋月と島風は最初の分岐で右へ向かったメンバーだが、途中から建造物の屋上をジャンプして飛び移ると言う忍者のような芸当を見せた。
「あなたは、それがアクロバットと同じ―と言いたいのね? しかし、それが本来のパルクールよ」
「しかし、その装備は明らかに軽装ガジェット。背中のバーニアやブーツガジェットは純正装備ですが、メットなしはあからさまなレギュレーション違反では―」
金髪にサングラス、軽装ガジェット―それが島風のランニングガジェットだ。サングラスはバイザーの代用品であり、特殊なバリアが展開された試作型メットでもある。
「本来のパルクール? あれはアクロバットと判定されるのでは?」
神城は雑誌等で見かけたようなスポーツがパルクールと思っていた。それに加えて、島風と秋月が披露していたアクションは夕立が行った事で規制されたアクロバットにも酷似する。
「あの程度でアクロバット判定されたら、サバイバーとしては成立しない。北千住決戦で蒼空かなでが見せたアクション―あれもパルクールの一種よ」、
島風の発言に補足を加えるような流れで秋月が発言をする。しかし、神城は納得をしていない。
「フリーランニングとしての側面―そう言う事ね」
何かを把握した島風はブーツガジェットに背中のウイングを分離したような羽を取りつけ、更に高速移動を行う。
花江提督と衣笠が柳之宮橋の信号に到着したのは午前10時25分、通過したメンバーは現時点では2名だけだったのか分からずにいた。
「通過メンバー検索――どうやら、自分達が先頭グループらしい」
花江提督が後続メンバーの状況を検索するが、ここを通過したのは花江提督と衣笠だけらしい。
「やられた。スコアでは、既に蒼空かなでが大きく引き離しにかかっている。おそらく、エリアオーバーしない範囲で迂回ルートを取って距離を稼ぐか―」
衣笠は途中結果としてのスコアを確認し、そこで蒼空が他のメンバーを突き放している現実に驚いていた。
「スコアは走行距離やアクロバットアクション等も影響する。違法ガジェットや建造物破壊、コースオーバーなどの減点も―」
そして、花江提督はスコアがつき放されてもチャンスはあると言わんばかりに先へ進む。
花江提督と衣笠に1分遅れる形で柳之宮橋に到着したのは、蒼空かなでのランニングガジェットである。その装備は花江提督を越えるような重装備と言う訳ではないが、いくつかのオプション武装も装備済だ。
「見失った? 何処に向かったのか―」
蒼空が探しているのは、阿賀野菜月である。しかし、阿賀野を探しているのは蒼空だけではなく、上条も探している。
「とにかく、先頭集団に追い付けばヒントがあるのかもしれない―」
もたついていると再び見失う可能性がある為か、蒼空は花江提督と衣笠を追いかける事にした。




