第24話:ランカー王決定戦―ラウンド10―
・午前12時2分付
誤植修正:正体に木を使う→正体に気をつかう
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2015年5月9日午後10時48分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
決戦当日、5月28日午前10時21分、遂に合計21名に絞られ、たった一つしかないランカー王の称号を賭けてのレースが始まった。
『遂に始まりました、ランカー王決定戦。実況は太田でお送りします』
相変わらずのノリで喋る太田さん、それに対して解説担当の人物がいない。提督勢の誰かに出てもらおうと考えたのだが―。
『解説にどなたか呼ぶ事が出来ればよいのですが―』
しかし、太田さんは謎の人物。有名な某ランドのキャラクターと同じくらいに正体に気をつかう人物でもある。格闘技番組では顔見せをしているのだが、本業が声優であるという事も影響しているのだろう。
「こちらは設営テントからでも解説に参加しても構わないが」
設営テントに姿を見せたのは、中村提督だった。本来の設営はガレスか大塚提督のどちらかがいるはずだが、両者とも不在である。
『これは凄い事になりました。解説には提督勢の中村提督が急きょ参戦しました』
「本来であれば、自分もレースに出るはずだったが松岡提督が出ない以上、こちらとしては決着が持ち越された事が―」
『その話は別の機会にしましょう。まずは、レースの大まかなルールを説明してもらわないと』
中村提督がレースに出ない理由を言おうとした所で太田さんはストップをかけ、ルール説明の方を求める。
「レースのルールはホームページを見れば済む話だ。今更になって説明する物ではない」
『実はですね―会場変更で微妙な変更が行われているので、ホームページでも一部が直し切れていないのです。その部分も小松提督は謝罪した訳ですが』
まさかの発言に中村提督は驚く。一部の提督には情報が伝わっていない可能性もあるのかもしれない。
そして、中村提督から改めてルールの説明があった。ランカー王決定戦で従来のサバイバーと異なるのは2点ある。
ひとつはレース部門で1位を取ったとしても、スコア部門で1位を取ればレース順位によっては逆転可能である事。
もうひとつは建造物破壊に関してNGである事は変わらないが、破壊した建造物によってはスコアペナルティが入る変更がされている。
「スコアペナルティは厳しいが、西新井の場合は足立区の全面バックアップがあってある程度はフォローされていた」
「しかし、今回は草加市の協力があるとはいえ、サバイバーのコースも一部工事中という状況下で行っている。簡単に言えば、ロケテストの仕様で実際のレースをしているのと同じだ」
「橋や道路がガジェットの重量で崩壊する事はないのか?」
「それは問題ないだろう。ランニングガジェット自体が―」
色々と懸念されている事もあるようだが、その辺りは心配がないらしい。
最初の橋を通過していく選手達、橋の方は崩れる事はないようだ。このレベルで崩れるようであれば、大型トラックが通る筈がない。
10メートルクラスになるような大型ガジェットが参戦していないというのもあるが―。スレイプニールも10メートルクラスではない為、何とか通過できるレベルだ。
「橋は問題なく通過できた。これには、どのようなトリックがあるのか?」
「トリックはないだろう。ランニングガジェットで使用されている装甲は、太陽光パネルを兼ねているのは知っているだろう?」
「それは知っているが、有名企業があっさりと技術を提供するかと言われると疑問が残る」
「そう言った不可能を可能にしているのがサバイバー運営だ。どう考えても現実にそぐわないような技術でも、彼らにとっては宝の山に見える」
企業的には使えない技術や売れるとは考えられないような物でも、自分達に価値のある技術であればサバイバー運営は手に入れようとするだろう。
ランニングガジェットの技術も、元々はレスキュー活動で使用される予定だったパワードスーツがベースであるという説はネット上でも有名。
それを踏まえると、太陽光パネルの技術ものどから手が出る程に欲しかった可能性は否定できない。
【太陽光パネルを提供した企業としては、パネルの有用性をアピール出来る。サバイバー運営としては、エネルギーのシステムを解消出来た。お互いに利益のある話だと思う】
【結局、サバイバー運営が得てきた技術の中でスポンサーなしの技術は、ランニングガジェットのデザイン、特殊動力システムだけか】
【特殊動力システムも、サバイバー運営が開発したかどうかも怪しい所だろう。誰がどのような経緯で入手したかは、重要ではない】
【ここで重要なのは―サバイバー運営が得たガジェット技術が、ARゲームにも新しい可能性を生み出す事だ】
【しかし、この技術が軍事転用されれば、それはありとあらゆる大量破壊兵器よりも超越する存在―トータルバランスは手にした途端に変わるだろう】
橋の次に関門となったのは、南後谷の信号。この先は二手に分かれており、どちらを通るかでショートカットの難易度も変わるだろう。
「電柱への激突は―出来る限り避けた方がいいか」
周囲のコースを探索していたのは花江提督である。スレイプニールでは電柱がないコースに関しては有利な一方、電線や歩道橋等を通り抜けるのが一苦労という状況だ。
「逆に軽装組の秋月、神城の2名は細かいショートカットが可能だろう。それに加えて、重装備ガジェットでもパージと言う手段がある」
花江提督が懸念しているのは、軽装ガジェットのメンバーが周囲の建物を利用したショートカットを使用する事、重装備組でもガジェットのパージ等によって装備を軽くすれば細い道にも対応できる。
「仕方がない。ここは、直線距離を―?」
考えている隙に、1体の軽装ガジェットがスレイプニールを横切る。もはや、猶予は残されていない。
「レースで1位になったとしても、スコアによっては逆転可能だったな。スコアの減少は建造物の破壊で発生、後は反則判定―」
花江提督が取った行動、それはスレイプニールを変形、分離させてのコース突破だった。両腕と両足が分離したのと同時に胴体部分が変形、両足と合体してホバーボードに変化する。
『これが花江提督の切り札でしょうか? スレイプニールⅡが分離したと思ったら、まさかのサポート機とメイン機へ分離をしました』
実況の太田さんでも分からない部分が存在する。花江提督のスレイプニールⅡも前期型となるスレイプニールまでなら変形機能は存在していない為、電線に引っ掛かってタイムロスは避けられないだろう。
先頭グループは何とヴェールヌイ。こちらは等身大サイズと言う事もあり、電線を気にする事はない。ただし、飛行する場合は回避しながら進む事になるだろうが、このコースは飛行禁止である。
「こちらのスピードに付いてこられるとは―」
マラソンランナーよりは早い速度で走っているヴェールヌイ。それに付いてこられる神城ユウマにも驚く。しかし、先頭グループが自分を含めて5名しかいないのはおかしい事に気付く。
「半数以上が別のコースをたどってショートカット狙いと言う事か」
ヴェールヌイがバイザーにマップを表示しようとするが、マップに映し出されているポインターは先頭グループに位置している5つ分しかない。
「冗談きついぞ。ジャミングの類はルール上では反則のはず」
「まさか、ヴェールヌイの機能なの?」
「もしかして、ヴェールヌイの正体って―」
スタンダードガジェット2体、ヘビーガジェット1体が何かの閃光を受けたかのように機能を停止する。しかし、今回は耐久が0にならない限りは再開可能だ。
「スタンショットか―。一体、誰が?」
ヴェールヌイの目の前、稲荷三丁目信号の奥、通行止めのフィールド発生装置が展開されているギリギリの位置、そこにはガジェットの姿も感じられない。
「ステルス迷彩? だとすれば―」
神城はホバーバイクのモードチェンジを行い、重装甲パワードスーツを装着する。本来であれば、これは1周目の地点で使うべき物ではなかった。
そして、バックパックのハイスペックレールガンで狙いを定め、フィールド発生装置に向かって引き金を引いた。
「そんな事をすれば、障害物は会で反則を―」
ヴェールヌイが止めようとするが、既に引き金は引かれた後。レールガンから放たれたビーム弾丸は、フィールド直前の何もない空間で何かがヒットしたようなヒットエフェクトが発生する。
「やはり、そう言う事か。この期に及んで妨害とは、何を考えて……」
ヒットエフェクトが出た後、姿を見せたのはランニングガジェットではなく、何と違法ガジェット襲撃で目撃されていたロボット、レーヴァテインだったのである。
『神城ユウマ、私の目的を邪魔するのか?』
何故、上条静菜が自分の名前を呼んだのか。それは神城自身には分からなかった。ネット上で調べた程度ならば、箱根の山の神等の呼び方もあるはずなのに。




