第24話:ランカー王決定戦―ラウンド9―
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2015年5月9日午後10時43分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
決戦当日、5月28日午前10時、草加市でレースの熱狂ぶりがネット上でも伝えられる中、報道番組ではこのようなニュースが流れていた。
『先ほど国会へ入る警察官の姿が目撃されました。おそらく、一連の不祥事で何らかの動きがあった模様です』
朝のニュース関連で警察が遂に国会議事堂へ足を踏み入れたのである。強制捜査の類ではないが、おそらくは任意での事情聴取等と思われる。
このニュースに関しては報道番組1番組でしか報道されていない為、他は全て様子見と思われる。特に超有名アイドルが出演している番組を多く抱えているテレビ局は、状況によってはネット上で炎上する事が避けられないからだ。
『次のニュースです。同じバラエティー番組でやらせが発覚しました―』
一連の不祥事が何かを伝える前に警察の入って行く姿の映像は終了し、次のニュースを淡々と伝える。
【この番組がやらせで謝罪するのは何度目だったか】
【最終的に、このバラエティー番組は打ち切りになりそうだな】
【いっそのこと、フィクションバラエティーを放送するのであれば、アニメや特撮を放送した方が良いと考える動きがある】
【視聴率ありきの番組作りは終焉を迎えたと判断すべきだ】
【実況者の番組をテレビのレギュラーにすればいい】
【そこまで単純ではないだろう。その考えは下手をすれば超有名アイドルと一緒だ】
【どれが一緒?】
【有名実況者をテレビに出すという事だ。失敗すれば切り捨てを行い、結局は超有名アイドルの番組にするつもりだろう】
【そういう状況が目に見えている以上、動画サイトで有名な歌い手や踊り手を起用する番組は火に油を注ぐだけだ】
【そうなってくると、結局は格闘技やスポーツの中継、トーク番組辺りに落ち着きそうな気配が―】
【昔のバラエティー番組は、それだけテンプレを確立させるのに大変だったという事だ。ヒットの法則が出来れば、それになぞるだけでいい―そう考えるテレビ局が増えたことで、視聴率至上主義が誕生したと言ってもいいだろう】
【やらせや意図的な演出を組み込むようなドキュメント番組やバラエティー番組が増える位ならば、元々フィクションを前面に押し出した特撮やアニメ、映画等を放送すればいい。そして、報道とスポーツを専門チャンネル化すれば完了する】
最初に報道されたニュースよりも、2番目に報道されたバラエティー番組のやらせ報道が盛り上がる位には、つぶやきサイト上は平和なのかもしれない。
同日午前10時10分、バラエティー番組のやらせに関してはサバイバー運営にも飛び火しようとしていた。
【パルクールを国際スポーツ大会の公式種目にしようという流れもあった。企業も動きを見せているのを見ると、もしかして―】
【サバイバー運営は利益を得たいが為にパルクール・サバイバーを行っている訳ではない】
【しかし、スポンサー収益だけでサバイバーの大型施設等を支えられるかどうかは未知数だ。こうした金の行方を透明化する方が先ではないのか?】
つぶやきの意見も賛否両論であり、サバイバー運営がパルクールを国際スポーツ大会等で公式種目にする為に宣伝していると考える書き込みまで出てきた。
「おそらく、小松提督が懸念していたのは、この事か―」
会社のデスクで一連のかきこみやつぶやきまとめをパソコンから見ていたのは、現在は仕事中のヒデヨシだった。
「チート勢力として動いていた頃には、このような事になるとは予想していなかったが―」
理想と現実は違うと考えていても、このまま超有名アイドルが再び無限の利益を得る為の賢者の石を手にさせる訳にはいかない。それを踏まえ、ヒデヨシはある提督に連絡を取る事にした。
「花澤提督、私だ。オーディンだ―」
『オーディン? 今、何処にいるの?』
「それには答えられない。しかし、有力な情報ならば提供をする事が出来る」
『情報? それって、どういう事?』
花澤提督もオーディンと聞いて慌てているようだ。そして、有力な情報に関して花澤提督は尋ねる。
「総理大臣の居場所―と言いたい所だが、そちらは警察に任せるとして、こちらが提供するのは一連のアカシックレコードには存在しなかったイレギュラーについてだ」
同日午前10時15分、特殊な連装砲を思わせるガジェットを装備した遠藤提督の出現、それは選手だけではなく観客も驚いていた。レースの中止と考えていた人物もいる位に。
しかし、彼女が発表したのはパルクール・サバイバー運営の買収が回避された事である。そして、サバイバーは今まで通りにある程度のガイドラインが存在しつつも、それを守る限りは自由である事も発表した。
『どうやら、間に合ったようだな―』
遠藤提督も驚くような突然の乱入者、それはガレス提督ことヴェールヌイだったのだ。周囲も彼女の出現には驚くのだが、これを想定内と思っている人物もいる。
「冗談がキツイ」
「伝説のランカー相手じゃ、松岡提督不在でも勝てる見込みがあるかどうか―」
「加賀が棄権したというのも納得の展開か?」
周囲の飛び入りを考えていた選手も、この状況ではさすがに出てこられないだろう。飛び入りに関しては運営が認めたケースでのみ歓迎されるが、それ以外では許可されていないのが現状だ。
同刻、花澤提督はオーディンと名乗る人物から得た情報を元にアカシックレコードのイレギュラーをランニングガジェットに乗っている状態で確認する。
実は花澤提督もランカー王に勝ち残っており、真後ろにはヴェールヌイのガジェットをチェックする為のスタッフが配置されていた。
「そう言う事ね。しかし、声は確かにオーディンと同じだけど、あの人物は全く違う人物かもしれない。あるいはボイスチェンジャーか―単純に声優が同じなのか」
花澤提督は色々と腑に落ちない部分はあるが、ヒデヨシから提供された情報を解析する。ヒデヨシだと言う事は通信の最後でネタばらしが行われた。
『ここで言うイレギュラーは、超有名アイドルやBL勢の様な物とは違う。向こうは既に警察やコンテンツガーディアンに一任している』
『それよりも問題があるのは武内提督と赤羽根提督、それに加えてサバイバー運営には新人として参戦している一部提督だ』
『上条静菜とAI事件はすでに把握しているな。上条は武内提督の指示で動いていたと言っても過言ではない。そして、2人の提督と一部提督、オーディンを操っている人物が―』
情報はここで途切れている。肝心の部分が塗りつぶしと同じ状態では阿賀野菜月の未来予知でも、全てを知るのは不可能だろう。
「光のアカシックレコードを執筆したのが自分。そして、闇のアカシックレコードを執筆したのが彼女と言う事ね―忘れようとしているようなリアクションをしても、私には分かる」
解析の結果、それは阿賀野菜月が全ての黒幕であるという事だったのだが、そうだとすると矛盾点が無数に出てくる。
「未来予知をアカシックレコードのアクセスと同類―そう考えると、闇のアカシックレコードと共通しない点も……!?」
闇のアカシックレコードと光のアカシックレコード、それはふとしたニュースや事件でも大きく書き変わる可能性がある存在だった。
これが意味する物とは「ネット炎上の火種を利用して、それらをパズルのピースに組みこみ続け、無限に広がって行く未来への可能性」である。
「簡単に言えば、ネット炎上をネタに、一次創作の小説として展開し、それらを閲覧する読者に訴えかけ、そこから未来の可能性を変えていく。それがアカシックレコードの正体―」
花澤提督が結論に気付いた頃、レースのスタートは目前に迫っていた。
同日午前10時20分、ヴェールヌイは最後のラインに立ち、これで合計21人が出そろった。なお、遠藤提督は買収の一件に関して報告する役だけの為に参加はしない。
『20分の遅れが発生しましたが、これよりランカー王決定戦―5月期を開始します!』
実況の太田さんも今まで喋る事が出来なかったので、それを踏まえてもテンションが最大になっていた。
「カウントダウンを始めるよ! みんな、準備はいい!?」
遠藤提督が周囲の観客にカウントダウンを開始するとアナウンス、遂にレースは始まろうとしている。
「5、4、3、2、1――レディーゴー!」
遠藤提督のカウントに合わせ、周囲もカウントダウンを初め、ゴーの合図と共に選手が一斉に走り出した。厳密には、一部でホバーを使っているメンバーもいる為、走ると言う表現が正しいかは不明だが。
同刻、最初のチェックポイントで選手を待っているのは、ステルス迷彩装備のレーヴァテイン、上条静菜である。
「私はレースには出ないが、今まで自分を操っていた元凶は叩く―」
どうやら、武内提督と赤羽根提督の件は上条にとっても想定外の物だった。自分はAI事件の延長上で動いていたと思っていただけに、ここまで道化にされた事に対して―。




