第24話:ランカー王決定戦―ラウンド8―
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2015年5月9日午後10時40分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
決戦当日の5月28日午前10時5分、大方の予想通りとも言える展開が谷塚駅近辺で展開されていた。
【ARバトルロイヤル――モードスタンバイ】
そこにはジャンヌ・ダルクのつぶやきに呼応したブラックファン200人近くが、歩行者天国状態になっていた通りを占拠していた。
「我々の目的は―」
アイドルグループの応援法被を着た男性ファンに対し、問答無用でシールドビットで攻撃を加えるのはランスロットである。
「これがジャンヌ・ダルクの置き土産と言う事か―」
事前にバトルロイヤルの申請を行ってバトルフィールドを形成、今回の騒動を『ARゲーム内でのバトル』という扱いにした事で、ARゲームが犯罪等に悪用されると言う風評被害を封じる狙いが彼にはあった。
おそらく、こうした考えもご都合主義等でネット上のまとめサイトで言及される可能性があるのは避けられない。しかし、そうした周囲の雑音よりも先にランスロットには守るべき物がある。
「自分が守るべき物、それはアイドルと言う単語に対する風評被害を広げない事だ!」
ランスロットの発言を聞き、周囲のブラックファンは動揺する。中には「お前が言うな!」とランスロットに直接襲いかかる者もいる。
「お前が言うな……と言ったな? これを見て、同じ事が言えるのであれば言ってみろ!」
ランスロットがバイザーを開き、その素顔をブラックファンに見せる。彼の正体、それは有名アイドルグループに所属していたアイドルだったのだ。
「馬鹿な――信じられない!」
「お前のいたグループは解散したはず」
「元アイドルがアイドルファンを物理で押さえつけると言うのか?」
「アイドルは超有名アイドル以外が使えば商標権侵害に―」
「超有名アイドルこそ神だ! それ以外はアイドルを騙るなりすまし―偽者だ!」
やはりというか、予想通りの反応である。中には「お前達のせいで男性アイドルと夢小説勢が切っても切れない関係になった」というネットのつぶやきを鵜呑みにしたような発言もあった。
「やはり、これ以上の対話は不要と言う事か―」
連携の取れていないブラックファンを確認したランスロットは、上空に向けてビームライフルを撃つ。
その後、ビームライフルは途中に配置されていたリフレクターに反射し、拡散ビームとなって周囲のブラックファンに対して次々と命中してく。
「リフレクタービットの原理だと?」
周囲のブラックファンは回避するのがやっとで、直撃は免れたものの大ダメージを受けた者が多い。
同日午前10時6分、リフレクタービットが朝飯前と言わんばかりの武装をランスロットは用意していた。それは、複数のブレードを合体させたランスロットの必殺技とも言える武器である。
「エネルギー供給の関係で、連続では使用できない――ならば!」
ランスロットが剣を構え、突撃の体制を取る。この構えは、ジャンヌ・ダルクとの戦闘でも披露していた物だ。
「そのポーズは―!?」
「まずいぞ! 何としても、あの技を阻止しろ!」
「あのポーズで周囲からBGMでも流れ出したら―」
ある人物の余計な一言で、突如としてスーパーロボット物で定番の必殺剣のテーマが流れ出す。これを流したのは誰なのかは不明だが、ランスロットは「余計な事」と考えていた。
「アイドルと言う単語の風評被害を解消する為には、このような手を使っても意味はないという事か」
これで自分の考えが甘かった事を確信、先ほどのシールドビットを戻し、別ガジェットのガンビットも背中のバックパックに戻る。それと同時に突撃を開始――この一撃は無数のブラックファンを3分も絶たない内に片づけた。
同刻午前10時8分、集まっていたブラックファンを全て沈黙させたが、引き渡すにしてもコンテンツガーディアンの活動範囲外らしく、ガーディアンの姿は確認できない。
「これは―派手にやった物だな」
再びバイザーを閉じて素顔を隠すランスロットだったが、目の前に現れた男性はランスロットに用があるような気配だった。
「まさか? ノブナガなのか」
ランスロットは、目の前にいたブラウンベースのコートを着た人物がノブナガだとすぐに分かった。彼がここに来た理由とは―。
「来た理由はネット上で自分の名前を騙るなりすましがいると言う話を聞いたからだ」
「しかし、その手のなりすましならばランカー王が始まる前、チート勢力が壊滅した辺りから報告があると聞いているが」
ノブナガが草加市へ足を運んだ理由、それは自分のなりすましを見つける為だった。情報によれば、ブラックファンのクーデターに参加しているという話である。
「表現の自由も重要かもしれないが、このような力による制圧は間違っている――それは、いつか分かるはずだ」
しばらくすると、ノブナガの姿は消えていた。ランスロットも力による粛清はディストピアと変わりない事を悟っている。それに加えて、いつから日本は超有名アイドルによるコンテンツディストピアが始まっていたのか―。
同日午前10時12分、道路を通り過ぎるヴェールヌイをランスロットが目撃する。しかし、彼はヴェールヌイことガレス提督を止めるような事はしなかった。あえて素通りさせたとも言えるかもしれないが。
「レースに間に合えばいいが―」
運営に直接連絡を行えば早いのだが、今回に限っては直接の方が早い。そう考えたガレスはヴェールヌイのハイスピードモードで草加市へと急ぐ。
これだけのスピードを出せば、周囲への被害も半端ではない程の衝撃もあるはずだが―それでも衝撃波等が出ないように設計されているのが、ランニングガジェットである。
科学検証を丸投げしたようなコンセプトで生み出されたガジェットは、一見すると魔法等と見間違う可能性がある。しかし、この日本には魔法と言う概念は存在しない。あるとしても、それは爆発的に進歩したゲーム開発技術だ。
災害救助という目的で開発されて放置された技術をアレンジ、体感型ゲームをスポーツと見間違うほどの段階まで進化させている。つまり、パルクール・サバイバーは体感型ゲームとして開発されていたのである。
同日午前10時15分、草加駅のスタートラインに突如として姿を見せたガジェット、それは迷彩色が目立つ砲台を改造したようなガンビットを2つ、提督服に何処かの司令官を思わせるような帽子を被った金髪の人物―遠藤提督である。
「レースを始める前に、あなた達に一つだけ言っておきたい事があるわ」
それを聞いた他の選手は身構える。この期に及んでレースの遅延なのか、それとも―。しかし、遠藤提督が口に出した一言は全く違う物だった。
「ここに来ている観客、他の提督も聞いて欲しい。先ほど、パルクール・サバイバーに対して買収を持ちかけてきた」
まさかの買収話に空気が重くなる。もしかして、スポンサー制度が強化されるのか、それとも―?
「パルクール・サバイバーの運営には資金が欠かせないのは事実だが、今回の買収案に関しては賛同できる物ではないと判断した。パルクール・サバイバーは個別スポンサー制度を続けるが、今まで通りに実施されるので安心して欲しい」
一時は買収によって自由度が奪われると考えていた周囲だったが、遠藤提督の話を聞いて周囲は再び歓喜に包まれる。その歓喜の声を聞いて、安心をしていたのは花江提督、中村提督、花澤提督を初めとしたメンバーと…。
遠藤提督の話が終わった後、超高速で飛ばしてきた白銀のガジェットであるヴェールヌイが姿を見せる。デザインを見て、誰もが他の勢力に所属する資格と勘違いした位だ。
『どうやら、間に合ったようだな―』
その声を聞き、一番驚いたのは遠藤提督と、もう一人は―。
『ここで、まさかの乱入エントリーです。新型ガジェットのお披露目と同時に、ガレス提督ことヴェールヌイ選手がシード枠で特別参戦します!』
太田さんの実況を聞き、周囲が急に騒がしくなる。まさかの飛び入り参戦をした人物、それはサバイバー運営総責任者であるガレス提督だったからだ。
『総責任者が飛び入り参戦と言う形は、異例だが――私の参戦は、ある意味でも隠しボス扱いと言う事で理解をして欲しい』
今回の草加市へのコース変更は別の含みもあったという事が、ガレス提督の飛び入り参加で確信に変わった瞬間でもあった。
「我々は問題ない。総責任者は過去にランカー上位にいたという実力を持っていると聞く」
花江提督はガレスの参戦を逆に歓迎する。そして、他のメンバーも問題ないという判断らしい。
「この手の震えは、一体何を意味しているのだろうか―」
蒼空の右手はかすかに震えていた。武者震いと言う類とは違うようだが、ガレス提督と戦ってみたいと言う思いかもしれないと考える。
「ランカー王と言う称号の重み、自分に受け止められるか分からない。それでも、あの高みへと進みたい」
そして、蒼空は決心をする。ランカー王の称号を得る事、それが意味する事を含めて怖がってはいけないと。




