第24話:ランカー王決定戦―ラウンド7―
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2015年5月9日午後10時36分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
決戦当日の5月28日午前10時、遂にレースが開始されようとしていたのだが、佐倉提督の出現と彼女の提案により審議に入る。
「結局は20人か」
「夕立の棄権は回避されたが、予想外の展開とも言える」
「定時に始まるレースが珍しいのだが、予想外の理由でレース開始が遅れるとは」
「このレースでランカー王が決まる。それを1つの反則や不正で全てが台無しになる事は避けたいのだろう」
周囲もレース開始が遅れる事に関しては慣れている為か、あまり苦情等が飛ぶ事はなかった。その間に、ガレス提督の帰還指示があり、花澤提督と中村提督も草加駅に姿を見せる。
同日午前10時1分、周囲の大型モニターに姿を見せたのは覆面バイザーをした提督だった。彼の姿を見た中村提督は内山提督と思っていたが、バイザーのデザインは内山提督の物とは大きく異なる。
『西新井での開催予定から突然の会場変更に関して各方面への通達が遅れ、皆様には大変なご迷惑をおかけしてしまいました。この場を借りて、お詫びをいたします』
いきなりの謝罪から始まり、この光景を見たギャラリーも驚きを隠せない。確かにホームページ上では会場は西新井と記載されていたのだが、会場が草加市へと変更されたのは当日の午前9時である。
『このような事になってしまったのには、一連のマスコミ報道、アフィリエイト系のまとめサイト、心ないブラックファンによるつぶやき、不特定多数に送信されたスパムメール―そうした我々の意図しない場所で、ランニングガジェットの安全性を否定する発言があった為です』
覆面の提督は謝罪の後に話を続け、実況の太田さんも入るタイミングを待っている状況である。しかし、このまま続けた方が良いと判断し、彼の話が終わるまでは沈黙する事にした。
『確かにランニングガジェットはパルクール・サバイバーを安全にプレイできるように開発された物であり、アクロバット集団による事故を防ぐ為の物でした。しかし、そうした意図が一部の勢力によって目的のすり替えによるネット炎上に利用されるのは我慢できない』
覆面提督も悔しさを押さえて話をしている。それは、彼が右手に拳を作った状態で話をしている事からも分かるかもしれない。
なお、マイクがなくてもバイザーに搭載された拡声器機能等で音を拾っている為、彼が小声で話そうが草加市全体で中継されている放送には影響がない。
『そこで、ランニングガジェット開発に関係した自分が直接発言する事で、事態の収拾を考えた―』
しばらくして、彼は左手でバイザーのボタンに手を触れた。ボタンが光り出したのと同時にバイザーが変形し、すぐに外せるような状態になった。そして、バイザーを脱いだ彼の顔を見て驚きの声を上げたのは―。
「こんなバカな事が―あるというのか!?」
思わず画面を叩きたくなる状態になったのは、参加者の一人である時雨だった。
「遂に……正体を見せたか。オーディンではなく、彼が」
一方の花江提督は若干落ち着いているように見える。彼の顔を直接見た事はないが、内山提督と同様に顔を見られる事が仕事に支障がある人物という認識はあった。
『私の名は小松提督―と言う事にしておいて欲しい。役職はサバイバー運営の技術スタッフで、主にランニングガジェットの開発に関わっていた』
外見を見る限りでは30代前半に見える黒髪の男性、イケメンとは言えないような科学者的な顔で、左目だけが空かになっているのが気になる。
彼の名前は小松提督、本名は別にあると思われるが―他の提督と同じように苗字だけは名乗った。
『しかし、一部の私利私欲を求める政治家がランニングガジェットの技術に気付き始め、自分達で独占しようと考えた。ARゲームの技術が戦争などの軍事転用を禁止しているのはご存じだろう』
『そして、その禁忌を破ろうとした者に対しては重い制裁が加わる事も知っているだろう』
『その一方で、一部の政治家はネット上の炎上ブログサイトまとめを発見し、この勢力を味方につけようと考えた。そして、起こった事件がAI事件である』
『AI事件に関しては色々な解釈もあり、考え方によっては与党の無能が招いた失態、超有名アイドル勢による有名グループの魔女狩りという見方もあるだろう』
小松提督の話を聞いていた一部のブラックファンは「超有名アイドルこそが正義であり、悪はそれを弾圧しようとする勢力」と言う者もいた。しかし、そう言った言葉が小松提督に届いているかと言われると疑問が浮上する。
そして、次に映し出されていたのは西新井だった。ビルの周囲にはマスコミと思われる勢力が、サバイバーのアンテナショップに集まっているのが分かる。
それに加え、彼らがパブリックビューイングに訪れた観客に対し、インタビューを行っているようにも思える。しかし、実際に行われていたのは全く違う物だった。
『自分がいる場所、それは本来であれば会場になる予定だった西新井だ。一連の事件やネット上のつぶやき等の影響でパブリックビューイングを楽しみにしている一般客にも迷惑がかかっている』
『こうした光景を見せて、マスコミに対して過度の取材が超有名アイドル勢の宣伝になると言う事を啓発する為―という目的はない。フジョシ勢力や別の夢小説勢であれば、宣伝に利用するのは明白だが』
『こちらとしても、これ以上話したとしても理解はされない可能性が大きい。したがって、私の話したい事はここで終わりにする』
話の方は終了の様だが、それとは別の説明をする事を付け加え、太田さんの出番は減りそうな予感がする。
『ここからは、今回使用される草加市コースについてだ。コースの説明は太田さんが行ったので割愛する。私が行うのは、補足説明だ』
補足説明と聞いて、周囲は驚きの連続と言う表情をしている。次に表示されたのは、草加市を上から見た地図と正規ルートをたどっている赤い矢印だ。
『赤い矢印はショートカットを使わなかった場合の通常ルートになる。それ以外のルートはナビによる検索も可能だが、基本的には自分達で見つけて欲しい』
小松提督の一言を聞いた選手が動揺をする。これも提督にとっては狙いの可能性もあるが、同じ提督である佐倉提督もコース取りに関して不安があった。
『コース取りをするにあたって、俗に言う建造物バリアは展開済。ただし、ナビで侵入不可と表示がある建造物へガジェット装備状態で進入するのは禁止となる―』
この他にも解説を行い、武装に関しては使用可能だが過度なプレイヤー攻撃は禁止、ガジェットの耐久値が0になった場合は強制的に機能停止で失格、ランカー王名物の回復ユニットは配置済などのルールが説明された。
同日午前10時10分、小松提督の説明も終了し、遂にレースが始まる。
『大変長らくお待たせしました! これよりランカー王を目指す出場選手の紹介を行います』
そして、最初に入場したのは軽装のアンカーガジェット、黒マント、更には海賊を思わせる提督服の女性、佐倉提督だった。彼女の使用するのはバイザー等の大型ユニットは使用しないタイプである。
『サバイバー運営には所属しない謎の提督、ワイルドカードでランカー王出場を決めた――佐倉提督!』
太田さんの煽りは格闘技中継で鍛えられている影響か、ある意味でも風物詩となっている。紹介された方は誇りに思っている人もいれば、あまりの恥ずかしさに赤面する人もいる。佐倉提督の場合は前者のようだ。
「このレースは、コンテンツ流通の未来を変える―そう信じている」
佐倉提督は笑みを浮かべ、1番と書かれたラインに立つ。1番だからと言って、順位的な意味やポールポジションと言う意味はない。
先頭のグループに配置されたのだが、パルクール・サバイバーでは先頭グループでも特にアドバンテージが取れる位置ではないのだ。
『続きましては……箱根の新生山の神、まさかの滑り込みで出場――神城ユウマ!』
次に登場したのは、秋月彩と同じような軽装ガジェットにホバーボードと言う装備で挑む神城ユウマ。当初は走る事も踏まえ、ホバーボードや大型ガジェットは使わない予定だった。
「サバイバーにはサバイバーの流儀がある。剛に入れば剛に従え……と」
神城はペース配分を考えてのホバーボード装備だった。ペースを間違えてスタミナを使いきって順位を落とした事は、ランカー王への滑り込みを決める前に何度があったからだ。
『こちらも滑り込み枠。プロフィールは非公開、その実力は未知数ながらも10強に到達したジャイアントキリング――小野伯爵』
3番目に姿を見せたのはアルビオンに搭乗する小野伯爵。彼も滑り込み枠なのだが、それ以上に実力も兼ね備えるジャイアントキリングでもあった。
「コンテンツビジネスを守る為にも―」
そして、言葉少なげに小野伯爵はスタートラインへと向かう。
『佐倉提督の提案により、特別枠の参加になったのは――ランカー王本命とも言える人物、夕立!』
5番目に入場したのは、おなじみのパワードスーツベースのガジェットを装着した女性ランカー、夕立である。一時は出場が危うい状況だったが、何とか出場出来るようになった。
「佐倉提督の狙いは分からないが、これはチャンスなのかもしれない。松岡提督が出場しない以上、ライバルランカーはいないも同然」
夕立は今回の出場出来たチャンスを生かし、何とかランカー王になろうと考えている。それが、自分の今まで戦ってきた理由の一つだから。
『こちらも陸上出身者の登場です。軽装ガジェットでのデビューは衝撃的……秋月彩!』
10番目に呼ばれたのは、軽装ガジェット+ホバーバイクというガジェットで挑む事になった秋月だった。この装備には今までの装備が装備だっただけに周囲も驚く。
「他のアスリート出身者もガジェットを使っている以上―体力の温存は必須ね」
秋月は神城ユウマもガジェットを運用している点を踏まえ、別のレースで使用したホバーバイクに乗ってスタートラインへ。
『オレンジ色のガジェット、スレイプニールはスコアキラーの異名を持つ――花江提督!』
11番目に呼ばれたのは、スレイプニールⅡに搭乗する花江提督。装備に関しては持ち込みフリーだが、あまりに重装備でもスタートダッシュを決める事が出来ない為か、持ち込みは控えめだ。
「黒幕の方は考えるべきではない。今は、レースに集中しないと」
『このレースの本命が登場です。彼女に多くの言葉は不要! 阿賀野菜月!』
17番目に呼ばれた阿賀野菜月は、超高速タイプのガジェット+パワードスーツと言う重装備で現れる。これには周囲も驚いているが―。
『最後に紹介するのは…前代未聞のニュージェネレーションが姿を見せる。その名は、蒼空かなで!! 2枚目のワイルドカード枠での出場ですが、最終的には11位まで上り詰めると言うランキング的にも油断が出来ません!』
太田さんのテンションも最高潮、そこへ姿を見せたのはアカシックレコード搭載型のランニングガジェットで姿を見せる蒼空かなで。
「ここまで到達した以上、出来る限りの事はするまで」
そして、かなでが5番のスタートラインに立つと、レースの方が間もなく始まるようなオーラが放たれているような展開となった。




