第24話:ランカー王決定戦―ラウンド5―
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2015年5月9日午後10時19分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
決戦当日の5月28日午前9時34分、谷塚のアンテナショップではジャンヌ・ダルクと花澤提督の論戦が展開されていた。
「確かに超有名アイドルの行っているコンテンツ吸収にはネット上でも、さまざまな議論が展開されているのは事実。しかし、それを話し合いで過ちを直させる事も出来る筈」
花澤提督は懸命にジャンヌ・ダルクを説得しようとしているが、それでもジャンヌの態度が変わる事はなかったのである。
「芸能事務所には何度もクレームの電話や抗議が行われているのは知っているはずよ。あの芸能事務所は、自分達が無限の利益を得られる原理を発明できれば、他のコンテンツを切り捨てても平然といられる。そういう事務所なの」
一方のジャンヌ・ダルクは何度も芸能事務所へ改善のメールを送った事もあったが、それらが読まれる事はなく、芸能事務所は何度も暴走を続けた。
「あの事務所が行おうとしていた事は、コンテンツ業界を全て集中に出来る賢者の石を作る事。その為ならば、どのような犠牲も必要と考える。例え、それが他コンテンツのネット炎上を起こすきっかけになろうとも」
そして、データを一定量インストールしたアルビオンに乗り込み、花澤提督の横を通過するかのようにアンテナショップを出ていく。
ほぼ同刻、アンテナショップを出たジャンヌの乗るアルビオンが遭遇した物、それはランスロットのARガジェットだった。今まで使用していたガジェットとは違い、大型ユニットを着込むよりはフルアーマーに近い雰囲気を持っている。
『孔明に続き、お前も邪魔をするというのか? 我々、夢小説勢を根絶させようと―』
ジャンヌはビームサーベルを展開し、ランスロットへと突きつけるが、彼は一切動じる事はなかった。そして、ランスロットは肩に装着されたビーム刃のグレートソードを展開する。
「お前達の行動が超有名アイドルによるコンテンツ魔女狩りを加速させる結果となった。芸能事務所側が風評被害の出る前に法律によって改変拒否にしようと考えた結果が―」
ランスロットが何かを喋り出そうとした瞬間、ジャンヌはアルビオンのレールガンを展開、ビームサーベルを収納した後に持ち替え、そちらの方を突きつけた。
『芸能事務所が海外の作り出した法律を利用し、ありとあらゆる二次創作を拒絶――使い捨て同然のコンテンツをばら撒こうとしている事を断罪すべきだ』
ジャンヌの話を聞き、ランスロットはあきれ返る。それでは単純に理由を変えただけで《本当の意味》で作品を愛しているとは思えない。結局、ジャンヌも金に目がくらんだフジョシだったという事か。
「偽者のジャンヌ・ダルクには退場願おう。それが―アカシックレコード上の彼女にする事が出来る、唯一の―」
グレートソードを構える姿は、まるでロボットアニメにあったような両手持ちの構えその物。そして、グレートソードから放たれた重い一撃はジャンヌのガジェットを機能不能にする。
同日午前9時35分、機能停止したガジェットからジャンヌ・ダルクを引っ張り出し、コンテンツガーディアンへと花澤提督が引き渡す。素の時には、既にランスロットは姿を消していたからだ。
「確かに光のアカシックレコードと闇のアカシックレコードは片方だけで真価を発揮しない。しかし、両方のアカシックレコードでも共通して書かれている事はあった」
花澤提督は悔しそうに拳を握る。自分の無力もあるのだが、これがサバイバー運営の限界でもあった。ランキング荒らしの際は運営も業務妨害と感じていた事で動いていた部分もあるのだが、今回の夢小説勢やBL勢と言った勢力の争いは後手に回る事が多い。
「ここまで暴走しているファン活動に何の意味がある! 煽るだけおあり、ネット炎上させ、更にはまとめサイトのアクセス数を稼ぎ、アフィリエイトで荒利益を稼ぐ―」
ここで悔しがっても何も始まらない。花澤提督は草加駅へと向かい、他勢力の妨害を阻止しようと動きだす。
「コンテンツ流通を正常化するのであれば、タダ乗りよりもアフィリエイト系まとめサイトを駆逐する方が先と言う事か」
草加駅へ向かう為、花澤提督はアンテナショップ前の道路から特注コンテナを呼び出す。そのコンテナが開きだすと、そこから姿を見せたのはSF系のシャープなデザインをしたパワードスーツである。
「力を貸して―ホーリーガジェット」
花澤提督がつぶやくと、パワードスーツが分離、提督服を着た状態で分離したアーマーが装着、完了するまでの時間は1秒にも満たない。
同日午前9時40分、コンビニで鮭おにぎりと緑茶のペットボトルという軽い食事をしていた花江提督、彼は提督服を着た状態で周囲を歩いていたのだが、特に彼に話しかけようと言う観客はいない。
「これが嵐の前の静けさ……」
2つ目のおにぎりは昆布で、食べ終わった袋は手持ちのコンビニ袋へと入れる。その後、花江提督は周囲を見回すことなくおにぎりを食べ続けた。
「このレースは今までの様にはいかない。超有名アイドルやBL勢等と言った悪意を持った勢力は排除されている」
花江提督の隣に立っていた女性、それは阿賀野菜月だった。あのスレイプニールを手にした人物が花江提督の隣にいる。しかし、それに関して花江提督は何も言及はしない。
「阿賀野菜月、アカシックレコードが辿り着く未来に……何を望む?」
花江提督は彼女がアカシックレコードにこだわりを見せている事、以前から知ってはいたのだが改めて聞く事にした。以前は何も話さずに終わったような気配がしたからである。
「超有名アイドルコンテンツは売名行為と言うか――単純に日本経済を不景気に見せない為の自作自演と考えている。だからこそ、それとは違う新しいコンテンツが必要だと考えた」
「それが拝金主義や利益至上主義とも違う、新たなコンテンツか」
「アカシックレコードに色々と書かれていた中、私はあるコンテンツを見つけた。それは音楽ゲームだ」
「2年前の事件も、音楽ゲームが理由で起きた物だったか。あの時は超有名アイドル側が地雷を踏むと言う自滅展開に、周囲が非難の嵐だったと聞く」
「それでも、彼らにはコンテンツを出して莫大な利益を出すという実績が必要だった。例え、それがFX投資と同じ位の危険度を持っていたとしても」
阿賀野からFX投資と言う単語が出てきた事に対し、花江提督は苦笑いを浮かべた。簡単に利益を得られるような事は存在しない。それは、アカシックレコードにも書かれているはずなのに。
「迷惑メールの業者を摘発しても、第2、第3の業者が現れる。超有名アイドルも同じような展開になるのは変わらない―とでも言いたいのか?」
花江提督の一言に、阿賀野は何も答える事はなかった。アカシックレコードの真実、それは既に提督以外にも広まっているのは間違いない。広めたのは花澤提督だろう。
彼女がアカシックレコードから何を得たのかは分からない。しかし、彼女は中村提督と同じ、アカシックレコードに刻まれた伝説とも言える人物だからだ。
「花江提督、これだけは言っておく。アイドルという単語が地球から消滅する事はないだろう。しかし、利益を得る事だけに集中した為に、暴走するファンを放置した芸能事務所にアイドルをプロデュースする資格はない」
阿賀野は、それだけを言い残して駐車場の近くに停めていたスレイプニールに乗り込んだ。スレイプニールが置かれている場所には、大量のギャラリーと言うか野次馬も集まっていたが。
花江提督が阿賀野と会話をしていた頃、蒼空かなではガジェットの最終調整を行っていた。スタッフ総出ではないが、数人の専属スタッフがアカシックレコードシステムの手直しなどを手伝っている。
「3次元のアイドルが利益を追い求めた結果、アイドルと言う単語の意味は大きく変化していった。それに嫌気がさして―」
蒼空は、ふと自分がアイドルという単語に過剰になっていた理由を思い出した。超有名アイドルの利益至上主義、その為には法律をも悪用してライバルを永久追放する行動にも出る。
その状況を指くわえて見ているしかなかった自分に嫌気がさしていたのだ。
「そして、違うジャンルに興味が持てる者を探した結果がARゲームであり、パルクール・サバイバーだった」
蒼空は改めて考える。超有名アイドルと言う存在が日本のコンテンツビジネスだけでなく、海外が規制を作りだすような流れまで生み出してしまった。ガレス提督の話ではないが、生み出してしまった事に対する贖罪が必要なのだろうか―と。
偽メダル転売事件、AI事件、違法ガジェット流通、BL同人誌規制各種――それ以外にも超有名アイドルが関係していた事件は無数ある。これらの事件が超有名アイドルのコンテンツ完全掌握に関係しているのか?
これらを超有名アイドルと結び付けるのは極論かもしれない。しかし、アカシックレコードでは転売屋、ネット炎上勢、アフィリエイト系まとめブログの管理人、そう言った勢力とも手を組んで超有名アイドルはライバルとなるコンテンツを叩き落とすという。
「本当に、この世界は超有名アイドルが都合よく全てを掌握出来る世界なのか?」
その問いに答えを出せる人物はいない。だったら、今はパルクール・サバイバーに集中して勝利し、ランカー王となる事を優先すればいい。
ランカー王となれば、その知名度を利用して日本を動かせるのかもしれない。松岡提督がランカーになった時にARゲームに対し、さまざまな法整備で日本中へ広まった時の様に。
同日午前9時45分、草加駅近くのタクシー乗り場には次々とランニングガジェットが集結していた。既に20体近くが集まっているのだが、それでも花江提督や阿賀野菜月と言った人物の姿がない。
『ここでお知らせです。予備予選での勝利枠で決定戦に出場予定だった―』
「やっぱり、彼女は棄権したのか。運営が出るのは反則ではないのに」
「しかし、加賀が棄権したのは良いとしても、彼女が出ないのはおかしいだろう? ランキングベスト3にいた人物だぞ」
「そうか。お前は知らないのか。パルクール・ガーディアンとサバイバー運営は元々同じ部署だったってことを」
「同じ? どういう事だ?」
周囲も加賀の棄権に関しては事前情報や一部アナウンスで知っていたのだが、もう一人に関しては全く知らされていなかった。
その理由の一つには、パルクール・ガーディアンとサバイバー運営が元々は同じだった事にある。つまり、元々は一つの運営が分離したという事だったのだ。
それが、思考錯誤の末にランキング荒らし対策としてのランカーを集めた組織という事になり、現状ではサバイバー第2運営と呼ばれるまでの組織に再編されている。
この件に関してもランカー王の前に行われた記者会見で『自作自演と呼ばれるような事態を避ける為、このような処置を取った』と発表したのだ。
『夕立選手はランカー王の資格も十分に満たしておりますが、ガレス提督による―』
「ちょっと待った!!」
太田さんの実況に横槍を入れるかのように姿を見せたのは、何処かの海賊を思わせるようなガジェットを装備した黒マントの提督、佐倉提督である。
「確かに夕立はサバイバーの運営だ。しかし、ガレス提督の発言一つだけで棄権の理由を周囲に納得させるような事は可能なのか?」
『こちらも手元に届いたばかりの書類を読んでいるだけで―』
「花澤提督! 中村提督! この実況は聞いていたな?」
佐倉提督は草加駅へ向かっている花澤提督と中村提督に呼びかけた。2人が通信を聞いているかどうかの保証はないが、一つ賭けてみる事にしたのだ。
「超有名アイドル、あるいは夢小説勢が行おうとしているコンテンツ壊滅を誘発させる事件――それを止めろ!」
佐倉提督の叫びが届いたかどうかは保証できないが、そこへ突如として姿を見せたのはオレンジ色のランニングガジェット、スレイプニールⅡ。
「聞いていたか、花澤提督、中村提督。全ては、お前達にかかっている」
花江提督は、2人が探している人物に心当たりがあった。そして、そのデータを2人へ転送する。
「この人物だと――」
この人物に見覚えがあったのは中村提督だった。花澤提督も見覚えはあるだろう。しかし、思い出すのが早かったのは、中村提督の方である。
「よりにもよって、政治家を探せと言うのか」
顔はフェニックスの覆面をしていて判別は不能だろう。しかし、彼の服装にあったバッヂは議員バッヂで間違いない。
「あのニュースで摘発されたのは60人近く。現在でも家宅捜索は続き、事情聴取を受けている人物は100人いるだろう。対象の人物は、どの役職でも例外はない―」
中村提督は、彼が何処にいるのかが分からずにいた。その中で、一足早く行動した人物がいる。
同日午前10時、ある人物が小野伯爵へ連絡をしていた。レースが間もなく始まる為、自分は動く事が出来ない為だ。
『小野伯爵……あなたが、この通信を聞いていたら、今すぐ秋葉原へ飛んで欲しいのです』
『犯人の正体、それは莫大な赤字国債を抱える状況を生み出し、それを超有名アイドルに償却させるというシナリオを思いつき、実行した人物―』
『秋元総理大臣代行――つまり、イリーガル秋元です。本物の総理大臣は飾りと言う事実に気付かなければ、この発想に至らなかったでしょう』
『伯爵、今度こそイリーガルを倒して―』
【小野伯爵も、残念だがランカー王の出場選手。この私が行く】
通信の最中につぶやきが流れ、そこで初めて彼は小野伯爵が選手だと言う事に気付いた。そして、自分が行くと言い出した人物のアカウントを見て、彼は驚きを隠せずにいられなかった。
「ヴェールヌイ――ガレス提督なのか?」
蒼空が衝撃を受ける程の人物、ガレス提督が探すと言いだしたのだ。そして、蒼空は過去に彼女が候補生時代に名乗っていた名前を唐突に思い出していた。




