第24話:ランカー王決定戦―ラウンド4―
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2015年5月9日午後9時54分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
決戦当日の5月28日午前9時15分、別のアンテナショップで花江提督がデータを調べている頃、蒼空かなでのいるアンテナショップに1人の提督らしき人物が来店した。
彼の服装はサバイバー運営やパルクール・ガーディアンが使用している白とは違い、黒を基調としたような金の装飾も若干目立つ物である。しかし、黒の提督も複数人いる為、周囲はサバイバーの運営だと思っているようだ。
「君が噂の―」
身長は蒼空と同じ位、黒髪にセミショートの青年が声をかけるのだが、蒼空は何かを警戒して表情を崩そうとはしない。
「貴方はサバイバー運営ではないですね。何の目的があって来たのですか?」
彼が運営の提督ではないと蒼空は見破る。しかし、彼は提督服を脱ぎ捨てるような動作がなく、どうやらスパイと言う訳ではないようだ。
「君の指摘通り、私はサバイバー運営ではない。蒼空かなで……」
次の瞬間、彼が指を鳴らすと――自分の身長と同じ位のランニングガジェットが自動操縦で彼の元に現れる。その形状は北欧神話系のデザインだが、花江提督のスレイプニール等とは路線が違うように思えた。
自動操縦で到着したランニングガジェットは、1人入る事が出来る位のスペースが自動的に開く。どうやら、あの部分がコクピットの様である。
しかし、自動操縦と思われたランニングガジェットには人影が存在していた。身長160位、ツインテールに貧乳という人物像だが、ガレス提督と言う訳ではない。しかし、他人の空似にしては腑に落ちない箇所もあるのは事実。
「小野提督――貴方の場合は小野伯爵というべきか?」
「お前は確かジャンヌ・ダルク?」
黒い提督――小野伯爵は、自分のランニングガジェットに別人が乗り込んでいた事実に驚きを隠せない。その人物は、前日の最終予選とも言える予備予選で予選落ちしていたジャンヌ・ダルクだった。
「ランニングガジェットは他のガジェットとは違って自動操縦機能は搭載されていない。ちゃんと下調べをしてから機体カスタマイズをするべきだったわね」
その後、ジャンヌは小野伯爵の使用していたガジェットを乗り逃げして姿を消す。乗り逃げと言うよりは、挨拶をする為にやってきただけと言う可能性も否定できない。
同日午前9時18分、若干の放心状態だった小野伯爵も何とか立ち直り、右腕からはシールド型のARガジェットを展開する。
そして、シールドから射出されたロッドを左手でつかみ取ると、そこからビーム刃が展開される。どうやら、ビームサーベルらしい。
「―元々の所属はコンテンツガーディアン。超有名アイドル勢や夢小説勢の理不尽とも言えるコンテンツ弾圧とも言えるような《法律の誤用》を防ぐ為、秋葉原や有明、さまざまな街を守ってきた」
小野伯爵は蒼空に用があるのだが、戦う気でいるらしい。この場合は挨拶代わりという可能性もあるだろう。
「《法律の誤用》? あのアメリカ主体で進めている―」
蒼空は小野伯爵の言う単語に若干の引っかかりを感じていたが、すぐにそれが何なのか理解出来た。それがアカシックレコードに触れた事による副作用かどうかは分からない。
「お前の成績は見せてもらった。序盤の最下位を含め、下位順位が続いていたお前がパルクール・サバイバーにこだわる理由は何だ?」
「序盤は誰でも1位になれるはずがない。それがあるとすれば、Web小説の異世界転生やチート系の作品だけになる」
「それでも、最下位が続いた状況で挫折をしなかった。それは何故だ?」
「諦めなかったと言えば嘘になる。過去に別のゲームで経験した繰り返しは――もうたくさんだ!」
小野伯爵と蒼空の対話は続く。そこで蒼空は序盤で1位をCDチャートで取り続ける超有名アイドルこそがリアルチートであると断言する。
一方で、小野伯爵は頂点で居続ける事で保たれるバランスが存在すると豪語する。それが超有名アイドルの一連の事件が起きた理由とも語った。
同日午前9時20分、小野伯爵がARガジェットからアラートが鳴りだしたのを確認し、ビームサーベルをシールドへ収納する。どうやら、時間が来たようだ。
「残念だが、タイムアップだ。続きはレースで決着をつける」
小野伯爵は一言言い残して、その場から姿を消した。一体、彼は蒼空に対して何を伝えようと考えていたのか?
同日午前9時25分、周囲に太田さんのアナウンスによる放送が流れ出す。どうやら、コース内のシステム設置等で手間取っているらしく、開催が遅れるとの事らしい。
『レース開始はシステムのテストを行い、正常に動作するか確認してから行う方向になります。レース開始は午前10時を目安として調整中となります―』
それに加え、ガジェットの整備は午前9時45分まで、スタートラインへの集合はセレモニーを含む為、指定エリアへ午前9時55分までに集まって欲しい事が同時に知らされた。
既に太田さんの指定している草加駅のエリア近辺には、複数のガジェットが並んでいた。その中には予選を通過した機体以外にも、予想外の機体もあったのだ。
「おかしい。加賀の姿が見えない」
「一部ではリザーブ枠も用意されているとはいえ、姿を見せないとはどういう事だ?」
「上条静菜もいないぞ。別の選手は前日に棄権をしたと言うが、上条は棄権したという情報がない」
集合時間には猶予があるものの、有名ランカーを探している観客に取っては加賀と上条静菜は別格だったのである。
「加賀はサバイバー運営からの数少ない参戦枠と言うのに」
「システムやコースを知り尽くした運営が出たら反則じゃないのか?」
「反則判定を受けるのは、あくまでもチートガジェットやレースは二の次と言う宣伝目的の勢力だ。加賀は反則を取られたりはしない」
「運営出身で反則を取っていたら、元運営の松岡提督や花江提督も対象となる。松岡提督は予選落ちをしたが、花江提督の実力は―」
加賀に代表されるスタッフが出る事、それはレースが成り立たないのではないか、という意見もある。しかし、全てを知り尽くした加賀でも、サバイバー運営から離れた位置にいる為か、反則ではないと考える意見もあった。
同日午前9時30分、草加駅近辺にある別のアンテナショップに姿を見せた小野伯爵は、スレイプニールの改修を行っている最中の場面に直面した。
「スレイプニール。アカシックレコードに記された機体の一つか」
小野伯爵が回収の様子を見ていると、その場面に姿を見せたのはオレンジのインナースーツに着替えた秋月彩だった。
「あなたもサバイバー運営の提督? それとも超有名アイドル等の刺客?」
秋月の問いに対して、小野伯爵が出した答えは―。
「私はサバイバー運営の提督ではない。君と同じ、所属を持たない選手の一人にすぎない」
「提督ではないのに、コスプレとして提督服を着ているという事?」
「確かに自分は提督ではない。小野提督はファン呼称に過ぎないだろう」
「その服を着ている以上、提督と無関係と言う訳ではないのね」
「そういう君こそ、元は陸上選手。更に言えば、女子駅伝に出ていたという噂も聞く―」
「確かに、陸上の世界からパルクールの世界へ来たのは本当よ」
秋月は小野伯爵の言う女子駅伝に参加していた件に関しても否定はしない。今更否定しても、おそらくは無駄だと考えたからだ。
「そうなると、君も神城ユウマと同じと言う事か」
小野伯爵の一言は、集まってきた周囲のギャラリーを騒然とさせる。神城ユウマが箱根でも有名だったのは既存の事実である。
しかし、秋月が女子駅伝に出ていた事実を知っている人物は少ない。その時は秋月の運動能力が現在のパルクール・サバイバーで見せている物とは、全く比べ物にならない程の物だったからだ。
「私は神城ユウマとは違う。彼はサバイバーに関しての知識はないけど、私はネット上の情報等を吸収してきた―」
「随分と慢心をしているようだな。その考え方では、ランカー王を取るのは夢物語―」
そして、花江提督を捜索すると言う目的もあったはずの小野伯爵は、そのままアンテナショップを出ていく。秋月は何か一言を言っていたようにも思えたが、その声は彼の耳には届いていない。
同刻、谷塚駅のアンテナショップへ到着したジャンヌ・ダルクは、小野伯爵のランニングガジェットを解析するように指示をするが―。
「このガジェットはダミーです。アカシックレコードは確かにありますが、この情報量では解析に時間がかかります」
男性スタッフがデータを確認したが、この機体にはアカシックレコードが存在しないという回答だった。つまり、ジャンヌは偽物を掴まされたのだ。
「既に回収済みのアカシックレコードと照合し、完成したデータをアルビオンへ―」
アルビオン、それがジャンヌの本命ガジェットである。本来であればサバイバー用ではない武装ガジェットもあるが、今回は特例と言う事で許可を得ている。
「超有名アイドルやBL勢を含めた妨害は100%ないとは言いきれない。何としても、コンテンツ狩りとも言える暴挙を行う勢力には裁きを下さないと―」
ジャンヌは小野伯爵の言う《法律の誤用》に関して何かが分かっていた。ライバルを蹴落とす為に非合法手段も辞さない勢力は複数ある。超有名アイドルもその一つとして数えられている。
しかし、彼女達は新しく出来る法律を都合よく解釈し、自分達にとっての武器として利用としていたのである。
見た目としては法律違反をしている作品を摘発という風にニュースとしては取り上げられるが、彼女達がやろうとしているのは超有名アイドルコンテンツ以外の存在を全否定する事。それを知っているのは、アカシックレコードに触れた人物達である。
同日午前9時32分、ジャンヌのいるアンテナショップに姿を見せたのは白銀の提督服を着ている花澤提督だった。
「アルビオン、ジャンヌ・ダルク――あなた達が出る幕はないわ」
花澤提督はジャンヌにレースの辞退を勧告している。ガジェット自体はレギュレーション違反ではないが、彼女に出て欲しくないと花澤提督は考えていた。
「憎しみのぶつけ合いはパルクール・サバイバーと言うフィールドでやるべきではない。それは格闘ゲームで負けた腹いせを音楽ゲームにぶつけると言う原理と似ている」
「だからと言って、魔女狩りを行う超有名アイドルの行為を認める事は到底できないわ!」
「私にも覚えがある。超有名アイドルの存在によって、他のコンテンツに利益が入らずに撤退していく姿を。それに超有名アイドルが関わった事でネット上が炎上し、黒歴史になったコンテンツも見届けてきた」
「指をくわえて見ているなんて、自分には出来ない! 超有名アイドルの《法律の誤用》を放置できるほど―」
感情に身を任せたジャンヌと花澤提督の言い争いは続く。ジャンヌは超有名アイドルを裁く為、花澤提督は無駄な争いを避ける為にお互いは譲れない状況にいた。




