第23話:アカシックレコードの正体―ラウンド1―
・誤植修正(午後4時32分付)
作品を探す事になったである→作品を探す事になったのである
ガレスに撮っても→ガレスにとっても
>更新履歴
2015年5月9日午後11時25分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
5月26日午前10時、プラチナのラインが目立つ特別な提督服を着用していた花澤提督は埼玉内にある太陽光施設に足を運んでいた。
奥の部屋に通された先にあった物、それは大量のオンラインサーバー。そのサーバーから花澤提督は、とある作品を探す事になったのである。
「時は来た! 今こそ、超有名アイドルが裁きを受ける時―」
花澤提督の目、それは獲物を狙うかのような鋭い物を感じられる。スタッフからの指示を受けて誘導された部屋に置かれていた物、それは何処のケーブルにも接続されていない複数のサーバーだ。
これらのサーバーはウイルスに感染してしまう事を恐れ、現在はオンライン化されていないのだと言う。
「提督のお探しの物は、こちらになります」
スタッフの男性が監視カメラのプロテクトを外し、これでようやくサーバーに触れる事が出来る。そして、花澤提督は自分が持ちだしたサバイバー運営備品とは違う個人所有のタブレット端末にデータの転送を始めた。
「しかし、この中にある情報は数年前に削除されたデータのアーカイブ。それを今更になって必要になるとは―」
男性スタッフも花澤提督がサーバー内の情報を欲しがる理由は分からない。彼女も「例の厳重警備されたサーバーを見せて欲しい」としか言っていないからだ。
このデータの正体とは、特定作品のBL二次創作と言う事になっている。それが諸事情によって削除され、ファンが密かに保存していた物をアーカイブとして残している。しかし、花澤提督が求めている物は違っていた。
花澤提督が求めている物、それは違う小説サイトで掲載されていた小説である。これが削除されたのは、丁度BL二次創作が魔女狩りの様に大量削除され、そのどさくさにまぎれて出版化という理由で削除されている。
何故に削除されたのかは諸説ある。その真相を確かめるにしても、出版化されている物では一部の情報が削られている為、参考にできる個所は少ないだろう。
「アカシックレコードは2つ―そう、阿賀野菜月は言っていた。光と闇、表と裏があるように……」
花澤提督は転送されてくるデータを見て、阿賀野菜月の言及したアカシックレコードが何なのか気になり始めたのだ。
同日午前10時20分、ボウリングのピンが特徴的なアミューズメント店に姿を見せたのは、カジュアルな私服姿の阿賀野菜月だった。
キャリーバッグの中にはタブレット端末とARガジェットが入っているが、今回は特にARゲームをプレイする訳ではない。しかし、足はセンターモニターへと吸い寄せられるように…。
「そう言えば、今日は予備予選メンバーが発表される日だったか」
そして、モニターの方を見ると予備予選に関してのニュースも流れていた。最終的には30人以上が集まり、そこから半分位に絞り込むと言う告知がされている。
「どういう事だ……ワイルドカードにいてもいいはずのメンバーが、予備予選に出るのか?」
阿賀野が驚いたのは、予備予選メンバーに秋月彩とランスロットの名前があった事である。この2人に関して言えばスコアやポイント、ここ数回の順位を見てもワイルドカードに選ばれてもおかしくない。
「高雄もワイルドカードと思ったら、こちらに入るのか?」
「ネット上のワイルドカード予想はハズレばかりだな。これによって、ネームドランカー以外がふるいにかけられるのは決定的だ」
「最低でも愛宕、ビスマルク、ジャンヌ・ダルク、霧島、榛名辺りはワイルドカードに行って欲しかった」
「ワイルドカードは2名だけだ。既に1名は公式ホームページに候補が出ている」
「蒼空かなでの名前が出てきたのは驚いた。小田原杯の1位、北千住決戦の1位が影響しているかもしれない」
「それ以外にも見ない名前もあるが、佐倉提督って何者なのか?」
ギャラリーの会話を聞いていた阿賀野は思わずビクッとした。蒼空がワイルドカード選出は分かるとして、佐倉提督が残っている事に驚きを隠せない。
佐倉提督の名前を阿賀野が知ったのは、ごく最近である。ガレスの仕切り直しとなった記者会見、その後に行われた小田原杯、そこで2位と言う衝撃デビューを飾った事。
その時になって初めて名前を聞いたのだ。顔を見た時はチート勢力にいた孔明と被ったのだが、おそらくは他人の空似で片づけられてしまうだろう。
「蒼空は北千住の一件で有名になったようだが――」
阿賀野は気になる事が他にもあったが、本来の用事は別のARゲームの為、今回は必要な情報だけを確認して別エリアへと向かう。
「そう言えば、アカシックレコードの行方はどうなったのか」
阿賀野はアカシックレコードがどうなったのか、その部分も気になっていた。ネット上では存在は示唆されていたが、サバイバー運営からは記者会見でも公式見解は出ていない。
今から数日前、動画サイトの生放送でガレスの仕切り直し記者会見が行われた。今度は新聞社等の締め出しを行わず、オープンで行われた。
『例え道化と言われようとも、我々がコンテンツの正常化の為にさまざまな策を考えていたのは事実であり、これだけは嘘ではない』
その会見の席で、ガレスはこのような事を言っていた。そこで、サバイバー運営はコンテンツ流通の正常化を図る為にチート勢力やパルクール・ガーディアンの激突と言う構図を思いつき、それを実行に移した。
一連の道化に関しては順調に進み、大成功かと思われた。しかし、アクロバットを披露する団体が現れた事で事態が急変する。彼らは一連のネット炎上勢とは無関係――単純にパルクールを披露する団体である事が判明したが、これによってサバイバーの運営に影響が出始める。
その後、ランニングガジェットプランを前倒し、ライセンス制度もこの時に完成、コースの整備も急ピッチで行われ、色々な意味でもスケジュールの前倒しには運営側も悲鳴を上げる程だった。
しかし、道化を演じる事には反対した提督が存在した。それによって一部提督が離反、サバイバー運営は人員的な部分でも危機を迎える事になった。離脱した提督の名前はプライバシーの関係もあって非公表だったが、その中には松岡提督と花江提督は含まれない事は発表されている。
松岡提督はサバイバーのシステムが決まりつつある段階で意見が対立して離脱したのは有名で、花江提督も道化以前に運営との意見対立が間接的な理由となって離脱。花江提督の場合は阿賀野のスカウトもあった可能性がネット上で言われているが、阿賀野自身が否定した。
『様々な不正、グレーゾーンを含めた非合法手段、それを用いてコンテンツ業界を制圧しようとしたのが超有名アイドルであるのは――まぎれもない事実です。コンテンツ業界のディストピアを作り上げた元凶を裁く事、それが今の私達の目的です』
ガレスは過去にソロモンとして潜入調査を行ってきた事も公表し、それが姑息な手段であるとも告白した。結局、自分も超有名アイドルを非難しつつも同じ事をしていたと思い知らされたのだ。
『今度のランカー王決定戦は、そう言った意味でも超有名アイドルに対する恨みや復讐の為に行う物ではなく、コンテンツ流通の新たな可能性を見せる為のレースとして開催します……』
日本の超有名アイドルによってコンテンツディストピアと言う単語を世界へ配信する事になってしまった事、それを取り消す事は不可能だろう。しかし、それを広めてしまった事に対する罪滅ぼしは出来るはずだ。
『一度失墜してしまった日本のコンテンツを復活させる事……クールジャパンの再生、それをARゲームで実現させる。それが我々、パルクール・サバイバー運営の道化と言う部分に関する罪滅ぼしにもなります』
その後も落ち着いた口調でガレスは会見を続けた。しばらくして質問の場を設け、そこでも超有名アイドル商法に関する質問が相次いだ。
『私自身もアイドルに憧れて、芸能界へ足を踏み入れました。しかし、現実は甘い物ではない。それは何度もネット上で知っていました。それでも、実際に芸能界を目撃した事でどのような場所だったのか理解できました』
『だからこそ、皆さんもパルクール・サバイバーを一度でも見ていただいて、それから我々の行おうとしている事を見極めて欲しいのです』
記者会見は1時間ほどで終了し、特に大きな混乱はなかった。会見後はネット上でネガティブ勢力がネット炎上を狙って姑息な手段を使うのだが、それらは全てガレスにとっても把握済みであり、彼らの作戦は失敗に終わった。
5月26日午前10時30分、データの転送及びコピーも完了し、花澤提督は再びシステムのセキュリティを起動して、サーバールームからは出ていく。
「ここに記されているのは闇のアカシックレコード。超有名アイドル商法の闇を記し、表舞台からは抹消されたデータでもある」
花澤提督には闇のアカシックレコードに関して思う所があるのだが、なりふり構っていられない事情もある。
ここに記されている記述、それが一連のパルクール・サバイバーのフィールドで行われた事件の全貌を知る上でも、非常に重要な役割を持っているからだ。
そして、自分が過去に書いていた小説である光のアカシックレコード――ARガジェットやランニングガジェット、パルクール・サバイバーの元となったシステム、それと組み合わせることで分裂したデータは完成する。
「世界線とも言われた物語、それが分離したアカシックレコードを読み解く事で完成する」
花澤提督は、超有名アイドル勢がどのようにしてアカシックレコードに触れたのかどうかは二の次、優先するべきは2つのアカシックレコードを解読する事だった。
「どれが正義で、どれが悪なのか決める事は出来ない。それは、見る人間によって価値観が違うからだ」
花澤提督は、当たり前のことだが自分のアカシックレコードがすべて正しいとは全く思っていなかった。
同日午前11時、さまざまなニュース番組がパルクール・サバイバーによって取り上げるようになり、この光景にはパルクール協会の方も困惑している。
「サバイバーは実際のパルクールとは全く違う。ガジェットを使用するという地点で本来の趣旨とはかけ離れている」
協会スタッフは、以前からの主張を繰り返す。彼らは、サバイバーのようなARゲームもパルクールでまとめられてしまう事に拒否反応を示しているのだ。
【まるで、超有名アイドル商法は3次元アイドルだけ……と断言していた時代と似ているな】
【新しい物が出てくると、大体がこうなるだろうな】
【ネットを炎上させようという勢力は、自分達が目立ちたいだけと言う理由が大半だが、もっと別の理由があるのだろうか?】
【ああいう勢力が日本に存在する限り、コンテンツ市場を変えるのは難しいだろうな】
【ブラックファンの存在か。やはり、ああいったファンを排除する事が最善の道なのか?】
【光だけ、闇だけと言う事は不可能だろう。朝と夜、表と裏……こうした関係がある限り、ブラックファンの問題は何度も繰り返されるだろう】
【悲劇が繰り返されれば、いずれはARガジェットが大量破壊兵器へ転用されるような可能性も――】
【そうした発想だけはしてはいけない。現実の世界にデスゲームは必要ない】
ネット上のつぶやきでは、パルクール協会がサバイバーを認めない事情には色々な大人の事情が関係しているとも指摘している。そして、それらを解決する手段は存在するが、実行に移すのも難しいとも言われている。
【意見の統合をするのは簡単だろう。しかし、それを強大な力で従わせるのはディストピア化した超有名アイドルと一緒だ。そうした力を使うのではなく、対話と言う手段を利用する事が求められているのかもしれない】




