第22話:リアルチートの正体―ラウンド2―
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2015年5月9日午後11時41分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
5月6日午後3時30分、秋葉原にあるアンテナショップへ到着した私服姿の中村提督だったが、カバンの中身は突如として現れた佐倉提督によってすり替えられていた。
カバンに入っていたUSBメモリの中に入っていた動画、それは黒豹の人物に変装した加賀が映し出されていた。
『私の名前は加賀……といっても、これを見ているメンバーに自己紹介は不要かもしれないわね。私は松岡提督、花江提督とは別の可能性からアカシックレコードを変えようとしているから』
「彼女が阿賀野菜月とも違う勢力に所属する人物、加賀―」
白衣姿のオーディンの方は落ち着いているようにも見える。周囲の提督、中村提督も驚いている中で彼だけ落ち着いているのが逆に不自然にも見えた。
松岡提督、花江提督が元サバイバー運営なのは有名な話になっている。その一方で、加賀に関しては一部の人物しか知らないというマニアックな話題となる。
加賀と言えば、その相方として赤城もいるはずなのだが―彼女の姿は道がないでは確認できない。
「オーディン、こうなる事は既に織り込み済みとでも言いたそうな―」
「そこまではこちらも予測はできない。例え、アカシックレコードの予知があったとしても万能な力でもなければ、ましてや超能力ではない。そこまで便利な能力とは違うだろう」
『―今回、少し強引な手を使って運営へ接触を試みているけど、それだけ事態は切羽詰まっている証拠よ―』
「ならば、あの時に姿を見せた提督は誰だ? 向こうは自分を知っているように思えたが、運営側の提督ではないのか」
「こちらでは、アンテナショップに集まっている数人以外はいないはずだが―コスプレイヤーと見間違ったのではないか?」
『その為に、本来であれば協力関係を組まないような人物に条件を提示……それを向こうが同意する形で協力してもらった』
「あの時の提督が、加賀の協力者? だとすれば、赤城か?」
「赤城は元運営ではない。今でも運営の協力者……阿賀野のような勢力と組む等は考えられないだろう」
中村提督とオーディンの議論が続く中、映像の方は再生が始まっていた。
『本来、運営に持ち込まれる予定だったUSBメモリ、あれにはある勢力の機密データが入っていた―』
「ある勢力だと?」
オーディンの方が何かに反応したかのように、初めて驚いた。おそらく、彼は本来送られてくるデータに関して何かを知っている可能性がある。
『アカシックレコードではネット炎上勢、要するにまとめサイト管理人と言えば分かるか。ネット上で見かけるアフィリエイトが貼られている系統のサイト、あれが全ての元凶と言っても過言ではない』
「ネット炎上勢、それが真の敵だと言うのか?」
中村提督は加賀の話す事に対して半信半疑という状態になっている。一方で、その他の提督は話がついていけない状態であり、それぞれの作業を始めている人間もいた。
『彼らはタダ同然の情報を意図的に改ざんし、ネットを炎上させる事で自分の存在感をアピールしようと言う勢力。それによって二次被害が出ようとお構いなし……こうした勢力の存在を懸念した蒼空かなでは、ある決断をした』
一方の加賀は淡々と用件だけを説明し、感情的になる事を避ける。しかし、中村提督には加賀も若干だが感情的に話している事が映像からも把握できた。
『炎上ビジネスが世界中に展開し、それに超有名アイドルが便乗して無尽蔵の利益を得る前に……炎上ビジネスその物を根絶する、と』
この話を聞いた一部の提督勢、オーディンは不可能だと思い始める。超有名アイドルファンと政治家が手を組んでいると思われる話自体はネット上にもあるのだが、それが事実だと証明できたケースは出てきていない。
それだけではなく、超有名アイドル勢が無尽蔵の利益を得る為に炎上ビジネスに便乗するという話も飛躍しすぎている。自分達にとっても不利益な可能性のあるネット炎上、それにタダ乗り同然で便乗出来る物なのか、と。
「ただでさえ、超有名アイドルはここ最近のニュースで大きく取り上げられ、タダ同然でCDの宣伝が出来るとファンも便乗してネットに情報拡散をしている。しかし、こうしたやり方に異論を唱え始めているメディアも、一部で存在する事は事実だ」
この件に口を開いたのは、中村提督だった。オーディンが口を開いてもおかしくない話題だが、何故か彼は沈黙を守っているままだ。
「こうしたブラックファンの存在は、いずれ日本にとっても不利な状況を生み出すのは避けられない。2020年に行われるスポーツの祭典でも、開会式に超有名アイドルを投入すると言う話が議論され、国会でも承認されようとしている」
「待ってくれ、その話は初耳だ。もしかして、それはブラックファンが流した偽ニュースではないのか?」
中村提督の話に横槍を入れたのはオーディンである。彼は、今の話が超有名アイドルのブラックファンが作った偽情報ではないか、と疑問に思っていた。
「このニュースだ―」
中村提督は加賀のメッセージ動画を途中でストップし、別のブラウザを立ち上げて該当ページをオーディンに見せる。それによると、超有名アイドルが日本政府の行う公式祭典等で無料出演可能という法案が審議されている―というニュース記事が掲載されている。
「この新聞社は……まさか!?」
オーディンもネットの記事を確認し、大手の新聞社が取り上げている事に驚く。これがスポーツ誌経由やゴシップ同然の中堅会社だったら利益を稼ぐ為のゴシップとピンハネする事は可能だろう。
しかし、記事に書かれていた新聞社の名前は大手新聞社。なりすましや偽物も考えたが、他の提督がテレビを付けた所、これに関連したニュースが取り上げられているので、ニュース自体が真っ赤なウソと言うのはあり得ないだろう。
「この記事は確かにネット上でも話題になっている。しかし、この映像が合成過ぎる。例の演説に割り込んだ人物の映像、あれも切り張りが雑過ぎる印象だ。まるで、事態の急変に対応しきれていない」
オーディンが冷静に判断し、この映像はガレスの会見に横槍を入れてきた黒豹の人物と同じ、雑な仕上がりでも信じる人間が拡散してくれると狙った物だろう。
同日午後3時40分、中村提督は改めて止めていた動画を再生する。そこには超有名アイドル商法に対する不満、彼らが今までファンを投資家としか見ていなかった事、その他にもさまざまな不満をぶつけている。
「茶番だな。これ以上は有力情報も得られな―?」
これ以上は加賀の一方的な話に付き合う必要性はない―そう考えていた中村提督だったが、ある一言を聞いて何かを感じずには居られなかった。
『超有名アイドルが日本限定だからこそ、リアルチートに近い売り上げを記録している。これを単純に超有名アイドル商法やお布施と言う言葉にまとめられるのか? おそらくは、全く違う。我々は阿賀野菜月とは違う結論に至った』
彼女の発言内容に、何と阿賀野菜月の名前が出てきたのである。しかも、彼女とは違う結論に至ったとも語っている。
『阿賀野菜月は超有名アイドル商法と利益至上主義、そこに問題があると考えている。しかし、花澤提督は超有名アイドルの存在そのものが世界線を歪め、第4の壁に存在する超有名アイドルの事件に影響したとアカシックレコードで書き記している』
「第4の壁―そんな物は存在しないと思っているが」
中村提督は加賀の話に出てきた第4の壁と言う単語を気にしていた。そして、花澤提督がアカシックレコードに関係していた事も加賀の発言で初めて知った。つまり、全ての鍵を握っているのはアカシックレコードの所在を知っている花澤提督になる。
「第4の壁、ネット炎上勢力、超有名アイドル商法―まさか、あの国会で議論されている話は別世界の国会と言う事か」
オーディンは右手で口を押さえながら、ある結論を発見する。確かに、偽物の記事だったとしても他の世界で起きた出来事とすれば、嘘とは言えなくなる可能性はある。
同日午後3時50分、北千住で情報収集を続行していた加賀は佐倉提督から例の作戦は成功したと報告を受け取る。
「―そうか。アレは入手できたのか」
『まもなく北千住に到着する。アンテナショップで落ち合おう』
用件のみを手短に報告した佐倉提督は、南千住駅で敢えて降りてアンテナショップへと向かう。北千住駅からの方が目的地に向かうには都合が良いのだが、南千住の方がさりげなく近いというのがある。
それとは別に、他の勢力が例の物を狙ってくるとは限らない。そうした経緯もあって、南千住駅で佐倉提督は降りた。電話に関しては電車を降りてからなので、マナー違反ではない。
南千住駅を降りた佐倉提督はカバンを大事そうに抱え、目的地へと向かう。その時だった。何と、超有名アイドルのブラックファンが襲撃してきたのだ。しかも、持っているガジェットは新機種のゲームで使用されるソード型、佐倉提督のガジェットと比べると性能は一段下回る。
「そのかばんの中身を渡してもらおう。それに入っている物を、我々は把握している」
黒魔術師を連想させるコスプレの男性が、佐倉提督のカバンを要求してきた。彼らの言う『把握』とは、おそらくはすり替えた方の中身だろう。
「そう簡単に物事が運ぶかな?」
佐倉提督は、笑みをこぼしながら全速力で走り出した。彼女のブーツはパルクール・サバイバーでも近日解禁予定のホバーブーツで、スピードよりもスリップ等を防ぐ意味で用いられる。
このブーツはホバリングで移動可能なシステムだが、一方で飛行可能なガジェットをパルクールで扱うのは反則だという意見もあった。その為、ホバリング可能な時間は1回の発動に付き30秒、最大3回と言うリミッター付き。
しかし、そのリミッターはあくまでもサバイバーのルール内、他のARゲームやガジェットの使用許可が出ているエリアでは制限がない。
「何て奴だ! 追いつける気配がしない」
「あれは浮遊能力が追加されたブーツだ。迂闊だった―」
増援を呼ぼうとも考えたが、あのスピードでは追跡できないだろう。しかも、ここは商店街付近と言う事もあって大型ガジェットは使用できない。
同日午後3時55分、佐倉提督がアンテナショップの前に到着、その前で待ち構えていた加賀は佐倉提督の持っていたカバンを受け取る。
「ご苦労だった。例の件に関しては、こちらでも調査しておく」
「あの提督は、どう考えてもサバイバー運営や他のガーディアンと雰囲気が違う。第3勢力の変装とは信じたくないが」
佐倉提督は他にも言いたい事があったが、周囲を見回した後で別の場所へ向かってしまった。
そして、加賀の方もカバンを開いて中身を確認する。中に入っているのはUSBメモリが複数個である。それに対し、すり替え先のカバンのメモリは1個だけ。どう考えても重量で気づかれる可能性はあった。
「赤城、これをサバイバー運営本部に運んでくれ。大至急だ」
加賀はUSBメモリの1個だけを引き抜き、それ以外を全て運営本部へ運ぶように赤城へと指示する。
「輸送任務ですか? 全く、人使いの―」
「そんな事を言うと、近くの春雨サンドのお店、教えないが―」
「行きます! 行かせてください!」
赤城を釣る餌は単純明快すぎる。それを承知の上で、加賀は赤城とコンビを組んで今までもやっていた。
しかし、松岡提督及び花江提督が離脱した段階で、加賀は思う所があってサバイバー運営を離脱、その後はフリーとしてアカシックレコードを独自に調べている。
同日午後4時、加賀は抜き取ったUSBメモリのデータをタブレット端末に表示、それを蒼空かなでに見せる。それを見た蒼空は衝撃のあまりに言葉を失う。
「これが、あなたが最も嫌っていた存在―リアルチートよ」
リアルチート、それは人類を超越した存在とされている。別のアニメやゲームでは新人類等と呼称されているだろうか。
「3年前の幻影…」
蒼空には思う所があった。超有名アイドルは作られたリアルチートである事は既に分かっている。そして、ガンシューティングで初心者狩りを繰り返していた人物も―。
それからさまざまな勢力が動き出し、ランカー王決定戦の出場権を巡る争いは激戦区と化していた。
数日の間は強豪が様子を見る事もあれば、超有名アイドルのブラックファンがレース妨害を仕掛けるような事もあった。
「超有名アイドル勢を駆逐する為の切り札、まさか赤城が持ってくるとは予想外だったが―」
緑髪のツインテールに白銀の提督服姿というガレス、彼女がタブレット端末に表示していたのはブラックファンのリスト、更にはネット炎上勢力の活動しているブログ、つぶやきサイトのアカウント各種、なりすましが疑われる各種情報である。
「これらも全て、アカシックレコードにあったのが驚きだが―第4の壁という噂、これで実証されたな」
赤城がもたらした情報、それは個人情報保護が叫ばれる中で集められたのだが、それらは特定のサーバーに保管されていた物だという話である。にわかには信じられないが。
5月26日、花澤提督は県内某所にある太陽光施設に足を運んでいた。奥の部屋に通された先にあった物、それは大量のオンラインサーバーである。このサーバーは大手イラストサイトの物であり、特別な許可をもらってサーバールームを調べていた。
「アカシックレコード、その全貌は―」
プラチナのラインが目立つ提督服、これは花澤提督の特注であり、この服を着るケースはめったにない。
「時は来た! 今こそ、超有名アイドルが裁きを受ける時―」
花澤提督の目、それは獲物を狙うかのような鋭い物を感じられる。花澤提督の真の狙い、それはアカシックレコードなのか?




