第22話:リアルチートの正体―ラウンド1―
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2015年5月9日午後11時37分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
5月6日午後3時10分、ガレスの記者会見放送が途中で中断した辺りの事。秋葉原へ向かう電車が突如として停止したのだ。しかも、この模様は中継されている。
これに関して、完全な誤算と考えているのは上条静菜だった。コンテンツガーディアンのなりすまし自体は午前中の事件で表面化したのだが、ここまでの事を行うとは正直に言うと予想外。
「どの勢力がなりすましを行っているのか分からないが、放置するのは危険か―」
コンビニ前で淹れたてコーヒーを飲んでいた上条、事件に関しては記者会見放送の中断から別のニュースチャンネルを回した所で気が付く。コーヒーはタンブラーに入れているので、こぼれる心配はない。
それを踏まえ、上条は即座にレーヴァテインへ乗り込む。目的地は仲御徒町と秋葉原の中間地点である。
《未確認機 急速接近中》
モニターに表示された未確認機情報、上条が背後を振り向くと、そこにはロボット型のARガジェットが複数立ちふさがった。
《モード移行……ARバトルフィールド形成中》
「待って! バトルフィールド形成って―?」
上条が周囲にバトルフィールドの形成が行われている事に驚く。何と、上条に対して格闘ゲームで言う乱入を仕掛けてきたのである。
これによって、上条は全てのロボット型ARガジェットを片づけないとフィールドからの脱出は不能、目的地へ向かう事も出来なくなった。
『上条静菜……AI事件の恨み、ここで晴らさせてもらうぞ!』
どうやら、相手は過去にAI事件で上条へ因縁を持っている連中らしい。一部で残党が存在し、それらが超有名アイドルやBL勢に手を貸している事も把握していたが―ある意味で想定外の行動を取り始めたと言える。
「どうやら、ランキング荒らしの正体を含めて、操っている元凶を確かめる必要があるみたいね」
上条の方も目的を変更し、目の前にいるAI事件の残党を片づける事を最優先事項とした。
レーヴァテインはスナイパー仕様ではなくフルアーマー仕様へとチェンジし、重装甲、ガトリング、十連装レーザー爆雷、ガンランス等の武装も充実している。
「邪魔をするのであれば、どの勢力であっても容赦はしない。私はスナイパー。依頼に従うだけの―」
そして、上条は目の前に迫ってくるARガジェットの大群を次々と装備している重火器で撃ち落とす。迫ってくる敵はガンランスで串刺しにするのだが、ランス部分はビームで展開されている為に実際は貫かれた《演出》だけで、搭乗者には全く影響を及ぼさない。
同日午後3時12分、中村提督は電車の中に閉じ込められた状態になっており、脱出する事も出来なくなっていた。一般乗車客が混乱している訳ではないのだが、この状況を実況し始めているのも原因の一つである。
それに加えて、電車のドアも手動で開けられないという事があった。下手にドアを開けて、コンテンツガーディアンの攻撃を受けてしまった場合にどうなるか。
「このままでは、電車に閉じ込められた状態でガーディアンに―」
中村提督も万事休すとなっていた所、そこへ姿を見せたのはブレードタイプのガジェットを装着したランスロットだった。
ランスロットの装備はランニングガジェットとは大きく異なる。その理由の一つは、彼がパルクール・サバイバーへは参戦していないというのもあるが―。
更に付け加えれば、彼が持ちだした装備は通常時に使用するシールドブレードを含め、それ以外にも脚部にソードブースター、両肩にもソードビット、胸部にはソードアーマーという具合に全身が刃と言う装備となっている。
「これ以上、好き勝手にはさせない!」
その一言と同時に、脚部のソードブースターを射出、その一撃は複数のダミーガーディアンを一撃で消滅させた。どうやら、一部のガーディアンはCGで出来たダミーのようだ。
ダミーの存在を確認したランスロットは、両肩のソードビットを展開、分離した無数の剣がダミーガーディアンを消滅させていく。残るダミー以外は2人、どうやらダミーを操っているのはこの人物達らしい。
「あれだけのガーディアンを、たった1人に倒されるとは―」
「ここで撤退をすれば作戦失敗は避けられない。もう少し時間を稼がないと」
2人は時間稼ぎの為に足止めを指示されたらしい。誰の足止めなのかは明らかではないが、ランスロットが電車の方を振り向いて、何かを察した。
「隙あり!」
突撃装備のガーディアンがグレネード弾を発射、その爆風でランスロットは僅かに怯んだ。それを見たもう一方のスピアを構えたガーディアンがランスロットに向かって突撃、見事にバイザーへ直撃する。
【システムエラー発生】
「こんな時にシステムエラーか―」
ランスロットはメットを外し、その素顔を見せる。それを見たガーディアンは言葉が出ず、後ろ姿しか見えなかった中村提督もガーディアンの驚き具合から、何かを感じた。
同日午後3時13分、上条は未だに電車の止まったエリアへ向かう事が出来ず、別のエリアで足止めされる。距離としては、あと100メートルと迫っているのだが―。
「馬鹿な―ランスロットの正体が、奴だと言うのか?」
何処かのカメラが拾ったと思われる画像を確認した上条は、ランスロットの正体が自分の想定外とも言える人物だった事に驚きを隠せない。
黒髪のセミロング、黒い瞳の人物、顔の形等からして男性なのは明白だろう。彼の正体を直接見たガーディアンのメンバーは、石化でもしたかのように動きを止めている。
「信じられない―」
「こんな現実があっていいはずがない!! 嘘だと言って下さい」
沈黙の後、2人はランスロットの説得という―別の意味でも考えられないような行動を取る。それに加え、電車内の乗客にもガーディアンと同じような反応をする人物が数人確認できた。
「俺を―知っているのか?」
ランスロットも頭に衝撃を受けたかのような状態で、一種の錯乱状態に陥っている。これが向こうにとっては攻撃のチャンスなのに、攻撃してくるような気配は全くない。
「知っているも何も、貴方は伝説のアイドルグループに所属していた―」
スピア装備のガーディアンが何者かの狙撃を受けたかのように前のめりに倒れる。倒れたガーディアンの表情は『どうして?』と言ったような疑問を持っているようでもあった。
「アイドルグループ……超有名アイドルは敵、ネット炎上勢力は根絶するべき存在―」
ランスロットの方は錯乱状態が続き、まるで何者かのコントロールを受けていたかのような表情をしている。あるいは、記憶が戻った可能性もあるのかもしれない。
「超有名アイドルはコンテンツ流通の為にも斬っても切れない存在! 根絶をするべき存在ではありません」
突撃装備のガーディアンは、彼を知っているかのような口調で説得を続ける。しかし、錯乱状態のランスロットにはその言葉も聞こえていない。
「俺の敵は―超有名アイドルではないのか?」
「違います! 倒すべき勢力はパルクール・サバイバー運営。彼らの本当の目的は―」
号砲が響く。正確にはサプレッサーを外したと言うべきか。突撃装備のガーディアンもその場に倒れた。倒れたガーディアンには血の跡等はない事から、ARウェポンの狙撃である事は分かる。
しかし、ランスロットが周囲を確認する頃には狙撃した人物の気配は消え、周囲に展開されていたARフィールドも解除されていった。
フィールドの解除に伴い、ランスロットもそのまま居続ける事は線路への不法侵入に当たる。その為、少しふらつきながらもオートパイロットシステムを起動させ、安全なエリアまで避難する。
『お待たせをいたしまして申し訳ありません。まもなく、発車いたします―』
車掌のアナウンスが流れると、乗客の方もほっと一息といった具合になる。中村提督の方も何とか侵入者を排除してくれた事で、目的地へと向かう事が出来る事に安心していた。
「それにしても、あのランスロットの正体―ガレスに尋ねる必要があるかもしれない」
同日午後3時15分、上条はメットをしていないランスロットを目的地へ向かう最中に発見する。しかし、目的地の騒動は既に終わっており、自警団による現場検証が行われているだけだ。
「やはり―そう言う事か」
上条は、ふと気になる事があってレーヴァテインから降りる。降りた後にはコクピット内に置いてある黒いコートを取り出し、それを上に着用する。
「桜坂玲、どうして超有名アイドルを駆逐する側に―」
「その話はしないでくれ! 今の自分は桜坂ではない……ランスロットだ」
桜坂玲、元有名男性アイドルグループのボーカル担当。人気の方も決して低い方ではなく、ネット上ではサマーカーニバルよりも実力があるとも言われていた。
しかし、AI事件で彼の所属していたアイドルメンバーがマッチポンプに加担していた事が原因となり、グループは解散、メンバーは行方不明となってしまった。
その後の足取りは不明だったが、パルクール・サバイバーが始まった辺りで噂になっていたランスロットと呼ばれるランカー、彼が桜坂にそっくりとも言われている。
「それに、貴様はレーヴァテイン……上条静菜だな!」
そして、ランスロットは右手では顔を押さえつつ、逃げる態勢に入っている。上条に対し、AI事件におけるトラウマでも思い出したのだろうか?
「そうだとしても、今のお前をどうしようと言う意思はない」
上条は単に話を聞きたいだけであり、抵抗の意思はないとアピールをする。しかし、ランスロットの疑いは消える事がなかった。
その後、交渉を続けても無駄なやり取りの繰り返しになると判断した上条は、今日の所は諦める事にした。
同日午後3時20分、秋葉原のアンテナショップに姿を見せたのは中村提督だった。本来であれば、もう少し早いタイミングで到着するはずだった。
「ガレスに伝えるのも考え物か。まずは、任務を終わらせてからに…」
そして、中村提督がアンテナショップに入ろうとした矢先、その目の前に姿を見せたのは見かけないガジェットを装着した提督だった。
その正体は佐倉提督なのだが、中村提督はあった事が一度もない為に誰かは気付かない。一方で佐倉提督は中村提督の顔には見覚えがある。
そうした観点から、佐倉提督が取った行動とは―中村提督も予想していない物だった。
「中村提督、許せ―」
目の前から提督が姿を消したと思ったが、気のせいだと中村提督は判断する。そして、手に持ったカバンを再確認してアンテナショップへ入店する。
同日午後3時25分、アンテナショップのカウンターに事情を説明し、奥のエリアへと入った中村提督の前には、意外な事にオーディンの姿があった。
「何のために秋葉原に来た? こちらは色々と大変だったと言うのに―」
中村提督が遅れた理由をオーディンに説明しようとしたが、向こうは何故か把握済みらしい。
「実はカバンの中身が入れ替えられているという話を聞いて、わざわざ駆けつけたのだ」
オーディンの話を聞き、慌てて中村提督はカバンの中身を確認する。中身を確認すると、そこにはUSBメモリが1個入っているだけだった。
「これで合っているのか?」
中村提督も中身に関しては知らされていない為、オーディンに確認を取る。そして、特に問題はないとお墨付きをもらった。
同日午後3時30分、オーディンがUSBメモリをダミーパソコンに接続すると、画面に表示されたのは黒豹の人物―ガレスの放送を妨害した張本人が現れた。
『これをここに持ってきたという事は、真の黒幕に気付いたという事ね―』
パソコンからは女性の声、妨害放送の時とは全く違う声に中村提督は驚く。オーディンの方は提督たちとは対照的に驚く表情すら見せない。
『ここまでの事をしなければ、第3者に見破られる可能性もあった。それ程に切迫していると言ってもいいわね』
そして、黒豹の人物はマスクを外す。そのマスクを外した姿を見て中村提督は驚きを隠せないようだった。
「加賀だと? これは、一体どういう事だ!」
中村提督が驚くのも無理はない。画面に映っている人物、ロングヘアーに近い髪形、紫色の提督服、懐中時計のペンダント、それら全ては彼にとっても印象に残る人物である事は間違いない。
『私の名前は加賀……といっても、これを見ているメンバーに自己紹介は不要かもしれないわね。私は松岡提督、花江提督とは別の可能性からアカシックレコードを変えようとしているから』




