第21話:最後の黒幕―ラウンド1―
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2015年5月9日午後11時56分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
5月6日午後1時30分、ホーリー記念のスレイプニールが勝利したというニュースとは別に、あるニュースがネット上で話題となっている。
《超有名アイドル大手、マッチポンプ容疑で家宅捜索へ》
ここで言う超有名アイドル大手とは、秋元のサマーカーニバル及びサマーフェスティバルではない。もう一つの超有名アイドル大手、午前のニュースで薄い本騒動が報道された方の事務所である。
【何故、今更この事務所が家宅捜索を?】
【午前中のニュースを見なかったのか? ヴィジュアル系ファンによる自作自演騒動を】
【あの事件は超有名アイドルのCD売り上げを伸ばす為の物じゃないのか?】
【そこまで単純だったら、この事務所が家宅捜索を受けるはずがない】
【お家騒動が昔あったようだが、そっちとも違うのか?】
【結局、それを含めてマッチポンプ疑惑があると言う事だろう】
【遂に2大コンテンツ改革必須案件に踏み込む時が来たのか―もう片方の夢小説とブラックファンは自滅寸前だが】
一連のタイムラインを見て、笑みを浮かべているのは黒髪のショートカット、貧乳と言う女性である。現在は白い改造提督服に右目には眼帯―正確には眼帯型の高性能ガジェットとも言える―を身につけている。
「どうやら、もう一人の元凶が姿を見せたようだな」
彼女の名は佐倉提督、過去に孔明と名乗っていたがガーディアンとは別の勢力によって釈放されていたのだ。ただし、それには『司法取引』と言う名の条件を受け入れる事になる。
5月4日、この日は孔明がコンテンツガーディアンに拘束された日でもある。その時に様々な情報をガーディアンへ提供、これによって超有名アイドル勢の違法ガジェット工場等を発見出来た。
「お前がチート勢力ではない事は調査済み……本当のクライアントを言え!」
白い提督服を着た人物が、椅子に座った孔明に対して要求する。孔明の方は拘束と言っても手錠等がされている訳ではない。
「貴様はコンテンツガーディアンではないな。一体、何が目的だ?」
孔明は彼の正体がコンテンツガーディアンではない事を見破る。コンテンツガーディアンの場合、エムブレムにすかしのようなシステムを組み込んでおり、これをあるシステムで透視する事で偽者かどうかを判別する。
しかし、この人物は偽物のエムブレムを装着しておらず、明らかに変装をする気がないようにも見える。
「私の名は……?」
男性提督が話そうとした矢先、何者かの足跡がする。これに気付いた男性提督は即座にステルス迷彩のスイッチを入れ、近くにあった未使用の机の下に隠れる。しかし、隠れようとしてもガジェットの大きさ的な都合で完全に潜り込めた訳ではないが。
「今、誰かの声がしたが……面会の時間でもないのに、どういう事だ?」
部屋に入ってきたのは、見回りと思われる一般兵だった。彼はガーディアンの特注アーマーを装着しており、その外見は機動隊等を思わせる。
「気のせいよ。隣の人がうるさいとか―その辺りじゃない?」
孔明が言う隣の部屋をチェックする為、見回り兵は孔明の部屋を出ていく。しばらくして、この見張り兵は隣の部屋にいた人物に気絶させられてしまうのだが―。
「お手数をかけて申し訳ない。自分の名前を名乗るよりも、所属を明らかにした方がよさそうですね」
時間の方もないので、自己紹介を省略して手短に済ませようとする。その為には―と彼が提督服のポケットから取り出した物、それは名刺だった。紙の名刺と言う訳ではなく、プレートタイプの物である。
「なるほど。その提督服を見て納得した」
孔明は何かに納得したかのように、彼に同行する事にした。それを隣の部屋で盗聴していた人物、それは内山提督の部下である。彼らは高性能の情報収集能力を持っており、そのスキルは国家機密を持ち出せるほどだ。
ただし、彼らの技術は日本国外では作動しないという仕様の為、システムの輸出等は事実上不可能と言われている。
同日午後2時、脱出に成功した男性提督と孔明は小菅にあるイベント会場と思わしき場所に到着した。数日後、この会場では超有名アイドルの同人誌即売会が行われる。その為か、色々な人たちが入り乱れる状況となっているのだが―。
「ここで良いでしょう」
男性提督はイベント会場から少し離れた倉庫の前に立ち、そこで何かのロックを解除する。倉庫のロックが解除されると、そこから姿を見せたのは大型のアンカーをモチーフとしたシールドと各種アーマー、つまりARガジェットである。
「これは―ランニングガジェットではなく、ARウェポン?」
ARウェポン、ARガジェットと似たような拡張現実を利用した武器であり、ARゲーム専用の装備でもある。この武器にはビーム兵器なども存在するが、それら全てに殺傷能力は一切ない。
男性提督がARウェポンを隠し持っていた理由も気になるが、これをどうしようと考えているかと言う部分も気になる。それを察知したかのように、男性提督は孔明にビームソード型のガジェットを手渡す。
「その通りです。これはARウェポン―今となってはクラシックと呼ばれる旧式ですが、その威力はあなたが考えている以上の物を発揮するでしょう」
これを渡して彼は何をさせようとしているのか、孔明にはある程度の察しはついていた。それは、黒幕のあぶりだしである。
「これを使って秋元をあぶりだすのかしら?」
「違います。秋元は既に捕まっているという情報が拡散していると思いますので、別の勢力をあぶり出していただきます」
男性提督は秋元以外の勢力と言いきった。一体、誰を―。
「もしかして、その勢力は……」
「察しが良くて助かります。あなたのクライアントでもあるBL勢力と言えばお分かりでしょうか」
男性提督の狙いはBL勢力である。しかも、このイベント会場で行われる予定なのは男性アイドルグループなのだが、彼が狙っているのはそちらではない。
その後、佐倉提督と名乗り、その他の勢力に関して攻撃を仕掛けつつ、BL勢をおびき寄せると言う単独行動を取る事になる。
ネット上で度々流れる単独襲撃、それは間違いなく佐倉提督による物だった。しかし、その姿を正確に伝えられた人物は少ない。ネット上の動画も、別の映像に変化してしまうと言う状態であり、これが発見の遅れにつながった。
「なるほど―特殊な粒子がコーティングされた提督服か」
佐倉提督の着ている物、それはサバイバー運営やガーディアンにも流れていないルートで開発された服であり、この装備を実験する為という理由もあったようだ。
更に言えば、両肩にマウントされたアンカー型シールド、それは通常のビームアンカーとしてパルクール・サバイバーでも使用出来るだけでなく、その他のARゲームでもアンカーアーム等の利用法がある。
「それに加えて、パルクール・サバイバーと他のARゲームで共用可能なレベルのガジェットとは。これほどの装備が開発途中なんて―」
強大な出力を得たビームアンカーの一撃は、相手が重装備ガジェットでもロボットタイプでも一発で気絶可能だ。それに加えて、リミッターを解除すれば軍事転用可能なクラスの出力になるだろう。
「あの提督、どういう意図でガジェットを横流ししたのか―調べてみる必要があるみたいね」
ARガジェットの類は軍事転用禁止と言う事が言われており、過去にも表向きにはなっていない逮捕者は存在する。これほどの装備を開発する以上、リスクは向こうも承知の上だろう。
軍事転用禁止というルール自体は、アカシックレコードに古くから存在する。実際に動画サイトにはアカシックレコードを知り、その技術を再現しようと言うガジェットの試作型等も存在している。
何故、人は危険を承知の上でアカシックレコードの技術を得ようとしているのか? 佐倉提督は一つの結論に辿り着いた。
「BL勢力もアカシックレコードを探していた以上、そこから何かの利益になるような物が存在するのは間違いない」
そして、佐倉提督はアカシックレコードを探っていると思われる花江提督を探る事になった。




