第20話:ランカー王へのカウントダウン-ラウンド5-
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2015年5月10日午後11時45分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
5月6日午前12時、ホーリー記念はメンテナンス終了後の午後1時から行われるらしい。他のエリアは未だにメンテナンス中の場所もあるが、秋葉原は深夜辺りからメンテナンスを行っていた事もあり、作業は予定よりも1時間早く終わるようだ。
【ホーリー記念は阿賀野が出るらしい。既にポイントはランカー王のボーダーを越えているのに】
【ハードルを上げて出場者をある程度絞ると言うのか?】
【阿賀野はランキング1位のはず。むしろ、ボーダーを上げるとしたら20位の選手じゃないのか?】
【今、20位が厳しい事になっている。昨日に順位の入れ替わりが激しかっただろ?】
【午前中だけでも3回変わったアレか―】
【その影響で蒼空かなでも現在は22位。不正ポイントが検出と言う状況にならない限りは、入れ替わりが激しいのは変わらない】
上位よりも下位の順位が激しく変動し、こうした展開もあって最終的に上位20名が確定するのは直前まで分からないのだと言う。
【レース開催は末日ではない。5月28日になっている】
【つまり、タイムリミットは5月25日か。26日には上位メンバーの選出、27日は予備予選、28日が本レースか】
【予備予選は本レースとはコースが異なるらしいが、どちらにしても厳しいレースなのは間違いない】
【そう言えば、予備予選のボーダーラインは分かるか?】
【おそらく、25位から50位辺り+ワイルドカードだろうな。仮に蒼空が上位メンバー選出されなくても、ワイルドカードは確定だろう】
【蒼空の知名度は、あのレースでうなぎ昇り。人気投票を取ったとしても、不正票なしで1位を取れるのは間違いない】
【ワイルドカードは投票で決まる物ではない。投票で決めたら、不正票を無効にしても有効な組織票で超有名アイドルが選ばれるだろうな】
その後もつぶやきはホーリー記念の話題等で持ちきりとなった。
同日午前12時10分、赤いインナースーツ姿で登場したのは秋月彩だった。彼女のガジェットは調整中なのだが、何とかレースに出てポイントを稼ぐ為にも強行出場している。
「パルクール・サバイバーとパルクールは違う―」
秋月は、昨日遭遇した神城ユウマの言葉を思い出していた。
5月5日午前11時40分、北千住駅を出てレースの行われていた会場付近へ向かっていた所、何処かへと向かう途中の神城に遭遇した。
「あなたが秋月彩さんですか―」
神城の方は私服にサングラスと言う事で、これから帰るような流れでもあった。その状況で、秋月と遭遇する。神城の方も、秋月に会えるとは予想していない。
「確か、箱根の山の神…」
「今は山の神とは名乗っていません。それは、あくまでもネット上での話です」
秋月も山の神で覚えていたので、そちらの方が先に出た。しかし、テンプレではあるが山の神に関しては名乗っていない事を秋月にも説明する。
その後、本来であれば神城は帰る予定だったが秋月に付き合って喫茶店へ立ち寄る。テーブル席に置かれているのは、コーヒーとパンケーキ、カツサンドである。パンケーキは神城が注文した物だ。
「所で、話と言うのは?」
最初に切りだしたのは神城だった。秋月の方も、本来であれば別の目的があって北千住へやってきた経緯がある。
「あなたもパルクールの選手みたいだけど、どうしてアマチュアチームには所属しなかったの?」
秋月は神城が駅伝の選手ではなくパルクールの選手である事を把握しており、それを踏まえてアマチュアチーム等に所属しなかった理由を聞こうとした。
「箱根の知名度などもあって実業団からは声がかかりましたが、そちらの方があまりにも独り歩きしてしまって……」
神城は少しさみしそうに語る。パルクールの団体からも声はかかったのだが、大手とは程遠い小規模グループだった。仮に所属したとしても、自分の力を発揮できない場合があると考え、誘いを断った経緯もある。
「それから、パルクール・サバイバルトーナメントを知りました。後は、雑誌インタビュー等に載っている通りです」
神城から話す事は、この位らしい。駅伝の経緯は秋月も知っているし、後の事は雑誌で確認済みと言うのもある。話は聞けたが特に目新しい話題はないようだ。
「私も話した方がいい?」
秋月の方も何か話したいような気配だった。神城に対してのお礼のつもりだろうか。
「敢えて聞きたいとすれば陸上の選手を辞めた後に、パルクールを始めた経緯ですね」
神城がこういう事を切りだしてきたので、秋月が困惑してしまう。しかし、せっかくなので話す事にした。これで楽になるかどうかは別として。
「私がパルクールを始めたのは、ある日にサバイバーとは違うパルクールを動画で知ったから―」
「パルクール動画と言うと、アクロバット時代の?」
「そっちとは違う。海外での撮影ではなく、国内で撮影された物。アクロバット規制が入る前のエクストリーム―」
「エクストリームって、パルクール・サバイバーが参考にしたとされる…究極のフリーランニング動画の事ですか?」
「そのエクストリームよ。アレを見て魅了され、次第に陸上よりもパルクールの技術を求めた。その結果、ネット上でアップされたパルクール動画を…」
秋月の話を聞き、神城は何かを確信した。動画を見てパルクールに興味を持つという人物は見た事があるのだが、ここまでの事をするのは自分でも初めて目撃したと言える。
「まさか、あなたがパルクールを始めたきっかけって……動画からですか?」
「その通りよ。それから、ネット上で珍しいスポーツとして立ち上がったパルクール・サバイバルトーナメントを発見した。テレビで放送されているようなアトラクション番組よりも、自分が探していた競技だと―」
秋月の目つきは普通の人間とは違っていた。これは間違いなく、沼にはまると判断し、神城はアドバイスする事に。
「秋月さん、パルクールとパルクール・サバイバーは違います。同じと考えていると思わぬ所で怪我をする事になるかもしれません」
コーヒーとカツサンドを平らげ、神城はこの一言を残す。秋月の方は少しの間考え事をする。
「同じ事は蒼空かなでと阿賀野菜月にも言われた。サバイバーはパルクールとは全く別物と」
本来であれば、パルクール・サバイバーは別の名称になる予定だったのは有名な話である。パルクールとはかけ離れ過ぎている事にパルクールの団体も苦言していた事も有名だ。
「―サバイバーとパルクールを同じと考え、何のマニュアルもチェックせずにトライするのは危険と言う事です」
神城が言いたかったのは、格闘ゲームが一部要素で操作方法が同じだからと言って、技コマンドをチェックしないで挑むのは危険と言う事と似ている。
つまり、フォーマットは似ていたとしても実際の動作関係は、実際に触ってみないと分からないという事だ。
5月6日午前12時30分、秋月は秋葉原のアンテナショップで特殊なガジェットを発注していた。
「軽装から一気に重装備にシフトするのは危険とも言える。重量の変化は、運動性能等にも確実に影響するだろう」
アンテナショップの男性店員も、秋月のガジェット変更には驚いている様子だった。重装備と言ってもスタンダードに若干の装甲を足した程度である。それでも、軽装よりも20キロ以上は変化すると言う話も存在した。
「このガジェットは可変タイプ。ホバーボードからロボットタイプへと変形可能……それ位の事をしないと、あの人物には勝てない」
パルクール・サバイバーはパルクールとは違う性質を持っている。それは以前からも気づいていたのだが、神城の発言が彼女にランニングガジェットの重要性を再認識させる事にもなった。
同日午後1時、ホーリー記念が開始、このレースの模様はランカー王決定戦に撮っても重要なレースになると思われていた。
【一体、何が起こった?】
【ジャイアントキリングを超越する】
【ある意味でワイルドカードは決まったかもしれない】
【むしろ、あの人物はノーマークか?】
【これが、上位ランカーなのか】
15分後に1位となった人物、彼の使うガジェットはオレンジ色に量産機を意識した物、まるで花江提督を連想させるガジェットだった。
『ホーリー記念、トップでゴールしたのは―スレイプニールです』
実況では確かにスレイプニールと言った。これを聞いたネット住民は、衝撃のあまりに放心状態になったとも言える。
同日午後1時15分、爆音の激しいゲームセンターにいた上条静菜はレースの結果を見て驚きしかない。どう転んでも花江提督としか思えないガジェットが姿を見せた事も驚きだが、それ以上に阿賀野菜月や秋月彩と言ったランカーが出ているレースで、あっさり1位が取れるのか、と。




