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パルクール・サバイバー  作者: 桜崎あかり
第1部
3/57

第3話:夕立、動く

>更新履歴

2015年5月9日午後8時20分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。


バージョンとしては1.5扱いでお願いします。

 西暦2017年4月1日、ノブナガの一件もネット上で話題になっている中、蒼空かなでは最短ルート等を利用して北千住駅近辺に到着した。


 時計は午前11時30分を表示している。周囲が蒼空の姿を見て驚くような気配はなく、これが日常なのかと思わせる位にはパルクール・サバイバーに慣れてしまっている可能性もあった。


 あの場所から15分で到着した事に蒼空は驚くが、それだけレンタルしたガジェットの性能が凄い事の証拠なのかもしれない。


「この辺りで間違いはないが、それらしい姿は全く見えない」


 周囲の様子を見ていた蒼空だったが、バイザーには別のアラートが点灯している。彼自身が放置していた訳ではなく、マニュアルのチェックし忘れが有力である。そして、バイザーに表示されたメッセージを見て蒼空は別の意味でも驚いた。


《エネルギー残量低下中―アンテナショップ等で補給をして下さい》


「エネルギー切れ? このタイミングで」


 蒼空が周囲にアンテナショップがあるか、慌てて調べ始める。しかし、ナビを使用するにもエネルギーを消費する為、確実に残量が減っているのが現状だ。サイトの情報では太陽光を利用して補助電源に使用するエネルギーを常時充電していると書かれていたが―システムの故障だろうか?


「あの看板か?」


 ギリギリのタイミングでアンテナショップを発見した蒼空は、早速ショップへ駈け込んでエネルギーの補給をしようと店員に話しかけようとする。しかし、大型ガジェットと言う事もあるのでガジェットをパージしてから店内へ入る。そして、その店員からは意外な答えが返ってきた。


「ランニングガジェットを含めたARガジェットのエネルギー補給は、太陽光システムによって自動的に行われます。このエラー表示はレンタルガジェット特有の物ですね」


「レンタル特有ですか?」


「レンタルの場合、自動補給はされるのですが消費量が高い場合、補給が追いつかずにエネルギー切れを起こす事が稀にあります。こちらでガジェットの調整をしておきますので、別のガジェットをご使用ください」


 店員の説明を聞き、使用していた残りのアーマーを分離、その後にガジェットを店員に手渡し、用意してくれた別の汎用型ブースターとガジェットを装着する。大型ガジェットに関しては、汎用のパワードスーツを使って店員が充電専用のスペースへと持ち運ぶようだ。


「延長料金は特に発生しませんので、その辺りの問題はありません。このガジェット自体、ショップカスタマイズによる物なので―」


 店員も延長料金は発生しないと言っているので、用意してくれたガジェットの方は遠慮なく使用する事が出来る。しかし、前のガジェットと比べると機能的な部分では数段劣る可能性は否定できない。実際、先ほどまでのガジェットがワンオフ系に対し、こちらは量産型である。


 量産型ガジェットは致命的な不具合が発生しないという利点もある一方、ハンドメイドやワンオフと言ったガジェットには機能的な部分で難点が多い。


 アーマー装着後、先ほどのナビがリセットされているか心配だったので、現在のナビを立ち上げなおす。メモリーに関しては別扱いで受け取ったプレートの方に保存されているので問題はないらしく、再び設定すると言う事はないようだ。


「引き続き追跡を―?」


 蒼空がナビを再チェックしようとした際、ニュース速報が表示されていた。そこには有名ランカーの速報も出てくるのだが、その中でも注目度が大きいニュースは全く別の物だった。


《ノブナガ、1週間以上の沈黙を破ってパルクール・サバイバルトーナメントへ参戦か?》


 ニュースの閲覧数が多かったのは、ノブナガがパルクールへ参戦したニュース。その関連付けがされている記事には予想外とも言える物もあった。


「この人物は、あの時の―」


 蒼空が驚いたのは、別の記事に載っている写真の女性が先ほど遭遇した人物とそっくりだった事だった。


《パルクールプレイヤーか? 謎の女性ランナー出現》


 それとは別に話題だったのは、パルクール・サバイバー用のコースに現れた謎の女性ランナーだった。


「この装備で、パルクール・サバイバーに挑むと言うのか?」


 蒼空も自分の装備と比較して、写真の装備が尋常ではないと驚く。全裸で走れば警察に逮捕されるが、それとは別の意味でも危険であるのは間違いない。


 午前11時40分、チートプレイヤーを追跡していたガーディアンがプレイヤーを荒川付近へと追い詰める。プレイヤーの方はガーディアンに向かってハンドガンを撃ち続けるのだが、ガーディアンには全く効いていない。しばらくしてハンドガンは弾切れとなるのだが、ガーディアンの恐怖で弾数を把握していない様子が見て取れる。


「バカな!? ガーディアンのガジェットはチートだと言うのか?」


「こちらのガジェットがチートだとしたら、今頃あなたは消し炭……それ位の戦力差も分からない訳ではないよね?」


 プレイヤーの方はガーディアンのガジェットがチートだと疑うのだが、ガーディアンの方はそれを否定している。


「それ以上抵抗しても無駄よ。あなたはパルクール・サバイバルトーナメントのルールに違反した。それは揺るぎない真実―」


 ガーディアンの方はビームライフルを構え、チートプレイヤーを追い詰める。ガーディアンの方は威嚇と言う事でビームライフルを構えているのみで、実際に撃つような事はしない。


「ルールだと? 超有名アイドルファンを一斉排除するのがルールだと言うのか? それは魔女狩りと大して変わらないじゃないか!」


 ようやくハンドガンが弾切れだと気付き、弾薬を補充する。そして、再び連射するのだがガーディアンに効果はない。火力的には向こうの防御力を超えているはずなのに、ノーダメージなのは異常としか表現できなかった。


「超有名アイドル勢がやっている事、それはチート行為以外の何物でもないわ。チートによってランキングを制圧する事、それは営業妨害以外に他ならない。オンラインゲームのチートが問題視されているのは、こういう事なのよ」


 ガーディアンがプレイヤーに近づく様子はなく、その場でビームライフルを構えているだけだ。しかし、超有名アイドルファンは抵抗を続けている。どうやら、彼には降伏するような状態ではないようだ。


「チートの何が悪いというのだ! 超有名アイドルが日本経済を救った事は知っているだろう。その彼女達の人気もチートになると言うのか!?」


「芸能事務所の賄賂で買収された政治家が認めた教科書に踊らされているのね。それこそ、ネットデマに踊らされている勢力となんら変わりはない」


 プレイヤーは遂に開き直り、チートが正義であるとまで断言する。それに対し、ガーディアンはあまりにもテンプレの発言の連続に呆れており、反論する気すら起きない。


「買収だと? そんな事実はない! その事実は運営側が歪めた事実だと、超有名アイドルファンがつぶやきで拡散しているのを見たぞ!」


 2人の対話が続く。しかし、お互いに譲るような気配は全くない。周囲の観客は話を聞いていても内容を理解していないが、途中で駆けつけた蒼空は内容を一部に限ってだが分かっている。


【超有名アイドルのチート疑惑は今に始まった事じゃない】


【それを今更持ち出して、何を伝えたいのか?】


【超有名アイドルが税金で優遇され、更には発言力もある。わずか10万人にも満たないような規模のコミュニティが日本を操っているなんて―】


【10万人ではなく、下手したら1万人と言う説もある。それだけの人間が、CDを株式と例えて先物取引のような感覚でCDチャートの水増しなんて当たり前の世界に】


【今のコンテンツ業界は超有名アイドル商法のテンプレが多いように思える。それを打ち破ろうと言う勢力も、超有名アイドルファンが偽装した偽ファンによって潰される】


【そんなに超有名アイドルは偉いのか? 彼女達は日本の神にでもなったつもりなのか?】


【国会も超有名アイドルに対しては逆らえないらしい。ここまで来ると、超有名アイドルが世界征服をするのも時間の問題かもしれない】


【アカシックレコードには、超有名アイドルファン以外に対して―】


 2人のやり取りに対して、ネット上の議論も過熱していく中、ある書き込みだけは途中で途切れたのである。アカウントが削除された訳でも、途中で誤送信したという訳でもない。間違っても検閲ではない。


 その2人が遂に動き出したのは、それから5分後の午前11時45分。対話は平行線で終わり、ガーディアンの方も動き出した。


「超有名アイドルは根絶する! 日本経済の未来の為にも―コンテンツ業界の明日の為にも!」


 ガーディアンが背中にマウントされたビームエッジ型のグレートソードを構え、振り下ろした一閃がチートプレイヤーのガジェットを一発で機能停止させる。その後は降伏したチートプレイヤーを逮捕し、途中で駆けつけた他のガーディアンが連行していく。


【たった一撃か】


【これがパルクール・ガーディアンの圧倒的な力】


【まるで主人公補正、あるいはそれに類する位の力じゃないのか?】


【あるいは、彼女達がデウス・エクス・マキナと言う可能性もある】


【さすがにデウスとは違うだろう。あそこまでご都合主義な力を振り回したら、チートと疑われてもおかしくない】


【チートにはチートで対抗と言う事か。確かに、それでは矛盾が生じる】


【チートを上回る圧倒的な力、それがパルクール・ガーディアンの実力だからな】


 ネット上では、改めてパルクール・ガーディアンの圧倒的な力を目撃した事で、彼女達を敵に回す事の愚かさを再認識したプレイヤー等も多かった。


 ネット上のやり取りが展開されている頃、蒼空は連行されていくチートプレイヤーは相手が悪かった―と思いつつも、彼女のやり方はオーバーキルを思わせる程だ。


「お前は、一体何を目的に動いている?」


 蒼空の質問に対し、彼女が答えるような事は…と思われたが、一言だけつぶやく。


「パルクールのビジネススタイルを確立させるためよ」


 彼女がPVに出ていたアーマーの人物と分かったのは、このやり取りから数時間後の話である。


 午前12時、近場のファストフードで再び昼食を取ろうと考えたのだが、蒼空はラーメンを食べる事にした。


「近場でラーメン店は―?」


 蒼空が立ち寄ろうとしたラーメン店の入り口には『本日休業』の看板が掛けられていた。珍しいラーメンが存在するとネット上では話題だったが、休業日では仕方がない。別のファミレスへ立ち寄ってパスタでも食べる事にした。


 一方で、ガジェット装備のままで店内に入る事は出来ないので北千住駅まで引き返し、そこにあるアンテナショップでガジェットを返却する。その際、店員はある事に気が付いた。


「お客様、パルクールプレートはお持ちでしょうか?」


 一般で聞かないような単語で説明されてもさっぱりだったので、改めて分かるように蒼空は店員に対して説明を求める。すると、予想外の話になった。


「パルクール・サバイバルトーナメントでは、自動車で言う普通免許を習得することが義務化しております」


「免許? そうなると、今回のガジェットを使った一連の行動は、無免許運転と同じ扱いに―」


「ご心配なく。これはARガジェット未所持のユーザーに対してのみで、他にARガジェットを所有しているというプレイヤーには免許取得の講習に出ていただければ、一応の問題にはなりません」


「どちらにしてもパルクール・サバイバルトーナメントのエントリー前じゃないですか?」


「ガジェットの使用前に提示義務が発生するはずですが……」


「提示、義務?」


 蒼空の頭の中も混乱している。自分はARガジェットのガジェットプレートは持っていたが、パルクール・サバイバルトーナメントの物は未所持だ。このままでは無免許運転として逮捕されてしまう可能性もある。


「―すみません。少し、待っていただけますか?」


 誰かに呼ばれた男性スタッフが一時的に席を離れる。どうやら、別のスタッフから呼び出しがあったらしい。その間、何もやる事がない為か私物のARガジェットで他のARゲーム情報を検索し始めた。


「どちらにしても、無免許の場合はペナルティがカウントされる。それはマニュアルを見た時に確認済。そうなると、エントリー可能タイミングがずれる可能性もあるのか」


 悩んでも仕方がないのだが、やむ得ない理由があっても無免許でランニングガジェットを運用した事実だけは覆らない。蒼空は神にも祈るような気持ちで結果を待つ。


 5分後、先ほどのスタッフがこちらに戻ってきた。手元には何かのパンフレットとタブレット端末の様な物の箱を持っている。一体、これはどういう事だろうか?


「先ほど、ガジェットの返却に来たというショップ関係者の方がこちらにいらしまして、今回の一件に関して事情説明がされました―」


 どうやら、自分にガジェットを貸してくれた人物が回収の為に姿を見せたらしい。そこで事情説明があり、その際にタブレットを受け取ったようだ。


「あなたへのライセンス発行は数日の間、受理されない事になりました。あくまでも、それがパルクール・サバイバルトーナメントの規則ですので」


 やっぱりという表情で蒼空が落ち込む。しかし、発行停止だけで他には何も言う事はなかった。本来であれば罰金も10万円前後で発生する。


「しかし、向こうもガジェットプレートの確認は行った事は言及していたようですが、パルクールプレートに関しては完全に手違いと認めています。これに関してはアンテナショップ側のミスですので、罰金はアンテナショップが負担する方向で話をしました」


 罰金に関してはアンテナショップ側のチェックミスもあって、アンテナショップ側が全額負担で対処するようだ。その部分に関しての話を含めて事情説明に手間取ったらしい。


「このパンフレットに書かれているセンターならば、何処でも受験できます。インターネットやARガジェットからの予約も可能ですので、ご都合の良い日に講習を受けて下さい。それと、このタブレットはアンテナショップ側のお詫びの品と言う事で―」


 手渡されたパンフレットには、講習センターの場所が書かれている。西新井、竹ノ塚、北千住、梅島、花畑、保木間等にセンターがあるらしい。何処のセンターで受けても問題はないようなので、西新井のセンターで受ける事を蒼空はスタッフに伝える。


 その後、予約に関しての手続きをスタッフと一緒に行い、4月6日に受ける事も決まった。ライセンスの発行可能となる日が、丁度4月6日だったというのもあるが。


「このタブレット端末は、パルクール・サバイバルトーナメントで使用するルールやガイドラインをまとめたマニュアルになります。これを当日、講習センターへ持って行けば予約の確認もスムーズになる事でしょう」


 こうして、長いようで短いパルクール・サバイバーの初体験は終わった。改めて思うのは、これだけハイテクなスポーツが実際はARゲームから派生し、それが大ブレイクしたという現実である。これに関しては、自分でも未だに実感が湧かない。


###


 パルクール・サバイバルトーナメント、それは『東京都足立区と一部区域をレース場に見立てた障害物競走』とネット上に広まった、異色のエクストリームスポーツである。


 ネット上ではフルネームで呼ばれる事は少なく『パルクール・サバイバー』と省略された名称で呼ばれる事が多い。競技人口は開始当初こそ1万人弱だったのだが、現在は10万人に迫るような勢いで競技人口が増えつつあった。


 パルクールの競技人口を考えると双璧をなすまでには至らないが、ネット上ではさまざまな動画がアップされる程のコミュニティ力を持っている。一昔前のソーシャルゲームと同じように二次創作がフリーになっている事もあって、爆発的な広がりに貢献したと言える。


 余談になるが、超有名アイドルの方はファンクラブが出す公式本以外は二次創作が波及せず、裏サイトでBL夢小説等がアップされているという噂も存在している。しかし、これに関して芸能事務所側は否定している。


 その一方で、パルクール・サバイバーには問題もあった。映画やゲームの題材でもパルクールが取り上げられる事もあるが、そこではビルとビルの間を飛び移る等のようなアクロバットに近い動きや演出がピックアップされているケースも存在する。


 その結果として実際に試そうとして大怪我をするような事故がピックアップされ、それがパルクール・サバイバーでも起こるのでは…とネット上で拡散していき、それが不安をあおるような結果になっている。


 このままではパルクールへの風評被害も避けられないと判断した運営は、事故防止を目的としたシステムの変更を検討、その過程で別のゲームに使われていた技術であるARガジェットとパワードスーツを融合、パルクールをより安全に進行する為のランニングガジェットを開発する事に成功した。


 ランニングガジェットは、ナビゲーションシステムを標準装備、それ以外にも特殊合金で出来たアーマー等の驚異的とも言えるような機能を多数搭載している。


 しかし、その全貌は未だに明らかになっていない部分が多く、それらが公表されていない理由に軍事転用が懸念されている話が存在しているのだが、運営が公式見解を出していない為に真相は不明である。


 軍事転用と言えばランニングガジェットに限った話ではないのだが、同じような武器モチーフとしたARガジェットの傾向というよりも宿命に近い。


 お昼の12時45分、アンテナショップで色々と手続きが大変だった為に遅い昼食となった蒼空、ミートソースパスタとサラダバー、アイスコーヒーと言う組み合わせの昼食を食べながら近くにあったセンターモニターを確認する。


『先ほど、CDチャートの不正水増し、偽メダル転売等の容疑で芸能事務所への家宅捜索が―』


 蒼空の見ていたニュースは、所属アイドルのCDチャート不正水増しの疑惑があった芸能事務所へ家宅捜索が入ったというニュースである。握手券商法は未だに規制されるような気配はなく、まずはCDチャートの水増しを規制するのではなく、そちらを優先するべきとニュースを見ながら思う。


「偽メダルの転売って、芸能事務所も関係していたのか?」


 彼の隣で紅茶を飲んでいた男性客が驚きの表情をする。どうやら、この芸能事務所に所属しているアイドルのファンのようだ。その驚きは自分も犯人としてリストアップされるのではないか、と言う不安の表情を見せる程。


「そのメダルって、巷で有名な……」


 蒼空もネット上での話でしか知らないのだが、某作品に出てくるメダルの偽物グッズを芸能事務所が転売に加担していたという事らしい。しかし、何か矛盾があるような気配はする。


『今回の事件に関係して、狙撃された芸能事務所の社員も逮捕され、その所持品から色々な作品の偽グッズも発見―』


 マスコミのニュースが信用できないという訳ではないのだが、どう考えても超有名アイドル以外のコンテンツを強引にでも規制し、超有名アイドル以外は日本のコンテンツとして認めないという風潮にしようとしている流れである。


「一体、パルクール・サバイバーで何が起こっているのか……」


 食事を終えた蒼空は自宅へと戻り、ネットをつないで真相を確かめようとするのだが、ニュースで報道された事に関しては矛盾が多いと批判するつぶやきのまとめ等も既に出来上がっていた。


 しかし、そのまとめは意図的に複数の部分で捏造されており、超有名アイドルが日本の唯一と言えるコンテンツであるという事を強調するかのような文章に書き換えられ、それを叩く書き込みも超有名アイドルファンと言う構図である。


「これは、どう考えても超有名アイドルを抱える芸能事務所によるマッチポンプの疑いが……」


 まとめサイトと並行してチェックしていたのは、アカシックレコードを記したサイトである。そこにも超有名アイドルによるコンテンツ支配の危険性が指摘されているのだが、このサイトの発言内容が何かに酷似していると思った。


「アカシックレコード、このサイトは阿賀野が作ったものなのか?」


 蒼空はアカシックレコードを阿賀野菜月が作った物と決めつけていた。しかし、この決めつけが後に決定的な間違いとパルクール・サバイバーの真実を知る事になるきっかけになるとは、この地点の彼には分からなかったのである。


 4月5日午前10時、テレビのニュースでは偽メダル事件で芸能事務所が記者会見を開き、そこで無実であると公表した。その上で事務所の社長は、会見の場で予想外の事に関して言及した。


『今回の一件は超有名アイドルを抱える大手芸能事務所1社による陰謀であり、所属アイドルを引き抜こうという動きが見て取れる』


『その為、今回の偽メダル転売事件は本物のメダルを販売するコンテンツ会社と我々を同時に潰そうと考える―』


 その後を続けようとした社長が突然、動きが止まったかのように倒れる。そして、数十秒後に再び置き上がるのだが、その様子は先ほどとは大きく異なっていた。


『先ほどはカメラのフラッシュが原因で、急に倒れてしまいました。申し訳ありません』


 どうやらカメラのフラッシュが原因と言う事で倒れただけらしい。救急車を呼ぼうとしたマスコミもいたようだが、早とちりと言う事で連絡を取りやめた。


『話を続けます。偽メダル転売事件に関しては、本物のメダルを販売するコンテンツ会社が我々を潰そうとした陰謀です!』


 この話を聞いたマスコミは動揺をし始めた。先ほどと言っている事が全く違う。それに関して別の新聞社が質問をした所、想定外とも言える発言を行ったのである。


『この陰謀に関しては、もうひとつの首謀者がいます。それは、男性超有名アイドルのBL作品を書いている勢力―。彼らは様々な事情で超有名アイドルではなく、違う漫画作品の非BL作品を利用してBLの夢小説を書き、更にコンテンツ業界を混乱させています』


『その動きを察知し、正しい方向に導いているのが超有名アイドルグループの―』


 蒼空は記者会見の途中でテレビを別の通販番組へチャンネルを変える。おそらく、途中で動かなくなったのは何かのシステムによる影響だろう。そして、事件の犯人をすり替えたのも超有名アイドルの仕業である。


「記者会見だけじゃない。マスコミも手を組んだ大きな茶番。それが、パルクール・サバイバーに訪れようとしているコンテンツ流通の危機―」


 阿賀野が言っていた事は被害妄想ではない。真実となってしまった、と。他にも阿賀野の発言を一種のネタであると笑い飛ばした一部勢力も黙っていなかった。


 同時刻、同じテレビの記者会見を見ていたノブナガはテレビの液晶を叩き割りたい気分に襲われた。


「単純にB社の芸能事務所がA社の超有名アイドルを宣伝させ、彼女たちこそが日本唯一のアイドルと言う事を宣言する―まるで、アカシックレコードで書かれていた超有名アイドル勢力のテンプレではないか」


 怒りが有頂天のノブナガは別の部下を数人呼び出し、勢いだけで指令を出した。


「ヒデヨシよ、この超有名アイドルのプロデューサー、この人物に関しての真実を暴きだすのだ―」


 ノブナガの前にいる男性、ヒデヨシに対して色々な説明を行う。超有名アイドルのプロデューサーである彼をパルクール・サバイバーのフィールドに引きずり込み、そこで彼の行った事を暴露しようというのだ。


「了解しました。ノブナガ様―」


 その後、ヒデヨシはノブナガの事務所を出て行き、何処かへと向かったのである。


 同時刻、他の人物と同じ記者会見を見ていた阿賀野は悔しがっていた。これでは、自分が完全に悪扱いをされる可能性が高い。


「パルクール・ガーディアンを含め、サバイバー参加者を全て悪と判定し、超有名アイドルの都合のよいコンテンツにしようと改悪まで考える―」


 阿賀野は周囲からは被害妄想と言われている事が、現実になった事に関して懸念を抱いていた。これがアカシックレコードによる未来の可能性なのか、と。

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