第20話:ランカー王へのカウントダウン-ラウンド4-
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2015年5月10日午後11時39分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
5月6日午前10時40分、花江提督の目の前に現れた謎のガジェットを装着した人物、それは自分から正体を明かしたのである。
『貴様は―』
彼は花江提督の思想に関して危険性を感じていた。だからこそ、この場で花江提督を消そうとも考えた。
しかし、この場で大事件を起こした場合、超有名アイドルグループは一気に犯罪者集団というレッテルをネット上で貼られ、最終的には解散となるだろう。最悪、黒歴史化する事も避けられない。
「お前の考えは、どの方向を向いている? どう考えても、超有名アイドル商法を駆逐するような阿賀野の考えとは比べ物にならない―」
その正体は、何と拘束されていたはずのイリーガルだった。イリーガルの偽者ではなく、本物である事は彼が身につけているサングラスで一目瞭然だ。
更に言えば彼の装着していたガジェットは文字通りの試作型で、5分で稼働限界を迎えて機能を停止する。5分で決着をつけるつもりが、花江提督の予想外とも言える行動のせいで全てを崩された。
「僕が阻止する世界は悲劇を繰り返すシナリオ。ループと言っても差し支えのない―」
「この時代にループだと? 冗談はやめてもらおうか。一カ月でリセットされる世界、あるいは誰か一人が永遠に時間をさまようのか?」
花江提督は突如として『ループ』と言いだした。これに対し、秋元は冗談ではないと一蹴する。
「そう言ったファンタジーなループではない。現実的なループだ。超有名アイドル商法が恒久的に続く事その物がループだと断言できる」
そして、花江提督は別のARガジェットを取り出そうとも考えたが、あくまでもランニングガジェットで来ている為に装備の変更はしない。
ランニングガジェットには武器は存在しないが、花江提督は手持ちのハンドガンと脚部のビームブレードで応戦しようと考える。
「超有名アイドル商法がループだと言うのか? そうなると、10年以上続くコンテンツは全てループ物と―」
「イリーガル、お前は分かっていない。10年以上続くコンテンツには固定ファンやコミュニティが形成されている。しかし、超有名アイドルは株式投資と同然だ。そのようなコンテンツが恒久的に続く事自体、リアルチートと断言しないで何と言う」
「アイドルを株式投資やFX投資と一緒だと言うのか?」
「そうでなければ、あのようなCDチャートにはならない―」
結局、花江提督はビームブレードを展開し、イリーガルと戦う事になった。そして、イリーガルの方は試作型ガジェットをパージし、別の量産型ロボットタイプのガジェットを呼び出し、そちらへと乗り換える。
「CDチャートがマッチポンプと言うのであれば、音楽はどうやって見つけるつもりだ? ネット上で見つけるにしても、自分好みの曲を探すには苦労するはずだ!」
「音楽ジャンルのゴリ押しを自分達でやっておいて、そう言う流れにしたネット住民の責任にする。やはり、こうした大人達の考えを改めさせない限り、この問題に一定の解決は見いだせない」
「こちらで決めたルールに従えば、ここまでの事にはならなかったのだ! 何故、お前達は我々のルールに従わない!」
「大人達が勝手に決めたようなルールに従うのはごく少数。何処かで譲歩をしない限りは―」
ビームブレードを上手く受け流すイリーガル、それに対して花江提督は防戦一方である。機体の性能はイリーガルの方が3段階以上の大差、操縦者の技量では花江提督の方が上だが、パワー差に押し切られてしまうのは時間の問題だ。
「だからと言って、お前達はこちらで意図しないようなルールを付け加え、更には内容さえも改変し、あたかもそれが公式だと誤認させるような行動を取る!」
「それは夢小説勢やBL勢が勝手に行っている事。今の話には関係ない!」
続いてイリーガルが背中のロケットランチャーを構え、その直撃を受け、花江提督のガジェットは損傷率が50%を超える。
花江提督は、これ以上の対話は必要ないと考えつつも妥協点を見つけようとする。しかし、イリーガル側に妥協をするような気配は見当たらない。
お互いに考え方のぶつかり合いが予想されたのだが、結局は過去の事例と同じ結果となった。AI事件で上条静菜が影の黒幕と対峙した時と同じように―。
「超有名アイドルを唯一無二のコンテンツと掲げる以上、イリーガルの目的を達成させる訳にはいかない」
「超有名アイドルこそ、日本に重要な存在。それを駆逐しようという考え方は―」
お互いに譲れない物があり、その為に行うべき事。花江提督が新規にレールガン型ARガジェットを装備したのに対し、イリーガルはコンテナに格納されている銃型ガジェットやスピア型ガジェットで対抗をする。
「僕は超有名アイドルのせいで大切な物を失った―。その悲劇を繰り返す事は決して許されない事」
花江提督の言葉に対し、イリーガルは何を失ったのか尋ねようとする。しかし、周囲に人が集まってきた事で話が出来ない状況となって行く。そして、手に持っていたスピア型ガジェットを投げ、それは花江提督のガジェットの左肩を直撃、損傷率が一気に70%を超えた。
そして、そのタイミングを見計らって花江提督は何かのシステムを起動する。バイザーには特にシステム起動に関するメッセージは表示されていない。
「イリーガル、お前は見てはいけない真相を知っていしまったのだ。その代償は、ここで償ってもらう」
【アカシックレコード―アクセス開始】
花江提督の一言、その直後にオレンジ色の装甲は青へと変化していく。どうやら、オレンジ色自体が偽装だったという事になる。そして、花江提督が起動した物とは、アカシックレコードだった。
「アカシックレコード―そんな未来予知で、このARガジェット『ラグナロク』に勝てると―」
イリーガルが自分のガジェット『ラグナロク』の性能を語ろうとした途端、目の前から花江提督のガジェットが姿を消した。その場にあるのは、先ほど突き刺さったスピア型ガジェットのみ。
「何処に消えた?」
イリーガルがセンサーなどを駆使して検索を行うが、姿は全く見えない。それどころか、この場には最初からいなかったという雰囲気さえ漂う。
「アカシックレコードに、それだけの能力があるはずがない。きっとトリックだ。レーダーに察知されない、バイザーに映像が表示されないだけという仕掛けに違いない」
開き直ったイリーガルはサブマシンガンを目の前の何もない場所に撃ちまくる。しかし、ヒット反応は表示されず、全てがミスと言う判定になっていた。
「アカシックレコードを知り過ぎた事で、裏を書かれる事になるとは―秋元にとってはふさわしい末路か」
次の瞬間、イリーガルの背後には花江提督のランニングガジェット『スレイプニール』が姿を見せていたが、それにイリーガルが気付く事はない。
「お前の見たアカシックレコードが、この末路―フラグを立てたと言っても過言ではない」
そして、彼がレールガンの引き金を引き、ゼロ距離で撃たれたレールガンがラグナロクの動力システムを一撃で停止させた。
同日午前10時50分、激闘の末にイリーガルを仕留めた花江提督だが、その顔に達成感はない。彼が全ての真実を話さない限りは、超有名アイドル商法の全てが明らかにならず、日本経済にとってもマイナス要素を残す事になる。
花江提督がその場を離れた5分後には『脱走した秋元が再逮捕された』という趣旨のニュース速報が流れたのだが、人々の関心は秋元には既になかったと言える。
「まだ―終わっていない。後は、一人だけ―」
若干の息を切らしつつ、花江提督はコンビニで買ってきたペットボトルのスポーツドリンクを口にする。他には何も買っていないので、半分位まで飲んだ所でキャップを閉めて再びランニングガジェットへ乗り込む。
彼は次の目的地へと向かおうと考えていたが、ターゲットとなる人物の目撃情報が見つからない。仕方がないので、ネット上でそれらしい情報を探す。
同日午前11時、ニュースで別のヴィジュアル系ファンによる偽装事件が判明、その内容には衝撃の言葉が出ない。
【ヴィジュアル系も超有名アイドルと同じだったのか】
【一部のグループが行った事を、そのジャンルの総意と考えるのはネット住民の悪い癖だ】
【結局、コンテンツ流通の正常化は夢で終わってしまうのか】
【超有名アイドルと言う存在が最初からなければ、悲劇は起こらなかった】
【彼らが手にしたチートは、やがて経済面で世界恐慌を起こすレベルの事件を起こす事になる。だからこそ、日本で超有名アイドルの悲劇を断ち切らなくてはいけない】
このニュースを見たネット住民が、早速つぶやきサイトで色々と書きこみ始める。その中には、ヴィジュアル系ファンが全て超有名アイドルファンと同じ扱いをされる事を懸念する声もある。
「そう言う事だったのか。何処まで周囲を混乱させ、悲劇の連鎖を何度繰り返せば気が済む―」
花江提督はつぶやきサイトのタイムラインを眺め、かなりの衝撃を受けていた。その悔しさはガジェットのモニターを殴ろうと拳を握っていた程。
「この最大の悲劇は終わらせないといけない。ランカー王が始まる前までには」
今の憤りを何処にぶつけるべきなのか。ネット上に掲載したとしても、炎上勢やアフィリエイト系まとめサイトの管理人に目をつけられれば、取り返しのつかない事になるだろう。
そう言った事を考慮した結果、これはレースに持ち込むべきではないと結論を出した。
『サバイバー外のもめ事をサバイバーへ持ち込めば、無用な混乱やトラブルを生み出す。それらは次第に大きくなり、炎上勢等の資金稼ぎへ流用される。最近の振り込め詐欺も超有名アイドルのCD購入に利用されている噂だが―』
以前、自分がサバイバーのライセンスを取った際、ある人物に言われた事である。サバイバー外のもめ事を持ちこむ事はサバイバーファンだけではなく、それ以外のファンにも迷惑をかけ、コンテンツ同士の潰しあいとなってしまう。
それらの潰しあいが悪化する事で、ブラックファンやアイドル投資家と呼ばれる勢力が莫大な資金を得るシステム―それはAI事件でも噂されていた事だ。
「阿賀野菜月―やはり彼女を問いたださなければ、真相は見えてこないという事か」
花江提督が探していた人物、それは阿賀野菜月だったのだ。しかし、阿賀野の目撃情報はネット上には見つからず、このまま発見できずに午前12時になると思われていた。
【阿賀野菜月がホーリー記念にエントリーしました】
それは、パルクール・サバイバーの選手情報を知らせるフィードと呼ばれる物だった。このシステムで選手のキーワードをチェックしておくことで、該当選手の情報がリアルタイムで得られる物である。
「ホーリー記念は秋葉原か―」
目的地は決まった。場所は秋葉原。ホーリー記念は秋葉原駅近くのショッピングモールで行われる。




