第19話:限界なんて打ち破れ!-ラウンド4-
>更新履歴
2015年5月10日午後10時51分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
蒼空かなで、彼はパルクール・サバイバーとパルクールはレースのルールが違う事を、アマチュアパルクールチームから参戦した衣笠に証明したいと考えた。
その時にランニングガジェットのブラックボックスが反応、青い閃光と共にアカシックレコードの扉を開いたのである。
『これはどうした事でしょうか。突如として、閃光を放った蒼空選手のガジェットですが、動きを止めてしまったようです』
実況の太田もこの状況には驚きを隠せなかった。それ位に衝撃度合いは大きい。しかし、観客は心配そうな表情を浮かべる等の表情が見て取れるが、提督等は全く別の反応をする。
「うかつだった。アカシックレコードのシステムを持ちこんでいる人物がいたとは―」
右手で顔を押さえるのは白い服を着た男性提督の一人。アカシックレコードと言う物が存在し、それを巡る争いになっている可能性は週刊誌でも触れられていたが、現実にあの場面を見ると信じざるを得ない。
「他の提督は既に出払っている。この状況をどうするべきか」
男性スタッフも頭を抱える中、指令室に入ってきたのは白衣に何かのトランクを持ち歩いているオーディンだった。本来であれば、ガレスの指示で色々な物を調べていたのだが―。
「他の提督がいないとは。まさか、ガレスも不在だと言うのか?」
「ガレス提督は不在ではありません。特設モニタールーム辺りにいると思いますが」
オーディンの質問に対し、提督はあっさりと答える。今は、それ所ではないという独自判断だろうか? オーディンは、それを若干疑いつつもモニタールームへと向かう。
1分くらい経過しただろうか、オーディンが姿を消して白い提督が何やらコンピュータからデータを吸い出しているようにも見える。この様子を周囲のスタッフは無反応で、何処かへ通報する気配もない。
都合がいいと考えた提督はデータのダウンロード終了を確認し、部屋を出ていく。そして、彼は非常口からデータを持ち去ろうと考えたのだが、開けようと思った非常口ゲートが開く。
ゆっくりと開くシャッターから見えたのは、蒼いARブレード系ガジェット。背中にはブレードシールド、それ以外にもエッジの展開されたアーマーが装着されている。これは明らかにランニングガジェットではなく、戦闘用ARゲーム用のガジェットだった。
「こちらでフェイクのデータを用意したのが的中したようだ。まさか、外へ逃走したと見せかけ、内部に残っていたとは―」
メットを装着した状態で右腕のロングブレードを構え、戦闘態勢に入る。相手も逃げられないと判断し、提督服の懐に隠していた短刀型ガジェットを構えた。どうやら、向こうも観念したらしい。
「我々の邪魔をすれば、国会が黙ってはいない! 日本経済を救えるのは超有名アイドル商法―」
白い提督が何かを言い終わる前にランスロットはスタンブレードで無力化、わずか10秒にも満たない早業である。
そして、ランスロットが提督の正体を確かめようとガジェットのデータを確認しようとするが、データの方は消されている。どうやら、このような事態を想定して自動削除されるプログラムが仕込まれていたようだ。
それでも何かの手がかりを見つけようと辺りを探索し、彼が落としたと思われる謎の小型プレートを拾った。これは、名刺サイズのプレートで、何かの文字が書かれていた。
「まさか、日本政府が潜り込んでいたのか」
ランスロットは拾ったプレートを握りつぶそうとも考えた。しかし、そのような事をしても知ってしまった情報は隠し通せる規模ではない。その為、ランスロットはガレスに通信を入れて、その判断にゆだねる事にした。
午前11時10分、レースの方はラストスパートに突入している頃、ガレスはランスロットの電話に出る。用件は、拾ったプレートに書かれていた情報に関して。
ガレスの方は特設モニタールームにいた。そこで、彼女は提督服からカジュアルショップで購入した私服に着替え、ある勢力が来るのを想定して準備をしていた。
「――そうか、やはり我々を潰そうとしているのは国会の超有名アイドルに買収された側か」
『買収? そこまで事態はひどくなっているのですか』
「そう言う訳ではない。これは事件が表面化していなかっただけ。表面化させて、海外から非難されるのを回避する狙いがあったのだろう」
『確かに、超有名アイドルのゴリ押し商法は時代錯誤と炎上していましたからね。特に海外の方では』
「それを踏まえると、ランカー王が大変な事になりそうだ」
『やはり、今回のレースでも超有名アイドル勢が潜り込んでいると?』
「事実、既にレースで走っていたようだが―」
『走っていた?』
2人の電話は続く。ガレスがランカー王に関して言及すると、ランスロットは逆に超有名アイドルと関連があるのか尋ねる。それ程に、パルクール・サバイバーに超有名アイドル勢が参戦する事を禁止にしているのだ。
「既にリタイヤにはなっているが、緑色の機体だそうだ。別のプレイヤーになり済まししたのだが、本物に倒されたというオチだ」
『皮肉な物ですね。有名人のなりきりをした所、本物に叩き潰されるとは―』
「正直に言うと、笑えないオチだぞ。奴の能力をコピーしきれなかったのが偽者の敗因だが」
ガレスは笑えないという部分で一気に釘をさすかのようなテンションでランスロットに言う。彼にスパイ疑惑がかかっている訳でもないのに……だ。
「とりあえず、名刺の件はこちらでも調べておく。お前は引き続き警備の方を頼む」
そして、ガレスは若干不満げに通信を切った。本来ならば聞きたくない報告を聞いたからではなく、あの情報に対する信用度が上がってしまったからだ。
午前11時7分、アカシックレコードの片鱗を蒼空は目撃していた。表示されるメッセージ、CG、何かを思わせる3Dモデル―。それらはランニングガジェットのモチーフとも考えたが、武器類は明らかに他のARゲームで使用されている物と異なる。
「アカシックレコード、これがAI事件でも言われていた禁断のバイブルなのか―」
ひとつひとつをチェックしている暇はない。そんな事をしていれば、他の選手に抜かされてしまい、最下位転落もあり得る。その為、走りつつデータを確かめ、使える物をリストアップしていくしかないだろうーと。
『蒼空かなで、お前が見ているアカシックレコード、それは簡単に説明すれば【別世界の技術】その物だ』
突然、男性の声で通信が入った。しかも、この人物はいたって冷静に会話をしていた。どうやら、アカシックレコードには驚きを感じない人物かもしれない。
「何処から通信が―? あのオレンジ色か」
蒼空は周囲を見回すと、コースとは別に置かれた通行止めの看板裏、そこに隠れているオレンジ色のランニングガジェットがある。通信は、あそこから行われているようだ。
『その技術の片鱗を見た以上、君は超有名アイドルに対抗できる力を得たと言っても過言ではない。その力を行使すれば、連中を駆逐する事も可能になる』
「駆逐って、本気でそう言う事を言うのか? お前は阿賀野菜月なのか?」
『阿賀野菜月と言う人物は名前だけは知っている。しかし、それは自分ではない。自分の名前は花江―』
「ノイズ? 花江、何を伝える為に連絡をした?」
突如としてノイズが入り、通信が途絶えそうになる。そして、彼は花江と言う名前だけを残して通信を強制終了する。その後、オレンジ色の機体がホバー移動で走り去ったので、おそらくはあの機体に花江と言う人物が乗っているのだろう。
午前11時8分、先頭グループは3周目に突入。事実上のファイナルラップであるのだが、突如として6番のランニングガジェットが突撃をしてくる。
「馬鹿な、あの機体は本気か!?」
2位を走っていた松岡提督も、彼の行動には常軌を逸していると思う。しかし、彼の目的は別の所にあったのだ。すかさず、緑の機体は右腕のアームを展開、先頭を走っていた機体の肩アーマーを掴む。
「このまま3周を走り切れば―我々の時代が来る! バスケ勢やバレー勢に天下は渡さない。我々、アイドルグループの―」
何かを確信していた6番の機体そっくりだったガジェットは、バランスを崩す。しかも、顔面から激突である。これは一体、どういう事なのか?
「これでいいか、阿賀野菜月」
6番の機体から出てきた人物、ガジェットから降りてメットを唐突に脱ぐ。そして、その素顔は何と上条静菜だったのだ。これには周囲の観客も驚きを隠せないでいたが、上条自身もレースにエントリーしていた為、特に反則と言う訳ではない。
『何と、先頭の選手を取り押さえた人物の正体は、あのAI事件に関係していると噂された上条静菜選手だった! これは驚きです』
思わず、太田の持っているマイクを持つ手にも汗が目立つ。それ程、上条が参戦していた事には驚いているようだった。
その後、6番の選手を名乗っていた偽者選手を上条が拘束し、その人物はパルクール・ガーディアンへ引き渡された。個別案件として阿賀野へ引き渡すとばかり思っていたが、予想外の行動に松岡提督が驚く。
「上条静菜、何が狙いだ?」
足を止めない松岡提督は上条に尋ねる。しかし、彼女は含み笑いをするだけで何も答えない。話す気がないという訳ではなく、今はレースに集中するべきと言うメッセージかもしれない。
「こちらも時間をロスしてしまったが―」
上条はガジェットに乗り込もうとしたが、システムの方に若干のエラーが出ていて再起動が難しい。初期化をすれば何とかなると思うが、そのような余裕はない。
「ここは、松岡提督に任せるしか方法はないという事か」
悔しいようだが、ガジェットが動かない以上はリタイヤと言う事になる。
「上条静菜、君が考えていた事は理解したよ―」
突如として女性の声が聞こえる。どうやら、通信機能は生きているようだが、こちらから応答は出来ない。どうやら、一方通行らしい。
「私の名前は時雨―。花澤提督にも、君にも借りがある」
時雨と名乗った人物は、黒いメットにスタンダード装備のガジェットと言う物で、トップランカーの装備とは思えない。新人選手なのだろうか? しかし、上条には判断材料がない。
2周目終盤から3周目の前半、残りの選手は8人。トップは入れ替わりで松岡提督、それに続くのは蒼空、時雨、背後に複数の選手、最後は衣笠と言う順位である。
「松岡提督、あなたの狙いは?」
蒼空は松岡提督がレース前に起こした事を踏まえて質問をする。しかし、松岡提督が答えるような気配はない。
「今はレースに集中した方がいい。下手に話を聞かれれば、今度は順位工作を疑われるぞ」
この回答を聞き、蒼空は下手に言及する事は止めた。おそらく、松岡提督は花江との会話は把握していないが、アカシックレコードに関しては若干把握しているようにも見える。
「そうですね。今はレースに集中するべきですね」
そして、蒼空も松岡提督同様に足を止めることなく走り続ける。スタミナの方は問題がないが、メカニック的部分で蒼空はピンチだ。このまま、走り続けられるかどうか―。
その頃、喫茶店で昼食を取っている赤城と加賀は、コーヒーを飲みながらタブレット端末の放送を視聴する。その表情には余裕と言う物がない。決して、赤城の財布の中身や食べたカレーの量についてではないが。
「あの光はアカシックレコードね」
赤城は冷静に光の正体を判断する。慢心した事によって何度かレースに敗北している為か、分析は欠かさない。
「でも、アカシックレコードにアクセス出来るのは阿賀野一人だけってネット上でも噂になっている」
加賀はアカシックレコードの未来予知を行えるのが阿賀野だけと信じている。実際、阿賀野の未来予知の正体がアカシックレコードによる物と言うのはつぶやきサイト上でも話題となってしまっていた。
「どちらにしても、今月のランカー王決定戦、レースが荒れるのは間違いない」
そして、赤城はメニューを見ながらランカー王決定戦に付いて語る。その姿を見た加賀は頭を抱えて呆れかえっていた。




