第19話:限界なんて打ち破れ!-ラウンド2-
・1月18日午前2時2分付
誤植修正:1週目の山場→1周目の山場
>更新履歴
2015年5月10日午後10時7分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
遂に16人の選手がスタート地点から直線コースへ進み、午前11時にレースが始まった。
ここに至るまで1時間の遅れが発生、更にはコースに不審者が侵入、その他のエリアで事件が発生して安全の確保をする等のアクシデントが多発。
それでもレースは中止にしなかった理由は様々で、運営側の意地、コースの交通規制が遅れた、妨害活動の発生等がネット上で言われている。
『それでは、コース説明の前に今回のレースで追加された特別ルールについて説明しましょう』
運営のテントとは別に実況席がアンテナショップ内に設置され、そこでは実況担当の太田氏がきていた。しかし、その姿を見る事は出来ず、謎の人と言う扱いなのは変わりない。どうやら、テントでの実況を断ったのには別の理由がありそうだが…。
『今回のレースは通常のコース2周ではなく、3周行う特殊ルールとなります。もちろん、コース途中でのガジェット停止は即時リタイヤ、設置トラップや選手のリタイヤを前提とした戦闘行為等は認められておりません』
次の説明に入る前にメインビジョンには監視カメラの映像と思われる画像が表示される。これは、何を意味するのか―と思ったが、そこで太田氏の説明が入った。
『既に複数の箇所で監視カメラ、更には飛行型ドローンによる空中撮影も行っております。仮に不審な行動が確認された場合、バイザーに警告メッセージが表示され、スリーカウント以内に行動を中止しないとペナルティを取られます』
設置トラップ、選手のリタイヤが目的の戦闘行為、故意と判断されるガジェットの物理破壊行為、コンピュータウイルスの散布、第3者を利用した妨害行為等、違法ガジェットの使用がモニターに表示されている。
『これらの行為が確認、その行動がリタイヤに相当する場合はペナルティが課されます。1回の反則で50%のポイント減額、2回目は75%、3回目は1位となってもポイント加算は行われません。これは、下位ランカーにとっては致命的なものになるでしょう!』
レースの方は直線コースを通過し、右の交差点へ向かうのがセオリーである。しかし、このレースはパルクール・サバイバーであり、ショートカットは認められている。
実際、先頭を走る複数選手と同じルートを通る選手は少ない。直線で勝負可能な選手は、ショートカットを逆に行わない方が手数と言う意味でも有利になると考えているらしい。
直線コースを曲がると、再び直線コースである。コースに障害物が設置されているような気配がなく、ある意味でもモーターレースを思わせる。先頭の集団は4名、それを追跡しているのは6番の緑ガジェット、松岡提督、蒼空かなでの3人。それに遅れる形で4人程度。
その内の1人も直線途中でショートカットを発見し、そちらのコースへと向かってしまったのだが。
「既に数人がショートカットを使うとは」
先頭の重装甲戦車を思わせるアーマーの選手、彼は周囲の状況を見てショートカットをするのは不利と判断していた。結論を言うとショートカットは可能、しかし、重装甲系ガジェット等ではうまく立ち回れない程にコース幅が狭いというのがある。
「後続メンバーには松岡提督がいるのか。3周戦に加えてロングコースと言うのもある―」
1周でも5キロに近いコースを走る事になり、それを3周。通常のサバイバーでは3キロコースを2周というのが多く見られる。それを踏まえると、このコース構成は長いと言っても過言ではない。
しかし、今回のコースはランカー王でも同様の長距離コースを走る事になり、それを想定してペース配分をする事が重要とも言える。
一方のショートカット組は順位争いに気を取られた為に重要な事を忘れていた。コース幅が狭くなっており、ランニングガジェット2体半位の幅である。自動車であれば1台分という狭い道であり、本来であれば学校の通学路で使われるような道だ。
「なんて事だ! コース幅も考えずに突っ込んでしまった結果が、この―!?」
軽装+バーニアユニット装備の選手が足止め状態になり、引き返そうとするのだが―その目の前には他の選手も追いかけている所だった。そして、複数選手による激突に発展すると思われたのだが、ガジェットのセーフティーシステムが機能した事で大事故には発展しなかった。
「コース取りのミスをするなんて、スコア争いに気を取られ過ぎた結果ね」
喫茶店でカツカレーを食べながら中継を視聴している人物がいる。彼女は黒髪のロングヘアーに美少女と思わせる顔だったのだが、赤をベースにしたガジェット用インナーを着ている段階でお察しだった。残念な美女ではないのだが…。
「赤城さん、何を見ているのですか?」
一方の女性は紫の提督服に懐中時計を思わせるペンダント、身長は赤城よりも若干低い170ちょっと。体格もスリム路線よりはぽっちゃり体型に近いかもしれない。
「何って、北千住でやっているレースよ。このレースの勝者がランカー王にリーチというレースってネット上でもあったから、見ているのよ」
カツカレーを口にしながら、赤城は喋っているのだが―一方の彼女は食べるか見るかのどちらかと言いたそうな表情をしている。
「それに加賀、あなたはどうしてパルクール・サバイバーにエントリーしなかったの? あなたもレース系のARゲームでトップランカーでしょ?」
赤城は加賀に指を指して説教をする。加賀はパルクール・サバイバーへ参戦せず、赤城と一緒に昼食を食べていた。レースが始まったのは午前11時なので、昼食と言うには少し早い時間なのは事実だが。
「私がプレイしているARレースはカーレースのカテゴリーです。パルクール・サバイバーは、どちらかと言うと長距離+障害物競走。それに、私の体力があなたより低いのは知っているでしょう」
対する加賀もオムライスを口にしながら話す。その後、コーヒーを飲んで少し気持ちを落ちつけようとするが、そうはいかないだろう。
「直線取りをしているメンバーも、ランカーやネームドはいなさそうだ」
最初の直線コースで他の選手を確認している人物がいる。彼女はパーカーで意図的に顔を隠し、フライドポテトをつまんでいた。パーカー以外には、ジーパン、スニーカー、パソコンを入れているカバン位しか特徴が見当たらない。
「松岡提督はコースを熟知している選手。そう簡単には負けないでしょう」
パーカーの女性に対し、慢心は禁物と指摘しているのは白いインナースーツにジャケットを着込んでいるポニーテールの長身女性。彼女も、サバイバーの選手なのは間違いない。
「ほむら、お前の方こそ油断をすれば他のランカーに負ける事もあるかもしれない」
ほむらと呼んだ女性を指摘していたのは、メイド服の黒髪セミロングの女性である。特徴的なポイントは、メイドなのにカチューシャではなく、野球帽と言う所だろうか。
「そんな事はありません。この私が慢心するはずが……」
「そこまでにしなさい! 霧島、アカツキ、ほむら」
パーカーの女性はアカツキ、メイド服の人物は霧島、そして、如何にも分かりやすい三つ編みにメガネと言う知的女性を思わせる人物、それが瀬川だった。
「確かに松岡提督は強敵に間違いない。しかし、今回は別に強敵が存在する。彼の偵察をする為にやってきたと言っても過言ではないわ」
瀬川達の目的、それは蒼空かなでにあった。蒼空の使用しているランニングガジェット、その出所を知る為に。
レースは1周目の山場に突入する。商店街を抜けると、先ほどのスタート地点へ戻る。先頭グループに変動はないのだが、下位グループの方には変化があった。
『先ほど、4名のリタイヤが確認された模様です。どうやら、コース取りを誤った事による衝突と運営に情報が入っている模様です』
リタイヤの情報に関しては、大田の方にも伝えられた。残るメンバーは12人。その中には松岡提督、蒼空も残っている。
「ランカー王には興味はないが―ここら辺が潮時か」
先頭グループの戦闘機を思わせるブースターとガジェットを扱う傭兵の男性が動き出す。重戦車の選手を追い抜き、一気にトップとなって2周目に突入するはずだったのだが、突如としてシステムにエラーが表示され、機能が停止したのである。
『これは大変な事になりました。先頭グループの一角が、まさかのシステムトラブルでリタイヤの模様……しばらくお待ちください』
途中まで実況した太田だが、何かの情報をタブレット端末で入手したらしく、途中で実況を止める。これには運営側にも緊張が走る。彼の耳に情報が漏れている可能性を心配していたからだ。




