第18.5話:サバイバー運営の真意
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2015年5月10日午後9時56分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
5月5日午前10時40分、北千住近くのアンテナショップでコーヒーの入ったタンブラーを片手に持ち、椅子に座っていた2人がいた。
1人はスポーツサングラスを外して店内へ入った神城ユウマ、もう1人は逆にサングラスをかけた如月明日葉こと如月トウヤである。
超有名アイドルによるコンテンツ制圧、サマーカーニバル及びフェスティバルのプロデューサーでもある秋元の狙いはそこにあった。違法ガジェットの流通、ランキング荒らしも全てはライバルを蹴落とす為らしい。
その詳細が書かれていたサイトには、アクセスが非常に多い為か【時間を置いてアクセスしてください】というメッセージが出るほどである。しかし、あの詳細を見たとしても秋元の目的を暴く事が出来る人間は限定され、その人物は阿賀野菜月や中村提督のようなアカシックレコードに精通する物だけだ。
「秋元が何を行おうとしても、結局は一般市民に理解される事はないだろう。あの場で取り乱してすまなかった」
如月は神城に平謝りする。神城の方もあの場合は仕方がないという事で、もう済んだことと言うのだが―。
「どちらにしても、レースは行われるようだ。しかし、秋元の拘束がどのようなレース展開を生み出すのか」
如月は別の懸念もしている。秋元の拘束がどのようなレース展開を生み出すのか、周囲で起こっている大規模テロと結び付けようと言う炎上勢が現れるのではないか等。
「それを言ってしまうと、パルクール・サバイバーも行えないと思います。端的な例えですが、花火大会で爆発事故が起こる可能性もある為に自粛するとか」
神城の意見も一理あった。怪我が発生する可能性があるからという理由でランニングガジェットを採用し、今度はランキング荒らしが現れたのでランカー勢でランキングを塗り替える―考えてみれば、運営のやっている事は極端と言ってもいい。
「もしかするとステータスの単純割り振りみたいな対応しかできない。だから、蒼空の提案に対して保留を決めたとか」
如月は運営が別の対応をしていれば、このような事にはならなかったと考えたが…深く考えても運営の行動方針が分からなければ対策も考えられないだろう。
2人が見つめていたのは、1体のランニングガジェットだった。量産型と言う訳ではなく調整中のワンオフ、それも別のレースで走った後の物である。
走った後のガジェットは両腕、両足、胴体、頭部、メインユニットに分離、そこからさらに細かく洗浄や細部の調整が行われていた。さすがにブラックボックスは奥のエリアへと移動されたが、それ以外は調整の様子を一般にも公開していたのである。
「あそこまで分解する必要性があるのでしょうか?」
神城は軽装ガジェットを使用している為、ロボットに近いような重装備型のランニングガジェットを見るのは珍しい。店員からも重装備型を勧められなかったという事情もあるのだが。
「ロケテストで使用されたガジェットは更に部品が多かったという話がある。それを踏まえれば、あれでも少なくなった方だ」
「あれで少ない方ですか?」
如月の少なくという発言に驚く神城。メインユニットやブラックボックスの類は分解不可能だが、それ以外のパーツはばらしているという印象を受ける。同じ光景を見ているギャラリーも驚きは隠せないようだ。
「技術革新と言うべきか。当時は太陽光で動くロボットを開発するのに四苦八苦していたのが、アカシックレコードの発見で急速に進歩し、現在に至ると言う」
「アカシックレコードって、ウィキ等では設計図みたいな書かれ方はしていないはず…」
「ウィキに書かれている事が全て真実とは限らない。超有名アイドル商法に関する事件についても、意図的に隠されている場合が存在する。AI事件のように―」
「AI事件は自分も知っています。あの事件の影響で超有名アイドルの世界進出に影響が出たとか」
その後も2人の会話は続く。如月はAI事件に関係していた訳ではないが、ある出来事を追っているうちにAI事件を知ったという流れである。一方の神城も超有名アイドルの主題歌が駅伝番組の応援ソングにタイアップされた事もあり、その流れである程度は知っていた。
ランニングガジェット、その原型は人命救助に使用するパワードスーツだった、本来は特撮番組に登場するスーツを再現しようとファンが作成したなどの説も存在する。
原型に関しては諸説あるが、ガジェットのプロトタイプに関しては運営のホームページでも触れられており、危険なパフォーマンスを繰り返す団体やその他の勢力に対し、より安全なプレイを求める為と言われている。
しかし、安全性の確保と言うのは建前上と言う話は有名であり、ネット上でも真実を求める声がある。別のARガジェットがリアルなゲームを再現する為と言う理由と言えるかどうか不明だが、一定の目的が存在するだけに、パルクール・サバイバーだけは何故に理由を明かさないのか―と。
ガジェットの装甲にはスポンサーロゴ、痛車のような萌えキャラが描かれているような物もある。しかし、この装甲は簡単に言うとソーラーパネルの役割を持っている。原理自体は公式ホームページや説明書でも言及されておらず、この辺りもブラックボックスの部類だ。
同日午前10時45分、北千住の運営本部には本来の提督服に着替えた中村提督が姿を見せていた。彼は大塚提督に会う為に本部へ姿を見せたのだが、その様子はどう考えても敵陣へ乗り込んだ戦国武将を思わせる。
「大塚提督、私は仮にもガーディアンの人間です。それを、ここへ呼んだ理由をお聞かせ願いたい!」
中村提督は大塚提督に対し、呼んだ理由を問いただす。パルクール・ガーディアンに所属する中村提督、サバイバー運営の大塚提督、この2人の立場は敵同士ではないのだが、上層部と実行部隊と言う差は存在していた。
「呼んだ理由はガレスに関しての話だ。既に松岡元提督は気づいたようだが―」
大塚提督の話を聞き、中村提督は「やっぱりか」と言う表情をする。あの時の松岡提督は、確実に自分を見ていなかった。その先に存在する総責任者のガレスを見ているようであった。
「総責任者がようやく戻ってきた、と」
「戻ってきたわけではないが、ここへ向かっている。ある証拠を持って―」
大塚提督は本来言うべきではない事を中村提督へ告げる。この場には、既に内山提督もバイザーを付けている状態で姿を見せていた。部屋の中には白い提督がいる訳ではなく、中村提督、大塚提督、内山提督の3人しかいない。
「証拠はアレですね。超有名アイドル勢が規制しようと考えている―」
「それとは違う。それを持ってきたら、かなりの割合でコンテンツガーディアンを敵に回すだろう」
「別の証拠ですか。超有名アイドルとBL勢が手を組んだという決定的な」
中村提督は気づいていた。草加市へ向かった際、さまざまな超有名アイドルファンと名乗る人物を撃破して行ったのだが、全てが違うアイドルのファンだったのだ。それが、サマーカーニバルとサマーフェスティバルの2組。
「ネットが炎上するようなマッチポンプを仕掛けた以上、連中としては自分達が総崩れするような事態は避けたいだろう。その為の戦力分散作戦」
「しかし、その作戦は裏目に出た、と」
大塚提督も大体の流れは把握していた。このようなマッチポンプを仕掛けようとしていた勢力、それは今回の事件を利用して莫大な利益を得ようとしていたのは間違いない。しかし、内山提督は作戦が裏目に出たと断言する。
「利益と言っても、一般的な利益とは限らない。税収という表現も出来る筈だ」
大塚提督の顔は深刻である。それ程、超有名アイドル商法を政府が上手く利用しようと考えていたのである。下手をすれば、ランニングガジェットも軍事転用される事も否定できない。
「クールジャパンの吐き違いですか?」
内山提督の一言に対し、中村提督は全力で否定する。しかし、大塚提督は否定するような素振りを見せない。どうやら、半分は認めるようだ。
「それではコンテンツゴリ押しをやっていた超有名アイドル商法と同じ―」
中村提督は、ふと失言をしてしまったと我に返る。確かにパルクール・サバイバー運営の行おうとしている事も、クールジャパンとは程遠く、下手をすれば世界征服をする為の先兵育成と言われても文句は言えない。
そこまでの展開に発展していないのは、実は超有名アイドル勢が適度に暴れている為とする意見も一部で存在し、サバイバー運営は超有名アイドル勢を上手く操ってマッチポンプを―と言うのが中村提督の言いたい事でもあった。
しかし、事実でもないような推測だけで物を言うのは非常に危険である―と言うのは何度も目撃している。AI事件だけではなく、他にも類似案件は複数存在しているのだから。




