第17.5話:駆け引き
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2015年5月10日午後8時57分付:一部、行間調整。本編内容に変更はありません。
バージョンとしては1.5扱いでお願いします。
5月5日午前10時20分、スタート予定からは20分もずれ込んでいる。特に違法ガジェットも発見されていないレースで、ここまで遅れるのは異例であるのだが、その原因は作っていたのは蒼空かなでが提案した一件だった。
『提案がある。パルクール・サバイバーを正常化する為にも、超有名アイドルとはレースで決着をつけたい』
ネット上では、該当の動画が公式の配信前に出回っており、生中継で該当シーンを見ていた視聴者からもレースの開始を求める声が出ている。
しかし、パルクール・サバイバーではレースの遅延が日常茶飯事と言う事もあって、慣れている視聴者からは『平常運転か』と言う一言が出る位にとどまっていた。
マスコミの中には『ここまで呑気にしていていいのか?』という意見も少なからず存在し、一部のマスコミやネット炎上勢と言った勢力が一連の流れを調べている所である。
同日午前10時25分、ソロモンは秋葉原駅に入ろうとした矢先で何者かの襲撃を受ける。大塚提督と会話をしている途中でBL勢に発見されてしまい、それから逃げていたはずなのだが―。
「まさか、お前が全ての元凶だったとは」
未確認勢力の正体は超有名アイドル勢の残党とサマーフェスティバルとサマーカーニバルの現役メンバー、更には秋元だったのである。ソロモンの前に姿を見せた秋元はサングラスの何かを停止し、それとは別に銃型のガジェットをソロモンに突きつける。
『どの段階で気づいていた。最初から泳がせたのではなく、ブラックファンか炎上勢の書いたまとめサイトで気づいたのだろう?』
ソロモンのバイザーには、金髪のサングラスという秋元の顔が見えるようになっていた。どうやら、先ほど切ったのはシステムの電源らしい。
「そのようなあからさまな誘導には釣られないよ。孔明が逮捕された段階でチート勢が総崩れ、あえて気づいたタイミングを説明するならば、そこだな」
秋元がソロモンをスパイだと気付いたのは最近であり、深い事情を知っていた訳でもない。孔明逮捕のニュースを聞き、チート勢が総崩れした。
ソロモンは他の勢力にもガジェットを提供していた事もあって、不審に思った秋元がガジェットの提供先を調査した結果―ソロモンにスパイ疑惑が浮上する。更には、先ほどの何者かとの通信、BL勢に追われる姿、これで疑惑は確信となった。
「貴様が他の勢力にも恨みを買っていたのは、ネットでも一目瞭然。つまり、今回の事件は全て貴様のシナリオ通りだったという事……!?」
秋元が「シナリオ通り」と言った段階で、ソロモンは突然笑い出した。「何がおかしい」と突っ込もうとしたが、それさえもできないような状況なのは間違いない。
突如として笑い出したソロモンは、何かのシステムを作動させる準備を行う。
【アカシックモード・起動】
ソロモンのメット内部に表示されたインフォメーション、この文字は秋元達には全く見えない。更にはソロモンの周囲から青い霧が展開されており、それに超有名アイドルは動揺している。
『シナリオ通りだと? 違うな! 全ては、こちらの想定内で動かされていた、と言う事……』
ソロモンの鎧が消えたと思った矢先、秋元達の目の前に姿を見せたのは、青髪のツインテール、貧乳気味な女性である。それを見た秋元は、何かのトラウマスイッチが入ったかのごとくにおびえ始めた。
「ば、ばかな! お前はアイドル候補生だった―それが、何故に我々へ復讐を始めた?」
「超有名アイドル商法が間違っているという事は、アイドル候補生になってしばらくした所で知った。他にも音楽業界が隠したい複数の案件、出来レースのCD大賞、株取引と同様の状態となったCDランキング、更には自分達を売り込む為にありとあらゆる不正を行うように仕向けるネット住民―」
「それが、どうして復讐につながる? そのような出来事は存在しない! お前こそ、ネット住民に操られているのではないのか?」
「こちらも最初は、ネット住民に誘導されていると考えていた。しかし、ある業界を知った事で全ては変わった」
2人の話が続く中、超有名アイドル勢の中には撤退する人間も出ている。それ程、今回の争いには得がないと判断したのだろうか。あるいは、それよりも別の話題を探す為に撤退したのか。
一部のアイドルメンバーと秋元、ソロモンだけになった秋葉原駅近く。警察による立ち入り規制もあって、電車及びバスは秋葉原駅を通過と言う措置が取られていた。
「ある業界? まさか―」
「そのまさかよ。その流れで立ち上げたのが、パルクール・サバイバルトーナメント―もう、分かるわね?」
「馬鹿な! 貴様がパルクール・サバイバーの運営だと言うのか」
「運営総責任者であるガレス、それが今の自分でもある」
ガレスに装着されていくガジェットはパルクール・サバイバー用ではなく、別のARゲーム用のガジェットにも見える。SFロボットと言うよりは、パワードスーツにも近いデザイン、所々には北欧神話をモチーフにしたアーマーも装着されている。
「まさか、レーヴァテインも貴様だと言うのか?」
『残念ながら、レーヴァテインは自分ではない。あれは別の人間よ。パルクール・サバイバーとは無縁だと思う人物の単独行動―』
「支配人に影武者をさせ、それが逮捕されたというのは―」
『あれはコンテンツガーディアンの単独行動。そこまでは察知していない。ただし、事前に潜伏情報は提供したけど』
「何処まで行動を把握していた? 我々が拝金主義コンテンツの優遇法案を出そうとしていた段階―」
『―勝った』
ある一言を聞いたガレスは一言つぶやく。そして、秋元の周囲にいたアイドルはいつの間にか全て倒されており、残るは秋元一人だけになった。
「どういう事だ? 周囲のアイドルはどうした?」
『あなたの話を聞いて逃げたみたいね。結局、この日本を金が全てと言う世界に変えようとしたあなたには愛想が尽きた―と言うべきか?』
秋元は周囲を見回すと、倒れているアイドルもいるのだが、その数は数人規模。半数以上は逃げたとしても、数が合わない事に秋元は何か思い当たる節はないかと考える。
「まさか!? あの時にシステムを切ったのが原因か」
自分でシステムを切った事に気付き、再びシステムのスイッチを入れるのだが、時すでに遅いという段階だった。倒れているアイドルのコントールは解除され、逃亡したアイドルの方もシステムがサーチ出来る距離を離れ過ぎている。
『マインドコントロールか―そこまでして超有名アイドル商法を恒久化するのには、何か理由でもあったの?』
ガレスの方も秋元のやり方に呆れかえる。マインドコントロールでアイドルを操り、自分の都合の悪い事を公表させないように口封じ、更には超有名アイドルファンを金で操っていた―一昔前のアイドルとは大違いである。
これがアニメやゲーム、小説等の架空アイドルであれば『中二病』や『メアリ・スー』等の一言で片づけられる可能性は否定できないだろう。しかし、それを現実に持ち出したのである。ある意味でも禁断の果実に手を出したと言うべき行動だ。
「今の日本経済を復活させる為にも、超有名アイドル商法は欠かせない。そうでもしなければ、やがて日本は財政破綻する。コンテンツ流通は超有名アイドルだけが独占すべき物なのだ!」
秋元は何度も訴えるのだが、ガレスの方は完全に聞く耳持たずという状態になっている。そして、数分後にはコンテンツガーディアンが駆けつけた。
同日午前10時35分、秋元逮捕のニュースがネット上に拡散したのは、このタイミングである。このニュースを見たネット住民は―。
【やっぱり。全ての元凶がついに逮捕されたか】
【逮捕されたと言っても秋元だけ。そこから色々な芸能事務所へ強制捜査が入るのも時間の問題だ】
【まるで、過去に起こった食品偽装や異物混入事件を思い出す】
【ここから色々なアイドルが秋元との関係等を疑われる】
【むしろ、彼の逮捕で何かが変わるのか?】
【パルクール・サバイバーでも超有名アイドルの妨害等を受けていたという話を聞く。これで全てが終わったと考えてもよいのか?】
【妨害を受けていたコンテンツに関しては、その後も便乗被害と言うのが出てくるかもしれない。真相の解明がされて、初めて解決するというのが大きい】
ネット住民も、その後の反応次第という事で詳細な言及を避けている。政府の検閲等ではなく、下手に煽って炎上しては第2、第3の秋元になると懸念している可能性が大きい。