これから-1
「だから、家に住むだなんて困りますって!」
必死に声を荒げ、三人に訴えかけるわたし。
しかし対するルカさんは、余裕たっぷりの笑顔を繰り出した。
「へえ。じゃあ俺達に出て行けと? 他に行く宛もないのに?」
「だ、だって、もうすぐ親も帰ってくるんですよっ。なんて説明したら良いんですか」
「ふーん……なるほどな。お前は、見知らぬ世界に放り込まれて他に居場所のない俺たちに、『出て行け』なんて非情なことを言うような女だったのか? 見損なったぜ、お前のこと」
「うっ、そ、それは……」
言葉に詰まるわたしを見て、チャンスだと言わんばかりに、アルドさんがルカさんに助太刀する。
「ホラホラ、かわいそうでしょー? 居場所のない捨て猫みたいな俺たちのコト、放っておけないでしょー? もう大人しく観念しちゃいなよ。ただ、俺たちをここに住まわせれば良いんだからさ。ねぇ、愛子ちゃん?」
「う……っ」
良心の呵責に耐えかね、私はついにその場に膝をついた。
……確かに、他に居場所のない彼らを見捨てるのは酷いことだとは思う、けれど……。
「……でも……。親がダメだって言ったら知りませんよ、わたしっ」
「はあ? そこはお前が命を懸けて頼みこめよ」
「命が関わるほど大きな問題だったんですか!?」
「……何やら、人が来たようだ」
独り言にも似たエリオさんの言葉に、ルカさんとわたしの声がぴたりと止まった。
ガチャガチャ、と玄関の鍵を開ける音が聞こえる。……まずい。これはまずい。お父さんとお母さん、帰ってきちゃった。
「ただいまー!」
「いやあ、やっぱり久しぶりの我が家は落ち着くなあ」
「ちょっとぉ、愛子ー? いるのー? ママもパパも無事に帰ってきたわよー」
青ざめるわたしとは関係なしに、親しみ慣れた声はどんどんこちらへと近付いてゆく。
「はあ、疲れたわあ。ただい――」
リビングへ足を踏み入れ、再び『ただいま』を言おうとしたお母さんの声が、止まる。
お母さんは偉そうにソファーでくつろいでいるルカさんとアルドさん、そして困ったように何かを言おうとしているエリオさんを、無言のままで見つめていた。
――どうしようどうしようどうしよう。
焦って言葉を探しているうちに、お父さんが口を開いた。
「おお、三人とも。もう着いていたのか」
――え?
「遠路はるばる大変だったでしょ、お疲れ様。今日からしばらくはここが家なんだから、心置きなくゆっくりしていってね!」
お母さんもお母さんで明るい笑顔を振りまく。
「ちょ、ちょっと、お母さん!」
自室へ入っていったママを追い、わたしはノックもせずにお母さんの部屋へ入った。
「お母さん、どういうことなの? あの人達のこと知ってるの!?」
「まあ、なあに? 何かのお芝居? ヘンな愛子ね」
お母さんはふふっと小さく笑い、続けた。
「遠縁の親戚でしょ。瑠可くん、或人くん、選緒くん。今日からしばらくの間この家に下宿することになったって、旅行行く前に言っといたじゃない」
「しん……せき?」
「明日からはあんたと同じ東高に通うことになるのよ。まだ慣れないでしょうから、しっかり街案内してあげなさいね」
そしてお母さんは、何故か突然感じ入るように恍惚の溜息を吐いた。
「はあ、にしても三人とも、立派なイケメンになっちゃって……。お母さんがあと三十歳若かったら、すぐに彼女に名乗り出るんだけど」
お母さんの顔がぐっと近づく。
「あんたも頑張りなさいよ。お母さん、期待してるからね」
語尾にハートが付きそうな口調で言うと、お母さんは「じゃ、着替えるから」とドアを閉めてしまった。
残されたわたしはというと、ただただ呆然としてドアの木目を見つめていた。
これから-2に続きます。
登場人物設定を書こうか迷っています^^;