表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

正体-2

「――ごちそうさまでした」


 一番に食べ終わった灰髪青年が、ご丁寧に手を合わせ、頭を下げる。

 そして顔を上げると、静かな声で黒髪青年に問いかけた。


「……僕たちのこと――僕の口からお話してもよろしいでしょうか」

「あ? 別にいいぜ」

「では、僕達のことを話そうと思う。……僕はエリオ=パーニと言う。こちらの――グレンダ家の伯爵であるルカ様と、弟君のアルド様に仕えている、執事の者だ」


 灰髪青年、もといエリオさんは、残りの二人をそれぞれに視線を配りながら言った。

 どうやら俺様な態度の黒髪青年がルカさんで、飄々としている茶髪青年がアルドさん、ってことみたい。


「へえ、執事さんなんですか」

「……ああ。パーニ家の者は、代々グレンダ家に仕えることになっているんだ」

「ほおー……」


 ……?

 ……執事? 伯爵?


「え? え……え?」

「昨夜の晩だった。どういうわけか木の上にウサギがいて、地上に降りられずに震えていた。それをルカ様が助けてやったのだ。そうしたらそのウサギから何故か白い光が放たれ、ルカ様はその光に吸い込まれてしまったのだが、近くにいた僕とアルド様も同様に吸い込まれた。そして気がついたときには、僕たちは見知らぬ世界に――この家に、いた」

「ちょ、ちょっと待って下さい、今、すごい頭が混乱してるんですけど……」


 ぐちゃぐちゃになった頭なりに、彼に聞いた話を慌てて整理する。

 登場人物は、伯爵とその弟とその執事。

 一、伯爵がウサギを助けた。

 ニ、ウサギから白い光がぱあああっと放たれた。

 三、伯爵はその光に吸い込まれ、弟と執事も光に一緒に吸い込まれ、そして――

 ……私の家の庭へやってきた。

 そんな訳の判らない、というか非現実的なことがあるのだろうか。ウサギを助けたら知らない世界へ飛ばされた、だなんて。

 だけどエリオさんが嘘を付いているだなんて思えないし、何よりわたしは、彼らが光に包まれて現れたその現場を目にしている。

 ……にしても、なんだかどこかで聞いたことのあるような話だ。


「あ――」


 私はハッとした。――気づいたのだ。

 ……もしかして。ううん、もしかしなくても。

 これ、よく漫画とかで聞く【異世界トリップ】ってやつなんじゃ――。


「……こんなこと、本当にあるんだ……」

 驚きの余り呆然としていると、卒然とルカさんに「おい」と肩を叩かれる。


「何ボーっとしてんだよ。ちゃんとエリオの話聞いてたか?」

「き、聞いていました」

「なら大体話の内容は掴めたな? 俺らもよく分からねえんだよ。急に光に吸い込まれて、気づいたらお前の家にいたんだから――元の世界に戻る方法もわからない。お前が俺たちを呼び寄せた訳じゃないんだろ?」

「もちろん違いますよっ。わたしだって、急にあなたたちが庭に現れたから、訳が分からなくて驚いているんです」

「……そうか」


 ルカさんは小さく溜息を吐いて、それきり黙ってしまった。

 これから先どうすればいいのか、考え込んでいるようだ。


「まあ、とりあえずさ」


 アルドさんの明るい声が、少しの間流れた沈黙を破った。


「急に知らない世界に飛ばされて、辿り着いた場所がここってことは――元の世界に戻るカギは、ここにいた人間が……つまりは、君が握っているってことだよね? ね、愛子ちゃん」

「えっ、わたし何も知りません」

「君本人が何も知らなくても。元の世界に戻る方法に、大きく君が関与していることは間違いないと思うけどー? ねえ、ルカ兄」

「ああ。お前と生活を共にしていれば、何か手がかりが見つかるかもしれない」


 ルカさんのその言葉を聞いて、程なくしてとってもとっても嫌な予感がした。

 まさか、まさか――。

 悪巧みをする子供のようなその笑みが妙に恐ろしくて、思わず後退りする。

 けれどルカさんは笑みを崩すこと無く、わたしに言い放った。


「今日からこの家に住む。覚悟しろよ、愛子」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ