正体-1
日曜の朝は、柔らかな朝の光と小鳥たちのさえずりによって、とても穏やかに訪れた。
「んー……」
沈んでいた意識が、ゆっくりと浮上してきた。
そうだ。わたし、あのまま寝ちゃったんだ……。
布団も掛けずに寝ちゃったなんて、風邪引くもとだ。気をつけなきゃ。
ひとつ大きく伸びをして、真っ白な天井から恐る恐る視線を移す。
――右も左も、ただ床のタイルが見えるだけで誰もいない。
「良かった……」
――……昨日のことは夢だったんだ。
まあ、落ち着いて考えてみればわかることだけど。突然、光の輪に包まれて青年たちが現れるなんて、そんなファンタジーな出来事があるわけがない。
わたしはほっと胸を撫で下ろし、ゆっくりと立ち上がる。
そして、
「やっと起きたか」
「わあっ!?」
目の前に立ちふさがった黒髪青年の姿に、思わず色気のない悲鳴を上げてしまった。
夢じゃなかった。どうしよう。現実だった。
すると、わたしの悲鳴に反応したかのように、彼の背後に隠れていた二人の青年がしゅっと姿を現して、黒髪青年の左右に並んだ。なにこれ、分身の術みたい……。
「静かに。近所迷惑だろ」
「あ、はあ、スミマセ……」
黒髪青年に注意され、私は思わず謝罪し――ようとして、我に返った。
「わたし、あなたたちに色々聞かなきゃならないんです! あなたたちは何者なのか、それからどうやって庭に来たのか、どうして来たのか――」
「はいはい、君の聞きたいことはだいたい分かったよ」
わたしの言葉を笑顔で遮ったのは、茶髪に緑の瞳の青年。彼に続いて無表情のまま小さく頷いたのが、灰色の髪に、紺の瞳の青年だ。
やっぱり二人も、黒髪紅眼の彼に勝るとも劣らない美形だった。
「安心しろ、お前の聞きたいことは全部話してやる。だが今はそれより先に朝飯をよこせ。こっちはこの世界に来てからずっと眠りっぱなしで、腹減ってんだよ」
「え? ……この世界?」
「ほら、聞こえねえのか? 多少まずくても黙っててやるから何か作れ。早く」
「は、はあ」
どう考えても人にモノを頼む態度じゃない。
黒髪青年に有無を言わせない物言いをされ、釈然としないながらもわたしはキッチンへ向かっていた。
うーん、まあ……どうせ朝ごはん終わったら帰ってもらうんだし、いいか。
「あ、ミルクコーヒーは嫌いから淹れるなよ。ブラックにしろ」
「んー、じゃあ俺は苦いのムリだから、ミルクコーヒーね」
「……僕は普通の水でいい」
「はいはい……!」
ちょうどマグカップを三つ用意したところで、三人から勝手なオーダーが入ってきた。
この人たち、ここをレストランだかなんかだとでも思っているのだろうか……。
***
「はい、どうぞ! 朝ご飯、ちゃんと作りましたよ」
トレイに乗せたコーンスープとトーストパンをダイニングテーブルの上に置く。しっかりとご希望に沿ったドリンクも付けておいた。
三人はよほどお腹が空いていたのか、すぐに朝食を始めた。
「へえー、このコーンスープはなかなか美味しいよ」
一番に言葉を発したのは茶髪の青年だった。
「それは良かったです」
「もちろん、俺達が普段飲んでるようなのとは天地の差だけどね。ま、ご苦労様」
地味に貧乏人だと罵られたような気がしないでもないけど、気にしないことにする。
次にわたしは、その隣で水を飲んでいる灰髪の青年にたずねてみる。
「お味はどうですか?」
「……問題ない」
「良かった」
小さくつぶやかれた言葉に、わたしはほっと胸を撫で下ろす。無表情のまま「まずい」とか言われなくて安心した。
「あの、お味は」
そしてわたしは、一番返ってくる言葉が怖い黒髪青年へ視線を投げる。
彼は少し考えこんでから言った。
「まあ、まずくはないんじゃねえの? 安っぽい味はするけど。褒めてやるよ」
「そ、それはどうも……」
「品数が少なすぎるけど……まあ、民家の家にしては豪華な方か」
黒髪青年はどこか意地の悪い笑みを浮かべ、スープをすすり始めた。
「……」
黙々と食事をすすめる彼らの様子を見ながら思う。ホント、この人達何者なんだろう?
ただ、これまで彼らがサラリと発してきた「庶民」とか「民家」とかって言う言葉の数々からして、多分だけどかなりの金持ちなんだと思う。服装もなんて言うか豪華絢爛だし。
そして大事なマイホームを「粗末で汚い家」と称されたこと、わたし、絶対忘れない。
一旦切ります^^
正体-2に続きます。