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2 種も仕掛けも



 きらびやかな、にぎやかなステージでは、次々と手品が行われている。

 人体浮遊に透視、瞬間移動、トランプマジックから炎をつかった派手なもの……。観客達を驚かせていた。

 K氏は友人のH氏に連れられて、このショーへとやってきた。

 最初はたかが子供だましと笑っていたK氏だが、演目が進むにつれて前に乗り出し、食い入るように見ていた。その様子に、H氏は苦笑せざるをえなかった。

「なんだい君、手品なんて子供だましなんて言っておいて、それがどうだい? そんなにのめりこんでさ……。あはは。まぁ、十分気晴らしになったみたいでよかったよ」

 H氏は笑い半分で言うので、K氏も恥ずかしそうに席に座りなおす。

「いやあ、手品ってのは種も仕掛けもあるもんだろう? なんとかそれを暴いてやるぞって思ってね……。でも、こうしてみるとどうにもそうは思えない。どれもこれも本当に魔法のようだ」

 まるで斜に構えた中学生のようなK氏に、H氏は愉快そうに笑っていた。

 ステージでは演者が入れ替わり、赤と白の縦縞の衣装に身を包んだ男が出てきた。

「……さて、ワタクシメの出し物ですが、客様にご協力をいただきたいと思います。どなたか日本銀行券を提供していただけませんか?」

 その仰々しい言い方に苦笑が漏れる。手品師の男は方々をわざとらしく見回り、そしてK氏に手を差し出す。

「はい、そこの御仁。ステージ袖で見ておりましたが、先ほどから食い入るように見てくれていましたね。どうです? ぜひ貴方にご協力していただきたいものですが……」

 その言葉にK氏は自分を指差して驚く。すると周囲の人達は好奇の視線と拍手で取り囲む。

「ほら、いってあげなよ」

「ったく、君まで……」

 K氏は友人の言葉に背中を押されて、ステージへと向かった。


「さてさて、お立会い。これからK氏より私、日本銀行券をお借りしたいとおもいます。どうか、お願いいたします」

 K氏は愛想笑いを浮かべながら、懐から財布を取り出す。中には千円札数枚と一万円札が三枚入っていた。

 K氏は千円札を取り出し、手品師に渡した。

「ええ~、申し上げにくいのですが、一万円のほうがきっと驚いていただけると思いますよ?」

 またも笑いが起きるとK氏は自分のせこさからか、真っ赤になる。

 しょうがなく一万円札を取り出すK氏。

 手品師の男は奪い取るようにすると、懐から封筒を取り出す。

「さて、これより見せますは、種も仕掛けもございません!」

 手品師の男は封筒に一万円札を入れると、そのまま丁寧に何回か折る。

「封筒に入れましては、ここをこうしてこうこうこうこう……」

 特殊な順序の折り方なのだろうか、丸めたり、じゃばらにしたり、開いてみたり……。

「さてさて取り出したるはこのハサミ」

 そしてポケットからハサミを一つ。それを折った封筒にあてがうと、じょぎじょぎと切り始める。

 一瞬、K氏は自分の一万円札が切り裂かれることに驚くが、回りのくすくす笑いにはっとなる。今日、今ここで何が行われているか? 先の演目を考えれば大体わかることだ。何も無い空間から鳩を取り出したり、手を触れずに紙切れを動かしたり……。

 切られた一万円札も種や仕掛けで無事手元に戻る。いわゆる手品の演出なのだ。心配する必要はない。

 そう思った矢先だった……。

 足元に落ちる封筒のクズキレ。そこには黄土色というか、しなびた色の紙がちらほら混ざっている。

「え?」

 Kは驚きながらそのゴミを拾う。

 そして改めて見ることに、それは紛れもなく一万円札の切れ端だった。

「お、おい君! これはどういうことだい!? まさか本当に一万円札を切り刻んだのか?」

「え? はい。封筒に入れて切っただけですものそうなりますね。種も仕掛けもありませんので」

「そうなりますねじゃないよ! どうしてくれるんだい、僕の一万円!」

「ええ、ですが、私はこういったじゃないですか。提供してくださるって……。貴方は私のショーに一万円追加で提供したんですよ? それをどうするかは私の勝手じゃないですか」

「だって、切り刻まれるなんて聞いてないぞ」

「そりゃあ言ってませんし」

「そんなのってあるか! これは手品じゃないか!」

「そんなことは言ってませんよ。ほらほら、次の出し物があるんで、どうぞお席へお戻りください」

 K氏は他の観客の手前もあり、この場は席へと戻ることにした。

 背後では男が次の出し物について説明を始める。

「さて、続きましては人体切断ショーです。これまたお客様にご協力していただきたいのですがどなたかおられませんか? もちろん、種も仕掛けもありませんよ……」


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