1 おがくず
K氏が大学の研究室を訪ねるのは、卒業してから五年目の冬だった。
今もラボに残る同ゼミのH氏は、久しぶりに訪れた同窓生を笑顔で迎え入れた。
「久しぶりだね。近くまで来てたんで顔を見に来たんだ。相変わらずで何よりだ。ところで、ちょっと頼まれてくれないか? 実は先日実家に帰った時に怪しい露天商でこんなものを買ったんだ」
K氏が懐から五センチ四方の石の箱を取り出し、H氏に見せる。
「なんでも、呪術の道具らしいんだ。嫌いな相手の家にこれを撒き散らせば、それだけで効果があるとかないとか……」
H氏はその石の箱を受け取り、フタを取る。すると今度は発泡スチロールの箱が出てきて、それをあけると木箱があり、さらに開けたところで褐色の瓶が入っていた。
カツーン……。
「まるでマトリョーシカだね? で、僕にこれを調べろっていうのかい?」
褐色の瓶を傾けると、まるで砂時計のようにさらさらと傾く内容物。どうやら粉末状のものらしい。
H氏は褐色の瓶を空け、手に取ってみる……。
「おい、大丈夫かい?」
その様子にK氏は驚いた様子で後ずさりするが、H氏は笑って相手にしない。
「ははは、露天商で売ってたんだろ? 劇薬なわけないじゃないか……。それに、これはただのオガクズだよ」
カツーン……。
カツーン……。
「おがくず? オガクズって木を切ったりするときのアレかい?」
「ああ。調べる必要もないよ。君は騙されたんだ」
「はは、なんだそうか……」
K氏はそう言うと、H氏から瓶を受け取り、フタを閉め、木の箱に詰め、発泡スチロールの箱に戻し、石の箱にしまった。
カツーン……。
「さてと、まさかと思って買ってしまったけどほっとしたよ。なんかばかばかしいことに突き合わせたみたいで悪かったね。そういえばそれはなんだい?」
研究室の隅にある見慣れぬ道具を指差すK氏に、H氏は笑って答える。
「ああ、これはうちのワイフが持てってうるさくてね。巷で流行っているなんとかカウンターだってさ……」




