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No.92:side・remi「捜索難航チュー」

 シャーロットさんの案内で、私たちは商店街の中を巡っていきます。

 元々東区の住宅街のための商店街ということもあって、それほど大きくはなかったんですけれど、ほとんどのお店の人がネズミを見たということで、あちらこちらでお話を聞くことになりました。

 でも、どのお店でも「ネズミが走っているのを見つけた」や「ネズミの尻尾が壁の向こうから覗いてた」というお話ばかりで、言われた場所を覗いてみても、ネズミの巣がそこにあったりとかはしませんでした。

 すべてのお店を見て回り終え、私たちは再びシャーロットさんのお店へと戻ってきました。


「あ~! 結局見つかんなかったし!」


 お店の中へ入った途端、カレンさんが大きな声で叫んで、お店に備え付けてある椅子へ身体を投げ出しました。


「どいつもこいつもてっきとうなこと言いやがって! まともにネズミを見た奴が一人もいないじゃないか!」

「まるで雲をつかむような話だな……」


 愚痴をこぼすカレンさんに同意するように、アスカさんがポツリとつぶやきました……。

 でも、アスカさんのいうとおりです。

 ネズミに関する商店街の皆さんの証言は、ほとんどネズミ捜索の役には立ちそうにありません……。

 人によっては、シャーロットさんのようにネズミ取りを仕掛けていたり、残飯に毒を混ぜておいて置いたりと、ネズミを駆除しようとしていましたが、それらにネズミが引っ掛かった気配は全くありませんでした。

 ネズミが学習するっていう話は結構有名だけど、一回も引っ掛からないなんておかしいよね……?


「ごめんなさい、皆さん……。無駄足を踏ませてしまったようで」

「いえ、シャーロットさんのせいじゃ……」


 私たちが意気消沈している様子を見て、シャーロットさんが申し訳なさそうに頭を下げてきました。


「光太君のいうとおりですよ。シャーロットさんのせいじゃありません」

「じゃあ、誰のせいだっていうんだい?」

「え? えーっと……」


 私も光太君に倣ってシャーロットさんを慰めようとすると、カレンさんが不機嫌そうにそんなことを聞いてきました。

 でも、聞かれても答えられません……。この場合、誰が悪いなんて問題じゃないと思うけど、カレンさんが聞いてるのはそういうことじゃ……。


「カレンさん、やめてください」

「あ……」


 困って言葉に詰まる私の前に、光太君が立ってくれました。


「誰のせいとか、誰が悪いとか、そういう話じゃないでしょう?」

「……わかってるよ。悪かったね、レミ」

「あ……いえ、大丈夫です、カレンさん」


 ばつが悪そうなカレンさんに、私も頭を下げます。

 カレンさんも、うまく解決の糸口が見つからないこの状況に、少し苛立っているように見えます……。

 私たちの世界では、ネズミ退治の手段が豊富ですし、ネズミによる実害も防げるようになっているのでそれほど深刻ではありません。

 でも、中世のヨーロッパ的な文化を持つこの世界にとって、ネズミがもたらす被害は決して放置できない問題でしょう……。

 でも、ネズミを見かけたという話は聞けても、ネズミそのものはどこにもいない。これじゃあ、打つ手がありません……。

 そうして悩んでいると、アスカさんがお店の外を見つめながらポツリとつぶやきました。


「……とりあえず、この後はどうします? 商店街の見回りは終えました。時間的にも、そろそろ王城へ戻りませんと」

「あ……そうですね」


 お店の外を見てみると、太陽がだいぶ傾いています。もうすぐ夜になろうとしていました。

 結局、今日は何の収穫もなしかぁ……。真子ちゃんにとって、つらい日が続きそうです……。

 と、シャーロットさんがポンと手を打って、店の奥へと引っ込んでいきました。

 突然のシャーロットさんの行動に、光太君と顔を見合わせて不思議に思っていると、天板の上にたくさんのパンを乗せて戻ってきました。

 そしてお店の中のテーブルの上に天板を乗せて、こういってくれました。


「皆さん、せっかくですから、うちのパンを食べていってくださいな」

「いいのかい!?」

「はい。この時間まで残っちゃうと、あとは捨てるしかなくなりますし……」


 シャーロットさんの言葉に、カレンさんは歓声を上げながらパンを食べ始めました。

 シャーロットさんのいうとおり、どうやら天板の上に乗せられたパンは売れ残りみたいで、少し時間が経っているのがわかります。それでも、パンを頬張るたびにおいしいとカレンさんは叫んでいます。焼きたてじゃなくてもおいしいなんて、すごいです。

 でも……さすがにただは悪いですよね。

 私はそう考えて、ポケットから財布を取り出しました。

 すると、シャーロットさんが両手で私の財布を押さえました。


「しゃ、シャーロットさん?」

「いいんですよ、レミさん」


 そういって、シャーロットさんは優しく微笑みました。


「今日一日、ネズミ探しに付き合ってくださったお礼です。遠慮せずに、召し上がってください」

「で、でも……」

「この量はさすがに悪いです。僕も、お金払いますから」


 たじろぐ私と同じ意見らしい光太君も、お財布を取り出しました。

 でも、シャーロットさんは首を横に振って、お金を受け取ろうとはしませんでした。


「結構ですよ、コウタさん。でも、もし申し訳ないと思うのなら、次は焼きたてを食べに来てくださいね? その時は、お金を頂きますから」


 そういって茶目っ気たっぷりに微笑むシャーロットさん。

 思わず光太君と顔を見合わせ、なんとなく顔を綻ばせてしまいました。

 シャーロットさんの気遣いに感謝して、私と光太君はパンを一個ずつ手に取りました。


「それじゃあ……」

「いただきますね」

「はい、召し上がれ」


 シャーロットさんにお礼を言いつつ、私はパンを一つ頬張ります。

 すると、口の中に木苺の甘酸っぱい香りがふわりと広がりました。


「ん~……」


 程よい酸味と、果物の甘味が身体じゅうに広がっていくようです……。

 歩き通しで疲れていたのもあって、すごくおいしい……。


「シャーロットさん、すごくおいしいです!」

「ありがとうございます、コウタさん」


 光太君も、一口食べた途端顔を輝かせました。

 光太君のはオレンジジャムのパンの様です。

 あっちもおいしそう……。

 思い切って聞いてみようっと。


「ねぇ、光太君。そっちのパン、少しもらっていい?」

「うん。その代わり、礼美ちゃんのパンも少し頂戴?」

「うん!」


 光太君に了解をもらったので、私は自分のパンをちぎって光太君に差し出します。

 ジャムをしっかりパンにつけて……と。


「はい、どうぞ!」

「ありがと。ハイ、これ」

「わあ、ありがとう!」


 光太君も私のようにちぎったパンにジャムをたっぷり塗って手渡してくれました。

 光太君からもらったパンを、早速口にします。


「ん~!」


 やっぱりこっちもおいしい! オレンジ色だからオレンジみたいなジャムかと思ったら、レモンみたいに酸っぱいんだ!

 異世界のおいしい食べ物に感動していると、なぜかカレンさんの呆れたような声が聞こえてきました。


「あんたら……なんでそんな平気で食べかけのパンの交換とかできるんだい……?」

「「え?」」


 カレンさんの方を向くと、なぜか顔が少し赤いです。

 ? どうしたんだろう?


「いや、間接……ああ、もう! なんでもないよ!」


 カレンさんは何かを言いかけましたけど、乱暴に首を振って、鶏肉がはさんであるパンをがぶりと頬張りました。

 ??? いったいなんなんだろう?

 そんな私たちのやり取りを見て、シャーロットさんが楽しそうな笑い声を上げました。


「レミさんとコウタさんは、仲がよろしいんですね?」

「あ、はい」

「最近友達になったんですけどね」


 私たちが笑顔でそういうと、なぜかシャーロットさんは苦笑しました。


「いえ、そうではなくて……」

「「???」」


 そうじゃないなら、どうなんだろ?

 不思議に思いましたけれど、私が何かを言うより先に、シャーロットさんは小さくため息をつきました。


「少し、皆さんが羨ましいです。この商店街に、私と同い年くらいの子はいないものですから」

「そうなんですか?」

「はい。星の巡りか、あるいは運かはわかりませんが……」


 そういって、シャーロットさんはさびしそうに笑います。

 子供がいないわけではないけれど、歳が離れているせいで姉役として接することが多いのだとか。

 それはさびしいです……。歳が離れちゃうと、どうしても親しく接するのが難しくなっちゃうし……。


「でも、最近友達できたんだろ?」

「あ、そうなんですか?」

「え、ええ……」


 でも、カレンさんの言葉に私は相好を崩します。

 よかったー。もしいなかったら私が……って言いたかったけど、シャーロットさん大人っぽいから、遠慮しちゃうかもしれないし……。

 カレンさんの言葉に、少し恥ずかしそうに微笑んだシャーロットさんですけど、すぐにさびしそうな表情になります。


「でも、なかなか会えないんですよ……。少し前までは二日とあけずに来てくれていたんですけど、最近はなかなか……」


 そうなんだ……。忙しい人なのかな?


「なんていう人なんですか?」

「それが名前も聞いたことがなくて……」


 名前を聞いたことがない?


「はい。元々、お店にパンを買いに来てくれる人なんですけど、何回かお店に来てくれるようになってから、お話をするようになっただけで……」

「でもあいつ絶対シャル目当てでこの店来てるだろ?」

「もう、カレンさんってば」


 私が首をかしげるのと同時に、カレンさんがからかうようにそんなことを言います。

 光太君が、何かに納得したように頷きました。


「シャーロットさん目当て、ですか。つまり男性なんですね?」

「そーそー。この辺じゃ見ない顔なんだけどさ。チョロッと顔見た限りじゃいい男だよありゃ。あんなのに懸想されるなんて、シャルだってまんざらじゃないんだろ?」

「もう……」


 ニヤニヤと笑いながら、カレンさんが捲し立てます。

 シャーロットさんは返事に困って黙り込んでしまいますけど、確かに悪い気はしていないようです。

 なんだか、羨ましいな。私にも、そのうちそんな風に思う人が現れるのかなぁ?

 そんな風に思いながら、私はまたパンを一口食べます。

 イチゴのジャムが、ほんの少し酸っぱく感じたのは気のせいなんでしょうか?






「言うに事欠いて、あんたがそんなセリフ吐くかぁ!?」

「マコ様落ち着いて!? 例のアレはいないでありますよ!?」

「あ、ごめんサンシター。なんかどっからか腹立つ思考が飛んできたから……」




 ツッコミ不在なせいで、電波再び。今回は真子ちゃんが受信した様子です。

 しかしネズミ捜索は難航している様子です。普通、生活圏内にネズミがいれば、もう少し痕跡があってもよさそうなはず……。

 一体、どんなネズミが発見されているというのか? 以下次回ー。


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