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No.89:side・kota「王都捜索チュー」

「へぇー。リュウの奴、今仕事でいないのか……」

「そうなんだ……」


 僕の説明にカレンさんが、幾度か頷いた。

 場所は王都の東区。一緒にアスカさんと礼美ちゃんもいる。

 で、今どうしてこの四人で行動しているかといえば……。


「しかし、ギルドの依頼とはいえ、ネズミ探しとは……」

「あ、アスカさん……」


 アスカさんが、少しうんざりしたように呟いた。

 そう。ギルドからネズミ退治を依頼されたんだ。

 カレンさんは、ギルドからの使者だったんだけど、とりあえずは暇だということで町に不慣れな僕たちの案内役として、アスカさんと一緒に来てもらったんだ。

 そんなカレンさんが、アスカさんの方を向いて小ばかにするような笑みを浮かべる。


「そりゃ、オエラい騎士様にゃどうでもいい依頼かも知れないねぇ」

「そういうわけではないが……」

「ふ、二人とも、落ち着いてください……」


 カレンさんの言葉に、アスカさんが少しムッとしたような表情になった。

 少し喧嘩になりそうな雰囲気だったけど、礼美ちゃんが二人を止めようとして割って入る。

 そんな礼美ちゃんの様子に、カレンさんは少し肩をすくめた。


「まあ、訓練で忙しい所に無理言って、悪いとは思ってるよ?」

「……いや、とんでもない。第一級害獣ともなれば、早急な手立てが必要になる」


 カレンさんの一応の謝罪に、アスカさんも小さく頭を下げた。

 アスカさんのらしくない態度に、僕は少しだけ悲しくなった。

 あの程度のからかいなら、アルルさんとのやり取りでよく見る。いつものアスカさんなら、軽く受け流せるはずなんだけど……。

 いけない。ダメな方向に気持ちが流れかけてる。隆司がいない今、僕がしっかりしないと。

 気持ちを切り替えようと頭を振って、改めてカレンさんにギルドから依頼された内容を確認することにする。


「それで……ギルドからの依頼なんですけど」

「あいよ」


 カレンさんが僕の話を聞いてくれる体勢になったのを確認して、僕は慎重に言葉を紡いだ。


「本当に王都でネズミが見られるようになったんですか?」

「ああ。ここ数日のうちだけどね」


 カレンさんが僕の質問を肯定するように頷いた。

 カレンさんが、騎士団へと持ち込んだ依頼は次のような内容だった。

 ここ数日のうちで、ネズミ発見や駆除の依頼がギルドへと持ち込まれるようになった。

 ギルドとしても、ネズミ退治はやぶさかではないが、人手が足りない。

 第一級害獣ということもあるので、騎士団の人員を貸してもらいたい……。

 騎士団長はその依頼を受諾し、こうしてアスカさんをはじめとした人員を王都中に放ってネズミ捜索にあてているというわけ。


「依頼のボードにも、ネズミ退治モトムの張り紙が増えてきてるからね。王都にネズミが出るようになったのはまず間違いないよ」

「そっか……」


 元々王都にはネズミをはじめとする害獣除けの結界が張ってあったはず……。だというのに、ネズミが発生しているという事態に、今魔導師団は大慌てになっている。

 アルルさんが一緒にいないのは、魔導師団の人と一緒に結界の調査を行っているからだ。

 結界に何らかの綻びがあって、そこからネズミが浸入したんではないか……というのが現時点で推測された原因の一つ。もちろん、それ以外に原因があるかもしれないから、一概には言えないって言われたけれど……。


「依頼の数は、どのくらいですか?」

「昨日の時点で、三件ちょっとか。まだ大したことないけど、ホントにネズミがいるんなら、これからもっと増えると思うよ」

「ですよね……」


 ネズミは繁殖力が強いことで有名だ。放っておいたらどんどん増えてしまう。

 早い所、捕まえるか何かしないと、王都中がネズミだらけになっちゃうからなぁ……。


「そうなると、真子ちゃんがかわいそうだし……」

「マコ? ああ、あの魔導師のことかい?」


 僕の独白に、カレンさんが反応する。

 ほんの少し呆れたような様子だったけど……。


「しかしあの魔導師、気が弱すぎないかい? ネズミって聞いただけで気絶するなんてさ?」

「あ、あはは……」


 僕はカレンさんに苦笑を返すほかなかった。

 何しろ、団長さんに言われていつもの会議室まで集められた僕たちに、カレンさんが依頼の内容を告げた途端、椅子ごと真後ろに倒れちゃったんだから……。

 慌ててサンシターさんが駆け寄って、礼美ちゃんの付き添いのもと部屋まで連れて行かれたけれど……顔が真っ青だったなぁ。


「あのー、カレンさん……。真子ちゃん、ネズミが本当に苦手で……。出来れば、そうっとしておいてあげてください」

「ああ、はいはい。わかってるよ」


 後ろから追いついてきた礼美ちゃんが、遠慮がちにお願いすると、カレンさんは苦笑しながらヒラヒラと手を振った。


「ネズミが苦手な奴は多いからね。あまり話題にもしたがらないって連中もいるさ。まあ、名前聞いて気絶するほど嫌いな奴は初めてだけどさ」

「そ、そうですか……」


 大きな声で笑い声を上げるカレンさんに、礼美ちゃんはちょっとひきつった様な笑みを浮かべた。

 礼美ちゃん、カレンさんのことが苦手なのかな……?

 と、アスカさんがみんなの注意を引くようにポンと掌を打った。


「まあ、それは置いておきましょう。カレンさん、ネズミが報告されたのはこのあたりですか?」

「ああ、そうだね」


 カレンさんが頷いたのを見て、僕は周囲を見回した。

 製服工場が多い東区の中で、割と居住区に近い商店街だ。きっと、この区にすむ人が普段の買い物に利用するんだと思う。

 見ればパン屋や飲食店なんかも見える。ネズミが繁殖するにはもってこいな場所だ。

 周囲を見回していると、カレンさんが僕にも聞こえるように説明を始めてくれた。


「発見したのは、確かパン屋の娘だったかね。朝方、いつものようにパンを作ろうとしたら、小麦粉を入れてる倉庫の陰でネズミを見つけたらしいよ」

「その娘はどのパン屋の娘ですか?」

「すぐそこのパン屋だよ」


 アスカさんはそういって、一件のパン屋を指差した。

 全面ガラス張りの、いかにもパン屋っていう感じのお店だった。

 そういえば、この世界、魔法が発達してるおかげか、こういうガラス工芸品も普通にあるんだよね……。ガラスの名産地でもあるのかな?


「あっ!?」


 と、礼美ちゃんがいきなり素っ頓狂な声を上げた。

 驚いてそちらの方を見ると、礼美ちゃんが大きく口を開けてパン屋さんの中を見つめていた。

 ど、どうしたんだろう?


「どうかした?」

「ふえ!? う、うぅん!? なんでもないよ!?」


 僕が尋ねると、礼美ちゃんは慌ててそう言って口を閉じる。

 ………なんていうか、喋っちゃいけないけど喋りたいっていう感じの顏だなぁ。何かあったんだろうか?


「ああ、レミこのお店知ってるのかい?」

「え、えと……」


 カレンさんの言葉に、礼美ちゃんが気まずそうに押し黙るけど、カレンさんはそんな礼美ちゃんの様子に気が付かないまま楽しそうにパン屋の方に進み始めた。


「まあ、この店結構有名だからねぇ。知ってる奴は知ってる名店って奴さ」

「そうなんですか?」

「ああ。かくいうあたいも、この店の常連でね」


 なるほど、隠れた名店かぁ……。言われてみれば、なんだかすごくいい匂いがするし……。

 あ、ちょっとお腹空いてきたかも……。


「おーい! シャル、いるかい!?」

「あ、カレンさん! お久しぶりです」


 カレンさんがお店に入っていったので、それに倣って僕らも扉をくぐる。

 中で店番をしていた女の子が、カレンさんの姿を見て嬉しそうに顔を綻ばせた。


「今日は、何にしますか? カレンさんが好きな、木苺のソースを使った……」

「ああ、ごめんよ。今日は仕事できたんだよ」

「そうなんですか?」


 仕事、という言葉に驚いたように女の子は目を見開き、そしてカレンさんの後ろにいる僕たちの姿に気が付いた。


「あ、そちらにいるのは……」

「今話題の勇者様さ」

「ど、どうも」


 カレンさんの紹介に、僕は照れたようにお辞儀をする。

 どうも、カレンさん、僕のことを隆司からいろいろ聞いているのか、僕が王城で勇者と呼ばれているのをもう知ってるんだよね……。

 うう……。せっかくギルドには偽名で登録しておいたのに……。

 カレンさんに勇者と呼ばれた僕を見て、女の子は照れたように小さくはにかんだ。


「ごめんなさい、勇者様。せっかく来ていただいたのに、お構いできませんで……」

「い、いえ。私たちも、カレンさんと同じ用件で来たので……」


 礼美ちゃんが、なんというかロボットみたいな動きで、頭を下げた。

 ……なんだろう。すごく違和感を感じる動きだ。このお店に、前に来たことあるのかな礼美ちゃん。

 気にはなったけれど、カレンさんが女の子の紹介を始めたので、僕は前に向き直った。


「こいつはシャーロット。このパン屋の看板娘さ」

「もう、やめてください……。シャーロットです。シャルって呼んでくださいね」


 カレンさんの言葉に、照れた様子を見せながらもシャーロットさんは丁寧にお辞儀をしてくれる。

 なんていうか、顔立ちが整っているんじゃなくて、雰囲気が可愛らしい人だ。立ち振る舞いは丁寧だし、看板娘というのも納得だなぁ。

 カレンさんの紹介を受けたシャーロットさんは、少し不安そうな顔でカレンさんの方に向き直った。


「それで、お仕事ってなんですか? 勇者様までいらっしゃるなんて……」

「ああ、それそれ」


 かごの中の色とりどりのパンを物色していたカレンさんは、今気が付いたというような顔をしてシャーロットさんを指差す。


「シャル。あんたギルドに依頼出したろ? 今日はそのことで話を聞きに来たのさ」

「依頼……ああ、はい」


 シャーロットさんが頷き、ゆっくりと依頼について話し始めた。


「もうカレンさんからお聞きかも知れませんけど、数日前にネズミが出てしまって……」

「はい、存じ上げております。ギルドから、騎士団へと正式に依頼も出ています」

「そうなんですか……」


 アスカさんの言葉に、シャーロットさんが少し怯えたように体を震わせた。

 騎士団が動くなんて、想像もしていなかったのかもしれない。確かに、たかがネズミで騎士団が動くなんて、思いもしないしなぁ。

 でもシャーロットさんはすぐに顔を上げて話を続けてくれた。


「ギルドに依頼したのは、すぐにでも駆除をお願いしたかったからなんです。うちはパン屋ですから、小麦粉の入った袋やなんかをかじられたら、仕事にならなくなりますので……」

「ええ、わかっています。それで、ネズミが出た場所なのですけど……」

「はい、こちらになります」


 アスカさんの質問に、シャーロットさんが一つ頷いてお店の中へと入っていく。

 アスカさんがそれについていき、僕と礼美ちゃん、それにカレンさんもお店の中へと入っていく。

 途中、シャーロットさんが弟に店番をお願いしつつ、そのまま店の裏の方へと出ていった。僕たちの世界の商店街と違い、そこそこの広さがある。パン屋の敷地も含めて全部使えば、結構な大きさの一軒家が立てられそうだ。隣のお店も、同じくらいの広さがあるみたいだし、この国の商店街って、かなり広々としているみたいだ。

 お店の裏は倉庫と厨房、そしてパンを焼く窯が置いてあり、厨房の中ではシャーロットさんのお父さんらしい人が一生懸命パン生地をこねていた。

 そしてシャーロットさんは、倉庫の傍らに立ち、隣の店との隙間辺りを指差した。


「こちらなんです」


 シャーロットさんが指差した隙間は、確かにネズミ一匹くらいなら顔を出しそうな、そんな細い隙間だ。


「どれ」


 アスカさんは一つ頷くと、隙間を覗き込むようにしゃがみ込んだ。

 僕はそんなアスカさんの上から覗き込み、さらに礼美ちゃんが僕の脇の方から顔を覗かせる。

 薄暗いその隙間は、太陽の明かりを受けても億を伺うことができない。

 と、アスカさんが口の中でぶつぶつと呪文を唱えているのに気付いた。


光球(ライティング)


 アスカさんの呪文とともに、隙間の間を照らす光の玉がアスカさんの目の前に現れる。アスカさんも、魔法が使えるんだ……。

 そうして照らされた倉庫の隙間には、特別ネズミがいたような形跡は見られなかった。代わりに、ネズミ取りみたいな罠だけがぽつんと設置してあった。


「穴もなければ食い残しもなし……か」

「シャル。ネズミを見たってのはいつだい?」

「三日ほど前でしょうか……。すぐに来てくれるとは思わなかったから、そうして罠も置いておいたんですけど……」


 僕らの後ろで、カレンさんが質問する。

 しかし三日前か……。定住しているなら、もっと何かあってもいいよね。


「もしかして、ここにはネズミがいないんでしょうか……」

「こうして見る限り、そう言えますね」


 礼美ちゃんの言葉を肯定するように、アスカさんが頷く。

 でも、それならシャーロットさんが見たネズミはどこに……?

 そんな疑問に答えるように、シャーロットさんが気まずそうに口を開いた。


「その事なんですけれど……」

「ん? なんだい?」

「実は、この三日の間で、この商店街のあちこちで、ネズミを見たって人がいるんです」

「ハァ!?」


 シャーロットさんの告白に、カレンさんが素っ頓狂な声を上げる。

 つまりそれは……最低でもこの商店街中を点検して回らないといけないってことなのかな……?




 そんなわけでネズミの姿が王都に現れたとか……。ネコがいれば一発解決なんですがねぇ。

 真子ちゃんにとっては禁断の話題なので、一回休み。気絶するだけましかも。

 次回は、そんな真子ちゃんがネズミ対策に乗り出すと思われます。以下次回ー。


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