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No.86:side・mako「魔王軍との会戦マイナス1」

 狼煙が上がって翌日。結局隆司は戻ってこない。

 あのバカは、たとえ馬鹿でも、あたしらにとっては最大戦力の一角だ。

 領地奪還に動いてる時なら、向こうもある程度戦力が分散しているんじゃないかと予想が立てられるけど、今回は状況が違う。たぶん、四天王の存在を考えても、向こうも全員でてくるだろう。

 そうなると、隆司一人の穴がとてつもなく痛い。現状、魔竜姫ソフィアとまともに打ち合えるのは、あのバカだけなのだ。

 一応、団長さんにもそれとなく聞いてみたけれど、速度はともかく、あの重量のせいでまともに打ち合える気がしないと答えが返ってきた。

 それに、団長さんにはヴァルト将軍が出てきたときの対処をしてもらわなければならない。

 さすがに全員一度に出てくる可能性は低いだろうけれど、もしもの時は、あの狼面と戦ってもらわなければならない。

 光太は間違いなくガオウが突っ込んでくるだろうから、あの犬男の抑え役。礼美は、可能なら周辺騎士たちのカバー。そしてあたしはマナが突っ込んでくれば、マナの相手になるでしょうね……。

 そうなると、ソフィアが完全にフリーになってしまうわけだ……。

 大きく開いた隆司の穴をどうするか、ああでもないこうでもないと議論したけれどどうにもならず、結局あたしらがソフィアを含める親衛隊たちの相手。残った騎士たちをケモナー小隊を中心とした部隊で消耗させ、いつものように消耗戦を狙うこととなった。


「それでも率は悪いわよね、正直……」

「まあな」


 いつものようにデンギュウに乗って前線に乗ってきたあたしたち。メンバーはいつもの領地奪還メンツからジョージを抜いた連中と、アメリア王国騎士団、およびケモナー小隊で構成されている。

 ケモナー小隊たちは、今から魔王軍の連中に会えるということで嫌にテンションあがってるけれど、それ以外の騎士たちの表情は若干暗い。

 たぶんに、あたしらが持つ雰囲気に引きずられているんだと思う。礼美が一生懸命周りを励まして、空気を換えようと頑張ってくれているけれど、あまり効果は無いみたいね。

 あたしの隣に立った団長さんが、武器にしている棒で肩を叩きながら気だるげにつぶやいた。


「一番の問題は魔竜姫対策だが、あれを釘付けにする方策はあるのか?」

「今のところ、アルルが使う地属性系の魔法で拘束する予定だけど……」


 ちらりと後ろを見ると、光太に話しかけているアルルの姿が見えた。

 今回、ソフィア対策の要であるアルル。地属性の拘束魔法で戦闘開始と同時にソフィアを拘束。そしてあたしが使う天星でアルルの拘束魔法を強化補助。これでソフィアを閉じ込める作戦……なんだけど。

 問題は、ソフィアの速度にアルルの魔法が追いつけるのかってことなのよね。


「詠唱の速度も、発動速度自体も悪くないけど……あの魔竜姫に追いつけるかどうかが問題よね」

「話じゃ、魔王軍一のスピードだったか。単純な魔法も、魔族連中にゃ当たり辛いからな」


 まるで他人事のように、団長さんが呟く。

 そうなのだ。人からすればそこそこの速度を誇る光矢弾(ライトアロー)ですら、魔王軍の魔族たちはあっさり回避する。魔王軍を構成する魔族が、肉食系の動物魔族で構成されているのが原因らしい。

 だが、そんな魔族たちも一応生き物。突発的な事態には対処しきれないようだし、中にはマナのような運動音痴……つっても、魔族のレベルで見た場合の運動音痴だから、普通の人間に比べたら、運動神経いいんだろうけど……。ともあれ、運動音痴もいる。当てられない道理はないはずだ。


「いかに開幕で、相手の不意をつけるかね……」

「だな。今回は、立ち上がりをミスったらアウトだろう」


 団長さんのいうとおり、今回の会戦は立ち上がりが一番重要だ。

 今までであれば、戦力比はほぼ互角だったから割と適当に始まっても何とかなってきた。でも、今回はそうはいかない。ソフィアの拘束に失敗すれば、戦局が向こうに傾きかねない。

 あたしは自分を鼓舞するように、グッと拳を握りしめた。

 立ち上がりをしくじるわけにはいけない……。大丈夫。メンバーはほぼいつも通りなんだ。やれるはず……。


「さあ、勇者たちよ! 再び闘いの時だ!」


 前線に到着すると同時に、とびっきりのいい笑顔で魔竜姫があたしたちを出迎えた。

 向こう側はほぼ予想通りのメンツだ。ご丁寧に、ヴァルト将軍の姿まである。


「よう、ヴァルト。ここ最近、ご無沙汰だったじゃないか」

「それは貴公も同じだろう? 互いに、そろそろ引退を考える時かもしれんな」


 団長さんとヴァルト将軍が、旧知の親友か何かの様に実に気さくに冗談を言い合っていた。年配者特有の余裕って奴なんでしょうけど……なんかひたすらに腹が立つ……。

 でも、ヴァルト将軍の存在はかなり厄介ね……。考えうる限り、最悪のパターンの一つだわ……。

 当然、ほかの最悪のパターンはラミレス同伴、あるいは四天王二人が同伴のパターンだ。ラミレスも一緒じゃないだけ、まだマシかもしれない。

 と、一声吠えてご満悦気だったソフィアが、ふと何かに気が付いたように不思議そうな顔をしてあたしたちの方をキョロキョロと眺めた。


「……なあ、魔導師よ」

「……なによ?」


 いつの日かの光景をデジャブのように感じるあたしに、ソフィアはこう尋ねてきた。


「あの男はどこだ?」


 ……どこだ、か。

 あたしは内心の不安を悟られないようにしながら、軽く肩をすくめてみせた。


「あいつ? あいつなら、今回はパスするってさ」

「えっ」


 あたしの言葉を聞いたソフィアが、傷ついたような声を上げた。……って何でよ。

 思わずソフィアの方をまじまじ見つめると、心なしか尻尾や羽根がしょんぼりと垂れ下がっているように見受けられた。


「そうか……今回はパスなのか……」

「えー、あー……」


 小さく項垂れたソフィアの、思いのほかショックを受けた様子に、思わず良心を刺激されるあたし。

 まさか、こんな反応されるとは……。

 どうするべきか悩むあたしの目の前に、ケモナー小隊ABCが非難囂々といった様子で現れた。


「いーけないんだー! いけないんだー!」

「マコ様! 嘘は重罪です! 偽証は犯罪なのです!」

「今すぐ、ここにはいないソフィアさんの旦那である隊長に向かって、五体投地でDOGEZAするのです!」

「死んでもごめんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 あまりにも腹立つABCの連中の煽りにつられ、思わず無詠唱で火炎球(ファイヤーボール)をぶっ放す。

 無詠唱なので、人が死ぬような威力はない。まあ、こんがり焦げるだろうが、自業自得だ。

 と、ABCの発言を聞いたからか、あるいは火炎球(ファイヤーボール)の爆音に驚いてか、多少正気を取り戻したらしいソフィアが目を丸くして、あたしの方を見つめてきた。


「う、うそ? ど、どういうことだ!?」

「……例え、さっきのあたしの発言がウソだったとして、本当のことをあんたに言う理由があるの?」


 ガッツリ食いついてきたソフィアを突き放すように、あたしは冷たく言い放った。

 そんなあたしの様子に、冷静さを完全に取り戻したソフィアは、凛々しい顔で頷いた。


「……確かに、その通りだ。いささか、冷静さを欠いていたな」

「愛しの好敵手がいない程度で、慌てないでほしいものね」

「だ、誰が愛しのだ!!??」


 茶化すようなあたしの言葉に、ソフィアが顔を赤くして反論してくる。

 ……しかし、ソフィアとの今の会話は地味に重要なパーツが含まれていた……。

 つまり、今回の魔王軍の侵攻は、決して隆司がいないから行われたわけじゃない……。

 そもそも、隆司がいないこと自体、向こうにとってはイレギュラーだった可能性が高い。

 それが意味するところはすなわち……。


「確かに隆司はいないけれど、僕たちがいるよ」

「絶対に、負けたりはしませんよ!」


 あたしが沈黙すると同時に、筆頭勇者たちが前に進み出て、各々の武器を構える。


「当然、我々もいる。例え貴様の眼中になかろうと、食らいつかせてもらうぞ!」

「ただで~帰れるなんて~思わないことですよ~♪」

「いずれ女神様を奪い返しに参る……その良い予行演習となりましょう」


 さらにそれぞれの従者たちも、呼応するように前に出る。

 光太の言葉に反応し、背後の騎士たちも、それぞれの武器を構えはじめた。

 先ほどまで若干暗く沈んでいたけれど、光太自身が勇ましく前に出たおかげで、気持ちが浮上したように見える。

 目の前の立ちはだかった光太たちの姿に、魔竜姫の姿に威厳と威容が戻ってくる。

 ソフィアはニヤリと笑うと、マントをひるがえすようにバサリと背中の羽根を羽ばたかせた。


「……無論、お前たちの存在を軽視するわけがない」


 両の腕を組み、その姿を誇るように胸を張る。

 そしてソフィアの両脇を護るように、親衛隊であるガオウとマナも前に出てくる。


「あの男がおらぬ今こそ! 我らが戦線を押し進める好機なり!」

「このタイミングを逃しません……! 今まで負けてきた負債、ここで返します……!」


 親衛隊の二人の言葉に、背後に控えていた魔族たちも各々に声を張り上げ、拳や武器を構える。

 両軍の士気が、徐々に高まっているのが分かった。

 熱気さえ放つ、両者の中間。火花のようなものが散っているようにさえ見える。

 そして、両軍の将が、それぞれを代表するように、前に出た。


「さて、おっぱじめようかね……!」

「ここしばらく、勝ちを得ていない。ここらで、連敗をやめさせていただこう……!」


 団長さんとヴァルト将軍が獰猛に牙を剥き、互いの獲物をギシリと握りしめる。

 極限まで高まった緊張。張りつめた弓のようなそれはやがて――。


「「「「「ウウオオォォォォォ!!!!」」」」」


 どちらともなく、打ち破られることとなった……!

 さあ、こっからが本番よ……!






 ちなみにこれは余談になるが。


「ダーリン! 会いたかったにゃー!」

「俺もだよミミルゥ!」


 ケモナー小隊の面々は、ソフィア親衛隊であるミミルをはじめとする一部の魔族たちを拘束し、その場に釘付けにするという大任を無事に果たしていた。


「マオ君! 今日はゆっくりお話をしましょ!? ね!?」

「う、うわ!? お願いですから、だ、抱き付かないでくださいぃ!?」


 ……あいつらは、間違いなく仕事してるんだ。うん。

 例エリア充ダラケダッタトシテモ、吹キ飛バスナンテモッテノ他ヨネ? ウフフフフ………。


「マコ様、お気を確かにでありますー!?」




 魔王軍襲来! 割と初期のような雰囲気になっております。これも隆司がいないせい……いや、おかげですね!

 まあ、その一方でケモナー小隊がイチャコラ開始し始めているようですが。一応、敵性戦力を釘付けにはしてるんで、割と役には立ってます。デコイです。リアルデコイです。

 しかし、当初の予定と違い、ソフィアへの奇襲がうまくいきそうにはない気配が……。以下次回ー。


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