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No.84:side・kota「光太と隆司」

「ふぅ………」


 隆司が音信不通になった領地へと向かって一週間。

 予定ならもう戻っているはずなんだけど、隆司の姿はこの王城にはない。

 どうしたんだろう、隆司……。


「コウタ様、こちらにおられましたか」

「あ、アスカさん、アルルさん……」


 不意に声をかけられ顔を上げると、そこにいたのはアスカさんとアルルさんだった。

 場所は王城の一角のテラス。いつもの訓練が終わった後、なんとなく一人になりたくてフラフラしていたら行きついた場所だ。

 アルルさんが一歩前に出て、湯気が上がるコップを僕の前に差し出した。


「は~い、コウタ様~。温か~い、ホットミルクですよ~」

「ありがとう、アルルさん」


 僕はお礼を言って、ホットミルクを口に含む。

 口の中から入った、温かいミルクが体の中をゆっくりと温めてくれた。

 アメリア王国の王都は、一年を通して温暖な気候らしいんだけど、こうして吹きさらしのテラスでじっとしていると、さすがに体が冷えてくる。

 そうして少しずつホットミルクを口に含んでいると、アスカさんが心配そうな顔をして僕に声をかけてきた。


「コウタ様……やはりリュウジ様のことが心配ですか?」

「……はい」


 アスカさんの言葉に、僕は一つ頷いた。


「確かに隆司は強いし、頼りになります。でも、やっぱり一人だけじゃ、できることに限界がありますから……」

「リュウジ様なら~、お一人で~特攻とか~しちゃいそうですものね~」

「アルル」


 アスカさんが、アルルさんを強い口調で窘めるけど、僕は思わず笑っちゃった。

 確かに隆司なら、魔王軍の軍勢にも一人で突っ込んでいっちゃいそうだ。


「確かに、隆司ならあり得ますけど……。隆司は僕よりは慎重ですから。一人だけなら、なおのことね」

「コウタ様より……?」

「慎重~……?」


 アスカさんとアルルさんが、訝しむような表情になる。

 まあ、普段の隆司の行動を見てると、そうは見えないのかなぁ?

 僕は苦笑して、向こうでの僕らのことを話してみることにした。


「いえ、本当ですよ? 向こうでも僕らはちょいちょい厄介ごとに巻き込まれたりしましたけど、突っ込むのは僕で、それを止めるのが隆司の仕事でしたから」

「い、意外です……。コウタ様が、厄介ごとに自ら首を突っ込むなど……」


 信じられないという顔で首を振るアスカさん。

 向こうでも、よく言われたなぁ。


「まあ、僕は頼りなさそうに見えるかもしれませんけど……」

「いいえ~! コウタ様以上に~頼りになる~お方を~、私は~知りませんよ~!」

「ありがとうございます、アルルさん」


 アルルさんの賞賛を受け止めつつ、僕は空の向こうにあるのかもしれない僕たちの世界を見つめる。


「……厄介ごとっていうか、主に友達の相談事だったんですけどね。どうしても許せないことがあると、頭がカッとなっちゃって……。周りが止めるのも聞かずについ突っ込んじゃうんですよ」


 たとえば誰かが誰をいじめてる、なんて話を聞くと、どうしても止めたくなってその両者を引っ張ってきてコンコンと説得した、なんてこともざらだ。

 男だろうと女の子だろうと、いさい構わず僕は巻き込む。

 誘拐や失踪なんてあれば、それこそ町中を駆けまわってその人を一日中探し続けたことなんかもある。

 この辺は、下の姉さんの影響かな、って僕は思ってるんだけど。


「で、そんな中で僕を止めに来てくれるのが隆司だったんですよ」

「そうなのですか……」

「そういえば~、コウタ様と~リュウジ様は~どのくらいの~お付き合いなのですか~?」

「僕と隆司のですか?」


 アルルさんの言葉に、僕は少し考え込む。

 小学校低学年くらい……って言ってもこの世界じゃ通用しないんだよね……。


「えーっと……だいたい、十年くらいの付き合いですかね?」

「十年ですか~。かなり~深いお付き合いなのですね~」

「そうですね」


 アルルさんの驚きの声を肯定するように頷く。

 考えてみれば十年か。隆司との付き合いも、もうそんなになるのか。

 でも、そんな隆司との初めての出会いを思い出して僕は吹きだした。


「コウタ様? どうされました?」

「あ、いえ……。そういえば、隆司との初めての出会いって、喧嘩だったなぁって思いだしまして」

「け、喧嘩!?」

「はい」


 驚きの声を上げるアスカさん。

 そりゃ、びっくりするよね。喧嘩した相手と、十年近く友達でいるんだから。


「な、何が原因で喧嘩されたんですか?」

「うーん……ちょっと覚えてないんですけど、すごい些細なことだった気はするんですよ。何分、子供の頃ですから」


 言いながら、僕はぼんやり当時のことを思いだす。

 周りに同級生たちがいる僕と、そうでない隆司。

 僕はそんな隆司に声をかけたけど、隆司はすげなく首を横に振って……。

 で、しばらく言い合いした後、僕から殴りかかっていった気がする。


「……たぶんなんですけど、子供の頃の僕は調子に乗っていた気がするんですよね」

「調子に……ですか?」

「はい」


 そこまで思い出して、なんとなく理由が分かった。

 たぶん、隆司が僕のいうことに従わなかったからだ。


「昔は、姉さんたちに思いっきり甘やかされて育てられてきましたから……。姉さんたちにしてみれば、両親の忘れ形見だから仕方なかったのかもしれないけど、そのせいで自分が何か言えばその通りになると思ってた気がします」

「……今のコウタ様からは想像もつきません」


 アスカさんの言葉に、僕も一つ頷く。

 確かに、今の僕にはそんなこと思うこともできない。


「我ながらいやな子供だった気がします。周りに同級生が集まっていたのをいいことに、王様気取りで……。でも、隆司だけはそんな僕の周りから離れていたんですよね」

「……今の~リュウジ様からは~想像も~つきませんね~」

「そうですかね?」


 アルルさんの言葉には首をかしげる。

 確かに一緒に行動することは多いけど……。でも僕と常に一緒ってわけじゃないと思うけど。


「まあ、とにかく。僕のいうとおりにならない隆司に殴りかかったのが僕なんですよね」

「こ、コウタ様からですか……」

「ええ」


 ひきつった顔をするアスカさんに、苦笑して見せる。

 そんな僕を見ながら、アルルさんが納得するように頷いた。


「で~、コウタ様が~勝たれたと~」

「いえ、勝ったのは隆司です」

「ええ~!?」


 驚きの声を上げるアルルさん。アスカさんも、声こそ上げなかったけれど、目を見開いている。


「コウタ様がリュウジ様に~……ああ~、でも~今のリュウジ様を~見れば~」

「いえ、さすがにあんなに強くはなかったですけど……」


 むしろあんな力で殴りかかられたら、僕が死んじゃうし。

 ……それでも、昔の隆司は子供にしては力が強かったんだよね。

 クラスの中でも運動神経が高かった僕だけど、あっさり返り討ちにされちゃったんだよね。


「みんなの目の前で、負かされたのが悔しくて……。そのあとも僕は隆司にしつこく喧嘩を売ったんですよね」


 幾度挑んでもなかなか勝てず、所構わず喧嘩を振ってもやっぱり勝てず。

 そのうち姉さんたちに喧嘩してることがばれて叱られて、怒られないように隆司と仲良くしているところを見せようと頭を下げたり。


「そんな風に付き合っているうちに、気が付くと僕と隆司は親友になってたんですよね」


 普通なら、しつこく喧嘩を売ってくる相手に付き合うなんてお人好し以外の何者でもないけど、隆司の場合は喧嘩を売ってきたことなんてどうでもいいっていう雰囲気だった。


「なんていうか、隆司は昔から細かいことを気にしないというか……。些細なことなら、自分への不利益なんか考えない、そんな一面があったんですよね」

「器が大きい……という奴ですかね」

「かも知れませんね」


 僕が頷くと、アスカさんも小さく頷いた。


「それでまあ。隆司との付き合いがあったおかげで、僕の子供の頃の嫌な面なんかがだんだん薄れていって……で、今の僕があるというわけです」

「なるほど~。リュウジ様も~、コウタ様の~育ての親と~いうわけですね~」

「そういう言い方もできますね」


 事実、上の姉さんも下の姉さんも僕を可愛がってくれたけれど、しつけという点においてはどうしても甘さが目立っていた気がする。

 でも、隆司との付き合いが始まって、僕の悪い点を隆司が指摘するっていう構図が始まってからは、僕は世間の常識と僕の常識のずれを意識し始めるようになった。

 もし隆司がいなかったら、僕は自分にできないことはない、叶わないことなんてない、と心の底から考える、傲慢で自尊心の強い嫌な奴になっていただろう。


「本当に、隆司には感謝の気持ちでいっぱいです……。今でも、僕のわがままに付き合ってもらうことが多いですし……」

「コウタ様にとって、唯一無二の親友なのですね」

「ええ、本当にそうですね」


 アスカさんの言葉に、僕は頷く。

 でも、今はそんな隆司がいない……。

 いつ戻ってくるかもわからない状態だ。

 そのことが、どうしようもなく不安で仕方ない。

 隆司が、僕の知らない、僕の手の届かないどこかへ行ってしまったんじゃないかと……。


「……仮に隆司が魔王軍の人たちに遭遇したとしても、大丈夫ですよね?」


 一瞬強い不安に駆られた僕は、誰にともなくそう口にした。

 アスカさんやアルルさん、あるいは別の誰かでも構わない。僕の不安を払拭してもらいたかったのかもしれない。

 でも、アスカさんは厳しい表情で首を横に振った。


「いえ……。相対した相手にもよるでしょう。リュウジ様といえど、必ず無事とは限りません」

「……そう、ですよね……」

「アスカ~!」


 アスカさんの正論に、項垂れる僕。

 アルルさんが抗議の声を上げるけど、アスカさんはそれに構わず、すぐに力強い声を上げる。


「ですから、今できることをいたしましょう。仮にリュウジ様が、魔王軍に捕らえられたとしても、すぐに助け出せるように」

「! ……はいっ!」


 その言葉に、僕は強く頷いた。

 そうだ……いつも助けてもらってばかりだ。なら、今度は僕が隆司を助ける番かもしれないんだ!

 力強く拳を握りしめる僕を見て、アルルさんが不安そうな顔になった。


「……でも~」

「ん? どうした、アルル?」


 アスカさんが問いかけると、アルルさんは小首をかしげてこう口にした。


「リュウジ様なら~、喜んで~捕虜になりそうな~気がするんだけど~」

「「………………」」


 言われて、思い出す。

 隆司が嫁と呼んではばからない、魔王軍の魔竜姫、ソフィアさんの存在を。


「………………ま、まあ。さしものリュウジ様といえど、そんなことは、しない……ですよね?」

「え、ええ、たぶん……おそらく…………きっと………………」


 自分で口にしながらだんだん自信がなくなってくる。

 正直、隆司ならこれを機に魔王軍の本営まで突っ込んで、ソフィアさんを攫ってこないとも限らない……。

 ソフィアさんが絡んだ時の隆司って、僕も見たことないテンションになるから、どうするのか想像もつかないんだよね……。


「頼むから、真子ちゃんが怒り出すようなことだけはしないでよね、隆司……」


 今ここにいない親友へ届くように、僕は天へと祈りを捧げるのであった……。




 そんなわけで軽い思い出話の回。子供らしい傲慢さで周りを振り回していた光太君は、隆司に迎撃されて、今のような鈍感に……フラグ乱立の原因、隆司じゃねぇのこれ?

 しかし攫ってくるとなると、普通の縄じゃ間違いなく役不足ですよね。ワイヤーとか持ってこないと……。

 ちなみに隆司がいなかったら間違いなく俺様系でしたでしょうねぇ、光太。以下次回ー。


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