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No.77:side・remi「親友の悩み」

 ガラガラと馬車が音を立てて、王城の中へと乗り込んできました。


「みんな、御帰りなさい!」


 一週間ぶりにみんなに会えると思って、思わず浮かれて飛び出してしまいます。

 でも、馬車からすぐに降りてきた真子ちゃんは、難しい顔をしながらぶつぶつとつぶやき、そのまま王城の中へと消えてしまいました。


「真子ちゃん?」

「ごめん、礼美。今ちょっと考え中だから……」


 声をかけても上の空。何かあったのかな……?

 振り返ろうとしたとき、私の肩を、誰かが叩きました。

 びっくりして振り返ると、少し心配そうな顔をした光太君がそこにいました。


「光太君!」

「礼美ちゃん。真子ちゃんのことは、今はそっとしておいてあげて」

「え……?」


 どういう、ことなんでしょうか?

 オリクトで、何かあったのかな……。

 私は光太君の手を取ると、どこかに行ったりしないように両手でぎゅっと握りしめました。

 そんな私の様子に、光太君は首を傾げました。


「光太君……」

「うん、なに?」

「オリクトで、何かあったの?」


 目をまっすぐに見て、光太君に問いかけると、光太君も真剣な表情で私の目を見つめ返してくれます。

 そしてしばらくしてから、ゆっくりと口を開きました。


「……真子ちゃん、オリクトではあまりいいことがなかったから」

「いいことが……なかった?」

「うん」


 光太君は一つ頷くと、真子ちゃんが去っていった方向に顔を向けました。

 その顔は、真子ちゃんのことを心配している様子が伺えます。


「元々、オリクトへは真子ちゃんの希望で行ったでしょ?」

「うん。確か、今作ってる魔法武器のための素材が欲しいって……」


 真子ちゃん、今は銃みたいな機能を持ってる魔法武器を作る関係で、頑丈な素材が欲しいって言ってました。

 木じゃ、どうしても素材の強度が足りないとかで。

 そのために、オリクトに行ったはずですけれど……。


「その素材集めがうまくいかなかったんだ」

「そうなの!?」

「うん。元々、鉱山は掘りつくされてたみたいで……。今は、ほとんど石切り場としてしか、機能してないんだって」

「そうなんだ……」


 光太君の説明に、私もしょんぼりと肩を落とします。

 真子ちゃんの作っている魔法武器は、この国の騎士団の人たちのためのものです。

 それがうまくいかないと、魔王軍との戦いを有利に進められないかもしれないんです。

 真子ちゃん……大丈夫かな……。

 真子ちゃんのことを心配する私に追い打ちをかけるように、光太君はもっと衝撃的なことを口にしました。


「それだけじゃなくて、真子ちゃん、その鉱山で四天王のラミレスさんとも戦ったみたいで」

「ええっ!?」


 ラミレスさんとも!? 四天王だよ!?

 しかも光太君の口ぶりから察するに、一人でだよね!?

 思わず私は光太君に詰め寄ります。


「だ、大丈夫だったの!?」

「そ、それが……手に穴が開くほどの大怪我を……」

「ええっ!?」


 困ったように仰け反った光太君の口から、止めの一言が。

 手に穴が開くなんて……真子ちゃん、本当に大丈夫なの!?


「ま、真子ちゃん!」

「ま、待った、礼美ちゃん!」


 慌てて真子ちゃんのところに行こうとすると、光太君が私の手をギュッと掴みます。


「は、離して、光太君! 真子ちゃんのところにいかないと!」

「お、落ち着いてってば!?」


 光太君の手を振りほどこうと暴れると、光太君は私の手を引いて、さらに身体を抱きしめました。

 もう! なんで邪魔するの!?

 光太君の身体を振りほどこうと、さらに暴れます。


「離してってば!」

「だから落ち着いて! 真子ちゃんの手はもう治ってるから!」

「……え?」


 暴れる私を抑えつけようとする光太君の言葉に、私は一瞬落ち着きを取り戻します。

 手が治ってるって……穴が開くような大怪我したのに?

 そんな私を見てほっと一息ついた光太君は、私を安心させるように微笑んで一つ頷きました。


「どうも、ラミレスさんが治療してくれたみたいで、僕たちのところに来た時にはもうほとんどふさがってたんだ」

「そ、そうなの?」

「うん。アルルさんが見た時には、もうふさがってたみたい」

「そうなんだ……」


 ラミレスさんが治療してくれたと聞いて安心した私を見て、光太君は私の身体を離してくれました。

 よかった……。真子ちゃん、女の子だもんね。傷跡が残るようになっちゃったら、大変だよ……。

 ほっと一安心した私は、ちょっと気になって光太君に聞いてみます。


「それにしても、ラミレスさんが治療してくれたの?」

「うん。よくわからないけど、責任を感じて治してくれたみたい」

「そっか……。やっぱり、魔族の人は悪い人じゃないのかな?」


 私は何となく安心して、笑顔になります。

 もし本当に、魔族の人たちが悪い人なら、責任を感じて真子ちゃんを治療したりはしてくれませんよね。

 でも、光太君の顔は少し曇ります。


「? 光太君、どうかしたの?」

「……えっ? な、何が?」


 私が聞くと、光太君は少し戸惑った様子になりました。


「だって、なんだか暗い顔になってたから……」

「あ」


 顔のことを指摘すると、光太君はしまったという風に顔に手を当てました。

 でも、すぐに観念したようにため息をついて、私に話してくれました。


「実は……向こうでガルガンドにあったんだけれど、そのガルガンドが魔王軍の人を巻き込んでナージャさんを攻撃しようとして……」

「え……ええっ!?」


 ナージャさんを……攻撃!?

 しかも魔王軍の人を巻き込んでって……!


「大丈夫だったの!? えっと、その!」

「大丈夫。ナージャさんも、巻き込まれかけた魔王軍の人たちも無事だよ」


 一応敵ということになっている魔王軍の人たちを露骨に心配するのもどうかと思って、言葉に迷う私を安心させるように、光太君は力強く頷いてくれます。

 はぅぅ……。光太君の察しがよくてよかった……。

 ……でも。


「……でも、ガルガンドさんは、味方を巻き込んで攻撃しようとしたんだよね?」

「うん……」


 私の言葉に、光太君は表情を暗くして頷きました。

 光太君の暗い表情の意味が、私にもわかりました。

 ガルガンドさんの行動が、非人道的な行いだからです。

 味方を犠牲にしても、敵を滅ぼそうとする……。

 それは、どんな戦争においても、悲しい手段でしかないです……。

 どうして、ガルガンドさんはそんなことを行ったのでしょうか?


「その時は、魔王軍の人たちが不利だったの?」

「ううん。そもそも、戦いらしい戦いも始まってなかったんだ」

「そんな……!」


 光太君の言葉に、私は絶句します。

 戦ってすらいなかったのに、味方ごと攻撃しようとしていたなんて……!


「まあ、その時の僕たちは、魔王軍の拠点にいたわけなんだけど……」

「それでもひどいよ! 戦いが始まる前に、味方ごとだなんて……!」


 信じられません! そんなひどいことができるなんて……!

 憤慨する私に同意するように、光太君が頷きます。


「僕もどうしても許せなくて……。そのあとガルガンドに挑んだんだけどね……」

「そうなの?」

「うん。結果的にガルガンドが負けを認めたんだけど……勝てた気はしなかったよ」


 光太君は悔しそうに歯を食いしばります。


「ほとんどガルガンドが攻め通しでさ……。最後に大技をぶつけたんだけど、ほとんど大きなダメージを与えられなくて……」

「光太君……」


 私は悔しそうな光太君の手を、そっと握ります。

 なんて声をかけたらいいかわかりません……。

 少しだけ迷って、私は笑顔になって光太君を励まします。


「でも……ガルガンドさんは負けを認めたんだよね? なら、光太君の力に恐れをなしたんだよ!」

「礼美ちゃん……」


 私は光太君の両手を持って、光太君の顔をじっと見つめます。


「大丈夫! 光太君は、ちゃんと勝ったんだから! ね?」

「……うん、ありがとう」


 私の励ましがちゃんと届いてくれたのか、光太君が暗さの抜けた笑顔を見せてくれました。

 よかった……。

 とりあえず、このお話はこれでおしまい! 私は改めて、今回何があったのか聞きます。


「それで、オリクトはちゃんと奪還できたんだよね?」

「うん、それは大丈夫。ただ……」

「ただ?」

「その時の魔王軍のやり取りで何か引っかかるものがあったのか……。真子ちゃん、奪還してからこっちずっと考え込んでるんだ」

「そうなんだ……」


 光太君の言葉に、私はようやく真子ちゃんの様子の理由を悟ります。

 真子ちゃん、昔から何か気になることがあると、自分の中に入っちゃうのか、声をかけてもほとんど反応しなくなるくらいに集中しちゃうんだよね。

 でも、いったい何が気になってるんだろう?


「光太君。真子ちゃんが、何考えてるのかわかる?」

「うーん……。僕の気になって聞いてみたけど、ほとんど返事が返ってこなくてさ。隆司にも聞いてみたけど、隆司にもよくわからないみたいでさ……」

「うーん、そうなんだ……」


 困った様子の光太君に、私も困ったように唸ります。

 困ったなぁ。あの状態の真子ちゃん、気になることが解決しないと、こっちのいうこと聞いてくれなくなるからなぁ……。

 手伝おうにも、ほとんどお返事がないせいで、何を考えてるのかも答えてくれないから……。

 ……しょうがない。ちゃんと話してくれるまで、待つしかないよね……。

 私がため息を吐くと、光太君が申し訳なさそうな声を出しました。


「ごめんね、礼美ちゃん。僕が真子ちゃんの力になれなかったせいで、怪我までさせちゃったし……」

「あ、ううん! そんなことないよ!」


 慌てて私は光太君に手を振ります。


「光太君たちが、真子ちゃんと一緒に行ってくれたから、私は安心して待っていられたんだから!」

「でも……結局真子ちゃんがあんな風になっちゃったし……」

「……んもー、気にしないの!」

「わぷ」


 私は、光太君の両頬を押さえつけます。

 アハハ、変な顔。

 これは、私が悩んでる時に真子ちゃんがよくやってくれることなんです。これをやられちゃうと、なんとなく悩んでいるのが馬鹿馬鹿しくなっちゃうんですよね。

 それはともかく、私は怒ったような顔つきで光太君の変な顔を見つめます。


「真子ちゃんには真子ちゃんの考えがあるんだよ。だから、私たちはそれを信じて待っていてあげればいいの! わかった?」

「う、うん」

「よろしい!」


 光太君は変な表情のまま、コクコクと頷きました。

 私は光太君の様子に満足すると、一つ頷いて手を離しました。

 光太君は私に抑えられた両頬を自分の手で押さえます。


「うう、礼美ちゃん、ひどいよ……」


 なんだか恨めしそうな表情で私の方を見ます。ちょっと涙目になっているような感じも……。

 あ、あわわ、ひょっとしてやりすぎちゃった!?

 え、ええっと、こういう時、真子ちゃんは私になんて言ってたっけ。

 私は慌てて記憶を探り、真子ちゃんが私に言っていた言葉を思い出します。

 少しだけ迷ってから、私は光太君にビシッと指を突きつけて――。


「……な、悩んでる、光太君が、その、悪いんだよ……?」


 なんとか、セリフを、絞り出しました……。

 ……光太君、黙ってポカンとした表情でこっち見ないで……。


「「………」」


 しばらく、痛い位の沈黙がその場を支配して……。


「「……プッ」」


 私たちは、一緒に吹き出しました。

 なんだか、お互いの姿が、とても滑稽です。

 そのまま、しばらく二人で笑い合っていました。

 そして私は、どんなにつらいことがあっても、最後にはこうして笑い合っていられるといいなって、その時心の底から思ったのでした――。






「………ところで、自分たちはいつまでこうして馬車の陰に隠れていればいいのでありますか?」

「雰囲気的にスゲー出づらくなっちまったしなー……」

「隊長的にはグッドな展開というやつでしょうか……」

「………やはり、コウタ様には、レミ様の方が………」

「む~! む~!!」

「今回くらいは空気読め、アルル……。あの二人の邪魔はさせん……!」




 さて、どうやら魔王軍の方はまだ動き出していないようです。さすがに予想外の動きだったのでしょうかー?

 そしてたまには二人っきりで会話をさせてあげようという隆司の親心。今回の彼のセリフは、最後の一文のみとなります。

 次回、魔王軍本営に視点移動!


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