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No.74:side・mako「鉱山の現状」

 地肌に岩石がむき出しになっている岩山。

 目の前にそびえたつそれの前に、あたしはじっと立ち尽くしていた。


「これは……」


 あたしの視界に入る巨大な岩石の塊ともいえそうなその山には、それこそ無数の穴が開いていた。

 おそらくほとんどが坑道だろう。今でも断続的に岩石を砕くピッケルの音は聞こえてくるが、音はかなり遠い。たぶん、地上に露出している部分はほとんど掘りつくしちゃったのね……。

 オリクト……。王都付近じゃ数少ない、鉄鉱石が取れる場所だって聞いてたけれど、この分じゃ期待できないかな……。

 落胆するあたしの耳に、近くの鉱夫達に聞き込みをお願いしていたサンシターが駆け寄ってきた。


「マコ様ー!」

「どうだった、サンシター?」

「やっぱりダメでありました……。今この鉱山から取れる素材はほとんどが石で、鉄やそれに類する素材は出てこないという話でありました」

「そう……」


 残念そうなサンシターの顔を見て、あたしは落胆の度合いを強めた。

 サンシターに聞きに行ってもらったのは、今この鉱山からは鉄が取れるのか?ということと、もし取れるなら王都へ優先的に回してもらえるのか?ということの二つだ。

 今設計図を書いている銃は、ライトアローが通る銃身部分に鉄製の丸い枠をはめ込んでおくというものだ。少ない鉄で、最小限の防備を行おうと考えた結果だけど……。

 そもそも鉄そのものがなけりゃ、作ることもままならないのよね……。


「一応、石素材であれば回すことはできると言ってたでありますが……」

「さすがに石じゃね……。武器に使うには、ちょっと重すぎるわ」


 石、の言葉にあたしは顔をしかめる。

 この国は鉄こそあまり取れない物の、逆に石や木による道具の制作に長けていた。

 基本的な道具類はたいてい木製だし、木と石を組み合わせた水車や歯車といった機械的機構を持つ道具も結構な数存在する。

 足踏み式の機織機なんかがちょうどその最たるものだ。王都の製布業者のほとんどは、かなり性能のいい足踏み式の機織機を自社制作している。

 それもこれも、鉄がほとんど取れないが故の方策なのだろうが……それにしては解せない点も多い。


「にしても……それなら、王城の武器庫の、あの大量の魔法剣はいったい何なのよ?」


 あたしはぶっきらぼうに言って、頭を乱暴に掻き毟った。

 そう。王城の武器庫の中を一度のぞかせてもらったことがあるのだが、そこにはふんだんに鉄が使われた魔法剣が大量に仕舞いこんであったのだ。

 案内してくれた騎士の人の説明によれば、過去の魔導師団が開発した魔法武器の類が仕舞いこまれているのだろうとのことであったが、フィーネによればここ数十年の間、魔法武器の関係の開発は行われていないということだ。

 そもそも、今回の魔王軍の侵略以外では、王都の周りの森林で生まれる凶暴な動物以外に騎士団の力が発揮されることもなかったということ。魔法武器の開発が行われていなかったのも納得だ。

 だが、あの武器庫の中に眠っていた武器の大半は、戦闘用に開発されていたものだ。あたしの目に見える魔術言語(カオシック・ルーン)はすべてそのように映った。

 光太が持ち帰った螺風剣(エア・キャリバー)なんかもそうだが、使い方次第ではかなり強力な魔法武器が、ほとんど無造作に仕舞いこまれていたのだ。なんで使わないのよと吠えたのも記憶に新しい。

 そした何より気になったのが、いくつかの武器に刻まれた文字は、あたしにも読むことができない物だったのだ。

 倉庫の奥底で眠っていたその剣は、かなりの年数が経過していると見て取れるにもかかわらず、ほとんど劣化した様子もない。

 刻まれている文字も、ほとんどが意味不明の言語であり、魔術言語(カオシック・ルーン)は申し訳程度に刻まれているだけだった。

 そこから読み取れる限りでは、その剣はかなり広範囲に対して影響を及ぼすであろうということ。

 ……さすがに、光太辺りを引っ張ってきて試し撃ちと洒落こむ気にはなれなかった。


「……サンシター。この国、本当に一回も戦争をしたことはないのよね?」

「はいであります。魔王軍の侵略が始まる前は、本当に平和なものでありました」


 ここ数日の間、何度も確認した事柄を、今一度確認するあたし。

 サンシターもあきれることなく、律義に付き合ってくれる。

 そんな彼の誠実さに申し訳なく思いつつも、あたしはこの国の不審な点への疑念を深める。

 戦争をしたことがないはずなのに、広範囲への殲滅兵器としての武器が眠っている国。

 もちろん、広範囲殲滅兵器なんてのはあたしの想像にすぎない。

 だけど、その武器が持つ異様な雰囲気は、正直言ってただ広範囲に魔力を頒布するだけで終わってくれる気はしなかった。

 光太がその武器に興味を持ってくれなかったことにひたすら感謝だ。あいつの魔力変換効率はけた外れだ。普通の魔法武器でも、常人よりはるかに高い威力が出せる。そんな奴があんな剣使った日には、どうなるか想像もつかない。


「っだー、わけがわかんない……。結局この鉱山に来たのも無駄足に終わりそうだし……」

「鉄は貴重でありますからねー……」

「そうなのよねぇ……」


 しみじみとしたサンシターの言葉に、あたしは同意するように項垂れた。

 現代社会に生まれちゃうとそうは感じないけど、元々鉄って貴重なのよね……。今でこそ……って言い方はこの世界にはおかしいけどさ。ともあれ、製鉄技術も加工技術も揃ってるからふんだんに使えるわけで……。

 良く考えたら、銃身に仕えそうな細長い丸い筒なんて、この国で作れるかも怪しいわよね……。作れて大砲が限界かしら……。


「あーもー!!」

「マコ様、あまり髪をいじめてはダメでありますよ」

「ほっといてよ!」


 再び頭を掻き毟り始めるあたしをなだめようとするサンシター。

 あたしはそんな彼の手を乱暴に振り払う。

 と、そんな光景を見たらしい誰かが、あたしたちに声をかけてきた。


「おやおや。そんな風に、自分を心配してくれた相手を邪険に扱うもんじゃないよ」

「アァン!?」


 思わず悪態ついてそちらを睨みつける。

 そして思わず体を硬直させる。

 何しろそこには、異形の下半身を持つ絶世の美女が存在した。

 その姿を見て、サンシターは悲鳴に近い声を上げた。


「し、四天王のラミレス!?」

「そうさ。ラミレス姐さんだよ」


 サンシターの驚き具合が愉快なのか、ラミレスはコロコロと笑い声を上げる。

 それに呼応するようにラミレスの下半身を構成する触手が唸りを上げた。

 まず……! こいつ、ほとんど戦ってないけど、戦闘力だけならヴァルトと同格に違いない……!

 身構えるあたしの前に、ほとんどがむしゃらといっていい感じでサンシターがその体を投げ出した。

 そして両手を大きく広げてラミレスの前に立ちはだかった。

 だが足はがくがくと震え、明らかに無理をしているのが見え見えだった。


「ちょっとサンシター!?」

「じ、自分、普段役に立たないであります! だからせめて盾としてくらいは……!」

「あんたね……!」


 震える声で主張する彼の姿に悪態をつきかけるが、正直助かる。

 例え一秒であろうと、長く時間を稼いでくれればその間に十分な構成が練れる……!

 そんな風に臨戦態勢に入るあたしたちの様子を見て、ラミレスはまた楽しそうに笑い声を上げた。


「ハハハ、かっこいいじゃないか! ヴァルトにも劣らない勇猛さだよ!」

「ど、どうも」

「敵に礼言ってんじゃないわよ……!」


 思わず後ろからサンシターの頭をはたき倒したくなる。どこまで律儀なのよあんたは……!

 唸り声を上げながらサンシターの後頭部を睨みつけるあたしに、ラミレスは安心させるような声音で語りかけてきた。


「フフ、そう身構えなくてもいいさね。別に今回は、あんたたちと遣り合う気はないんだからね」

「どうだか!」

「本当さ」


 あくまで徹底抗戦の構えを崩さないあたしに、ラミレスは証拠を示すように腕を一振りした。

 途端、無数の鎧がラミレスの隣に召喚された。

 さまよう鎧か何かか!?と身構えるあたしに、ラミレスは触手を一本使って鎧を一つ持ち上げてみせた。


「ここんとこ、あんたたちと遣り合ったせいで、鎧にガタがきてるのさ。一応、鍛冶師もつれてきていたんだけど、数が数だからねぇ。こういう町で本式の修理を依頼しに来たというわけさ」

「鎧の修理……?」


 思わず眉根を寄せるあたし。

 ラミレスがためしに持ち上げてみせた鎧は、どう贔屓目に見ても修理が必要なようには見えなかった。

 別に新品、というわけではない。だが、どこかが派手に請われているとか、目に見えて故障している部分が分からないのだ。

 そんなものの修理を頼むってどういうことよ?

 ラミレスはそんな私の疑問を察したのか、軽く肩をすくめてみせた。


「まあ、人間にはなかなかわからないと思うんだけどね。小さな留め具のずれとか、そういうのが結構気になるらしいんだよ。ウチの連中はよく動くからね」


 ……つまり、隆司や光太がバシバシ叩くもんだから、留め具にずれが出始めてるってこと? そのずれが、身体を良く動かす魔族にとっては致命的になりかねないってことかしら……。


「もしそれが本当なら、修理なんてさせるわけがないでしょう……!」

「言うと思ったよ」


 唸るように宣言するあたしに、ラミレスはやっぱり楽しそうに呟いた。

 ド正面からの撃ち合いで勝てる相手かどうかわからないけど……最速で最高の一撃を叩きこめれば!


集え天星(サテライト・スターズ)! 撃ち滅ぼせ(シューティング)……!」


 完成した天星呪文から連携して、一気に最大威力を放出する!

 天星を飛ばし、サンシターの前面に魔法陣を描くように天星を配置……。


「ほいっと」


 しようとした瞬間、いつの間にかサンシターの前面にまで迫っていたラミレスが、魔法陣に軽く触れるように触手を伸ばした。

 途端、ガラスを砕くような音とともにすべての天星が砕け散った。


「なっ……!?」

「ふぅん。あんたたちが光輝石(マナクリスタル)って呼んでる石によく似た性質だね」

「っ……!!」


 天星を砕かれただけじゃなく、その性質まで見抜かれたっ!?


「あんたの持つ魔力量でこれだけの純度の石を生み出すなんて大したもんだねぇ……。それも、あんたが持つ力のおかげかい?」


 楽しそうにサンシター越しにあたしを見やるラミレス。

 あたしはほぼ反射的に腰に差していたマシンガンを引き抜いた。

 そしてラミレスの顏に狙いをつけて、即座に引き金を引いた。

 軽い音と同時に、無数の光矢弾(ライトボウ)がラミレスへと叩きこまれる。


「おおっと!?」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!??」


 ラミレスは無詠唱で盾を呼び出しながら、後退。

 そしてサンシターは耳元で響き渡る発砲音にビビって悲鳴を上げた。


「ビビってんじゃないわよ! 何度も聞いてるでしょうが!」

「こんな至近距離は初めてであります! 耳が、耳がぁ!?」


 思わずといった風情で耳を抑えるサンシター。

 ったく、軟弱なんだから……!


「いやはや、そんなもんまで作るとはねぇ……」


 だが、至近距離からのマシンガン連射もさすがにラミレスを倒すには至らなかったようだ。

 ラミレスの張った盾に、少々ひびが入った程度。詠唱完全破棄で出した盾に対しての効果としては、微妙なところね……。

 あたしは片手にマシンガンを構えつつ、もう一度天星を召喚するための構成を編む。

 といっても、天星全損&マシンガンの連射だ。そんなに数は稼げないわね……。

 脂汗のようなものを見せるラミレスに、あたしは再びマシンガンを向ける。


「そう何度も撃たせないよ!」


 だが、今度はラミレスの方が早かった。

 一本の触手から伸びた魔力光がマシンガンを貫き、中の光輝石(マナクリスタル)ごとあたしの手を破壊した。


「ぐっ!?」

「マコ様!?」


 呻くあたしの前に、慌ててサンシターが体を躍らせる。

 くっそ、あっさり打ち壊された……!


「フフン。まだまだだねぇ」

「うるさい……!」


 得意げなラミレスを睨みつけるが、掌から伝わる激痛のせいで汗が止まらない。

 ちらりと見やれば、砕けた木の破片が掌に突き刺さり、さらに魔力光のせいで穴まで開いている。


「―――ッ」


 そんな傷跡を見て、一気に血の気が引いた。

 大量の血が流れているせいかもしれない。

 もっと大量の血や傷は、隆司の物を見たことがあるが、自分の物は初めてだ。

 そんな冷静な脳みその中に反して、身体は動悸が止まらず、息は荒い。体も震えてきた。

 と、視界が突然ぐらりと傾いた。


「あ、マコ様!?」


 慌てたようなサンシターの声とともに、意外とがっしりとした手があたしの体を支えるのを感じた。

 え、なに? あたし、どうなって……?

 うまく考えが纏まらない、視界が明滅し、意識も音も遠くなっていく。


「ああ、しまったね……。やりすぎたかい」


 遠くで誰かが呟いた。その声は、とても後悔しているように聞こえる。


「ちょ、ちかづかな―――」

「とりあえずきずはふさ―――」


 誰かと誰かが言い合っていた。

 その誰かがいったい誰なのか、思い至るより早く、あたしの意識は真っ黒になった。




 とりあえず、真子ちゃんは好戦的なようです。でも、やっぱり普通の女の子なんですね。

 そんなわけで、オリクトでの鉄鉱石採取計画は暗礁に乗り上げたようです。まあ、しかたないね。

 次回は魔王軍討伐ですよー。


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