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No.73:side・ryuzi「鉱山の町、オリクト」

 鉱山の町、オリクト。

 アメリア王国が保有する、数少ない鉱山の一つであり、鉄製品生産を主な収入源としている、鍛冶の町でもある。

 今回奪還する予定である領地でもあるのだが……。


「鉱山の町だと聞いてどんなもんかと思ってみりゃ……」


 一拍置いて、俺はクワッと瞳を見開いて叫んだ。


「野原の中心にいきなり岩山が生えてるってどういうことなの!?」

「オーストラリアのエアーズロックみたいだったね……」


 俺の隣で光太がフォローのようなものを入れている。

 そう。鉱山の町というので、山脈の麓にでも町を構えているのかと思いきや、広い平原のど真ん中に岩山が生えていて、その麓に町ができているというシュール具合だったのだ。

 まあ、そもそもこの国の山脈は末端にしかほとんど存在しないらしいし、それをたった八日間で行き来できるわけもねぇよな。

 だが、青々とした草原に突然、地肌むき出しの岩山が出現しているという光景は、俺の想像を上回っていた。

 っていうかありえねぇだろ……。海湖(ソルト・レイク)のことといい、俺たちの世界と一線を画し過ぎだろうこの世界……。

 いつものように馬車をサンシターに預け、俺たちは町の中へと入っていく。

 町の中はまさに平穏という感じで、ほとんどの人がせわしなく仕事をしている。

 鍛冶師のおっさんの怒号が響き渡ったり、金槌で精錬された金属を叩くような音も聞こえてくる。

 今までの町と違い、はた目にはほとんど侵略されているようには見えない。


「ホントにここ侵略されてんのか……? 極めて平和な感じじゃねぇか」

「報告によれば、侵略を受けたという話ではありますが……」


 目の前の光景が信じられないのか、アスカさんもまたいぶかしげな表情で町の中を見回した。


「依然訪れた時と、ほとんど様子が変わりません……」

「アスカさんがここに来たのは、いつの時ですか?」

「二年ほど前、剣を新調しに赴きました。その時と様子はほとんど変わっていません……」

「でも~、ここに~常駐していた~騎士さんたちは~王都に~逃げてきたわよね~?」

「確かに……」


 アルルの言葉に、アスカさんが頷いてみせる。

 むしろそのことがなけりゃ、この町が侵略されているなんて誰も信じねぇよ。


「で、隊長。今回はどうすんだ?」

「何が?」

「魔王軍との戦いだよ。今回は、別に使者みたいなのもいねぇっぽいけど」

「あー」


 フォルカの言葉に、俺はあいまいなうめき声を上げる。

 確かに、正面にわざわざ馬車で目立つように乗り入れたというのに、誰もこちらを気にしている様子がねぇ。

 こりゃ、こっちで探すしかねぇか?

 俺は真子に今後のことを聞くために、振り返る。


「おい、真子。どうす……アレ?」


 だが、そこにいると思っていた軍師の姿はなかった。

 思わず右左と周囲を見回すが、やっぱりどこにもいなかった。


「……おい、真子はどこ行ったんだ?」

「マコ様でしたら」


 このたびの最中、終始ぶつぶつ言っていたナージャが、やっぱり不機嫌そうなまま馬車が走り去っていった方向を指差した。


「サンシターさんが預けに行った馬車に乗ったまま「あとは自由行動でよろしく」とおっしゃってましたが……」

「マジで……?」


 俺は信じられないという表情で、真子が去っていったであろう方向を見つめた。

 軍師様、まさかのフリーダム離脱である。

 そんなにこの町に来たかったのアイツ……? よほど武器の制作がうまくいってねぇんだな……。


「あーもー、しょーがねぇ……」


 俺は乱暴に頭を掻き毟ると、光太の方に振り返った。


「とりあえず、手分けして魔王軍の連中を探すぞ。で、撃破できるならその場で撃破」

「それはいいけど……真子ちゃんはどうするの?」

「どうもこうも、邪魔したら切れるぞ……」


 前に一回、発明してる時に遊びに行ったら鬼の勢いで切れたからな……。集中してる時に邪魔されたら切れるのはわかるんだけどさ……。


「というわけで、真子のことは放置。もし魔王軍に遭遇しても、何とかなるだろ……」

「わかった。隆司、気を付けてね」

「おう」


 光太に一つ頷いて、俺は光太たちと別れる。

 町の中を歩き始めた俺の後ろに、フォルカとナージャが付いてきた。まあ、いつものメンツだわな。


「で、どうするんです?」

「どうもこうも、適当に見て歩くしかねぇだろ……。何か心当たりがあるならともかく」

「ちげぇねぇ」


 そもそも、本当に魔王軍が常駐してるのかすら怪しい平和具合だからな……。正直、いなくても驚かねぇぞ俺は。

 そんなわけで、俺たち三人は適当に買い食いしながら町を見て回ることにした。

 この町の特産は、鉱山に住むとかいうトカゲの姿焼きだった。丸々一匹そのまま焼いて出す辺りは豪快というかなんというか。

 味付けは塩コショウのみで、かなりさっぱりしているが逆にそれがいい味出してやがるぜ……!


「このトカゲ、皮まで食べれるんですね」

「パリパリしててうめぇ!」

「トカゲの塩焼き最高!」


 他にも、山で採れた果物を砂糖で漬けたものや、この町で作られた地酒なんかも味わうことにする。こういう時は、酔えない体質が便利極まりねぇ。一杯やっても問題ねぇからな。

 そうして食堂楽に勤しんでいる俺たちの目の前に。


「っと、すみませ……」

「んお?」


 一つの鍛冶屋から一人の少年が飛び出してきた。

 いや、少年というのもおかしいか? 何しろそいつには……。


「狐っ子改め、狐少年キター!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!??」


 狐の耳と尻尾がくっついていたのだから。

 そいつを目視した瞬間、さっきまで手に持っていた果物の砂糖漬けも放り出して、音速の勢いでナージャが飛びかかった。

 残像が見えるほどのスピードだ。いかな魔族でも逃げ切れまい。

 ナージャは狐少年に飛びかかって押し倒すと、速攻で尻尾に抱き付き顔をうずめた。


「やーん! モフモフモフモフモフモフモフモフ………!」

「ちょ、やめ、やめてください!? なんなんですかあなたは!?」


 鬼気迫る勢いのナージャに怯えぎみの少年が、何とかその体を引きはがそうとするが、まるでしばりつけたように動かない。

 よほど狐っ子成分に飢えてたんだな……。いかん、ちょっと泣けてきた……。


「ソフィアに会えなかった俺も、こんな感じだったのかなぁ……」

「ミミルに会えなくなると、俺もこんな感じになっちまうのかなぁ……」

「モフモフモフモフモフモフモフモフ………!」

「見てないで助け……!?」


 他人のふり見て我がふり直すわけじゃねぇが、なんとなくいたたまれなくなってきた俺の顔を見て、狐少年がびっくりしたような顔になった。

 あん? なんだ?


「あ、あなたは……! ソフィア様がおっしゃっていた、タツノミヤリュウジ!?」

「いかにもソフィアの婿ですが何か?」

「いや、それは言ってませんでしたが……。ともあれなぜここに!?」


 なんだ言ってないのかよぅ。

 ちょっとしょんぼりする俺に対し、狐少年は何とか立ち上がって、腰に下げたサーベルを引き抜いた。


「こんなところまで来るだなんて……! は!? まさか、姉さんがこちらに来たのも……!?」

「え、お姉さまがいらっしゃるの!? ぜひごあいさつさせて!」

「あなたはいい加減尻尾から離れてください!」


 サーベルを構える少年だが、いまだ尻尾に抱き付きっぱなしのナージャのせいでいまいち格好がつかない。

 というか目をキラキラさせてるがナージャさん? お前、前にもいたいけな少年をモフってなかったかね? あの子はいいのかい?


「あの子のことを忘れたわけではありません! ですが、ご家族をモフらせていただくなら、やはりご挨拶は大事だと思うのです!」

「モフっていいなんて言った覚えはありません!」

「あぁん!?」


 狐少年が、ナージャの顔をモフモフの手で思いっきり押し返した。

 その隙を突き、何とか尻尾を取り戻すが、ナージャの次の動きの方が早かった。


「尻尾がだめなら耳をー!」

「そう簡単に触らせ、っな!?」


 牽制の意味を込めてか、ナージャに向かってサーベルを斬りつける少年だったが、ナージャはそれを難なくかわすと、少年の背後を取った。

 そしてギュッと子供を抱きかかえるように抱きしめると、おもむろに口で少年の耳を食み始めた。


「ひゃん!? ちょ、手じゃないんですかぁ!?」

「ムフフ、手は君を抱えるので塞がってしまったのです」

「抱えなくていいですぅ!?」


 いよいよ涙目になり始めた狐少年。

 じたばたと暴れるが、ナージャの拘束が緩む気配は一切ない。

 その間にも、ナージャは唇で狐少年の毛並みを堪能する。


「う~ん、お日様の香りとマシュマロの感触がしますぅ……」

「舐め、舐めないでください!?」

「舐めてませんよー。べたべたになりますし。ただ、唇で優しく食んでるだけです♪」

「うわーん!? というかあなたたち、見てないでこの人どうにかしてくださいよぉ!?」


 狐少年がこっちにヘルプを求め始めた。

 俺とフォルカは無言で顔を合わせ、小さく頷き合ってからやさしい笑顔で狐少年の姿を見つめた。


「大丈夫だ少年。お姉さんには、君は立派に戦ったと伝えておくよ」

「戦死者扱いですか!? というか、これから僕はどんな目に!?」

「大丈夫大丈夫。もしなんだったら、天井の染みでもみてりゃ、そいつがすぐ終わらせてくれるさ」

「だから何ー!?」


 ハッハッハッ、と爽やかに笑い声を上げる俺とフォルカ。涙目になる狐少年。それらに頓着せず、ひたすら狐少年の毛並みを堪能するナージャ。

 そんなある種和やかな、通りすがりも無視して通っていくほどに穏やかな光景を聞きつけたのか、一人の魔族がこの場に駆けつけた。

 そして、ナージャに背後から抱きすくめられ、ひたすら耳を食まれている姿を見て、手に持っていた買い物袋をどさりと落とす。よほど衝撃的だったのだろう。


「マ、マオ君……? あなた、いったい何を……!?」

「ま、マナ姉さん!?」

「そんな……! こんな白昼の往来で女の人と……!?」

「ち、違うんだ姉さん!!」


 着物にもよく似た服を着た狐娘……というかマナは、顔を真っ赤にしながら後ずさる。

 目の前の痴態に耐えきれなくなったのか、くるりと振り返ってそのままダッシュで駆けだす。


「マオ君の不潔ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

「ねぇぇぇぇぇぇさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!??」


 ドップラー効果すら伴って姿を消すマナ。かなりの俊足。狩猟動物の本領発揮といったところか。

 というか、マナの奴なんでここに? まさかガオウの奴もこっちきてんのか?


「ううう、姉さん……!」

「え、お姉さんがいらしたの!? どこに!?」

「今しがたどっかいっちゃいましたよ! おもにあなたのせいで!」

「ええっ、そんなぁ!」

「そんなはこっちのセリフですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 マナの出現に全く気が付かなかったナージャが、狐少年……マオの言葉に残念そうな顔になるが、お前が言うなと言わんばかりに唾を飛ばすマオ。哀れな奴よ……。

 まあ、それはそれとして。俺はマナが落としていった買い物袋を拾い、いまだナージャに抱きすくめられたままのマオの顔を覗き込む。


「さて、マオ君。ここいらで一つ交渉といこうじゃないか?」

「こ、交渉?」


 俺の言葉に、マオが訝しげな表情になる。

 このタイミングで交渉を持ちかけられるとは思わなかったんだろう。


「うむ。その引っ付き虫を引きはがす代わりに、このオリクトにある魔王軍の拠点まで案内してくれたまへ」

「な!? そ、そんなことできませんよ!」


 俺の言葉に、マオは慌てて首を横に振った。

 まあ、自分たちの拠点を案内してちゃ軍人失格だわな。

 だがマオ君や。君、今の自分の立場解ってるのかね。


「でなくば、今日の宿まで君の身柄を拘束するまで。オールでナージャにモフられる恐怖を味わうがいい」

「いいの隊長!?」


 ナージャの瞳がひときわ輝き、マオの体を抱きしめる腕に力が入る。

 そんなナージャの気合の入り様に、マオは怯えたように声を上げた。


「や、やめて! それだけは!」

「ならば俺たちを魔王軍拠点に案内するのだ。今すぐに」

「う、うううぅぅぅぅぅ……!!」


 恐喝の如き言葉に、マオが顔に脂汗を流しながら唸り始める。

 とはいえ、耳はペタリと伏せられている。相当心が折れているはずだ。

 フォルカの方に目くばせすると、心得たという様子で頷いたフォルカはそのまま踵を返して駆け出した。

 これで、マオが折れたらすぐに光太たちと拠点に攻め込めるな。


「さあ、今すぐ首を縦に振るのだ。さもなくば、その引っ付き虫が君の全身の素敵な毛並みを余すことなく堪能することになるぞ」

「うわーん!?」


 哀れな狐少年の悲鳴がオリクトの町に響き渡る。

 かわいそうだが、今日でケリをつけるためにガッツリ協力してもらうぜ?




 変態成分を書き始めると止まらないのはいつものことだけど、淑女バージョンは久しぶりかなぁ。ナージャさんの暴走具合がひでぇ。

 そしてマナちゃんの弟、マオ君の登場です。苦労人属性を背負って背負ってそうな子ですね。可愛そうに……。

 次回はチャンネルを真子ちゃんに切り替えてみたいと思ひます。


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