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No.69:side・mako「また、奪還へ」

 もはや予定調和となりつつある、勇者様凱旋パレードをこなし王城へ帰還したあたしたち。

 あ、もちろん主役は礼美よ? 今回はほとんど何もしてない気がするけれど……。見た目が大事なのよ、見た目が。

 ともあれ、パレードを終えて王城へ帰還したあたしたちを出迎えたのは、光太とアルト王子、そして従者の皆々様の姿だった。


「御帰り、みんな!」

「いつもありがとうございます、皆さん」


 満面の笑みで帰還を祝ってくれる光太と、やや影を落としながらも嬉しそうなアルト王子の対比が何とも素敵なコントラストを醸し出していた。

 光太は元より、アルト王子も結構イケメンよね。光太と並んでも見劣りしない程度には。

 何も知らない子が見たら、速攻恋に落ちかねないわねー。


「うん! ただいま、光太君!」


 そして久しぶりに友達に会えてうれしいのか、礼美も満面の笑みだった。

 あー、後ろの方に立っている名前も知らない従者の皆々様の顏が赤くなってく赤くなってく……。

 なんていうか、ねぇ……。


「隊長! なんでそんなにツヤツヤなんですか!? フォルカまで! 私、狐っ子にモフモフさせてもらえなかったのに」

「運がなかったなー」

「ッスねー」

「キーッ!」


 視界の端で変態ども(ケモナー小隊)がなんか言ってるけど、とりあえずスルー。


「というわけで、ただいま。で、アルト。例の件は?」

「無事決定しています。すぐにでも、出立いただけるかと」

「よし」

「え?」


 あたしとアルトの会話を聞いて、光太が不思議そうな顔になった。

 あたしは光太の顔を見ると、小さく頷いてみせる。


「次の領地奪還は、明日にでも行くわよ」

「え、ええ!? そんなすぐに!?」


 あたしの言葉に光太が隆司と礼美の顔を見比べるけど、二人とも各々頷いてみせた。

 この二人には、帰ってくる道すがら今回の作戦を説明しておいた。

 まあ、そこで残る残らないの論争に発展したんだけど、その辺は余禄よね。


「大丈夫だよ! 次は私が残るから!」

「いや、光太が心配してんのはそこじゃねぇだろ?」

「そ、そうだよ! いや、それだけじゃないけど、そんなすぐに出て大丈夫なの!?」


 あたしの言葉を聞いて不安そうな顔になる光太。

 まあ、光太の不安もわかるわよ。確かに半月も連続で旅を続けるなんて、体力的に不安だし……。

 とはいえ、長くとどまってるわけにもいかないのよねー。


「まあ、落ち着いて聞いてちょうだい」

「う、うん」


 あたしの言葉に光太がしっかり頷いたのを確認して、さらに周りに貴族連中がいないのも確認してあたしは説明を始めた。


「今回の奪還に動くのに、なかなか時間がかかったわよね?」

「うん。確か、貴族との会議が長引いたんだよね」

「ええ、そう」


 会議というか、約一名が駄々をこねたせいで時間がかかったわけよね。


「今回もそんな会議待ってたら時間がかかるのは明白よ。そんなの一々待ってらんないわ」

「なので、今回は私の独断で次の奪還領を決定させていただいたのです」


 あたしの説明を引き継ぐように、アルトが次の領地の場所を書いた地図を広げてみせた。


「次の領地は、マコ様の希望に沿う形で、鉱石の町オリクトとなります」

「鉱石の町……?」

「なんでも、王都にいちばん近い鉱石が取れる町なんだと」

「真子ちゃん、今作ってる武器の関係で、どうしても一回そこに行っておきたいんだって」


 隆司と礼美の補足に、あたしは頷く。

 今回の領地に関しては、カルタ奪還に赴く前にアルトの頼んでおいた場所だ。

 やっぱり銃の効率は無視できない。かつて剣が席巻していた戦争の歴史を、たった一種類の武器が塗り替えたのだ。

 屈強な騎馬が、たった一丁の鉄砲によって打ち倒された。日本においても、織田信長が導入した種子島が、当時の戦争の様相を変えた。

 だから、ここでも鉄砲を量産しておきたい。魔王軍との戦いを、少しでも優位にするために。


「で、アルトに頼んで貴族連中にも根回しして、あたしたちがカルタを取り返しているうちに、次の奪還領を決定しておいてもらったのよ」

「そうなんだ……」


 納得したように頷いてくれる光太。とりあえずは納得してくれたようね……。

 あたしはアルト王子に向き直ると、小さく頭を下げた。


「ごめんね、アルト王子。あたしのわがままで無理言って……」

「かまいません。皆様のおかげで、魔王軍の脅威を退けられているのです。この程度の労力では、むしろご恩に報いきれませんよ」


 アルト王子は小さく微笑みながら、力強くそう言ってくれた。

 ……が、目の下には隠しようのないクマが見え隠れしている。議会は相当揉めたようだ。

 ホントごめんね?


「じゃあ、明日には出立するとして……。礼美ちゃんが残るなら、次のメンバーは?」

「礼美が抜けるといなくなるのが、ヨハンさんとジョージね」


 あたしが言ってその二人に視線を向けると、ジョージは顔をプイッとそむけ、ヨハンは堂々と頷いた。


「フン。俺はレミの魔法のセンセーだかんな。俺が残んなきゃ、レミの勉強がはかどんねーだろ」


 その言い訳はもう聞き飽きたわよ?


「レミ様の従者たる私が残らずして、いったい誰がレミ様の身辺警護を務めるというのですか?」


 いやいっそ清々しい笑顔だけど、もうちょっと建前で隠せ、あんたは。


「で、あんたが付いてくると戻ってくるのがアルルとアスカね」

「は~い~」

「そうですね」


 名前を呼ばれた二人が、光太の後ろで頷いた。


「で、それに伴ってついでに抜けるのが副団長さんと」

「ええ。あまり長く席を抜けていると、団長が仕事をさぼりかねませんし」


 副団長さんは頷いて、鋭いまなざしで騎士団兵舎の方を睨みつけた。

 一応メイド長さんが見てるなら大丈夫……いや、あの人ギルベルトさんだけで案外手一杯かもしれない。


「えーっと……フォルカ君はそのまま続投なの?」

「一応ね」


 抜ける人数は二人。前線のできるメンバーが増えるけど、その分後方支援が減る感じなのよね。

 まあ、ヨハンさんは支援というより前線メンバーの気配が強いんだけど……。


「で、最後の補充要因としてナージャを突っ込む予定」

「なんですって!?」


 隆司に肩を叩かれて、ナージャがなんか絶望したような表情で声を張り上げた。


「ちょっと待ってください隊長! 防衛組でも狐っ子に会えないのに、この上前線組なんて余計に会える率が減るじゃないですか!?」

「いやいやいけるって。今までもちらほら豊富な種類の魔族に出会えてるし」


 重要なのはそこか。

 半目になりつつも、とりあえずナージャは隆司に任せることにする。

 ヨハンさん曰く、教団の中でもそこそこの信仰心と、かなり上位に位置する戦闘力の持ち主なんだとか。

 まあ、教団の人間に戦闘力を求めるのがなんか間違いだと思うんだけどさ。


「で、今日一日明日の出立のための準備に費やして、速攻で出発って手筈よ」

「……うん、わかったよ」


 あたしの説明を頭の中で反芻し、理解した光太は小さく頷いた。


「うまくすれば、王都に魔王軍が攻め込んでくる前に帰ってこれるかもしれないし、頑張らないとね」

「そうねぇ……」


 光太の言葉に、あたしはあいまいに頷いた。

 確かに最近の魔王軍の動向を考えれば、次の襲撃は二週間後くらいだけど……。

 あいつらにあたしらの行動が筒抜けってことを考えれば、一週間後の襲撃もあり得るのよね。

 その時に礼美を中心としたメンバーでなんとかなるか……。不安だけど、言ってもしょうがないわよね。


「じゃあ、僕は装備取ってくるね」

「わかったわ」


 そういうと光太は、駆け足で自分の装備を取りに走っていった。

 アルルとアスカにそれに続いていく。


「隆司ー? そっちの方はまとまったの?」

「とりあえずは……」


 声をかけると、ちょっと疲れた表情の隆司が振り返った。

 その向こうには憤慨した表情のナージャ。

 まだ納得はしてもらえてないみたいだけど、隆司にはやってもらうことがあるのよねー。


「まとまったんなら、さっさとハンターズギルドに言って、馬車の貸出期間延長してきてよ」

「あーい……」

「ちょっと隊長! 私は納得してませんよ!? だいたい――」


 抗議の声を上げ続けるナージャを引き連れながら、隆司は王城の外へと出ていった。

 奪還の速度を維持するためには、この馬車の存在が必要不可欠なのだ。どんな無理を要求されても、確実に伸ばして来いと言明してある。

 まあ、隆司の存在はギルドでも重宝されてるらしいから大丈夫だろう。


「じゃあ、真子ちゃん。私はちょっと休むね」

「うん。しっかり休んどきなさい」

「うん、そうする。真子ちゃんも、無理しちゃだめだよ」

「わかってるわよー」


 あたしがそう言いながら手を振ると、本当にわかってるのかなぁ……なんてつぶやきながら礼美が自分の部屋に帰っていった。

 無理をすることに関しては一家言持ちのアンタにゃ、言われたかないわよ……?

 そのほかの人たちも、持ち場に戻ったり奪還のための物資を取りに行ったりし始めた。

 そんな様子を眺めながら、あたしはグッと背伸びをした。

 さて、あたしはどうしようかなぁ……。

 いろいろ考えてはいたのだが、あたしは自分がやることはあまり思いつかないのだ。

 力仕事は男の仕事だし、周りとの折衝や交渉はアルト王子や団長さんみたいな偉い人の仕事だ。

 速攻で奪還に動くとなると、基本的に物を作っていろいろ試しているあたしにはやることがなくなってしまうのだ。

 一日どころか半日じゃ、何も作れないしね。

 と、サンシターがバケツに水を組んで馬車のそばに戻ってきた。

 暇を持て余したあたしはそんな彼に近づいた。


「サンシター、何してんの?」

「はい。長旅の馬を労おうかと思ったであります」


 サンシターはそういうと、バケツの中の布をぎゅぅっと絞って、馬の体を拭き始めた。

 冷たい水で絞られた布が気持ちいいのか、馬はサンシターが体を撫でるたびに気持ちよさそうに鳴き声を上げた。

 そんな馬の様子に、サンシターは少しだけ嬉しそうな顔になった。


「馬にしろ人間にしろ、身体は綺麗な方がいいでありますからね」

「ふーん」


 あたしはすぐそばにあった石の上に腰かけて、サンシターの様子を伺った。

 馬の体を拭いていくサンシターは、なんというか、手慣れた様子だった。

 手際よく馬を拭いていく姿は板についており、似たような作業を繰り返し行ってきたことを伺わせる。


「……なんか慣れてるっぽいわね。確か、あんた農家の出だっけ」

「はいであります。寒村の大家族の長男でありますよ」


 サンシターは布を再びバケツに浸し、含んだ水をギュッと絞った。


「といっても自分、元々は病弱でありまして、こんな風に動物に接する機会はあまりなかったでありますが……」

「あんたが病弱とか何の冗談よ」


 サンシターの言葉に、思わず顔をしかめるあたし。

 いつかの会戦の時、倒れても倒れても起き上がった生命力があって病弱とかありえないでしょうが。

 そういうと、サンシターは苦笑した。


「家族みんなが労わってくれたでありますから。こうしてしっかり立ち上がれるようになったのは、十五の時であります」

「ふーん……」


 片方の馬を拭き終え、そのままもう片方の馬も吹き始めるサンシター。

 そんな彼の姿には、彼が口にしたような苦労を思わせるものは感じられなかった。

 そう見えるのは彼の生来の物なのか、それとも家族の賜物なのか……。

 そんなことを徒然考えながら、あたしは馬の世話をする四等騎士の姿をぼんやり眺め続けるのであった。




 引き続き、領地奪還に動くようです。がんばれ!

 で、ちょっとサンシターに焦点を当ててみんとす。結構お気に入りなんだけど、最近出番無かったので……。

 次からはまたラブコメ強化ですよ! おもに礼美関係の。


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