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No.7:side・ryuzi「四人で過ごす夜」

 さて。

 一通り訓練も終わった俺たちは、宛がわれた部屋の一つ……女子部屋にやってきていた。

 今日あった出来事を、お互いに報告しあうためだ。修学旅行的なドキドキイベントではない。

 俺と光太の方は、まず俺の身体能力の向上。目の前でベッドを片手で持ち上げてやったら、見事に沈黙を返してくれた。

 それから、光太の使う武器と能力。光太が選んだのは刀くらいの長さがある魔法剣で、刀身を渦巻く風で覆うというものだ。元々は相手の武器を絡め取るために開発された魔法剣らしい。普通に剣としての機能もあるが、相手を傷つけるのを嫌がった光太は刀身に風を纏わせたまま切りかかれば棍棒のように殴れるとこれを選んだようだ。それ以外にも、訓練中に纏わせた風を衝撃波のように飛ばす方法も見つけていた。やろうとすればカマイタチのような刃を発生させることもできるらしいが、光太はそれを使うつもりはないようだ。

 そして今判明している光太の能力は、魔力の異常な燃費の良さ。光太の使う魔法剣は常に風を纏わせることもできるが、そもそも風を渦巻かせるだけで結構な魔力を消費するものらしい。だが、光太はそんな魔法剣を訓練中、ずっと発動させ続けることができた。普通なら昏倒するはずらしいが、そのあとクールダウンと称して魔法剣での素振りをやるくらいだった。有り余りすぎだろう、体力。

 ちなみにこれは余談になるが、魔法剣に銘はなかったので「エア・キャリバー」と光太自ら命名した。俺の使う剣? 普通に石剣でいいだろってことにしておいた。超重剣も捨てがたいけど。

 続く真子と礼美の方は、魔法関係のチート能力か。詠唱破棄ができる真子はともかく、祈るだけで癒せる礼美の方は本当に特殊能力だなぁ。

 そのあとは、どうやら女神が魔王にさらわれてるらしいから、それを助けないと元の世界には返してくれなさそうだということ。

 まあ、こういう場合に元の世界に反してくれそうなのは神様って相場は決まってるしな。真子はめんどくさそうに溜息ついてるけど、「魔王軍と和解する」よりももっと目的がはっきりしたからいいじゃねぇか。

 そして。


「これが最後になるんだけど………どうもあたしの能力は魔族のそれに近いらしいのよ……」


 衝撃の告白。

 光太と礼美はその言葉に目を丸くし、俺は片目を眇める。

 うつむいた真子の表情はうかがえないが、その声は堅い。


「礼美。そういう話は聞いてんのか?」

「き、聞いてないよ! 真子ちゃん!?」


 あわてたような礼美の声。本当に聞いていなかったらしい。

 礼美の声に顔を上げることもなく、弱弱しく首を横に振る真子。


「少なくとも……フィーネはそう思ってるみたい……」

「そんな……!」


 光太の声に焦りのようなものが混じる。そりゃ、友人の一人が敵側陣営だと疑われりゃな。

 とはいえ、まだその核心は断定には至ってはないようだ。こうして真子が俺たちといるのが何よりの証拠だ。


「つっても、確定じゃねんだろ? 単に近いだけ。魔法ならフィーネだって使うじゃねぇか」

「フィーネとあたしとじゃ、理由が違うじゃない……。フィーネは自力で覚えたものだろうけど、あたしの場合ほとんどそういうのがなかったんだもの……」


 俺の言葉にも弱弱しい返事しか返ってこない。

 こりゃ相当参って……。


「最悪、あたし一人でやってかなきゃいけなくなると思うと……」


 と、真子の奴が一瞬俺の目を見た。

 視線が合った瞬間、俺はジト目で真子の方を見た。

 一瞬だが見えた真子の目は、弱っているどころか力強さすらともなって見えたのだ。

 今弱弱しく見えんのはみんな演技かコン畜生が。俺の心配を返せ。

 だが俺の視線も真子の演技も気が付かない礼美は、素早く真子に近づいてその頭を掻き抱いた。

 今目の前にいる、見た目、弱弱しげな少女が消えてしまわないようにしっかりと抱きとめた。


「そんなことないよ真子ちゃん! 私が、そんなこと絶対させないよ!」

「ありがとう、礼美……」


 豊かな胸部に包み込まれて、真子の表情はうかがえない。光太は二人の友情を篤く見守っている。俺は真子の奴を羨ましく眺めていた。俺だって健全な男だし。

 しかし同じ場所同じ学校同じ時間生きてきたはずなのに、どうして神様ってやつは不公平なのかね。礼美は実り多く幸豊かなボディなのに、真子の奴は両面。


「―――」


 ……不埒なことを考えていたら、真子が凄絶な眼差しをこっちによこした。それ以上考えたら殺スと。

 つってもこっちはてめぇの真意が読めねぇんだよ。せめて演技始める前にこっちに何か一言よこせよ。適当なこと考える以外に仕事ねぇじゃねぇか。

 若干ふてくされてやるが、真子はそんな俺にかまわず演技を続けたままそっと礼美から体を離した。


「ありがと、礼美……」

「真子ちゃん……」


 大丈夫だというように笑顔を見せる真子の様子に、それでも不安が募る礼美は意を決したように顔を引き締め、そのあとすぐに笑顔になって光太と俺の方に振り向いた。


「ねえ、光太君、隆司君! 何かして、遊ぼうよ!」

「はい?」

「……うん、いいよ!」


 礼美の言葉に疑問符を浮かべる俺に対し、光太は一拍置いたがすぐに元気よく返事をした。

 立ち上がって、礼美と真子のそばに近づくと対面のベッドに腰を掛けた。


「昨日はいろいろあって、すぐ眠っちゃったしね……。何して遊ぼうか?」

「トランプ……はないんだよね、アハハ……」

「ないなら作ればいいんじゃないかな? 紙は豊富にあるって団長さんが言ってたから、メイドさんにお願いして、堅めの紙と色ペンを持ってきてもらえれば……」

「あ、そっか! じゃあ、私ちょっと行ってくるね!」

「僕も行くよ。隆司、真子ちゃんをお願いしてていいかな?」

「へ? お、おう」


 あれよあれよという間にトランプすることになって、トランプを作るための素材をメイドさんにもらうために、光太と礼美は連れだって部屋を出て行った。

 あっという間の展開に呆然としていると、真子の奴がつかれたようにため息をつくのが聞こえた。


「まあまあかしら。とりあえず、あいつらを二人っきりにするのは成功ね」


 ……つまりあいつらに共通の目的を与えて二人っきりにするのが目的だったのか? そのためだけに魔族云々の演技を?


「……お前もようやるわ」

「利用できるものは何でも利用よ」


 ひきつったような笑い声をあげてやると、真子の奴はさっぱりと返事を返してくれた。

 こいつのこういう一面は見習うべきなんだろうけど、さすがにここまで割り切れんわ……。


「しかし魔族云々ってのはマジなのか?」

「さあ? 少なくともフィーネがそういってたのは本当だけど……。もしそうなら、あたしは落ちるところ間違えたのかしらね?」


 軽く肩をすくめた真子。

 最悪、この国全部が敵に回るかもしれないってのに、のんきなもんだぜ。

 まあ、こいつなら一人でも案外うまく立ち回るんだろうけどよ。

 しかし、俺はこいつの言葉に自分を顧みてちょっとへこんだ。


「お前が魔族なら、俺はいったいなんなんだよまったく」


 光太と礼美は間違いなく女神だろう。そして真子が魔族。

 なら体がひたすら強力になってる俺は?


「体の強化に魔術言語カオシックルーンがいらないって話だし、女神でいいんじゃないの?」

「その魔力を使う感覚すらわからないうえに、その強化って意識的にやってる話だろ? 俺、別に意識して強化してるわk」


 ドガシャーン!


 勢いよく投げつけられた花瓶を顔面で受け止める俺。

 叩きつけられた花瓶は、むしろ俺の顏の堅さに負けて粉々に砕け散る。


「あらほんと。鼻血も出ないのね」


 投げつけた張本人は清々しい笑顔で俺の変化を眺めている。

 いや確かに不意打ちで花瓶投げつけられりゃ、強化もできるわけねぇだろうけどよ。

 ……さっきいろいろ考えてた復讐かこの野郎。そもそもなんで俺の考えが読めるんだよ。


「顔に出てんのよあんた。わかりやすすぎるわ」


 また人の心読むし。今度は冷ややかな視線付ときたもんだ。

 やってられなくなった俺は、顔についた水滴を掌で拭って立ち上がる。


「ちょっと。どこ行くのよ?」

「着替えだよ。さすがにこのままじゃいらんねぇだろうが」


 先ほどの花瓶攻撃のおかげで、着ている制服だけじゃなくて床までぐっしょり濡れてしまった。最後まで装飾の役目を果たせなかった花も、心なしか無念そうに床にくたっと伸びている。


「着替えって、替えなんてあるの?」

「お前の部屋にもタンスあるじゃねぇか。中に替えの一着でもあるんじゃねぇの?」


 俺は濡れたシャツのボタンをはずしつつ、部屋を出て行った。

 で、タンスの中に入っていたシャツに着替えて戻ってみると、トランプの材料と結構な量の食べ物と飲み物に加え、なぜかメイドさんと神官服をきた俺たちと同い年くらいの男が部屋にいた。


「あれ? 誰そいつら?」

「あ、隆司。こちらはメイドのメアちゃんと神官見習いのヴァンくん」

「食べ物も必要かと思って、手伝ってもらったの。それに、今夜のトランプ仲間だよ!」


 輝かんばかりの笑顔で答えてくれた二人だが、肝心の連れてこられたメイドと神官は挙動不審である。ひたすら周囲と俺たちの顔とを見比べている。

 肉食動物を前にした小動物か、拉致られてきた子供って感じだな。


「な、なんですか、トランプ仲間って!?」

「わ、私たちが勇者様たちとご一緒しても、本当によろしいんですか!?」


 何も知らされてないのか、あるいは勇者の部屋にいるという緊張感か、若干声が裏返っているように聞こえる。

 あー……。こいつら、さては強引に押し切って連れてきたな……?

 光太も礼美も、友達が落ち込んでるといつもは発揮しない強引さで周りを巻き込んで、友達を元気づけようとするからなぁ。

 真子の方を見ると、「余計な連中を……」って顔でメイドと神官の後頭部を睨んでるな。こいつとしては、トランプで夜過ごして少しでも光太と礼美の親睦を深めたかったんだろう。

 まあ、こうなっちまったら仕方ねぇ。メイドと神官……メアにヴァンだったか? 二人にゃ悪いが、今夜一晩付き合ってもらうとしよう。

 俺は挙動不審な二人の生贄に黙とうをささげつつ、トランプを作り始める光太と礼美の手伝いを開始した。

 なんにせよトランプがなきゃ、はじまらねぇしな。




 作戦会議! というよりは修学旅行の夜って感じですが。

 これで二日目、三日目以降はゆっくりフラグ強化の話になると思われます。

 おもに光太と礼美の周りの連中ですが。

 果たしてメアちゃんとヴァン君はそのフラグに入れるのか!?


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