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No.66:side・mako「アシクサ畑で戦って」

 バカ二人が特攻し、前に出ていったら案の定、アシクサ畑の中からあたしたちを包囲するように魔王軍の連中が姿を現した。


「おい、やっぱり罠じゃねーか!?」

「そんなのわかってたことでしょうが」


 ジョージの奴が慌てたように抗議の声を上げるけど、あたしはため息ひとつ吐いてすませる。

 罠の奇襲も込みで、相手の指定に乗ったんだからこの程度は想定内だ。

 さて、相手も結構な人数がいるわね。囲いを突破してバカ二人と合流するか、各個撃破するか。


「撃てー!」


 あたしが迷っていると、リーダー格らしい男……タヌキかしら? ともあれリーダーが一声叫ぶ。

 すると蛇の下半身を持つ少女……ラミア、っていうんだっけか? まあ、とにかくラミアの少女が前に出てきて、一斉に魔法を解き放った。


「盾よ!」

防障壁(シールド)!」


 あたしと礼美が両脇に立ち、魔法を防御する。

 が、魔法は一発では終わらず、立ち代り入れ替わりでラミアたちは魔法を連発する。


「フハハハ! 貴様らを自由にはさせんぞ!」


 タヌキのリーダーが偉そうな声を張り上げる。


「まずはソフィア様で、貴様らの主力であるあの男を分断し、我らが誇る魔導師たちで貴様らを封じる! この囲い、突破できるものならしてみるがいい!」


 聞きもせんのによう喋ること……。


「くっそ! おい、どうすんだよ!?」

「落ち着きなさいよ」


 相手側に包囲されるって状況になれないのか、ジョージがやたら慌てたような声を上げる。

 前回の骸骨包囲と似たようなもんでしょうに。魔法を連打で撃たれてるってのが、精神的にきついのかしら?

 とはいえ、いつまでもこの状況は維持できないわね。


「ヨハンさん、副団長さん!」

「「はい!」」


 あたしは二人に呼びかけ、防御を解く。


「礼美! こっちも防御!」

「わかった!」


 振り向きざまに、礼美に指示し、あたしが解いた分の防御を敷かせる。

 即応で、二枚目の盾を出した礼美にはあっぱれだけど、そう長々と持つわけでもない。

 素早く構成を編み上げ、あたしは地面に両手をついた。


隆起岩掌(アースハンド)!」


 ややアレンジが加えられた魔法は、ヨハンさんと副団長さんの足元に発動し、その体を斜め上の方へと跳ばした。

 空中を飛んでいく二人は、礼美が張った障壁も、魔王軍が撃つ魔法すらも飛び越えて、ラミアたちの群れの中へと飛び込んでいった。


「な、なんだとぉ!?」


 タヌキリーダーの無様な叫び声と、ラミアたちの悲鳴が上がる。

 副団長さんとヨハンさんは跳びこむだけではなく、手早く身近なラミアから当身なんかで気絶させて、魔導師たちを無力化していっている。


「ほら、陣が崩れたわよ!」

「お、おう! 光矢弾(ライトボウ)!」


 あたしの指示に、やや戸惑いながらも魔法でラミアたちを撃つジョージ。

 ラミアたちは跳んできた副団長さんや、魔法の矢を交わしながら散り散りに散っていく。


「くっそー!」


 まあ、それでもあたしらに向かって魔法を放ってくる余裕があるやつもいるんだけどね。


強風撃(ブラスト・ウィンド)!」


 飛んできた風の刃を、同じ風の魔法で無力化する。

 と、今度は剣やら鎧やらを身にまとった戦士タイプの魔族たちが出てくる。


「えぇい! その程度で我らの包囲網を敗れると思うな!」


 まだヨハンさんの手にかかっていないらしいタヌキリーダーの声が聞こえてくる。

 二段構えってわけ? 用意周到ね。

 こっちの近接担当はみんな離れた場所にいる。ちょっち厳しいかしら?


「礼美! 副団長さんと合流するわよ!」

「OK!」


 向かってきた魔王軍の奴を盾で弾き飛ばしながら、礼美が威勢よく返事をする。

 合流する人はどちらでもいいといえばいいが、やはり近接戦闘で一番強いのは副団長さんだろう。なるべくなら、私たちを気にする余裕がある人に守ってもらいたい。


「ジョージ!」

光槍連弾ディバイン・ファランクス!」


 あたしの呼びかけに、ジョージが無数の光の槍を解き放って答える。

 光の槍が、魔王軍の戦士たちを穿ち、副団長さんへの道を開く。あたしたちはその道を駆けた。

 駆けてくるあたしたちの姿に何をしたいのか察したのか、副団長さんは手槍を操りながら、あたしたちの方へと駆けてきてくれた。


「副団長さん!」

「はい、下がってください」


 あたしの呼びかけに冷静に答え、副団長さんは素早く駆ける。

 そして魔王軍の戦士たちに一撃を見舞い、あっさりと撃沈していく。

 こうしてみると、魔族が人間より身体能力に勝るってのがウソのようだ。

 でも、副団長さんの技量が連中の身体能力を上回ってるってことなのよね。

 あたしは副団長さんが稼いでくれた時間で、何とか今まで練っていた構成を解き放つ。


集え天星(サテライト・シールド)!」

「ぬあ、まずい!?」


 あたしの唱えた呪文を聞いてか、タヌキリーダーが慌てたような声を上げる。

 フン、こっちの魔法もそろそろ駄々漏れかしら? とはいえ、あまり時間をかけるつもりも。

 とあたしがつらつら考えていると、すごい音を立てて隆司が吹っ飛んできた。

 しかもあたしに向かって。


「どぉうわっ!?」

「ちょ!?」


 慌てて天星のうち一つを飛ばしてガード。

 詠唱破棄で障壁を張るけど、飛んできた勢いが強すぎたせいで天星が砕け散ってしまう。


「げっほ! ……なかなかやるもんだぜぃ」

「渋く決めてんじゃねーわよ!」


 腹を押さえながら不敵に笑う隆司の後頭部をあたしは叩いた。

 なによ、さっきバイザーした騎士と戦い始めたはずだけど、何で吹っ飛んで来てんのよ!?

 と、件のバイザー騎士がこちらに駆けてきていた。

 表情はうかがえないけど……なんか鬼気迫る様子なんだけど。


「気ぃ付けろ! あの騎士、結構やるぜ!?」

「ならあんたが相手なさい!」


 あたしは隆司の背中を蹴っ飛ばしながら、慌てて下がる。

 隆司は掌に拳を打ち合わせ、勢い良く立ち上がった。


「おっしゃ、こいやぁ!」

「―――!」


 隆司の呼びかけには答えず、騎士は刃を叩きつける。

 隆司は刃の側面に拳を入れて、その軌道をそらし、拳を突き入れる。

 だが騎士は素早く剣を引いてそれを防御。


「ちっ! やっぱりなかなか入らねぇなぁ!」


 どこが楽しげな隆司の奴に対し、騎士はあくまで黙秘を貫く。

 なんつーか……今までの魔王軍の連中とはどこか違うわね。

 ソフィアやヴァルトあたりなら、隆司の存在を喜びそうなもんだけど……。

 あたしは天星を操って適当に周辺の魔王軍をあしらいながら、隆司に問いかけた。


「そういやあんた、ソフィアはどうしたの!?」

「それがこの騎士ねーちゃんが邪魔してくれてな! まだ一ヶ月分の充電終わってねぇのに!」

「充電ってなんだよ……」


 隆司の言い草に呆れつつ、ソフィアの姿を探す。

 あの子のスピードは、厄介だ。簡単に戦場をかき乱せるスペックなのだから、放置して何をされるか……。


「あ、いた」


 思いのほか早く発見でき、なんだか間抜けな声を上げてしまう。

 最初に隆司とド突き漫才していた場所から一切動いていない。

 そして隆司と戦う騎士の背中をなんかさびしそうな眼差しで見つめていた。

 なんであんな切なそうな眼差ししてんのよ……。


「にゃ~ん~♪ フォルカってば、てくにしゃ~ん~♪」

「もふもふー!」


 そのすぐそばでなんか変態どもが乳繰り合ってたけど、そっちにはつつがなく光槍撃(スピア・スマッシャー)を叩きこんでおくとする。

 ともあれ、ソフィアの方が動く気がないというのであれば、それで構わない。そもそも、隆司とのタイマンを望んでた節もあるし……。

 ……ああ、だからあんな顔してるのか。


「ちょっと隆司。嫁さんほっといて浮気は感心しないわよ?」

「バカ野郎お前、俺の心は嫁一筋だっつーの!」


 あたしが茶化すように言ってやると、怒りの声とともに放たれた蹴りが、騎士の体を容赦なく吹き飛ばした。


「ぐぅっ……!?」


 その思わぬ力強さにか、騎士はようやくうめき声を上げた。


「こんな堅物より、嫁の柔らかい鱗を堪能したいというのに、空気読まん奴め!」

「なに、ソフィアの鱗ってやわらかいの?」


 その言葉にあたしが胡乱げな顔つきをすると、隆司は何を当然という顔でうんうん頷いた。


「そりゃお前、最高級羽毛枕にすら劣らぬ最高の抱き心地を約束してくれるぞ」

「へー」


 聞いておいてどうでもよさそうに返事するあたし。

 だが、そんなあたしらの会話を快く思わぬ奴がいた。


「―――」


 さっき隆司の蹴りを喰らってうつむいたまま、押し黙っているバイザー騎士だ。

 バイザー騎士はおもむろに手に持った剣を高く掲げると……。


 ブォン!


 と勢いよく振り下ろした。

 同時に、衝撃波が斬撃と変わりそのまま地面を穿ち抉る。

 そのままの勢いで、あたしが飛ばしていた天星が一つ真っ二つにされてしまう。


「うぉ!?」

「きゃっ!?」


 そのあまりの唐突さに、あたしと隆司は思わず飛び退く。


「戦いにおいて、そのようなふざけた態度を取るとはな……」


 唸り声のようなつぶやきが、風に乗ってあたしたちの元まで聞こえてくる。

 って、コイツ、マナと似たようなタイプ?

 騎士が顔を上げる。といっても、相変わらずバイザーのせいで表情を伺うことは難しい。

 だけど、横一文字に結ばれた口元が、その怒りを如実に表していた。


「許しがたい連中だ……! ガルガンド殿のお言葉はあるが、この場で処断する……!」

「ガルガンド?」


 その名前に、隆司の眉がピクリと跳ね上がった。

 ああ、確か前回取り戻した領地にいた骸骨じいさんだっけ?

 隆司はひどく痛めつけられたらしいんだけど……。

 隆司は一歩前に出て、騎士に問いかけた。


「お前、あいつの身内か?」

「答える義理はない?」


 騎士はにべもなく言い切ると、剣を青眼に構える。

 が、その剣は甲高い音ともにへし折れた。


「なっ!?」


 慌てて騎士が振り返ると、拳を中段に振りきった隆司の姿がそこに。

 って、いつ移動した!? いつ突進した!? 冗談抜きに見えなかったわよ!?

 隆司は振り返ると、騎士を嘲るように口元を歪めながら口を開いた。


「まじめにやったぞ? これでも答える義理はねぇか?」

「ぐっ……!」


 騎士が悔しそうに後ずさりする。

 っていうか、ガチでやったら、ソフィア並みのスピードが出るとか……。

 しかし、今回あいつ武器持ってきてないはずだけど、どうやって騎士の剣折ったのかしら……。


「まあ、そういじめてやるな」


 と、そんな騎士を護るように、やっぱり気が付いた瞬間にはソフィアが隆司の前に立っていた。

 遠くからさびしそうに見つめている作業に飽きたのかしら。


「ソフィア様……」

「変に語る必要はない。これよりは、私が相手をする」

「……はい」


 威厳さえも伴ったソフィアの言葉に、バイザーの騎士は悔しそうに歯を食いしばりながら下がった。

 って、あたしの方じゃない! 退避退避。

 隆司とソフィアはしばらく何か話をしていたようだけど、そのまま対戦になだれ込み始めた。

 こうしてみる限り、やっぱりソフィアと相対してまともに相手できるのは隆司だけっぽいわね……。

 ヴァルト相手に四苦八苦していたころがウソのようだ。今なら、そこそこいい勝負できるんじゃないかしら?

 あたしはそんなことを思いながら、ぐるりと戦場を見回す。

 礼美やジョージは副団長さんが守ってくれていたおかげでまだ無事の様だ。今はヨハンさんとも合流し、各個撃破の形になっている。

 んー……。この分なら、あとは隆司がソフィアを相手してくれれば終いかしらね。

 あたしは自動迎撃にしておいた天星をいったん解除し、周囲を睥睨する。

 周りには、あたしを攻めあぐねいていたらしい魔王軍の連中がたむろしている。


「さっさと終わらせたいのよ。だから……」


 あたしはつぶやいて、軽く首を傾げてみせた。


「こっちから行くわね?」


 あたしのセリフを聞いて、魔族連中の顏が明らかにひきつるのが見えた。

 そんな顔しなくても……一発で終わるわよ?




 そんなわけでラミアが出ましたよ! 名前付けてあげようかしら、どうしようかしら。

 そして、騎士クロエさんとガルガンドに接点が! 果たしてクロエさんの種族とは!?

 次回、激闘隆司VSソフィアとなります! 変態もでるよ!


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