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No.65:side・ryuzi「農耕の町、カルタ」

「ここが?」

「はい! カルタであります!」


 王城を出発して、四日。ほぼ定刻通りに今度奪還する予定の領地であるカルタへと到着した俺たち。

 俺は屋根の上から飛び降りながら、カルタの様子を伺ってみる。

 パッと見は穏やかな農村という感じだ。王都と違い、木造のRPGとかでよく見かける一戸建ての家が立ち並び、村のはずれの方には葦によく似た植物がたくさん生えている。

 確かカルタは紙の原料になる植物を生産している領地だったはず。となれば、あれが例の紙の元か。

 なんてことをぼんやり考えていると、一人のおっさんが俺たちの方に近づいてきた。


「も、もしや王都の騎士団の方ですか?」

「ええ、そうですが」


 サンシターと一緒に御者席に座っていた副団長さんが頷いた。

 おっさんはその言葉を聞いてほっとしたように頷いた。


「よかった~。実は、この町を占領している魔王軍の連中から伝言を預かっているんです」

「伝言ですか?」

「はい。畑の向こう側の平野で待つ、と伝えろと言われてたんです」


 畑の向こう……。件の畑ってのは、こっから見える葦似の植物畑の向こう側ってことかね?


「わかりました。ありがとうございます」

「ええ、よろしくお願いしますね」


 副団長さんのお礼に頷いて、おっさんは立ち去った。

 馬車の中からぞろぞろ出てきた連中の方を向き、俺はコキリと首を鳴らした。


「んじゃまあ、行くかね?」

「行くのかよ。ぜってー罠じゃん」


 胡散臭そうにつぶやいたジョージ。わざわざ町の人間に伝言を伝えたのが気になってんのか?


「んなこと言ったって、今までとそう変わったもんじゃねぇだろ。レストの時なんかと、ちょうど似た状況だろ?」

「あのときは、サンシターに伝言を預けたのよねー」

「あのときは生きた心地がしなかったであります……」


 俺の言葉に、サンシターがぶるりと身体を震わせた。

 俺は光太から話を聞かされただけだが、このカルタとレストの状況は似通ってると思う。


「確かに、カルタの人たちは普通に生活できてるみたいだね」


 礼美が少し嬉しそうにカルタの様子を見ながらつぶやいた。

 そう。遠目から見ても、正直カルタが魔王軍に占領されているなんて信じられないくらい平和なのだ。

 まあ、魔王軍の侵略のやる気のなさは今に始まった話じゃないが、光太から聞いたレストの状況も似たようなものだったらしい。

 あそこは貿易の中継地点的な領地でもあったため、ほとんどの領民は家にこもっていたらしいが。


「少なくとも、ヨークの時よりは平和といえそうですね」

「そうでありますね」


 ヨハンの言葉に、サンシターが同意する。

 たしかに、ヤクザ骸骨がいたヨークよりは確かに平和だ。

 だが、そんな二人の様子にフォルカが首を横に振った。


「っつっても、ジョージのいうことも無視できないだろ?」

「伝言を伝えた、ということは当然待ち伏せているでしょう。そのことは考慮しておくべきですね」


 副団長さんも、少しこの状況を疑うように考え込んだ。

 ふーむ、ヨークよりはクリアな状況だと思うんだがなぁ。

 なんて思いつつ、俺は拳を握ったり開いたりする。

 今回も、また石剣は置いてきた。

 まあ、本当なら持ってきたかったんだが、思っていた通り石剣を積み込もうとすると、馬車の轍がミシリといやな音を立てたのだ。どうも重さが一点集中しているせいで、馬車に対する負担も半端ないらしい。

 つまり、今回も俺は素手なわけだ。前回みたいな巨大機械獣に出てきられたら、俺は役に立てねぇんだよなー。


「真子ちゃん、真子ちゃん。真子ちゃんは、どうしたらいいと思う?」

「そうねぇ……」


 礼美が我らが軍師殿にお伺いを立てた。

 真子は腕を組み難しい顔をしたが、すぐにポーズを解いてどうしようもないという風に肩をすくめた。


「まあ、いつも通りに正面からぶつかるしかないんじゃない?」

「いいのかよオイ」

「向こうが待ち受けてるんじゃ、今から不意を衝くのは無理でしょ?」


 ジョージはそれでも不安そうに声を上げるが、真子は諦めたように首を横に振った。

 ジョージ、ひょっとして前回のことがトラウマになってんのかね? あの骸骨の群れは、確かにちょっと夢に出る勢いだったしな。


「では、軍師殿の同意も得られたことだし……早速いくかね」

「おー」


 俺が全員を促すように歩きはじめると、礼美も同意するように掛け声をあげてついてきた。

 真子がサンシターに、今晩の宿を確保するように指示するのを背中で聞きながら、俺はカルタの町並みに目を向ける。

 牧歌的とでもいうのだろうか? 何ともゆっくりと時間が流れているように感じられる空気が流れている。


「はぁ……」


 と、突然疲れたような溜息が聞こえてきた。

 なんだなんだと振り返ると、すぐ後ろまで追いついてきていたフォルカの姿が。


「んだよ急にため息つきやがって」

「だってよ、隊長……」


 フォルカは沈うつな表情で俺を見ると、何かを訴えるように俺の肩をつかんだ。


「前回の会戦にはなぜか猫耳がいなかったんだぜ!? 今回もいるかどうか!」

「んなもんテメェ、一ヶ月嫁に会えんかった俺の前では塵も同然だっつぅの! 悶絶して死ね!」


 たかが二週間程度で根を上げるんじゃねぇよ! こちとら、嫁とのニアミスが一か月続いてるんだっつーの!

 と、俺の頭をいきなり真子の奴がはたいた。


「道のど真ん中で吠えんな」

「うちの隊員がヘタレたことぬかしやがるからだっつーの!」

「どっちにしろ、あんたが原因じゃない」


 真子はうっとうしそうな顔で俺を一睨みしてから、指定された場所に向かって歩きはじめる。

 くっそぅ。


「隆司君、大丈夫だよ! 今日は会えるよ!」

「根拠のない慰めありがとうよ」


 俺を励ましてくれる礼美だが、俺には乾いた笑みしか浮かばない。

 本当に会えるんなら恩の字なんだがねぇ。

 俺は先を行く真子の背中を追うように歩く。

 カルタの街並みを抜け、広々とした葦似畑へと出てきた。

 全長は、人の身長と同じかそれ以上くらいか。結構デカいな。

 おかげで畑の向こう側の平野とやらの様子が全く伺えない。

 真子が、畑で働いていたおっさんに声をかける。


「この畑って、そのまんま突っ切っていいの?」

「ん? ああ、いいよいいよ」

「大丈夫なんですか?」

「アシクサはその程度じゃ、いたまねぇから気にすんな!」


 美少女に声をかけられて気が大きくなったのか、ずいぶんと気風のいい返事が返ってくる。

 しかしありがたい。葦似……アシクサの畑はかなり広大だ。まわり込めと言われたら、それだけで体力を消耗しちまいそうだ。

 俺たちはガサガサと音を立てながらアシクサの畑を突き進む。


「ジョージ君大丈夫ー?」

「なんで俺限定なんだよ! 平気に決まってんだろーが!」


 道中、礼美の心配そうな声にジョージが怒鳴り声を上げたりしたが、何とかアシクサ畑を抜ける。

 そしてその先に待っていたのは。


「来たか、アメリア王国騎士団諸君」


 天使()でした。


「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! 嫁ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「嫁というなと言っているだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!♪」


 その姿をサーチした瞬間に加速装置か何かを使ったように爆速ダッシュする俺を、嫁は華麗にクロスカウンターで迎撃。ありがとうございます!


「そう言えばこのアシクサって、紙以外にも使えるんですか?」

「紙以外にも、布にも加工できる万能植物ですよ」

「へー」

「ま、真子ちゃん……」


 外野がなんか他人のふりしているが、俺にとってはどうでもいいことだった。


「フゥハハハァー! ほんと久しぶりだなぁ!」

「貴様も変わらんようで何よりだ!」


 嫁のクロスカウンターで吹っ飛ばされたままの距離を保ちつつ、胸を張る俺にソフィアは腰のレイピアを引き抜いて突き付けてきた。

 ああ……全く変わらない! このやり取りもずいぶん久しぶりなんだよなぁ!

 と、そんな嫁の背中からぴょっこりと尻尾が見え隠れした。いや、ソフィアにも尻尾は生えてるけど、ネコっぽい尻尾が生えてきた。


「相変わらずのようで、にゃによりだにゃー」


 そんなセリフとともに顔を出したのは、嫁の親衛隊の一人である……えーっと……。


「確かミミルだっけか?」

「その通りにゃーん」

「ネコ耳ぃー!!」


 俺が名を当てるのと同時に、勢いよくフォルカが飛びかかっていった。


「ぬぁ!?」

「ぎゃおー!?」


 その唐突さにびっくりした嫁が、横殴りにレイピアでフォルカを迎撃する。

 斬撃が衝撃波にでもなったのか、中空で迎撃されたフォルカは哀れ、まっさかさまに撃沈する。

 とびかかられたミミルはミミルで、嫁の背中に隠れたままびっくりして動かない。

 ああ、ちょうど猫があんな感じで固まるよなー。


「負けるかぁー!」

「にゃー!?」


 だが、迎撃されたはずのフォルカは、血反吐を吐きながら復活する。

 うむ。素晴らしきバイタリティ。それでこそケモナー小隊の一員だ。


「こ、これがミーコの言っていた、ネコ耳男!」

「その通り! どうかそのネコ耳モフモフさせてください!」


 ミミルが何かに慄くように叫ぶと、フォルカは肯定と同時に勢いよく土下座の体勢に移行した。

 と、そんな直球の姿勢にミミルは、顔を赤らめつつ身体をくねくねしてソフィアの肘を引っ張った。


「にゃ、にゃーん……。ど、どうしよ、ソフィア様ぁ」

「なんで私に言うんだ貴様」

「あぁん」


 当のソフィアは、肘を引っ張るミミルの手を尻尾で弾いた。

 そんなミミルに、フォルカは土下座姿勢のまま詰め寄るという器用さを見せる。


「モフモフがだめならせめて肉球だけでも! それさえあれば、もう何もいらない!」

「にゃ~ん! こんなに熱烈に求められるなんて……あ、あちし、落ちちゃうぅ!」


 フォルカの猛攻に、ミミルは迷うように、さらに体をくねらせる。

 フ。微笑ましいじゃないか。しからば俺も。


「うおー! ソフィー! うおー!」

「せめて人語ではなせぃ!」


 両手を前に突き出して勢いよく迫るも、嫁の尻尾アタックで迎撃されてしまう。あぁん。


「フォルカに負けない勢いを表現したかった! 反省も後悔もしない!」

「後悔はともかく、反省はしてほしいのだが」


 俺の姿勢に何か文句でもあるのか、ソフィアが半目でこちらを睨みつけてくる。

 うーむ、嫁に言われると弱い。うむ、とりあえず考えて……。


「なにをしているのですか、あなたたちは」

「んー?」


 そんな俺たちのスキンシップに、冷たい声が割って入ってきた。ソフィアの背後からだ。

 そちらに目を向けると、いつかのバイザー女騎士がそこに立っていた。


「む、クロエ……」

「ソフィア様、相手は敵でしょう。何を悠長に会話しているのです。敵であるなら、領地を奪わせぬように追い払ってください」

「む、すまん」


 クロエと呼ばれた女騎士は、バイザーに隠れた視線をソフィアに向けながら、冷徹な声で鋭く指摘した。

 ソフィアはそんな女騎士に頭を下げて謝罪し、俺はこっそり嫁の尻尾に近づいていく。


「貴様もだ! 敵に相対するのに、そのようなふざけた態度はなんだ!」

「ふざけてねーよ! 俺はいつだって真剣だよ!」

「やめんかばかたれ!?」


 クロエの指摘が俺に向く。

 俺は嫁の尻尾に頬ずりしながら反論するが、即座に嫁に尻尾を取り上げられた。あぁん。


「もうちょっと鱗の感触を堪能させて! 一ヶ月会えなかったんだよ! 我慢したんだよぉ!」

「やかましい! 鱗だって、感触あるんだぞ!?」

「………」


 俺の言葉にちょっと顔を赤くする嫁。

 ほほぅ、いいこと聞いた。今度は全身くまなく鱗を舐めつくし……。

 などと思考する俺の視界の端で、クロエが腰のロングソードを引き抜いた。

 そして、音も声もなく、俺の首をはねとばそうと刃を叩きつけてきた。


「ん?」

「クロエ!?」


 嫁の驚いた声と、俺が刃を弾き返す音が重なる。

 刃を弾かれたクロエは、ギリッと音が聞こえてくるほど歯を軋らせ、明確な怒りのこもった声を俺にぶつけてきた。


「貴様のふざけた態度が癪に障る……! ここで始末してやる!」

「ほう……よかろう、やってみろ」


 俺はそんなクロエに対し、片手で顔半分を覆い、身体を斜めに傾かせながらはっきりと応じた。


「この辰之宮隆司に対して!」




 クマ吉になったりDIO様になったり、いろいろ忙しい隆司です。もうニコ厨でいいかこいつは。

 そして久しぶりに登場の、バイザー女騎士。今回はソフィアに付き合っているようですがはたして……。

 次回は真子ちゃん視点。実は始まっていた戦い編です。


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