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No.60:side・ryuzi「次に残るのは?」

 アルトの意外な一面を見た翌日、俺は光太と久しぶりに修行をしていた。

 光太は木剣装備で、俺は素手。まあ、これはいつも通りなんだが。


「お前、本気かよ?」

「うん、本気だよ?」


 修行中の軽い組手の中、世間話のついでに光太の口から放たれた言葉に、俺は呆れる。

 光太は、何を当たり前のことを、という感じでこっちを見ているが……。

 俺はため息をついて光太に接近する。

 蹴りを放つと、光太は軽いバックステップで避けた。


「しかしお前、今度は自分が残るってなぁ……」

「隆司も真子ちゃんも残ったんだから、今度は僕が残るがの筋だと思うんだけど……」


 袈裟斬りの放たれた一撃を左手でブロックし、正拳突きの要領で右拳を叩きこむ。

 光太はサイドステップで躱し、左足を軸に回転斬りを叩きこむ。

 俺は軽く屈みこんでそれを避けた。


「しかしいくらなんでもお前一人でなんとかなるとは思えんのだが……」

「そこはみんなに協力してもらって、っと!?」


 屈むのと同時に下段回し蹴りを放つ。

 光太は跳んで避けるが、同時に裏拳の要領でアッパーを放つ。

 光太は木剣でなんとか受けるが、着地に十分な体勢を保ちきれずに、尻餅をついた。

 俺は追い討ちに踵落としを見舞い――。


「そこまで!」


 アスカさんの鋭い制止の声を聞いて、光太の肩に踵を乗せるに止めた。

 俺はまたため息を吐いた。


「確かに周りに協力してもらえりゃ、何とかなるだろうけど、間違いなく制圧メンツが減るだろうに」

「それはまあ……」


 光太も困ったように笑い、アスカさんの方を見る。

 見られたアスカさんも、なんだか困ったように笑った。


「まあ……コウタ様が残られるのであれば、私も残らせていただきますが……」

「お前がいなくなるだけで前線メンバーが二人、あとはアルルも残るとか言い出しそうだから後衛のメンツも一人いなくなるぞ? どうすんだよコレ」

「うーん……」


 俺の言葉に、光太が腕を組んで考え始める。

 真子辺りが聞いたら憤慨しそうなアスカさんのセリフだけど、無理に引き離して光太のことを気にしすぎるのも困る。フラグは順調に立ってるっぽいし……。怪我でもしたら光太が見舞いに行ってフラグがさらに倍だ……。残っても一緒かもしれんが、可能性で考えれば低いほうだと思う。

 さて、この問題の解決方法は、単純に欠けた三人に相当する戦力を同数で補うことだ。

 制圧領地の奪還は、王都防衛をおろそかにしないためにも短期間で行わなければならないというのが真子の主張だ。まあ、長々居城を開けてたら魔王軍に制圧されました、じゃ笑い話にもならねぇしなぁ。

 そのためなるべくはスピードに優れる馬車で任務を達成したい。真子的には遅馬(スロゥホース)はもう黒歴史扱いにしたいらしい。

 だが、通常の馬車は乗員数に欠ける。馬車そのものに四人。業者席に詰めて二人。そして馬車の上にさらに二人の計八人が限界だ。

 そのため、三人欠けたから同じだけの戦力を補うのに、人数を連れていくという方法は使えない。

 ので、できれば同じだけの戦力を持つ人間についてきてもらいたいわけなのだが……。


「隆司が作った部隊にいるあの三人の騎士さんは?」

「あ? ダメダメ。あの連中、体力は無駄にあるみたいだけど、単純な戦闘力は普通の騎士とそんなに変わんねぇんだよ」


 光太の提案に、俺は首を振る。

 ケモナー小隊の騎士隊隊長に任命しているABCの三人組は、ただいま魔導師隊と神官隊の体力育成に専念してもらっている。

 騎士全体と比較しても相当体力がある方らしいのはありがたいんだけど、なぜか戦闘力は通常騎士とほぼ同じらしいんだよな……。

 まあ、怖いくらいに息ぴったりだから、連携とかとり始めたら案外怖い戦力になってくれそうだけど、試してもいねぇ戦力を登用するのもあれだよな。


「それに、なるべくならケモナー小隊(うちの部隊)の体力増強に専念してもらいたいからな。連れてくにしても、魔導師隊か神官隊の体力が安定してからだなぁ」

「うーん、そっかぁ……」


 アスカさんが持ってきてくれた水筒から水を飲みつつ、光太が残念そうにつぶやいた。

 まあ、体力って面じゃ、ここ数週間でだいぶついてきてるみたいなんだが……。あれだけだと魔族(嫁や婿)を追いかけるのに不安があるからな。


「でも、また真子ちゃんに留守番を頼むのも悪いしなぁ」

「リュウジ様が残られては? 前回の会戦では、魔竜姫ソフィアが出たという話ですし……」

「いや、それで残って、また向こうに(ソフィア)が出たとか言われたら今度こそ立ち直れんし……」

「はあ」


 アスカさんの言葉に身震いする俺。

 もうすでに嫁成分が断ち切られて一ヶ月目に突入しようとしている。

 だいたい四日後くらいが、魔族到来の予定日時ということになっちゃいるが、前々回の会戦後を考えると、またやってこない可能性が高い……。

 ブルリと体を震わせる俺。

 ああ、このままじゃ干からびて死にそうだ……。


「じゃあ、アスカさん。単純にアスカさんと同じくらい個人戦に強い騎士の人っているんですか?」

「私と同じくらい、ですか……」


 俺があり得るかもしれない未来に怯えていると、光太がアスカさんに質問をした。

 光太の質問に、アスカさんは難しそうな顔になる。


「……元々、我が騎士団は強力な猛獣との戦闘を主眼に置いた訓練を行ってきましたから、集団戦が主なのです。魔王軍到来からは、一応個人戦を視野に入れた訓練を行っておりますが、やはり一朝一夕に身に付くものではないらしく……」

「いくらなんでも一年近くやってりゃ、ある程度は戦えるようになると思うんだけど……」

「はい。人間レベルで見ればそれなりの技能の持ち主はいるのですが、魔族との身体能力差を埋められるだけの技量持ちは……」


 俺の指摘に、アスカさんが申し訳なさそうな顔になる。

 ああ、言われてみりゃそうか。単純な身体能力差を埋めるにゃ、それこそ血のにじむような努力と長い年月がいるんだよなぁ……。

 そう考えると、俺は一朝一夕にゃ得られねぇ、貴重な力を身に付けたってことに何のかね。


「ですので、私と同じだけのレベルで一対一の戦いが行えるものはほとんどいないのです……」

「そっかぁ……」


 そうアスカさんが締めると、光太が残念そうな顔になった。

 まさかとは思うが、残ってみたかったとかじゃあるまいな?

 俺がそう疑っていると、光太の後ろに見覚えのある人影が現れた。


「じゃあ、俺が付いていこうか?」

「え?」


 そういって光太の肩を叩いたのは、誰であろうこの騎士団の団長さんだった。

 いや、確かに団長さんが一緒に来てくれるなら、光太たちが抜けて余りある戦力補強になるんだけどさ……。


「団長さんが、この国ほっぽり出して領地奪還に動いて良いわけ?」

「当然よくありません」


 俺の当然の疑問に答えてくれたのは副団長さんだった。

 副団長さんは団長さんの耳を引っ張りながら、厳しい表情でその耳元に説教を始める。


「団長。いつも言っておりますが、職務を放棄してそこら辺をほっつき歩かないでください。団長に決済してもらわないといけない書類が、毎日溜まっていくんですよ?」

「い、いや、そうは言うがなリーク? ああいうのは文官の仕事であって、武官の仕事じゃないと思うんだが……」

「おっしゃることも理解できますが、一日に発生する量は、一時間もあれば終わる程度です。それを毎日放り出すので、机の上に山のように積みあがってしまうのですよ?」


 一時間あれば終わる仕事を放っておくのかよ……。それは騎士団のトップとしていいのか?

 それとも、夏休みの日の最後まで宿題をやらねぇ学生みたいな気分なのかね……。

 俺がどうでもいいことに悩む間に、副団長さんの説教は続く。


「この上、八日間も席を外すとなってしまえば、ただでさえ滞っている仕事がさらに滞ってしまいます。そのようなことはやめてください」

「ん? そういえば、騎士団長の書類仕事ってどんなの何だ?」


 ふと疑問に思い、口に出すと、副団長さんがこちらを見て説明してくれた。


「主だったものは、消耗品の補充に関係する仕事や、通常任務の関係で方々との折衝ですね。担当する専門の団員からの報告書を確認し、それが正当なものかどうか判断するのが仕事になります」

「へー……」

「ですが、団長は特に消耗品関係の書類は放置しがちなので、消耗品がなかなか補充されなくて困るのです」

「あー……」


 そりゃ困る……。

 細かい消耗品って、意外と早くなくなっちまうから、常に倉庫にあるくらいがちょうどいいんだよなぁ……。

 こりゃ、団長さんを応援するってわけにゃいかなくなったなぁ……。


「うん。あんたが悪い。仕事しろ、団長」

「おいおい。お前までそんなこと言うこたぁ、ないだろうが」


 副団長さんを援護する俺の言葉に、団長さんがいやそうに顔をしかめた。

 つっても、消耗品の不足ってのは、結構切実なんだぜ?

 アメリアの泉の店主のおっさんも、領地が奪還されるようになってからは、消耗品が補充できるようになったって喜んでたからな。

 今度はできれば、旬の果物が取れる地方でよろしくとも言われちまったし……。


「でも、それなら次はだれが残るの? 二回連続で真子ちゃんはかわいそうだよ?」

「あー……」


 困ったように眉尻を下げる光太に、似たような表情を返す俺。

 いやまあ、確かにそうなんだけどよ……。

 でも真子なら喜んで残りそうな気はするんだよなぁ。最近は発明に凝ってるみたいだし。

 と、そこで副団長さんが片手を上げた。


「なら、私が参りましょうか?」

「「「えっ?」」」


 思わず声を上げる俺と光太とアスカさん。

 まさかの立候補である。

 俺はアスカさんの方を見て、確認する。


「これ確認していいのかわからんけど、アスカさんとの実力差は……?」

「も、もちろん副団長の方が強いですよ! リークさん、よろしいんですか!?」


 驚いたようなアスカさんの言葉に、副団長さんは小さく頷いた。


「もちろん構いませんとも。団長の監視は、レーテ姉さんに任せるとしましょう」

「監視って、お前……」


 副団長さんの言葉に、ゲンナリと顔をゆがめる団長さん。

 しかしレーテって誰ぞ?


「レーテ姉さんは、メイド長を務めてますよ?」

「え? ああ、メイド長のことだったのか」


 俺の表情を見てか、少しおかしそうに笑った副団長さんがそう説明してくれる。

 なるほど、あのメイド長さんならしっかり団長さんを監視してくれそうだ。

 しかし、副団長とメイド長さん姉妹だったのね……。よく見りゃ、顔もそっくりだわ。


「団長さんは、いいんですか?」

「え? まあ、本人が行きたがってるならいいんじゃねぇか?」


 光太が団長さんに確認すると、団長さんは後ろ頭を掻きながら何やら微妙な表情でそう肯定した。

 なんつーか、煮え切らねぇ顔だなオイ。拍子抜けしたみたいな物足りねぇみたいな顔だこと。

 まあ、それは置いとこう。


「じゃあ、前線は副団長さんにもやってもらうとして……」

「あとは後方支援?」

「だなぁ」


 連れて行くならジョージの穴が埋まる攻撃型かね……。なら……。


「フォルカでも連れてくかね」

「フォルカ? っていうと……」

ケモナー小隊(ウチ)のネコ耳担当。確かそこそこ威力高くて、短めの詠唱が得意だったはず」

「ね、ネコ耳?」


 俺の言葉に目を白黒させる光太。そういや光太って、うちの部隊の性質知ってたっけか?

 まあ、いいや。とりあえずの戦力補強はできた感じか?

 と、アスカさんが何かに気が付いたように声を上げた。


「足りない残り一人はどうするんです?」

「あ、そういえば。どうしよっか、隆司?」

「俺に言われてもなぁ……」


 正直、副団長さんが付いてきてくれるなら、あと一人もいらん気がするんだが。


「まあ、その時のノリでいいんじゃねぇの?」

「の、ノリって……」

「それはともかくとして、今回は頼むぜ光太」

「あ、うん。任せてよ」


 俺の言葉に、光太は力強く頷いた。

 あとは我らが軍師殿の了承が得られるかどうかだが……。

 まあ、その辺の交渉は自分でやってくれよな?




 実は女性だったらしい副団長さんです! 不思議! ……ごめんなさい、描写すっかり忘れてました。まあ、書いてるうちにパッと思いついた設定なんですが……。

 そんなわけで、今回は光太君が残ることになりそうです。問題は真子ちゃんが許すかどうかですが……。まあ、何とかなるでしょう。

 次回もゆるく参りたい感じでありますー。


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