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No.56:side・kota「迫り来る機械獣」

「みんな! とりあえず足もとに集中攻撃!」

「ハッ!」


 僕が檄を飛ばすのと同時にアスカさんが鋭く返事をし、剣を構える。

 僕もスピードを落とさないまま、一気にギャオンちゃんの足元まで駆け抜けていき。


「「ハァッ!!」


 アスカさんに合わせてギャオンちゃんの足に刃を叩きつける。


 キィン!


 甲高い金属音が響き渡るけれど、ギャオンちゃんの足に傷がついた気配はない。

 わかっていたけど、相当堅いな……。


「光太君!」


 礼美ちゃんの声に、僕とアスカさんは同時に飛び退く。

 すると、ジョージ君とアルルさんの呪文が聞こえてきた。


召雷撃(ライトニング・ボルト)!」

弧炎撃(ムーン・フレア)~!」


 鋭い稲妻の一撃と、弧を描く炎の斬撃が同時にギャオンちゃんの足にぶつかる。

 でも、今度の魔法も装甲にぶつかるや否やあっさり砕け散ってしまう。


『あーっはっはっはっ! むーだーだーよーだ! このギャオンちゃんはキッコウちゃんと違って、水陸両用移動要塞! 当然その装甲はキッコウちゃんを上回るのだー!』

「よ、要塞!?」


 リアラちゃんの思わぬカミングアウトに、驚きの声を上げる僕。

 まさかの要塞だよ!? こんなものを僕たちだけでなんとかしないといけないのか……!


『ギャオンちゃんふらーっしゅ!』


 リアラちゃんの叫びと同時に、ギャオンちゃんの前脚?に当たる部分についたハサミがパカリと開き、その中に何らかの光がともる。


「うわ!? みんな逃げて!」

『ふぁいやー!』


 僕の言葉に散り散りに散っていくみんながいた場所に、魔力と思しき光弾が着弾し、弾ける。

 たぶん、当たったら一発でダウンなんだろう。当たったらどうなるかなんて、試してみたくもない。


『あーっはっはっはっ! 打つ手なしかなー!?』


 リアラちゃんはそう叫びながら、前方に向かって連続で光弾を叩きこんでいく。

 誰もそこにはいないけれど、うかつに近づけない。

 僕はギャオンちゃんを遠回りに迂回して、ジョージ君のそばに駆け寄った。


「ジョージ君! 何か、ギャオンちゃんの装甲に打ち勝てそうな魔法ってない!?」


 僕の質問に、ジョージ君は顔をしかめながら口を開いた。


「……ないことは、ない」

「ホント!? じゃあ、それを……」


 使って、という僕の言葉を遮るように、ジョージ君は首を振った。


「でも、俺には使えねー」

「え!? な、なんで!?」

「その魔法は~、詠唱だけで~三十分近くかかる~キワモノ魔法なんですよ~」

「さ、三十分!?」


 アルルさんの補足説明に思わず仰け反る僕。

 まさか、三十分もかかるなんて……。

 で、でもジョージ君は呪文の効率化とかが得意なんじゃないのかな?

 そんな僕の言葉に、ジョージ君が苦い顔になった。


「その魔法、ババアが作った魔法なんだけど、どうあがいてもその長さにしかできなかったってババアも言ってたんだよ。俺も試しに短くしてみようと研究してみたんだけど……」

「できなかったんだ……」


 僕の言葉に、苦い顔をしたままジョージ君は頷いた。


「俺はそんななげー魔法覚えるのもいやだったからな……。使えるとしたら、フィーネの奴か……真子くらいじゃねーか?」

「そっか……」


 どんな魔法か知らないけど、真子ちゃんかフィーネ様にしか使えない……。となると、それ以外の方法でギャオンちゃんを倒さないといけないんだけど……。


「アスカさん。鉄が斬れたりとかは……」

「鋼断ちですか……。出来なくはありませんが、あの太さとなりますと……」


 アスカさんはギャオンちゃんの足元を見て、厳しい顔で唸る。

 斬れなくはないんだ……。でも、さすがに電柱の太さとなると、斬ることはできないか……。


「じゃあ、アルルさん。前にキッコウちゃんを転ばせた隆起岩掌(アースハンド)でギャオンちゃんを転ばせられませんか?」

「う~ん~。無理かもしれません~」


 アルルさんは難しそうな顔をして、地面の砂を掬い取った。


「あの魔法は~地面が石の混じる~土でないと~使えないんです~。こういう砂だと~十分な硬さが~確保できませんから~……」

「うーん……」


 言われてみれば、あのときは石みたいな素材でできてたように見えたからなぁ……。もし現地の素材を利用するタイプの魔法だとすれば、こういう砂状じゃ、あの魔法も使えないか……。

 でもどうしよう、そうなるとほとんど八方ふさがりになっちゃったな……。


『ふっふーん! どうだどうだ手も足も出ないだろー!?』

「くそぅ……」


 悔しいけれど、ギャオンちゃんに乗るリアラちゃんのいうとおりだ。

 せめて隆司があの石剣を持ってきていたら……。


『そんな風に隅っこにいないでおとなしく出てこいー! そんなんじゃ卑怯者呼ばわりしちゃうぞー!』


 そんな風に叫びながら、ひたすらさっきから同じ場所に光弾を撃ち込むリアラちゃん。

 …………って、なんで同じ場所にばっかり?


「………」

「あ、光太君!?」


 ちょっと確認のために僕は少しずつギャオンちゃんに近づいていく。


『ほらほらどしたー!?』


 リアラちゃんは相変わらずこっちを挑発するように叫んでいるけど、近づく僕には反応せず、同じ場所にばかり光弾を撃ち込んでいる。

 僕はギャオンちゃんの四本の脚のうちの一つ、右後ろ脚に到着する。


「………」

『どうしたのー!? まさか逃げちゃったとかー?』


 相変わらず叫ぶリアラちゃん。

 彼女に呼びかけるように、右後ろ脚をに三度叩く。


『どこいっちゃったのー? まさかほんとに逃げたー?』


 反応なし。さらに動く気配もなし。

 よく見れば、ギャオンちゃんの足は結構深く砂地の中に埋まり込んでいるように見える。

 これは……。


『でも、あのリュウジって奴はまだガルガンドさんと戦ってるし、うーん……』

「みんな! このギャオンちゃん、砂地が不安定なせいで動けないのかもしれない!」

『にゃにゃ!?』


 僕が鋭く叫ぶと、驚いたようなリアラちゃんの声が響き渡る。ああ、こっちの音は聞こえるんだ。

 わざわざ黙ったまま移動したのはその可能性もあったからなんだよね。でも、カメラが付いていれば、そんな必要もないと思うんだけど、どうやら前面についてる大きなカメラアイだけみたいだ。

 僕の叫びを聞いて、みんなが僕のいる右後ろ脚の方に移動してくる。


『ちょ、どこに行ってるのさ!?』


 その姿を捕らえたのか、ギャオンちゃんがハサミをこちらに向けようとするけど、ガツンと自分の体に当たってそれ以上動けなくなってしまう。

 どうやら、関節の可動範囲も結構狭いらしい。


『むきー! 乙女の恥ずかしい所に潜り込むなんてー!』

「なんでそんな言い方になるのかな……」


 リアラちゃんの物言いに後ろ頭を掻きつつ、僕はジョージ君とアルルさんに向き直る。


「二人とも、この下の砂を丸々刳り抜いたりってできないかな?」

「できなくは~ないですけど~、どうするんですか~?」

「たぶんだけど、このギャオンちゃん、砂地じゃほとんど安定して動けないんだと思う」


 そういって僕はギャオンちゃんの足を叩く。


「だから、どんな方法でもいいからバランスを崩せば勝手に倒れるんじゃないかと思って」

「なるほど~。そういうことでしたら~」


 アルルさんは僕の説明に納得したように頷いて、両手を砂の地面について呪文を唱え始める。


洞穴掘(アースブレイカー)~」


 呪文を唱えると同時に。ギャオンちゃんの両後ろ足がズボン!と勢いよく砂の地面の中に埋め込まれた。

 同時にギャオンちゃんの巨体が少しずつ斜めに傾いでいく。


『な、なに!? なんなの!?』

「みんな、逃げるよ!」


 僕の言葉に一も二もなく頷いて、みんなギャオンちゃんから離れていく。

 ギャオンちゃんはその巨大なハサミを振り回しながら、何とか姿勢を制御しようとするけど、結局うまくいかずに、関節がきしむ音を立てながら倒れて……。


「って、あのままじゃ波止場とか町の方に被害がいっちゃう!?」

「ああ、ホントだ!?」


 ギャオンちゃんの全長を忘れてた! あの体の長さじゃ、どうあがいても町の方に……!


「来よ、鋼の守り……」


 と、風に乗ってそんな呪文が聞こえてきた。

 これは……僕が礼美ちゃんの教えた……!?

 視線をギャオンちゃんの倒れる方に向けると、いつの間にか町を守るようにヨハンさんと礼美ちゃんがギャオンちゃんの影が差す場所に立っていた。


「って、おい! あぶねーぞ!?」

「いけません、レミ様!」


 ジョージ君とアスカさんが悲鳴を上げるけど、礼美ちゃんの身体から光輝くオーラが立ち上るのを見て、息を呑む。

 すごい……! 僕にもわかる。あれは意志力(マナ)だ!


「妙なる祈りとともに!!」


 呪文の完成とともに、礼美ちゃんが両手を天に向かって掲げる。

 同時に、町を守る巨大な光の盾が出現。

 そして倒れ来るギャオンちゃんと光の盾が接触する!


 バチィッ!


 ギャオンちゃんの身体と光の盾の拮抗は、一瞬。

 次の瞬間には、ギャオンちゃんの体は勢いよく海湖(ソルト・レイク)の方に弾き飛ばされた。


『にゃー!?』


 ギャオンちゃんの体はそのまま巨大な水の柱を上げ、海湖(ソルト・レイク)の中に沈んでいった。

 光の盾はしばらく空中に浮遊していたけれど、ギャオンちゃんが海湖(ソルト・レイク)の中に沈んでいくのを確認したように、消えていく。

 同時に、礼美ちゃんの体がカクンと崩れ落ちた。

 隣に立っていたヨハンさんが、倒れかけた礼美ちゃんの体を受け止めてくれた。


「礼美ちゃん!」


 僕は慌てて礼美ちゃんに駆け寄った。

 ヨハンさんに抱えられている礼美ちゃんの顏には、おびただしい量の汗が浮かび、呼吸も荒い。

 さっきの盾を出すのに、相当の無理を行ったのは想像に難くない。

 僕の後ろから追いついてきたジョージ君が、顔を真っ赤にして声を荒げた。


「バッカ! なんであんな無茶するんだよ!」

「町を……守らなきゃ……いけなかったから……」


 息も絶え絶えに、礼美ちゃんが言葉を口にする。

 意識を手放しそうになりながらも、何とかすまなさそうに顔に笑顔を浮かべている。

 まるで、心配しないでくれというように。


「……礼美ちゃん、ありがとう。もう、大丈夫だから、少し休んでね?」


 僕はそういって、礼美ちゃんの額に張り付いた髪を少し掻き揚げた。

 礼美ちゃんは少しくすぐったそうに体を動かしたけど、小さく頷くとすぐに寝息を立て始めた。


「今回は、礼美ちゃんがいなかったらまずかったね……」

「まったくよ」

「!?」


 すぐそばから聞こえてきた声に、弾けたように振り返るとそこに、いつの間にかガルガンドが浮いていた。

 隣には、いつ回収したのかリアラちゃんが輝きながらふわふわ浮いている。

 ギャオンちゃんが倒れる際の衝撃で、どこかを打ったのか、目をまわしながら気絶している。


「きゅ~……」

「その娘がいなければ、この町が使えぬほどの打撃を与えられたというに、惜しいことよ……」

「なんだと……!?」


 ガルガンドの言葉に、アスカさんが激昂したように声を荒げる。

 でも、そんなアスカさんの様子を意に介することもなく、ガルガンドは小さく肩をすくめた。


「されど、やむなきことよ。今ひとたび、策を練り直すとしよう……――」


 その言葉を最後に、ガルガンドは僕たちの目の前から姿を消した。

 詠唱破棄でのテレポート……。やっぱり、ガルガンドも高位の魔族には違いないみたいだな……。


「おーい……」

「ああ、りゅう、じっ!?」


 疲れたような親友の声に振り返ると、そこには……。


「またなんかエライゴツイ盾が出てたな……。あれ、礼美か……?」


 全身真っ赤に血に染まり、顔を真っ青に染め上げた隆司の姿があった。

 着ている着物はもうボロ布になりかかっており、どれだけ激しい攻撃を受けたか想像もできない。

 慌てて礼美ちゃんのことをヨハンさんに任せて隆司に駆け寄った。


「ちょっと隆司、大丈夫!?」

「あー、だめかもわからん……。血が足りなくてフラフラする……」


 言葉のとおり、少し体が前後してる……。立ってるのがやっとのようだ。


「な、何があったのさ……?」

「さあ……? あのジジイ、なんか人の急所を目の敵みたいに攻撃してきやがったから……」


 なんでも、普通なら数十回は死ぬような目にあわされたんだとか。

 よ、よく無事だったね……?


「フ。嫁がいる限り俺は不死……アーーーっ!!??」

「ど、どうしたの!?」

「今日の戦い、また嫁がいねぇ!?」

「……あ、言われてみれば」


 もう向こうに情報が筒抜けなのは確定してたから、てっきりこっちに誰かがいるものだと思ったんだけど、結局死霊団の人たちしかいなかった。

 情報の行き来自体が完璧じゃないのかな? それとも、別の要因か……。


「ちくしょう、戦い損か!? また嫁に会えない時間が続くのか!?」

「え、えーっと……ドンマイ?」

「ちぃぃぃくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 隆司はそう叫ぶと同時に、電池が切れたようにバッタリ倒れた。

 ……たぶん、体力が限界になったか、ホントに血が足りなくなったかのどっちかなんだろうなぁ……。


「アスカさん、とりあえず、今日の宿を確保しにいこっか?」

「……そ、そうですね」


 隆司を曰く言い難い顔で見つめていたアスカさんを誘って、僕は町の中へと進んでいく。

 適当な宿が見つかるといいんだけどなぁ……。




 そんなわけで、ギャオンちゃん戦終了! 不整地においての運用は難があるようです。水陸両用なのにね……。

 礼美ちゃんは例の呪文をそのまま採用した模様。まあ、急いでたってのもあるんでしょうが。隆司は、まあ、いつも通りでしたね。

 次は、真子ちゃん危機一髪ですよー。


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