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No.55:side・ryuzi「海岸線の機械獣」

 馬車が街中を超え、勢いよく砂浜へと飛び出していく。

 ヨーク近郊の巨大な海湖(ソルト・レイク)は、近くで見るとまるで南海のような美しさだった。

 サンゴのようなものは見当たらないが、太陽の加減かこの世界の水の性質なのか、まるで七色に輝いているようだ。その中に小さな魚が気持ちよさそうに泳いでいるのも見える。きっと、ここで泳いだら気持ちがいいんだろうな。

 だが、そんな場所にそぐわないものが二つ。

 一つは干からびた老人の様な容貌のガルガンド。相変わらずゴザか座布団かわからない物に胡坐をかいて座りながらこちらをニヤニヤこちらを見つめている。

 ガルガンドは町中からも見えた“何か”の隣で浮いていた。


「おや。もう来やったか。相変わらず役に立たぬ」


 セリフの内容こそ呆れたようなものだが、口調は特別驚いてもいない。それで当然、と思っているのだろう。

 サンシターが馬車を止め、俺はジョージを抱えながら馬車の上から降りる。


「おい、下ろせベブ!」


 手から離したジョージがなんか言ってるけど無視だ。

 何しろ、そんな細かいことを気にしていられるほど余裕はなさそうだからだ。


「なにあれ……?」


 いまだ馬車上の光太が呆然とした声を上げる。

 サンシターも馬の手綱を握ったまま硬直しているし、順次降りてきた連中も意味不明な存在に目を丸くしていた。

 ガルガンドの隣に鎮座しているそれは、丸々一軒の家ほどもの大きさがあった。

 巨大で刺々しい外観を持ち、おそらく外の様子を探るためのカメラアイが二つ付いている。外観は、巨大なサザエの貝柄にも見える。

 それだけならただの家だが、その巨体に見合う巨大な足を四本備えている。太さは電柱ほど。関節の数は一つだけのせいで、今はまげてその巨体を地面に横たえている状態だというのに、足の高さはその体をはるかに上回っているのだ。

 そして前に当たる部分にカニのような鋏を二本携えている。これの大きさは足ほどではないがかなり巨大だ。人間一人程度なら、おそらく一瞬で挟み斬れるだろうほどの力強さを携えている。


「か、カニかな……? それとも、虫なのかなぁ……?」


 礼美が困ったように笑いながらこちらに聞いてくるが、正直そんな既存の生物じゃないと思う。


「「……シェン○オレン?」」

「ふえ?」


 期せずして、俺と光太の声が被った。

 あのゲームをやったことない礼美だけが、不思議そうな声を上げるが、今目の前にいるものの姿に一致しそうな生物は、それくらいしかいなかった。

 っていうか何の用途でこんなバカデカい物作ってるんだよ!? 意味が解らん!

 あれか、これも移動用拠点か! にしたって、もっと機動性の高いフォルムにすべきだろう!


「こ、コウタ様の世界には、あのような異形の怪物がいるのですか!?」

「あ、いや、ごめん。想像上、っていうか創作上の生き物で……」


 つぶやいた名前を聞いたアスカさんが驚きと畏怖の声を上げるのを聞いて、光太が慌てて訂正し始めた。

 俺の隣に立ったヨハンさんが、事の真偽を伺うように俺の方を見る。


「リュウジ様?」

「あんな愉快な生き物はいねぇよさすがに」


 俺は顔をしかめてあれの存在を否定する。

 いたらいたで面白そうではあるがな。


「……では、あの手の生き物に抗する手段はわかりませんか」


 ヨハンが残念そうに溜息をついた。

 ああ、気になってたのはそっちか。

 その事なら心配しなくてもいい。いやってほど戦ってるからな。


「いや、わからなくもないぜ」

「おお! 本当ですか!」

「たぶんだが……」

『あー!!??』


 と、シェン○オレンの中から聞き覚えのある声が響き渡る。

 ん?と思って顔を向けると、シェン○オレンの目と目の間がパカリと開いて中から一人のガキが顔を出した。

 っていうかそこがコックピットハッチになるのかよ。極めて乗り込みづらそうだな。


「あんたたち! 前に私のキッコウちゃんを辱めてくれたハンターたち!」

「光太君……?」

「いやいや、機械! 機械のことだよ!?」


 ガキのセリフに、礼美が信じられないというような顔になって後ずさりを始める。

 光太が慌てて否定にかかるが、とりあえず放置。

 存分にラブコメるが良いわ。

 俺は一歩前に出て、軽く指を鳴らした。


「テメーは、前にアイティス大移動の原因になったガキだな? 名前は忘れたが」

「四天王のリアラ様だよ! あんなばっちり名乗ったのに忘れるかー!?」


 俺の言葉にガキ……リアラが憤慨したようにこっちを指差して手をぶんぶんと上下運動させ始めた。

 まあ、そんなこたぁどうでもいいんだ。


「この領地を占領してんのは、お前を中心とした部隊でいいのか?」

「そだよ! リアラちゃん率いる死霊団がこの町を占拠しているのだ!」


 えへんと偉そうにない胸を張るリアラとやら。

 しかし……死霊団? 魔王軍のうちの一部隊でいいと思うんだが、目の前にいるガキとイメージが一致しねぇな。むしろガルガンドの見た目の方が、死霊団にふさわしいと思うんだが……。


「じゃあ、さしあたってお前は死刑でいいな」

「ほえ?」


 俺はそういってにやりと笑い、横に移動する。


光槍撃(スピア・スマッシャー)!」

風槍撃(エア・スマッシャー)~!」

「ぎゃわー!?」


 同時に俺の後ろで魔法を準備していたジョージとアルルが掌から光と風の槍を撃ち放つ。

 いきなり攻撃されたリアラはびっくりしたのか、はたまた回避しようとしたのか、後頭部をハッチのふちに打ち付けつつ、転がるようにシェン○オレンの中へと非難した。

 二つの魔法の槍は、ハッチのすぐそばに着弾。風と光をまき散らしながら消滅したが、装甲には微々たる傷もなかった。

 この光景を見るに、相当防御力が高いのか……。


『うぐぐ~! いきなり攻撃してくるような卑怯者は、このギャオンちゃんで吹っ飛ばしてやるー!』

「ネーミングセンスねぇなオイ」


 コックピットに収まったらしいリアラがマイクに向かって叫び、シェン○オレン改めギャオンちゃんの操作を始める。

 自動ドアかなんかだったのか、ハッチが勝手に閉まる。同時に、ギャオンちゃんの両目がビカーン!と怪しく光り、モーターの駆動音を響かせながら立ち上がる。

 立ち上がったギャオンちゃんの全長は家などはるかに上回り、もはや見上げるのも疲れる高さだ。


「リュウジ様! 先ほどの続きを!」

「見たまんまだよ! あんなふうに立ち上がるから、足を攻撃するしかねぇんだ! サンシター!」

「はいでありますー!?」


 ヨハンにさっきの話の続きをしてやり、サンシターに指示を飛ばす。

 サンシターは光太が馬車から降りるのを待ってから、素早く馬車を操って距離を取る。あれの攻撃に巻き込まれようもんなら、馬もろとも馬車が粉砕されちまう。そうなったら、ギルド長さんに何言われるか分かったもんじゃねぇ。


「隆司!」

「ああ!」


 光太の呼びかけに、俺は拳を打ち鳴らして答える。

 例の石剣だが、馬車に積んだら馬が動かせなくなりそうだから今回は置いてきたのだ。

 ……って。


「やべぇ!? 俺、あれに対する有効打がねぇぞ!?」

「ええ!?」


 何ぼ何でも魔法を弾く装甲に、素手でダメージを与えられるとは思えん……。

 鉄の剣でどこまでダメージを与えられるか謎だけど、まだ光太とアスカさんには武器があるし、ジョージとアルルは魔法による遠距離攻撃がある。

 たぶん、礼美とヨハンさんも魔法が使えるし、最悪補助に徹してもらえれば問題はないだろう。

 つまりこの中で、装甲に対する有効打が存在せず遠距離攻撃もできない俺だけが……。


「そうそう、リアラ様に手を出させると思うてか?」


 などと考えていると、ふわりとガルガンドが移動してきた。

 その両手の間には、魔力によって形成されたらしい光の玉が生み出されている。

 その光の玉をこちらに向け、その口が呪文を紡ぐ。


光斬撃(レイ・スラッシュ)

「っと!?」


 慌てて避けると、光の斬撃が砂浜に一直線に斬撃跡を残す。

 ぞっとしねぇ威力だな。


「ち! 光太! こいつはまかせろ! あいつは任せた!」

「わ、わかった! みんな! 行こう!」


 俺の言葉に光太が頷き、他の連中を率いてギャオンちゃんを破壊しに向かう。


「だから行かせぬと」

「おっと、させねぇよ!?」


 再び光の玉を生み出すガルガンドの前に立ちふさがり、左腕を着物から抜いて盾のように掲げ上げた。


光斬撃(レイ・スラッシュ)

「ぐっ!?」


 ガルガンドの呪文とともに、左腕に鋭い痛みと衝撃が走る。

 肉はたやすき引き裂かれ、骨に刀を叩きつけられたような痛みが脳天に突き刺さる。

 だが、魔法の衝撃が晴れると同時に俺の肉体は素早く修復を開始する。

 俺は完全修復を待たず、ガルガンドに向かって突っ込む!


「む?」

「だらぁ!」


 勢い良く叩きつけた右腕は、たやすく回避されてしまうが元々当たると思っちゃいない。

 相手の注意をこちらに引き付けるのが目的だ。

 俺の拳を避けたガルガンドは、眉をひそめて俺を見つめる。

 その瞳の中に渦巻くのは懐疑の色。


「……これは異なこと。裂いたはずの肉が盛り上がり、再び埋まりおった」

「若いし元気なもんでねー」


 ふざけた調子で答えながら、俺は治った左手をヒラヒラ振って見せる。

 ねっとりとした感触の血液が気持ち悪いが、拭えるものは持ってないし拭ってる暇もなさそうだ。

 何しろ目の前でガルガンドが、複数の光の玉を空中に生み出し始めたのだ。

 さっきの魔法を見るに、真子が使う天星とやらと同じ、魔法使用のための準備動作なのだろう。


「なれば、次はこうよ」

「させるか!」


 地面を蹴ってガルガンドに蹴りかかる。

 だが再び軽い動作で避けられてしまい。


棘杭架(クロス・パイル)

「くっ!?」


 無数の杭を叩きつけられる。

 空中にいるせいで、まともに避けられねぇ……!

 俺は手足を使って飛んでくる杭を弾き飛ばすが、うち一本が脇腹に突き刺さる。


「ぐっ!」


 突き刺さった杭から、焼けるような痛みが全身に響き渡り、同時に杭が伸びて地面に突き刺さった。

 二度目の衝撃に歯を食いしばるが、この体勢はまずい……!


「こうして……」


 続く動作でガルガンドは頭上に炎の塊を生み出した。その直径は一メートルを超えている。

 渦巻く炎は周囲を焼くばかりか、地面に縫い止められた俺のいる場所にまで熱気が届いた。


「残らず灰にしてしまおう。さすれば二度と蘇るまい」

「こなくそぉぉぉぉぉぉ!!!」


 その炎が解放されるより先に、その射線から逃げるために、全身の筋肉を躍動させる。

 地面と俺の体に突き刺さった杭を両手で支え、勢いよく体をひねる。

 ミシリといやな音を立て、俺の筋肉がブチブチと引きちぎれる音が体の中に響き、魔力でできた杭にヒビが入る。

 同時に、炎の塊がひときわ強い光を放ち、ガルガンドがニヤリといやらしい笑みを浮かべた。


「ほうれ」

「ぬぁああああああ!!!」


 ガルガンドが頭上の炎の塊を俺に向かって投げつけるのと同時に、俺は魔力の杭をへし折った。


「ぬぅ!?」

「だっしゃー!!」


 そのまま勢いよく炎の塊の射線から飛びのく。

 地面の砂を焦がし、地面に叩きつけられた炎の塊が爆発した。

 炎が波のように地面に広がり、何とか飛びのいた俺のところにまで炎がやってきた。

 あ。裾に炎が引火した。


「って、あっちぃ!?」


 のんびり眺めてる場合じゃねぇ!?

 慌てて俺は炎を消そうと海湖(ソルト・レイク)に飛び込もうとする俺に、ガルガンドの追撃が入る。


火炎球(ファイヤーボール)!」

「おうあっ!?」


 聞こえてきた声に、あわてて左手で防御。

 肉が焼け、指が炭に変わる感覚を味わいながら、身体が勢いよく吹き飛び、海湖(ソルト・レイク)に体を叩きこまれる。


(ぎゃぁぁぁぁぁ!? 傷に! 傷に塩水がぁぁぁぁぁぁ!!??)


 いまだに杭が刺さりっぱなしの脇腹に海水が浸入し、じりじりとした痛みが響く。

 慌てて海底に膝をつき、杭を引き抜く。

 海水を押し出すように体に開いた穴はふさがり、さらに焦げた左腕も回復する。


(くっそー……)


 わかっちゃいたが、魔法使い相手に素手で立ち回るのは厳しいな……。

 とはいえ、あれとギャオンちゃんとを一緒に相手するのは厳しいよな。

 俺は一つ頷くと、勢いよく海底を蹴り、海水を巻き込みながら外へと飛び出していく。


「おらっしゃー! まだ終わりじゃないぜー!」

「………」


 勢いよく海湖(ソルト・レイク)から飛び出してきた俺を、ガルガンドが無言で見つめる。

 さっきから流れていた血は、海水浴のおかげできれいさっぱり流れ落ちたが、今度は海水のせいで全身がべたべただ……。


「くっそー……」


 着物の裾やら腕やらから海水を絞り出す。これで、多少はましになったか?


「っし! さあ、続きだ!」

「………」


 軽く拳を構える俺に対し、ガルガンドは無言で光の玉を生み出す。

 俺を光の玉を見据えながら、唇を舐めた。

 さあて、頼むぜ光太。とっとと狩猟目標の討伐を完遂してくれよな……?




 さあ、バトルですよ! とはいえ、巨大なメカとファイトという、ファンタジーにあるまじき展開ですが。大丈夫なのコレ。一応ファンタジータグ付けてる身として。

 一方の隆司はしわくちゃのおじいさんとのバトルです。ほぼ一方的な立ち回りを展開されていますが。遠距離攻撃がない場合、特殊な防御システムがないと不利ですよね。(?)

 次回は光太視点でシェン○オレン討伐戦です。龍属性もちがいないのが難点ですね!(マテ


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